スマートフォンやパソコンだけでなく、冷蔵庫などの家電に至るまでコンピューターが搭載されるようになり、電子機器は私達の生活には欠かせないものとなりました。しかし、最近では、これら電子機器の誤作動を引き起こす原因の一つとして
ソフトエラー注1) と呼ばれる現象が注目されています。ソフトエラーとは一過性の誤作動や故障のことで、その要因の一つは
宇宙線注2) が電子機器に衝突して生じる半導体デバイスの
ビット情報反転注3) です。宇宙線は地上に降り注ぐ自然の放射線で、この正体は目に見えない中性子や
ミュオン注4) です。半導体デバイスの微細化・低消費電力化が進むにつれ、放射線耐性は低下しており、従来懸念されてきた宇宙線中性子ばかりでなく、宇宙線ミュオンによるソフトエラー発生の可能性も指摘されています。
九州大学大学院総合理工学研究院の渡辺幸信教授と大学院総合理工学府博士後期課程1年の真鍋征也、大阪大学大学院情報科学研究科の橋本昌宜教授と同博士後期課程3年の廖望ほか、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所、J-PARCセンター、日本原子力研究開発機構 (JAEA) 原子力基礎工学研究センターの11名からなる共同研究チームは、J-PARC物質・生命科学実験施設 (MLF) 内のミュオン実験装置MUSEにて、半導体デバイスに対する正および負ミュオン照射試験を行い、正ミュオンに比べて負ミュオンの方がメモリ情報のビット反転の発生確率が高くなることを実験的に初めて明らかにしました。
今回の実験で、ソフトエラー発生には半導体デバイス内に停止する低エネルギーミュオンによる影響が大きいこと、特に負ミュオンの方が正ミュオンより高い発生確率を示すことが明らかになりました。これは、負ミュオンの停止した場所での
捕獲反応注5) に起因します。
負ミュオンの照射実験結果の報告はこれまでになく、ソフトエラーの正確な評価とそれに対する対策は
IoT注6) の進展による超スマート社会の実現に寄与すると考えられます。今後は、さらに試験データを蓄積し、シミュレーション手法の精度を高めたソフトエラー発生率の評価技術を確立し、その技術を次世代半導体デバイスの設計などに応用することで、自動運転やIoT分野の安心・安全な半導体技術の創出に貢献することが期待されます。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金 (16H03906) の助成を受けて行われました。
また、本研究成果は、2018年5月24日 (木) (日本時間) に「IEEE Transaction on Nuclear Science誌 (電子版) 」に掲載されました。