BL01 銅酸化物高温超伝導体LSCO系における磁気励起の擬ギャップ温度を挟んだ温度依存性
- CROSS 松浦
- 東北大 藤田グループ
- J-PARC 梶本
- KEK 山田(和)
銅酸化物高温超伝導体の発生メカニズムを決定する上で、アンダードープ組成において超伝導相の高温側で現れる擬ギャップの起源が注目されてきた。我々は、高温超伝導において重要な役割を果たしているスピン揺らぎに対する擬ギャップの影響に着目した。大きな磁気相互作用を持つ銅酸化物高温超伝導体のスピン相関を調べるには、チョッパー型分光器により磁気励起の全体像を調べることが必要不可欠である。しかし、これまでの研究は室温以下の測定にとどまり、室温を超えるような擬ギャップ温度前後の磁気励起の系統的な研究は報告されてこなかった。そこで本研究では、銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4 (LSCO)のアンダードープ組成(x = 0.075、Tc= 24 K)について、超伝導相のT = 5 Kから擬ギャップ温度(~360 K)を超える500 Kまでの幅広い温度領域において、四季を用いて磁気励起の測定を行った。また、参照物質として母物質のLa2CuO4についても同様な広い温度領域5 K~400 Kでの磁気励起測定を行った [1]。
図1 La2CuO4 (a) T = 5 K (b) 400 KおよびLa2-xSrxCuO4 (x = 0.075) (d)T = 5 K, (e) 300 K, (f) 400 K, (g) 500 Kの磁気励起スペクトル [1]。横軸は正方格子のH方向の運動量(逆格子単位)、縦軸は励起エネルギー。(c) La2-xSrxCuO4の超伝導、磁気相図における測定点
図1(a),(b)に母物質La2CuO4のT = 5 K, 400 Kにおける磁気励起スペクトルを示す。キャリヤーがドープされていない母物質La2CuO4における反強磁性スピン波は、5 Kから400 Kへの温度変化に対して殆ど分散が変化しないことが分かる。一方、キャリヤーがドープされたアンダードープ組成[図1(d)-(g)]では、超伝導相T = 5 Kにおける砂時計型の分散[図1(d)]のうち、擬ギャップ相の300 K [図1(e)] では低エネルギー (< 35 meV) の下向き分散が消失し、擬ギャップ温度より高温の400 K, 500 K [図1(f), (g)] では高エネルギー (> 35 meV) のスピン波的な分散のシグナルが磁気ゾーン中心上に集中した。磁気ゾーン中心上に集まるシグナルは遍歴反強磁性体のCrやV2-yO3で見られているシグナルと類似しており、高温ではキャリヤーが遍歴する事により、磁気励起が影響を受けていることが分かる。また、この温度変化から、スピン揺らぎにおける擬ギャップの最も顕著な影響は、スピン波的な分散の復活だと明らかになった。この結果は擬ギャップの起源が超伝導の前駆現象よりもモット絶縁体への前駆現象であることを示唆している [2,3]。
参考文献
- M. Matsuura et al., Phys. Rev. B 95, 024504 (2017).
- S. Badoux et al., Nature (London) 531, 210 (2016).
- S. Sakai et al., Phys. Rev. B 82, 134505 (2010).