MLF Monthly Report 2017-04

研究成果

BL05 A neutron detector with submicron spatial resolution using fine- grained nuclear emulsion

  • 名古屋大学 長縄, 他

原子核乾板(エマルジョン)はゼラチン中でAgBr結晶を成長、分散させたもので、放射線に対してカメラのフィルムのように軌跡を記録する。高分解能で3次元描像を可視化でき、粒子線検出器として古くから原子核、素粒子物理の研究に用いられている。感光したAgBr結晶微粒子が現像されて生じる銀の微粒子を顕微鏡で観測し画像解析することによりサブミクロンの位置分解能が得られる。6Liや10Bといった中性子を吸収しイオンを放出する原子核を混ぜ込むことでサブミクロンから数十nmという超高分解能の中性子検出器として機能することが期待されている。今回開発された中性子検出用原子核乾板(中性子エマルジョン)は中性子検出用のLiNO3をエマルジョンにドープしたもので、反応のトラックを解析することで位置決定精度を向上させている。本検出器の性能試験をBL05ビームラインにて行ったところ、想定どおりの検出効率が得られた。飛跡から位置分解能は0.37 mと予想される結果となった。これは現存する位置敏感型中性子検出器より1桁程度小さいものである。今後サブミクロンから数十nmという従来得られなかった超高分解能を持つ検出器として中性子の空間的量子状態の観測や超小型の中性子干渉計への応用が期待される。

An example of a neutron absorption event by 6Li observed under an optical microscope with an epi-illumination system (circled in red). A pair of tracks of an alpha particle and a triton (green arrows) in back-to-back topology was identified.

参考文献
  1. N. Naganawa, S. Awano, M. Hino, M. Hirose, K. Hirota, H. Kawahara, M. Kitaguchi, K. Mishima, T. Nagae, H. M. Shimizu, S. Tasaki, A. Umemoto, "A neutron detector with submicron spatial resolution using fine- grained nuclear emulsion", Proceedings of 8th International Topical Meeting on Neutron Radiography, ITMNR-8, 4-8 September 2016, Beijing, China, Physics Procedia accepted (2017).

BL16 Grafting-to法を用いた高分子ブラシの形成過程

  • 東京大学 横山グループ

高分子の末端を表面に化学的に結合させた、nmスケールのブラシは「高分子ブラシ」と呼ばれており、特に高密度の高分子ブラシは超親水(疎水)性や防汚性、低摩擦性等の特異的な性質をしばしば発現するため次世代の機能性材料として注目されており、人工関節などに応用されている。高分子ブラシの作成法として、高分子の末端に表面に特異的に反応する官能基を修飾し、表面に高分子を修飾する"Grafting-to"法、逆に高分子の反応の起点となる官能基を基盤に修飾し、そこに高分子のモノマーを次々に反応させてブラシを成長させる"Grafting-from"法等が知られており、前者は後者と比較して簡便に作成できる一方、ブラシの密度が低いため機能性に劣るという欠点を有する。これは、密度が上がるにつれて先に反応・吸着した高分子が新たな高分子の反応・吸着を立体的に阻害するためであることが知られているが、実際にその形成過程を観察した例はない。

そこで、東京大学の横山グループは中性子反射率法(NR)と表面プラズモン共鳴分析法を用いた表面構造解析と水晶発振子マイクロバランス法(QCM)を用いた質量分析を組み合わせることにより、Grafting-to法によって高分子ブラシが形成される際の厚さと密度、およびブラシの粘性の変化をそれぞれ評価した。図1(左)に高分子ブラシの材料となるチオールを末端修飾したポリエチレングリコールの水溶液を金薄膜の表面に接触させた後のプロファイル変化を示す。プロファイルの測定は中性子反射率計SOFIAを用い、広いQ領域を同時測定するために波長幅を拡張したダブルフレームモードにて測定を行った。プロファイルに現れた干渉は金薄膜とその表面に吸着した高分子ブラシによる干渉で、時間の経過につれて周期が短く(膜厚が大きく)なっていることがわかる。この干渉をフィッティングにより評価した結果が図1(右)のグラフで、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達するまでは膜厚が単調に増加しているのに対して、これを超えると膜厚がおよそ4 nmからほとんど変化していないことを示している。これに対し、同様の実験をQCMで行い、貯蔵弾性率、損失弾性率の時間変化を評価したところ、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達するとブラシが粘性的な応答から弾性的な応答へと変化することが明らかになった。これは、ブラシ密度が0.17 chains/nm2に到達すると、表面に吸着したブラシ分子がほぼ伸びきった状態を保ったまま密度増加していくと同時に、粘弾性挙動に変化が現れることを示している。

これまで、NRは長い測定時間を要するため、高分子ブラシの評価は反応を止めた終状態でのみ行われてきた。それに対し、SOFIAを用いた実験では数分オーダーでの時分割に成功し、その形成過程を追うことができた。ただし、高分子ブラシがまばらに形成された希薄領域における評価を行うには数分オーダーの時分割測定でもまだ不足している上、高分子ブラシの種類によっては今回の系よりも早い時間でブラシの形成が完了してしまうため、NRのみで更なる詳細を追うことには限界がある。一方、QCMは秒オーダーでも測定可能であるため、今回の知見を深めて行くことにより、希薄領域の評価や他の高分子ブラシ系においてもその形成メカニズムの解析が可能になると期待される。

Reference
  1. H. Tanoue, N. L. Yamada, K. Ito, and H. Yokoyama, Langmuir, accepted (DOI: 10.1021/acs.langmuir.7b00961)

図1(左)SOFIAで得られた時分割NRプロファイルとそのフィッティング結果。
(右)時分割NR解析より得られたブラシ密度と厚さの相関。
* Reproduced from Figures 3 and 5 in the reference.

論文リスト

学術誌

プロシーディングス

学位論文

BL05
BL14
BL16
D1

その他刊行物

受賞

平成29年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞

  • 2017-04-11

研究会

2nd workshop of Concepts of neutron sources (CoNS-II)新しい概念の中性子源を目指す研究会「第2回 Concept of Neutron Sources」

日時:2017-03-07 - 2017-03-07
場所:J-PARC研究棟408号室

2016年度量子ビームサイエンスフェスタ・第8回MLFシンポジウム

日時:2017-03-14 - 2017-03-15
場所:つくば国際会議場

CMRC研究会「強相関電子系における局所構造変調が誘起する創発現象」

日時:2017-3-24 - 2017-3-24
場所:KEK東海キャンパス

日本物理学会第72回年次大会

日時:2017-3-17 - 2017-3-20
場所:大阪大学豊中キャンパス