2015年3月27日
茨城県
国立大学法人茨城大学
J-PARCセンター
  
茨城県中性子ビームラインの産業利用について
-  産業界の中性子利用が進展  -
  
  茨城県では,独立行政法人日本原子力研究開発機構と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構が共同で設置・運営している世界最先端の研究施設『大強度陽子加速器施設 (J-PARC) 』の物質・生命科学実験施設 (MLF) に2本の中性子ビームライン (「茨城県材料構造解析装置 (iMATERIA) 」及び「茨城県生命物質構造解析装置 (iBIX) 」:以下,『茨城県BL』という。) を設置しています。

  茨城県BLは,平成20年12月のJ-PARC の稼働開始と同時に供用を始め,運転維持管理を委託している茨城大学など関係機関とともに,中性子の産業利用に積極的に取り組んでいます。

  今後,J-PARC では,所期性能である1MWの陽子ビームをMLF に供給し,中性子ビームの強度を上げていくことを目指しており,茨城県BLにおいても,さらなる産業利用に向けて,新たな取り組みも始めたところです。今回は,茨城県BLの産業利用状況と産業利用拡大に向けた取り組みについてご報告します。

ポイント
  1. 茨城県BLの産業利用状況
    ► 茨城県BLは,J-PARC/MLF の産業利用全体の約60%を占めており,J-PARC の産業利用を牽引している。

    ► 企業が利用成果を秘匿できる「成果専有利用」が約半数に及んでいる。

    ► 利用の多いリチウムイオン電池分野では,一部企業が今後数年のうちに製品化の判断がされるところまで進んでいる。

    ► 触媒分野では,透明な可視光応答性光触媒コーティング液の開発に利用した例がある。

  2. 茨城県BLの産業利用拡大に向けた取り組み
    ► J-PARC に来ることなく測定が可能なメールインサービス (測定代行) を開始した。

    ► 測定やデータ解析を代行する企業と連携し,中性子解析の専門家がいない企業も利用しやすい仕組みづくりを進めている。

    ► 産学官連携による新たな利用分野の開拓に向けた取り組みを開始した。

  3.   
  
  1. 茨城県BLの産業利用状況 《補足説明資料P.1〜5 参照》
  
  茨城県BLは,J-PARC の供用開始当初から産業利用を推進してきており,これまでの採択課題数は256 件,J-PARC/MLF の産業利用全体の約60%を占めるなど,J-PARC の産業利用を牽引してきました。

  平成23 年度以降,特にiMATERIA においては,企業が製品開発に直結するような秘匿したい成果を期待する「成果専有利用」が約半数に及ぶなど,産業界における中性子利用の進展が見られます。

  利用される研究段階も,基礎研究 (分析技術確立など基盤技術の研究) ,新製品研究開発 (新製品に繋がる新材料・新技術の研究開発) ,製品評価 (現製品の評価や改良) といった,研究の川上から川下に至るまでの幅広い利用となっています。

  iMATERIA では,新材料等の開発に繋がる先駆的な研究が進められています。

  例えば,利用の約50%を占めるリチウムイオン電池分野では,

  ► 安全性の高い次世代二次電池 (全固体型リチウムイオン電池) の材料研究

  ► 劣化防止・長寿命化のための充放電メカニズムの解明

  ► 高容量・高出力リチウムイオン電池の開発
などが行われ,一部企業では今後数年のうちに製品化の判断がされるところまで進んでいます。

  触媒分野では,透明な可視光応答性光触媒コーティング液の開発に利用した例があるほか,より安全で環境に配慮した自動車排ガス処理技術や燃料電池自動車用触媒の開発などに利用されています。

  そのほか,高性能なディスプレイの開発や水素社会の実現に貢献する水素吸蔵合金の開発など,幅広い産業分野で活用されています。

  iBIX では,平成24 年12 月に高性能で安定性の高い第三世代の検出器を30 台整備し,測定効率が大幅に向上しました。

  この結果,我が国のタンパク質分野におけるトップレベル研究者が結晶構造解析を行い,世界初の構造解析事例も生まれ,大学などの研究者にその成果が広まりつつあります。また,アルツハイマー病に代表されるアミロイド病因タンパク質の構造解析のほか,新たな燃料電池用貴金属フリー触媒の構造解析など,タンパク質以外の分野でもiBIX が活用されています。

  2. 茨城県BLの産業利用拡大に向けた取り組み 《補足説明資料P.6〜8 参照》
  
  茨城県では,中性子を産業界が利用しやすいものとするため,企業の利用相談に対応する専門のコーディネーターを2名配置するとともに,茨城大学やJ-PARC センター,J-PARCの登録施設利用促進機関である一般財団法人総合科学研究機構 (CROSS) ,中性子産業利用推進協議会ほかと協力しながら,セミナーや研究会,成果報告会,あるいは解析技術の講習会を開催するなど,中性子利用技術の啓発やPRに取り組んでいます。

  実験課題の募集においても,年2回の定期募集に加え,本県独自の取り組みとして,使いたいときに直ぐに利用できる随時募集の制度を平成24 年度に整備しました。さらに,平成26 年度下期からは,研究者がJ-PARC に来ることなく測定データを取得できるメールインサービス (測定代行) を開始するなど,ユーザーの利便性向上を図っています。

  「中性子の解析が難しい」「解析する時間がない」といった企業の声を受け,測定やデータ解析を代行する受託解析サービスに参入しようとする企業もあることから,このような企業と連携し,中性子解析の専門家がいない企業も利用しやすい仕組みづくりを進めています。

  さらに,産業界からの要望が多い新たな利用分野の開拓への取り組みを開始しました。
  
 ♦ 茨城県主催の集合組織研究会へ鉄鋼メーカーが参画し,金属材料の品質を保証する簡便な中性子測定技術の確立を目指しています。

  
 ♦ ゴム・化学関連企業や大学が参画する産学官連携プロジェクトを立ち上げ,ナノ構造解析のための小角散乱法測定システムなどの新たな測定手法の確立に向けて取り組んでいます。

  こうした取り組みにより,茨城県BLをはじめとする中性子の産業利用を拡大し,新技術や新事業の創出につなげていきます。
  
 【 問合せ先 】 

  ○ いばらき量子ビーム研究センター 


   茨城県企画部 技監 林 眞琴 
   茨城県ビームライン産業利用コーディネーター (iMATERIA 担当)  峯村 哲郎 
   茨城県ビームライン産業利用コーディネーター (iBIX 担当)  今野 美智子 
   TEL : 029-352-3301   FAX : 029-352-3309   E-mail : m_hayashi@pref.ibaraki.lg.jp

  ○ 茨城県企画部科学技術振興課 

   菊池 康弘
   TEL : 029-301-2529   FAX : 029-301-2498   E-mail : info-neutron@pref.ibaraki.lg.jp
  
     (別紙) 
       補足説明資料 PDF : 1.35MB

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