BL16では、ガドリニウムの塗装を施したディスクチョッパーをこれまで使用してきた。BL16で使用する波長は主に0.2 nmより長波長のため、ガドリニウムでも大きな問題が無く使えていたが、使える波長帯を広げるためにチョッパーの回転数を半分にした「ダブルフレームモード」では、ガドリニウムで止めることの出来ないエネルギーの高い中性子によるバックグラウンドが問題となる。このようなエネルギーの高い中性子はインコネルを用いたT0チョッパーで止めることが出来るが、ノイズによる影響と思われる誤作動により急停止するという現象が度々起きていた。
そこで、今回ガドリニウムを塗装したディスクチョッパーとB4Cレジンのブロックによる簡易T0チョッパーを組み合わせた対向式のディスクチョッパーを導入した。チョッパーは通常の25 Hz運転に加えてダブルフレーム用の12.5 Hz運転を行うことができ、回転開始から1分以内で規定の回転数に達する。位相のズレは0.1度以内で安定しており、ディスクチョッパーとしての要求仕様を十分満たしている。また、位相と回転数は測定プログラムから変更ができ、将来的には位相や回転数を変えながらのオートラン測定が行えるようになる予定である。
新しいディスクチョッパーの外観(保護用のカバーを外した状態)。
手前側に窓付きのアルミ板がガドリニウムの塗装を施したディスクチョッパー、奥側にB4Cレジンのブロックを固定した簡易T0チョッパー。
PPS担当者および施設管理責任者によるPOLANOのPPS検査を行い、合格した。これによりシャッター信号が点灯し、いよいよビーム受け入れが近づいてきた。
ミュオン回転標的においては、1 MWにおいても放射線や熱による損傷は分散されて問題にならないと見込まれている一方、回転シャフトを支持するベアリングの損傷によって寿命が決定されている。 現在、この回転系の監視のためにモータートルク値を測定しており、規定値に達するとビームを停止させるインターロックを設定している。我々は、この回転系インターロックの多重化を目的として、マイクロフォンによるモーター音響の監視を計画している。
現在、予備実験として回転モーター近傍にマイクロフォンを設置し、音響データの収集・解析を行っている。図1は、Run67における回転モーター停止時と動作時の音響を比較したものである。回転モーターの動作に伴って8000 Hz付近に鋭いピークが観測されている。ビーム運転の有無に関わらず同じトルク、同じ回転方向において、このピークの音圧レベルは、アンプ出力後でどちらも-70 dBであり再現性がみられており、インターロック設定のために重要な音源と考えられる。現在はトルクや回転速度、マイクロフォン位置を変化させた音響データの収集試験をヘンデル棟にて準備中であり、このオフライン試験と合わせてインターロック設定のための音圧レベル定量化を目指している。
回転モーター動作時及び停止時の音響周波数解析。
赤は回転ミュオン標的がビーム入射方向から見て逆時計回りに毎分15回転時、黒は停止時の音響。上図は25 Hzビーム利用運転時、下図はビーム停止時。回転時のトルク値はどちらも定格値の8%。矢印はモーター動作に伴う特徴的なピークを示す
ミュオンセクションではついにMLFでの超低速ミュオンの発生に成功し、現在ビーム調整中である。超低速ミュオン発生用のライマンα光は、クリプトン・アルゴン(Kr-Ar)混合ガス中で四波混合を行う事で発生する。Kr-Arの混ざり具合とその時間変化についてこれまで議論が行われていたが、最近、図1に示したガス混合器が導入された。混合器はスタテッィクミキサー・マスフローコントローラーとその制御からなり、これまで以上に安定したガス混合が期待できる。現在測定の整理中だが、水素の励起のための121.57 nmの波長ではガスの圧力比がKr/Ar=1/3付近, ミュオニウムの励起のための122.09 nmでは1/5付近が良い可能性がある。これはこれまでの実験値や文献値に比べてKr-richとなっており、この違いについては現在調査中である。
また、ライマンα光のステアリングミラーのモーター駆動化用部品が設置され、現在装置調整が行われている。ステアリングミラーは真空内のミラーを真空外から駆動させるものだが、モーター駆動化によりさらに遮蔽外からの駆動が可能になり、ライマンα光の位置を変える実験がよりスムーズになると期待される
導入されたガス混合器
2016/4/20
原田秀郎, 木村 敦, 藤 暢輔
"中性子共鳴分光法の大幅な革新とその応用研究"
[ BL04 Proposal No. 2012P0701, 2013P0701, 2014P0701 ]
東京, 2016.3
仙台, 2016.3
日時:2016.4.24-30
場所:Fethiye, Turkey
茨城, 2016.3
Oxford U.K. (2016/4/14)