J-PARC オンライン施設公開2021 今年もオンラインで潜入~ふだん見られないところをのぞいてみよう~

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Q and A

※当日時間の都合により、お答え出来なかった質問や、終了後にいただいた質問への回答を掲載します。

- 概要 -

Q1J-PARCのような施設は他にあるのでしょうか?

Answer

➤ 加速器の施設は世界中に数多くあります。その中で、J-PARCは、世界最大強度の陽子ビームを加速でき、また、素粒子・原子核から物質科学、地球化学、宇宙科学、産業利用など非常にひろい分野の研究ができる、世界をリードする、ユニークな研究施設になっています。

Q2タイムテーブルはありますか?、5時間もあるので、休憩時間含めて知りたいです。ふらっとこの放送知った身には不親切、、泣。概要欄にリンクを。

Answer

➤ 分かりにくく、申し訳ございませんでした。次回以降改善いたします。

Q3eVというエネルギー単位について、
通常の生活で使うジュールやカロリーとの違いと、なぜeVを使う?

Answer

➤ 電子や陽子のように極めて小さく、素電荷を持つ粒子のエネルギーに対して使うには簡単、便利で分かり易いからです。

➤ 重さがm [kg]、電荷が素電荷(1.6x10-19クーロン)のQ倍の粒子を1ボルトの電位差のある2枚の極板間で加速したとします。すると片方の極板上で静止状態からもう片方の極板に向かって加速された場合、極板にぶつかった時の粒子の運動エネルギーはQ電子ボルト(eV)になります。極板の間隔や重さに無関係なのが面白いです。

➤ 一方、ジュールで表すとQx1.6x10-19ジュールと小さくて面倒臭い数字になります。(つまり、1.6x10-19ジュールが1電子ボルトです)

➤ 電子や陽子などの電荷は素電荷なので、それらを主に扱う素粒子・原子核や加速器の分野ではエネルギーの単位としては素電荷を基準にした電子ボルトの方が直感的で見通しが良いのです。

- 加速器(リニアック、RCS)-

Q1水素負イオンの生成効率はどの程度ですか?

Answer

➤ 陽子を生成するときと比較すると、水素負イオンの生成効率は10分の1程度となります。

Q2リニアックでの加速の仕組みはリニアモータの電界版ですか?

Answer

➤ S極とN極が交互に真っ直ぐ並んでいて、各々の磁極が時間的にSとNが変化するのがリニアモーターの原理とすれば、確かにリニアックでは磁極を電極に変えて荷電粒子を加速していると言えます。

Q3周回を経るごとに速度が増すのであれば、加速のための周波数も高くなる?

Answer

➤ はい、そのとおりです!

Q4高周波電源がたくさんあるのでノイズで機器に影響が出る事はないですか?

Answer

➤ はい、ノイズ対策には細心の注意をはらって設計、製作しています。

Q5建設費等を無視した場合、現在の技術で建設できる加速器で到達可能な最大エネルギーはどれほどになりますか?また、「これ以上のエネルギーの加速器は作っても科学的な意味がない」という上限はありますか?

Answer

➤ 現在の技術で検討されている最大エネルギーは100テラ電子ボルト程度です。予算を無視すると、というのは難しいですが、地球上につくると言うことを考えると周長4万km、現在最大の周長が100kmと思うと、周長で400倍、エネルギーで100TeV x 400= 30PeV?程度まで可能かと思います。

➤ これ以上やってもという上限については、いろんな考え方はあるとは思いますが、現時点ではわからないですが、おそらく、どこまで行ってもそのさき何があるかわからないことはあると思うので、その意味では、上限はないと言えると思います。

Q6ビームの強度をアンペア単位以外で表現することは出来ますか?

Answer

➤ ビームの強度の表し方は放射光施設などでは蓄積粒子の電流、すなわちアンペア単位で表現しますが、J-PARCなどターゲット照射型加速器では施設ごとに加速エネルギーが異なるので、電流に加速エネルギーの電圧を掛けたワット単位や、単位時間あたりやバンチあたりの粒子数(個)で表現します。

➤ たとえば、1秒あたりの陽子の数であらわすと、メインリングでは、約200兆個ということになります。

Q7セシウムオーブン(?)と聞こえましたが詳しい説明お願いしたいです。

Answer

➤ 負イオン源にセシウムを注入しますと、負イオンの生成が促進される効果があります。その効果を利用するために、負水素イオン源にセシウムオーブンを設置し、セシウムを蒸気の状態にしてイオン源内に注入しています。

Q8なぜイオン源はH-にする必要があるのでしょうか?最初から陽子の状態ではなぜダメなのでしょうか?

Answer

➤ リニアックではH-でも陽子でも良いのですが、次のRCSに入射する際にH-の方がやり易いのです。RCSの中で周回している粒子の電荷と入射する粒子の電荷が同じ場合、両方を同じ軌道に乗せることが難しいのです。ところが周回粒子と入射粒子が逆の電荷でほぼ同じ重さを持っている場合、磁石の中で逆に曲がるので同じ軌道への合流が容易にできます。ただし、そのままではせっかく同じ軌道になってもまた逆向きに曲がって離れてしまうので、H-を入射させたら周回する陽子と合流した直後に炭素の薄膜を通して、軌道電子2個を剥ぎ取って陽子にします。するとその後は周回している陽子と一緒になってリングを回ります。

Q9材料によってはビームで放射化されてしまうものもありますか?

Answer

➤ あります。殆どの材料は放射化してしまいます。材料によっては、壊れてしまうものもあります。ビームでの放射化は、ビームロスが発生すると、その周辺の機器を放射化してしまうので、このビームロスを可能な限り小さくする研究を継続的に行っています。

Q10イオンや電子が流れている=電流が流れている、ということは物理現象として正しいのは理解できますが、素人には例えば1Aという電流がどの程度の個数のイオン・電子が流れているのかがイメージ出来ません。同じ個数のイオン・電子が流れていたとしてエネルギーが変わるとアンペア数は変わる?

Answer

➤ アンペアの定義はクーロン/秒です。例えば電子の場合、電荷は1.6x10-19クーロンで決まっているので、毎秒通過する電子数に比例します。従ってそれら粒子の速度が変わると、単位時間に測定器を通過する粒子数が変化しますので、電流は変化します。

Q11H-は不安定だと思うのですがどのような工夫があるのでしょうか

Answer

➤ H-自体は安定です。しかしH-の周辺に高速の電子が存在しますとこれがH-イオンを破壊します。そこで、イオン源に永久磁石を取り付け磁場の力で高速電子の軌道を曲げてH-に近づかないようにしています。

Q12GeVの読み方(ジェブ or ゲブ)は業界によって異なる様ですね

Answer

➤ 加速器科学の業界では「ジェブ」ですね。

Q13真空管で増幅するのはインバータでは難しいのでしょうか?

Answer

➤ 半導体で大電力高周波源を作ることはできますし、一部は既に置き代わっています。ただ最大出力がまだ低いのと高価なので、J-PARCのリニアックの主な加速空洞では真空管(クライストロン)を使っています。

- 物質・生命科学実験施設(MLF)-

中性子

Q1中性子を発生するのに黒鉛ターゲットとの事でしたが、黒鉛以外では難しいのでしょうか?

Answer

➤ 中性子の標的は水銀です。中性子を多く含む重金属であること、循環して冷却するために液体重金属である水銀を使っています。

➤ ミュオンを生成するためには、高温になるため、高温に強いなどの理由で黒鉛が使われます。

中性子

Q2遅い中性子はスピードが遅いのでしょうか。止まっているような感じということでしょうか。

Answer

➤ 室温での中性子の速さは秒速2,200メートルです。電荷のない中性子は物質に対して高い透過力を持ちますが、これを秒速7メートルまで下げると物質表面で全反射する、という性質を持つようになり、容器に閉じ込めることができるようになります。秒速7メートルは100メートル走だと14秒ですので、人の走る速さと同じくらいです。光速(秒速30万キロメートル)に近い速度を扱うことが多い素粒子の世界では"止まっている"様なものかもしれません。

中性子

Q3中性子の寿命はゲージ粒子(Z, W)の質量だけで決まるのではなかったのですか?

Answer

➤ 中性子の寿命はゲージ粒子(Z, W)の効果(弱い相互作用)に加えて、クォークが関係する強い相互作用の効果も関係します。弱い相互作用の理論と強い相互作用の理論を合わせた理論で計算できますが、強い相互作用の精度が悪いので、実験的に決める必要があります。

ミュオン

Q4福島原発のデブリを調べるのにミューオンが使えそうだと聞きいたことありますが

Answer

➤ はい、まさに使われています。ピラミッド、火山の内部の透視などにも利用されています。

ミュオン

Q5元素分析は電子をミューオンに置換するのでしょうか。安定性や安全性はどうでしょうか?

Answer

➤ 元素分析で電子とミュオンは入れ替わります。ミュオンは100万分の2秒くらいで壊れてしまいますが、元素分析の目的には支障のない長さです。また全体に対して入れ替わるミュオンの数は無視できるほど少なく、測定試料が不安定になることはありません。

- 核変換(ADS)-

Q1錬金術も微量なら加速器で可能としてもエネルギー・費用対効果を考えるととても持続可能ではないのでは?

Answer

➤ 加速器のみで核変換を行う場合は、エネルギー収支はマイナスとなります。そこで未臨界の原子炉を組み合わせ、投入エネルギーを40倍程度増倍します。また、そもそも高レベル廃棄物の物量は多くなく、プラント規模が小さいためコスト影響は大きくないと考えています。

Q2流量計、超音波センサーではないの?

Answer

➤ 流量計には超音波センサを用いています。流路内の微細な構造を見る流速計として電磁式を並行して開発しています。

Q3鉛は有害物質ですが、作業の安全対策は大丈夫でしょうか

Answer

➤ 実験計画者は国家資格である鉛取扱主任者を取得の上、実験を計画しています。また、装置の仕様に応じて局所排気設備を付加して運用しています。さらに、定期的に作業環境の測定を実施し、安全性を確認しています。

Q4核変換施設の実用化はいつごろを目指しているのでしょうか?

Answer

➤ 陽子ビームを用いた実験は海外でしか行われておらず、これから多くの試験を実施していく必要があります。2050年頃のプロトタイプ完成を目指しています。

Q5先生はファン付きの作業服を着られているようですが高温下での作業もあるのでしょうか

Answer

➤ 今日着ているのは単に説明者が暑がりだからですが、配管には断熱材を巻いているものの鉛ビスマスの温度が400-500℃で断熱材の外側は80℃弱になりますので、空調服をきていても汗だくで作業しています。

- 加速器(MR)-

Q1ビーム径は如何ほどですか?

Answer

➤ 場所と加速エネルギーによりますが、一番大きいところで、入射したとき(3GeV)で幅10cmぐらい。30GeVに加速したあとは、約1/3になり、3cmぐらいです。

Q2遮蔽体は鉄との事でしたが、磁場への影響を減らすために鉛など他の金属の方が良いのでは。

Answer

➤ 鉄は原子量がそれなりに大きく、硬く、安い、安全です。一方鉛は、原子番号は大きいが柔らかく融点が低い、人体に有毒です。そのため遮蔽体は鉄を利用するのが一般的です。またコリメーターは磁石と磁石の間に置かれていて磁石からは離れているので、遮蔽体が強磁性体であっても影響はありません。

Q3電極でチタンを使う理由は何でしょうか?

Answer

➤ チタンを用いると高い電圧をかけたときに放電しにくいのです。他にアルミニウムを使っている施設もあります。

Q4真空容器の中の真空度は何Paくらいでしょうか。

Answer

➤ 1x10-7Pa ぐらい。大気圧の1x105Paとくらべて1012分の1ぐらいです。

- ハドロン(HD)-

Q1ミューオンが電子に変化するとのお話ありましたが、ニュートリノ振動と関係あるでしょうか?

Answer

➤ ニュートリノ振動はニュートリノの質量が0ではないために起こります。この質量は他の素粒子に比べるととても小さいのですが、そのような小さなニュートリノの質量はパートナーとしてすごく質量の大きなニュートリノが存在するためではないかと考えられています。そして、このようなすごく質量の大きなニュートリノが存在すると、その自然な結果としてミューオンが電子に(ニュートリノを伴わずに)変化するという現象が今の実験上限値のすぐ下辺りに見えるだろうと考えられています。

Q2陽子ビームは大気中へ出てくるのでしょうか。空気との散乱は問題にならないでしょうか? また真空側からの窓はどうでしょうか?

Answer

➤ 加速器から送られてくる大強度の陽子ビームは真空パイプの中を輸送されるようになっています。

➤ 今回紹介した高運動量ビームラインや二次粒子ビームラインといった直接実験に使用するビームでは、限られた距離ですが大気中を通すこともあります。その場合、大気中での散乱やビーム窓での散乱はご指摘の通りバックグランド源ともなるので、極力ヘリウム中を通したり、解析によってその効果を除きます。

Q3他のクオークよりも、sクオークがハドロン実験に必要な理由はなんでしょうか?

Answer

➤ 地球上の我々の身の回りの物質は第一世代クォークであるuクォークとdクォークからできていますが、そこにsクォークを混ぜる事で知りたい情報をクリアに引き出す事を期待しています。遠い宇宙にある中性子星では第二世代のクォークであるsクォークを含んだ粒子が存在し、重要な役割を担っていると考えらてますが、その構造の理解にはsクォークを含んだ粒子の性質の理解が欠かせません。

Q4動画で紹介されていたE16実験で研究している事は、自発的対称性の破れとは違うのですか?

Answer

➤ 自発的対称性の破れそのものは一般的な概念で、今回の動画にあった実験でテーマとなっているのはカイラル対称性の自発的破れと呼ばれる自発的破れの一種です。我々が生活している世界ではカイラル対称性は破れているが、原子核中といった高密度中ではある程度回復していると考えられています。

➤ 動画にあった実験では、その結果起こると期待されるハドロン質量の変化を実証する事を目指しています。

- ニュートリノ(NU)-

Q1ニュートリノ検出器についている白いケーブルの束は光ファイバーでしょうか

Answer

➤ いえ、これはインターネット等の接続に使われているLANケーブルを利用しています。質問が入口側の検出器側面にある白いケーブルのように見えるもののことでしたら、そちらは水とのニュートリノ反応を調べるために測定器内に水を入れるためのチューブです。

Q2スーパーカミオカンデと比べて感度、分解能の違いはどうでしょうか

Answer

➤ スーパーカミオカンデではチェレンコフ光を出さないような遅い荷電粒子は検出できませんが、前置検出器はそのような荷電粒子も検出することができます。一方、スーパーカミオカンデは全方向に感度があるのに対して、現状の前置検出器はビーム前方に放出された粒子に対してしか感度がありません。そこで、T2K実験では全方向に感動を持つように前置検出器を改造しようとしています。

Q3ミューオンからでないとニュートリノを作れないのでしょうか?、電子からは無理なのでしょうか?

Answer

➤ 原理的にはできますが、大量のニュートリノを生成するには、パイ中間子が崩壊してミューオンとミューオンニュートリノになる反応を使う方法しか確立していません。ベータ崩壊する原子核を加速すれば崩壊して放出される電子ニュートリノをビームにすることができますが、原子核を非常に高いエネルギーに加速せねばならず実現していません。

Q4マヨラナ性が存在する右巻きニュートリノ確率は、現在95%弱とのこと、5シグマにはどのくらいかかるのですか。

Answer

➤ マヨラナ性はまた別の実験で探されており、今のところまだ全くわからない状況です。T2K実験ではニュートリノと反ニュートリノの違いを探しており、違いがある確率が95%弱です。5シグマに到達するのはハイパーカミオカンデがデータを取り始めて数年後と予想されています。