(J-PARCセンター、CROSS、東北大学、筑波大学、昭和薬科大学、他)
単結晶中性子構造解析は結晶中の水素原子位置や磁気構造を高い精度と信頼性で決定できる、基本的かつ重要な分析手法である。従来は数ミリ角という巨大な単結晶試料を必要だったのに対し、MLFのBL18に設置されたSENJUは体積が1mm3以下の単結晶試料での構造解析に加え、特殊試料環境下での回折測定実現を目指して開発された単結晶回折計である。今回、SENJUの性能評価のために体積0.1mm3のタウリン単結晶の構造解析を試みた結果、加速器出力200kWで7日間での測定で水素原子を含めた結晶構造の決定に成功した。更に低温環境下での回折測定についての性能評価のために4KにおいてMnF2低温相の回折測定を行い、磁気構造解析に成功した。これらの結果はSENJUが「微小単結晶」と「特殊試料環境」での回折測定を両立させた世界最高レベルの装置であることを示している。
参考文献
1. T. Ohhara et al., J. Appl. Cryst. 49, 120-127 (2016).
図1 SENJU本体の外観
図2 SENJUでとらえた体積0.1mm3のタウリン単結晶からの回折像
BL16で11月に導入した新しい試料ステージは、容器全体を温調する循環水に加えて、内部に設置された2つの銅製試料ステージが設置してあり、各ステージはペルチェ素子で独立に温調可能となっている。ペルチェ素子の動作に伴う廃熱は循環水で除去できる構造となっており、0~100℃の範囲でステージ温度を変えられることを確認している。容器内部はガスフローが可能となっており、窒素等をフローさせた状態で銅製試料ステージを冷却することによって結露を防ぐことができる。また、加湿用のバブラーを用いて内気循環させる湿度制御機構を接続できるようになっており、内部の温湿度計により湿度をモニターすることが可能である。
2月のビーム運転再開前、このステージのペルチェ素子を装置制御プログラムからリモートで温調出来るよう変更を加えた。下図はプログラムの動作テストを行った際の画面と温度履歴で、10分弱で目的の温度に到達することを確認している。また、測定用のコマンドラインに組み込むことにより、測定中に温度変化を行うことも可能であるが、こちらについては今後の課題である。
図1 測定プログラムにおけるペルチェステージの温度制御画面。
最初に室温からステージの温度を30℃/10℃に設定して温度が安定した後、50℃、15℃、0℃、5℃と設定変更し、温度制御が正常に動作することを確認した。
MLFの装置制御ソフトウエアIROHA2を導入した。これまでのIROHAに比べて、IROHA2からの制御対象機器の登録・変更が容易になった。導入にあたり、任意のシーケンスによる自動測定を行い、問題なく完了することを確認した。
図1 IROHA2のデバイス制御サーバー画面で複数のデバイスを制御対象として登録した画面。
"Status"のReadyになっているslit1(入射スリット)と40sc(40試料交換機)が制御可能な状態であることを示している。
図2 IROHA2のシーケンス管理サーバーの実行画面で40scにおける試料セット、時間指定によるデータ集積、試料回収を2試料分実行した状態。
水素貯蔵合金の水素貯蔵反応のその場観測を、十分な空間分解能を有するPDFにより行うためには、10 MPa耐圧バナジウム容器を用いる必要がある。10 MPaのガス圧に対する十分な強度を有していることを確認した容器を用いて、水素貯蔵合金の水素化を行ったところ、容器に大きな変形は見られないが、底面付近に亀裂が入り、容器内の圧力の低下が生じた。合金の体積が膨張し、試料容器に応力がかかったために割れてしまったと考えられる。水素貯蔵合金が、水素貯蔵過程において膨張することは一般的に起こるため、耐圧バナジウム容器を二重化するという対策を講じることとした。1.5 mm厚の耐圧バナジウム容器の内側に、0.1 mm厚の挿入容器(バナジウム)を挿入することで、水素吸蔵反応の体積膨張による容器内部応力を二重構造により緩和し、耐圧容器の肉厚増大(1.0 mm →1.5 mm)により耐圧性能を向上した容器である(図1)。40 MPaのガスによる耐圧試験は完了しており、合金の水素化のテストを開始した。
POLANOではPPS接続を行い、上位PPS盤までの設置とビームシャッター試験動作を含む自主検査を終了した。また、遮蔽扉やハッチなどに関するPPSローカル部の正常動作確認も終了し、今後担当者による検査および施設管理責任者による検査を経て、いよいよPPS運用に入る。 検出器の設置をおこなった。POLANOはチョッパー型(直接配置型)の分光器で、同型の分光器である四季、HRC、およびアマテラスと同じ長尺PSDは採用していない。検極子の見込み角や検出器の入手困難性、加えて構造上の要請など全てを加味して、有効長600 mmのPSDを導入している。取り付けの様子を図1(下左)に示す。今回取り付けた検出器群は図2(下右)の中黒い部分で、水平面内は予定散乱角おおよそ-20˚~120˚全て設置が完了した。
「空蟬」はMLFのビームラインで広く使用されているイベント記録方式のデータ(イベントデータ)に対し補正処理や可視化を行うためのソフトウェア群である。非弾性散乱実験のデータ処理・解析として開発が進められ、世界のスタンダードな測定として広まったMulti-Ei手法の実現や、単結晶試料の多次元データ測定・可視化手法の実現などに貢献してきた。また非弾性散乱装置のみならず様々な装置に導入が進み、需要も高まっている。しかし空蝉は、これまでLinux上でしか動作せず、WindowsやMacOSといったPC上で使用することは簡単ではなかった。すなわちユーザーが測定後にイベントデータを持ち帰ってデータ処理・可視化を行う場合には、普段使用しているPCとは別にLinuxのPC環境を準備する、もしくは仮想マシン環境を構築するなどの作業が必要であり、ユーザーにとって大きな負担となっていた。
今回、空蝉のコードを改良しWindowsやMacOSでも動作するバイナリ実行ファイルを作成することに成功した。同時にそれらのOS上で空蝉が十分に動作するような環境をパッケージ化し、ソフトウェアのインストールや起動もそれぞれのOSにおける標準的なやり方で行えるようにした。その結果、ユーザーが自分のPC環境で簡単に空蝉を使い始めることが可能となり、その利便性・生産性が大きく向上することとなった。
今後は空蝉による解析がより容易になるようにマニュアルの整備やWebからの空蝉パッケージの配布を可能にするなど、より広く情報発信を行っていく予定である。
ミュオンセクションレーザーグループでは、Uラインにおける超低速ミュオン生成用レーザーの調整・強度増強をはじめとして、Hラインレーザーのデザイン・ミュオニウム生成用シリカエアロジェルのレーザー加工、薄膜作成用レーザーの調整などの業務を行っている。(以下簡単のため、レーザー光から生成されたコヒーレント光もレーザーと呼ぶことにする)超低速ミュオンは、これまでにKEKつくば[1]とそれに続くRIKEN-RAL(ラザフォードアップルトン研究所)施設[2]において、加速器はもとより当時最高のレーザーを使用し原理実験が行われた。これに対しUラインでは、理化学研究所との共同研究によってレーザーダイオード技術を用いたモダンなレーザーを設置し[3](図1)、ビームラインに導入することで[4]、超低速ミュオンの生成を目指している。例えば、212.55 nmの紫外レーザーをパラメトリック機構なしに発生させ[5]、RIKEN-RAL施設に比べ約200倍の変換効率を達成している。この紫外レーザーと波長可変赤外(820.65 nm)レーザーを、位相整合させたKrガス中で周波数混合することで、超低速ミュオン生成用の真空紫外レーザー(122.09 nm)は生成される。この真空紫外レーザーは既にRIKEN-RAL施設の瞬間最高強度1 μJを数倍超える発生に成功している。また、ビームライン光学系のコミッショニングのために水素のレーザー共鳴イオン化が行われているが、レーザーの調整なしに18時間の連続コミッショニングに成功した。つまり0.1~0.05 μJレベルの真空紫外レーザーが18時間メンテナンスなしで発振したことを確認している。このような、これまでと次元の違うレーザービーム品質を実現できた一つの理由は、理化学研究所を中心に新規のレーザー媒質Nd:YGAGセラミック結晶が開発されたためである。単結晶で実現できなかったレーザー発振をセラミック結晶で実現した意味は大きいが、この4元系の新規結晶は当初デザインされたレーザーの最終アンプに搭載できるほどのサイズについてはまだ製作できていない。最終アンプが完成すれば真空紫外でさらに約100倍の強度が得られると期待されている。
次回の報告からは、超低速ミュオンのファーストビームに向けた最新の状況等を報告する。
参考文献
1. Y. Miyake et al., Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. B 95 265-275 (1995).
2. P. Bakule et al., Spectrochimica Acta Part B 58 1019–1030 (2003).
3. N. Saito et al., Reports on the Topical meeting of the Laser Soc. of Japan 427 49-54 (2012).
4. J. Nakamura et. al., J. Phys.: Conf. Ser. 551 012066 (2014)
5. Y. Oishi et al., JPS Conf. Proc. 2 010105 (2014)
ミュオン回転標的には様々なインターロックがかけられており、異常を検知した際には自動的に陽子ビームを停止させる。我々は、より堅牢な安全性を担保するために、新たな標的監視系の開発を行っている。標的を回転させることで1 MWにおいても放射線や熱による損傷は分散されて問題にならないと見込まれている一方、寿命を決定させる主な要因は回転系へと移行している。現在、この回転系の監視にはモータートルクを計測しており、規定値に達するとビームを停止させるインターロックが設定されている。これに加えて、マイクロフォンによるモーター音の音響測定を追加してインターロックの多重化を図る。
回転モーター近くに設置されたマイクロフォンを用いた音響測定システムの構築を行った。マイクロフォンからの音響は、アンプで増幅されスコープコーダーによって測定される。ビームトリガーと同期をとることによって、ビーム照射時の音響への影響を調べることも計画している。現在は、様々な条件下における基礎データの収集・解析を行っており、各周波数成分の音源の同定を進めている。
今年度、夏期のスクレーパ交換作業時にキャスクモーターケーブルに不具合が発生したためモーターの交換を行った。芯出し調整作業を行い、動作試験を行い、問題なく駆動可能である事を確認した。
2016/01/05-09, University of Tokyo
2016.2.2-7 University of Rome, Sapienza"