【 用語解説 】
注1) イオン伝導体イオンが拡散することで電気伝導が生じる物質。固体電解質には電気伝導にイオンのみが寄与する物質が用いられるのに対し、電極材料には電子とイオンが同時に伝導する混合伝導体が用いられることが多い。
注2) 標準酸化還元電位標準酸化還元反応における電子授受に必要な電位。水素標準電極 (SHE:2H++2e-=H2) に対してプラス側に大きな電位を持つ物質を貴な物質、マイナス側に大きな電位を持つものを卑な物質とする。電子の放出または受取りやすさの定量的な尺度でもあり、マイナス側に大きいほど (卑な物質) 電子供与性が強い。ヒドリドでのH2+2e-=2H-の酸化還元電位は、水素標準電極に対して-2.25Vの電位である。リチウム二次電池に用いられているLi、次世代二次電池への検討がなされているマグネシウム (Mg) の酸化還元電位は-3.04、-2.36Vであり、H-はMgと同程度の標準酸化還元電位をもつ。
注3) 電荷担体電気伝導の担い手。金属では電子、半導体では電子とホール、イオン伝導体ではイオンが伝導することで電気が流れる。
注4) 副格子結晶格子を構成する原子または分子の中で、同じ性質や状態をもつもの同士が形成する部分的な格子のこと。LSLHOの結晶格子は、陽イオン副格子と陰イオン副格子で構成されていると考えることができる。
注5) 酸水素化物結晶格子内に酸化物イオン (O2-) とヒドリド (H-) が共存する物質。酸化物イオンとの共有結合により水酸化物イオン (OH-) として格子間を占有することの多いプロトン (H+) と異なり、H-は酸化物イオンと同様に陰イオン位置を占有する。
注6) 高圧合成法原料を圧力媒体内に密閉してGPa (ギガパスカル:1GPaが1万気圧に相当) オーダーの高圧下で熱処理する合成法。高圧相の合成や、水素やリチウムのように揮発性の高い元素を反応系内に留めることができるため、酸水素化物の合成に適している。
注7) 大強度陽子加速器施設J-PARC高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設した大強度陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質、生命科学、原子核、素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用がおこなわれている。
注8) 中性子回折測定中性子線の回折を利用して物質の結晶構造や磁気構造を調べる測定。X線回折ではX線が外殻電子によって散乱するのに対し、中性子回折では、原子核が散乱に関与する。このため、X線では検出しにくい水素やリチウムなどの軽元素の情報を得るのに適している。本研究では、中性子回折を用いてLSLHOに含まれる水素濃度と結晶格子内の水素の位置を決定した。
注9) k2NiF4型構造陽イオンが陰イオンと6配位8面体を構成しているペロブスカイト型構造と岩塩型構造が一層ずつ積層した構造。イオン伝導体、超伝導体、磁性体など、さまざまな物性を示す物質が発見されている結晶構造。
注10) 第一原理計算量子力学の原理のみに基づいて電子状態を調べ、構造や物性を予測する計算手法。本研究では、H-伝導体LSLHOの電子構造と、各構成元素の価数を調べた。
注11) 大型放射光施設SPring-8兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設。放射光とは、電子を光速に近い速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、強力な電磁波のことである。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究がおこなわれている。
|