BL16 大面積1次元楕円集光ミラーの開発とそれを用いた中性子反射率測定
- 理研, KEK, 京大, 北大
中性子反射率法は物質の界面で反射された中性子を計測し、その干渉を利用することによって数nm~数百nmスケールにおける深さ方向に対する散乱振幅密度の分布を観察する手法である。中性子は物質透過性が著しく高く、物質に内在する「埋もれた界面」を容易に評価することが可能な上、重水素化ラベル法を用いることによって特定の部位にコントラストを付けて観測できるというメリットがある。
J-PARC MLFのBL16に設置された試料水平型中性子反射率計SOFIAは大強度パルス中性子ビームを生かした短時間測定と低いバックグラウンドを特徴とする装置である。また、2次元検出器を利用した入射角分布の補正や非鏡面反射測定やダブルフレームモードを利用した時分割測定おけるwide-Q領域測定、測定プログラムにおける入射ビーム強度に対する最適化や試料アライメントの自動化などを実装しており、高いスループットと利便性を兼ね備えている。一方、光学系や検出器についてはそれぞれダブルスリットコリメーションと6LiF/ZnSシンチレーターを採用したコンサバティブなもので、改良の余地が残されている。これに対し我々は、大面積1次元楕円集光ミラーを用いた試料集光光学系のための中性子ミラー開発を行った。これにより、小さな面積の試料に対して大きな発散のビームを利用できるようになり、ビームサイズと同時にビーム発散も同時に小さくする必要があるダブルスリットコリメーションに対する大きなアドバンテージとなる。
本研究では、集光ミラーの素材としてNiPめっきを施したアルミ材を採用し、機械加工により幅60mm、長さ550 mmの1次元楕円集光ミラーを製作した。この大面積に対してスーパーミラーを成膜することは困難であるため、ミラーの母材は中央で2つのピースに分割し、成膜後に組み上げることで大面積を実現した。ミラーの外見および形状は図1に示す通りで、大面積にも関わらずミクロンスケールでの精度誤差が得られた。これを実際にSOFIAに据え付けて集光特性を評価したところ、半値全幅で0.34 mmのビームサイズを得ることに成功した。また、実際に試料を用いた反射率測定を行い、約3倍の強度ゲインが得られることを確認した(図2)。この強度ゲインはミラーの集光サイズに比例しており、今後の改良で仮に0.1 mmの集光スポットが得られれば、その強度ゲインは10倍に達する見込みである。
参考文献
S. Takeda et al., Opt. Express, accepted.
図1 本研究で製作した1次元楕円集光ミラーの外寸、写真、および形状。
図2 本研究で製作した1次元楕円ミラーを用いた反射率測定の結果。