MLF Monthly Report 2017-02
装置整備
BL12 HRCにおけるフェルミチョッパーの改造
フェルミチョッパーは、遮蔽板とスペーサーを交互に積層したスリットパッケージを回転させ、スリットが中性子ビームの方向に向いたタイミングに中性子を透過させて、中性子ビームを単色化させるデバイスである。円柱状の回転体の胴体にスリットパッケージを挿入し、これを中性子の発生に同期させて回転させる。HRCではこれを用いて実験してきたが、いくつかの点で設計性能に対する低下が見られ、その原因について検討を重ねて来た。遮蔽板とスペーサーの厚さの和が円柱状回転体のスリットパッケージを挿入する部分の幅に等しくなるように積層し、これを挿入したものをこれまで使ってきたが、高速回転(f=100~600Hz)させると、発生応力によりスリットが変形し、これが性能低下のひとつの原因であることがわかってきた。今回、油圧プレスを使ってスリットパッケージを圧縮し、できるだけ多くの枚数の遮蔽板とスペーサーを回転体に挿入する改造を行った。その結果、目視では高速回転後のスリットの変形は確認されず、標準試料(バナジウム)を用いた測定では、弾性散乱のエネルギー幅(エネルギー分解能)は狭くなり、ピーク強度は増大した。たとえば、中性子ブリルアン散乱実験で用いられる入射中性子エネルギーEi=100meV、フェルミチョッパー回転周波数f=600Hzの条件では、エネルギー分解能 E/Eiは1.9%から1.8%に向上し、ピーク強度は17%増、積分強度は12%増となった(図1(a))。昨年、小角検出器の二重化により中性子強度が1.4倍に増大したことを報告したが、今回の効果も合わせれば、中性子ブリルアン散乱実験において、ピーク強度は1.6倍、積分強度は1.5倍に増大した。さらなる強度増をめざして、現在コリメーターの改造を行っている。今回の改造ではもうひとつの効果があり、図1(b)に示すように、今までE=90meV付近に見られていたピークが消失した。フェルミチョッパーでは透過強度を増大させるためにスリットに曲率をもたせてあり、半回転した状態では透過することはないようになっている。しかし、これまで、スリットの変形により、半回転した状態でも透過して90meV付近にピークを作っていたが、今回の改造により変形が抑えられ、半回転した状態では透過しないようにすることができた。これにより、測定範囲を拡大することができた。
図1 Ei=100meV 、f=600Hzの条件で、(a)L2=5.2m(L2:試料-検出器間距離)、及び、(b)L2=4mで測定したバナジウム標準試料のスペクトル。赤はこれまで用いられてきたフェルミチョッパー、青は今回改造したフェルミチョッパーを用いた測定データ。
論文リスト
学術誌
- Y. Wang, L. Wang, H. Zheng, K.Li, M. Andrzejewski, T. Hattori, A. Sano-Furukawa, A. Katrusiak, Y. Meng, F. Liao, F. Hong, H-k. Mao
Phase Transitions and Polymerization of C6H6-C6F6 Cocrystal under Extreme Conditions
J. Phys. Chem. C 120(51) 29510-29519 (2016)
[BL11 Proposal No.2016A0191]
- T. U. Ito, A. Koda, K. Shimomura, W. Higemoto, T. Matsuzaki, Y. Kobayashi, and H. Kageyama
Excited configurations of hydrogen in the BaTiO3-xHx perovskite lattice associated with hydrogen exchange and transport
Phys. Rev. B 95 020301(R) (2017)
[D1 Proposal No.2012A0063]
- X. L. Xu, D. D. Meng, X. G. Zheng, I. Yamauchi, I. Watanabe, Q. X. Guo
Critical slowing of quantum atomic deuterium/hydrogen with features of multiferroicity in the geometrically frustrated system Co2(OD)3Cl/Co2(OH)3Cl
Phys. Rev. B. 95 024111 (2017)
[D1 Proposal No.2013A0175, 2013B0252, 2014B0196]
- Tatsuhiko Hayashi, Kenta Segawa, Koichiro Sadakane, Koji Fukao, Norifumi L. Yamada
Interfacial interaction and glassy dynamics in stacked thin films of poly(methyl methacrylate)
J. Chem. Phys. 146 203305 (2017)
[BL16 Proposal No.2014B0073, 2016A0025]
その他刊行物
- 中村充孝
連載講座 中性子散乱による原子・分子のダイナミクスの観測 VIII-3 J-PARCチョッパー分光器による非晶質・超イオン伝導体のダイナミクス研究
RADIOISOTOPES 66 93-99 (2017)
[BL14 Proposal No.2010A0086]
- 中島健次
連載講座 中性子散乱による原子・分子のダイナミクスの観測 VIII-4 冷中性子ディスクチョッパー型分光器・AMATERASとそれによって行われる研究
RADIOISOTOPES 66 101-115 (2017)
[BL14 Proposal No.2016I0014]
- 山本勝宏, 伊藤恵利, 森友香, 宮崎司, 山田悟史
中性子反射率法によるポリジメチルシロキサン-co-ポリジメチルアクリルアミド含水ゲル表面の含水性評価
高分子論文集 74 36-40 (2017)
[BL16 Proposal No.2014S08]
学会発表
東北大中性子散乱物性研究グループ ワークショップシリーズ第5回「銅酸化物高温超伝導研究のフロンティアとその周辺物理」
日時:2017-01-12 - 2017-01-13
場所:東北大学金属材料研究所,仙台市
主催・共催:日本物理学会
- mSRから見たT'型銅酸化物におけるCuスピン相関と超伝導の関わり
足立匡
The 37th REIMEI Workshop on Frontiers of Correlated Quantum Matters and Spintronics
日時:2017-01-14 - 2017-01-16
場所:Tokai,Japan
主催・共催:Advanced Science Research Center of Japan Atomic Energy Agency, Univ. of Tokyo, Columbia Univ., and J-PARC Center (JAEA&KEK)
- “Transport and muon spin relaxation studies of the novel electronic state in the electron-doped high-Tc T’-cuprates”
T. Adachi, A. Takahashi, M. A. Baqiya, T. Konno, T. Ohgi, T. Sumura, K. Kurashima, K. M. Suzuki, T. Takamatsu, T. Kawamata, M. Kato, I. Watanabe, A. Koda, M. Miyazaki, R. Kadono, H. Oguro, S. Awaji and Y. Koike