【 今後の期待と展望 】 
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今回得られた結果は、実験の最終結果として結論づけるには未だ統計的に十分な信頼度とは言えません。しかしながら、より多くのデータを用いて確認されたことで、昨年の結果で示唆されていた、ニュートリノと反ニュートリノが違う性質を持つ可能性が、さらに高まったことを示しています。 |
現時点でのデータ収集量は、T2Kコラボレーションの当初の実験提案の約3割に到達したところです。今後、J-PARCの加速器やニュートリノビームラインの性能向上によるニュートリノビームの強度増強をはかり、J-PARC内に置かれた前置検出器の性能を大幅に向上して生成されたニュートリノの性質をより精度よく理解することにより、さらに高い信頼度での「CP対称性の破れ」の検証を行なう予定です。また、J-PARCのさらなる性能向上の可能性を考慮して、T2Kコラボレーションは、当初の実験提案の2.5倍のデータ (これまで取得したデータの約9倍) を収集する計画を立てています。これにより反ニュートリノでの電子型ニュートリノ出現現象を捉え、ニュートリノにおける「CP対称性の破れ」が大きい場合には3σ (=確率99.7% ) の信頼度で検証できると考えられます。T2K実験と同じくニュートリノについてのCP対称性の破れの検出を進める米国NOvA実験との相互検証も可能であり、今後、数年程度のタイムスケールでニュートリノ振動の新たな知見が得られると期待できます。将来さらに多くの事象観測が可能になれば、ニュートリノと反ニュートリノの違いをより明確に捉えることができ、より小さな違いも見落とさずに捉えられるようになります。現在、スーパーカミオカンデの約10倍の有効体積をもつハイパーカミオカンデ実験が提案され、実現に向けた準備が進められています。今回のT2K実験の結果によりニュートリノでCP対称性が破れている可能性が高まったことから、ハイパーカミオカンデ実験によるCP対称性の破れの発見とそのメカニズムの解明への期待がさらに高まっています。 |
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図1 : T2K実験の概要 |
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図2 : J-PARCニュートリノ実験施設 |
J-PARCメインリングからキッカーとよばれる電磁石により加速器の内向きに蹴りだした陽子を一次ビームラインで岐阜県神岡のスーパーカミオカンデ検出器の方向に向ける。陽子は①チタン合金容器に格納されたグラファイト標的に衝突して多数のパイ中間子を生成する。パイ中間子を電磁ホーンという特殊な電磁石によって前方に収束させ、②ディケイボリュームと呼ばれる長さ100mのトンネルに入射し、ミュー型ニュートリノとミュー粒子の対に崩壊させる。ニュートリノビームは③前置検出器を用いて測定されており、スーパーカミオカンデの測定結果と比較すると、ニュートリノが飛行中に別の種類に変わるニュートリノ振動の研究が可能となる。電磁ホーンの極性 (電流を流す向き) を切り替えることで、正の電荷をもったパイ中間子 (π+) と負の電荷をもったパイ中間子 (π-) を選択できる。正の電荷のパイ中間子を収束するとミュー型ニュートリノを主成分とするニュートリノビームが生成され、逆に負の電荷のパイ中間子を収束すると反ミュー型ニュートリノを主成分とする反ニュートリノビームが生成される。 |
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図3 : スーパーカミオカンデ検出器 |
岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡の地下1,000mに建設された、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の検出器で、T2K実験に加えて、宇宙から到来するニュートリノの観測や、陽子が崩壊する現象を探索する実験を行っている。5万トンの超純水で満たした水槽 (直径39.3m高さ41.4m) の内壁に、微弱なチェレンコフ光を捉える光検出器である光電子増倍管約11,000本が並べられている。 |
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図4 : T2K実験で観測されるニュートリノ振動に現われうる「CP対称性の破れ」 |
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図5 : T2K実験での観測数と予想値の比較 |
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図6 : スーパーカミオカンデで検出したJ-PARCからの反ニュートリノビームに由来する反電子型ニュートリノ反応の事象 |
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図7 : T2K実験から評価したCP対称性の破れの大きさ |
横軸は、「CP対称性の破れ」の大きさの指標となる位相 (角度) δCPを表す。角度δCPが0°または±180°は、「CP対称性の破れがない」場合に相当し、それ以外の場合は「CP対称性の破れがある」場合に相当し、90°または-90°に近いほどCP対称性の破れが大きいことを示す。 |
実線が解析によって得られた結果で、「CP対称性の破れ」を表す位相のそれぞれの値に対して、T2K実験の観測データとの整合性を示す対数尤度 (ゆうど) (-2lnL) である。対数尤度 (-2lnL) は大きいほど、その「CP対称性の破れ」の位相の値と実験データが合致しないことを表す。「CP対称性の破れ」の位相の値は、対応する対数尤度 (-2lnL) が点線で表されている信頼度95%に対応する値を上回ると、観測データは95%の確率で棄却される。 |
T2K実験の解析結果は、「CP対称性の破れ」を表す位相の-180°~-171° (図中①の部分) および-30°~180°の領域 (図中②の部分) を信頼度 (確率) 95%で棄却している。とくに、「CP対称性が破れ」がない点 (0°および±180°) もこの領域に含まれる。つまり、T2K実験は「CP対称性の破れがない」ことを信頼度 (確率) 95%で棄却し、「CP対称性の破れがある」可能性を示唆している。 |