検討や調査を重ねて量産へ |
FT3L空洞の量産に至るまでに、CERNでは広帯域空洞導入について、ハード、ソフト、制御、加速器理論など多角的な観点からの検討が行われました。2013年はCERNの長期運転停止期間であったため、J-PARCの施設を用いて、ビームが空洞に与える影響の調査とPSB加速器のトンネル内に置かれる半導体増幅器に対する放射線の影響の調査が行われました。放射線の影響に関するより詳細な検討は、J-PARCでの試験の後、国内外の放射線照射施設で現在も継続されています。 |
そしてついに、2014年にPSBのリングに空洞が設置され、ビーム試験により、FT3L空洞の高い性能が確かめられました。現在のPSBで現在使われている3種類のフェライト空洞を、たった一種類の広帯域空洞で賄うことができるようになるため、2019、2020年のLHC長期停止期間の際、すべての空洞をFT3L空洞に入れ替えることとなっています。 |
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この入れ替えによって、PSBではより高強度のビーム加速が可能になり、最大エネルギーも現状の1.4GeV (GeVは10億電子ボルトでエネルギーの単位) から2GeVに上がります。入射器の性能向上はLHCでのルミノシティ (粒子の衝突性能) 向上にもつながります。 |
KEKはこのCERNのPSBのために、必要な340枚のうちの132枚の金属磁性体ファインメット®FT3Lリングを提供したほか、磁場中熱処理装置を用いた量産のサポートを行い、製造中の初期トラブルに対応しました。残りの208枚はCERNが発注しましたが、340枚のすべてが、KEKが開発した製造装置で作られて輸出されました。組み立て中のPSB空洞の写真に写っている金属磁性体リングで左右の端にある白くて長いラベルのものはKEKから提供したものです。KEK/J-PARCの製造装置によって、340枚の金属磁性体空洞が安定して高い性能を維持し、量産に成功したのです。 |
この日欧の高周波加速の共同研究では、PSBの他にも、PS加速器に設置した広帯域空洞を用いて、ビームを不安定にし、LHCでのルミノシティ向上の妨げになる「結合バンチ不安定性」現象の対策の研究を行っています。 |
以上の研究の中心を担ってきた大森教授は「磁場の中で性能の良い磁性体を作る装置は加速器の増強にとって大きな役割を果たします。KEK/J-PARCとCERNの共同研究もうまく進み、ベストの高性能磁性体を提供できました。実際に加速器の改良に使われるのは喜ばしいことです。今後も加速システムの性能を上げるよう研究を続けていきます」と話しています。 |