MLF Monthly Report 2017-03
研究成果
BL02 中性子・計算機の相補利用によるイオン液体のイオン伝導機構の解明
- フランス Orleans,大学
David L. Price教授, Oleg Borodin博士
- Pierre et Marie Curie大学
Marie-Louise Saboungi教授
- Institut Laue Langevin研究所
Miguel A. Gonzalez博士
- 東京大学物性研究所
山室教授, 古府博士
- JAEA J-PARC
柴田博士
- CROSS
山田博士
イオン液体に少量の水を添加すると、粘度や伝導度が大きく変化する。高エネルギー分解能中性子分光器DNAを用いた準弾性散乱測定と分子動力学シミュレーション計算(MD)を駆使し、イオン液体C8mimBF4の分子ダイナミクスの水添加の影響を調べた。その結果、水の添加により、イオン液体分子の拡散スピードが約7倍になることが明らかになった。これらの結果から、水添加によりイオン伝導度が増加する機構が分子レベルで明らかになった。
今後は、中性子と計算機を相補的に利用し、安全性が高い高性能なリチウムバッテリーの電解液として期待されるリチウム系イオン液体-水混合系の拡散挙動を分子レベルで明らかにし、イオン伝導機構の解明を目指す。
参考文献
- 1. J. Phys. Chem. Lett. 8, 715-719 (2017).
装置整備
BL23
POLANOでは小規模な工事として、真空ポンプのメンテナンス、配線工事、増設建屋整備などをおこなった。併せて、機器開発として既に導入済みの相関チョッパー制御の高度化をおこなっている。相関チョッパーは多数のスリットを有する高回転ディスクチョッパーで、様々なタイミングによる開口によって、様々なエネルギーの中性子を取り出す特殊なチョッパーである。取り出された様々なエネルギーの中性子は「同時に」試料に入射され散乱される。散乱中性子を紐解くことによって、各エネルギーでの非弾性散乱スペクトルが同時に観測され、高効率の測定が可能となるのが交差相関法である。この相関チョッパーは円盤状のいわゆるディスクチョッパーが好ましいが、周速度(開口時間)を上げるためにその直径が1000mm程度、回転周波数は400Hzもの性能が求められる。この時の終端部に加わる応力は4000MPaを超え、金属原子を引きちぎるほどの力となる。この応力に耐えられる構造は製作不可能なので、我々POLANOでは相関法のfeasibilityを確認するための実証機として700mm径、回転速度100Hz、255スリット&スロットシーケンスのディスクチョッパーを製作した(図1)。現在、回転制御の高度化を進めている。
図1 POLANO相関チョッパー用ディスク
論文リスト
学術誌
- M. Huang, Y. Toh, M. Ebihara, A. Kimura, and S. Nakamura
Development of a correction method for the time-of-flight prompt gamma-ray analysis
J. Appl. Phys 121 104901 (2017)
[BL04 Proposal No.2015P1001]
- Kazuya Kamazawa, Motoyuki Ishikado, Seiko Ohira-Kawamura, Yukinobu Kawakita, Kazuhisa Kakurai, Kenji Nakajima, and Masatoshi Sato
Interaction of spin-orbital-lattice degrees of freedom: Vibronic state of the corner-sharing-tetrahedral frustrated spin system HoBaFe4O7 by dynamical Jahn-Teller effect
Physical Review B 95 104413 (2017)
[BL14 Proposal No.2014P0202]
- M. Inutsuka, H. Tanoue, N. L. Yamada, K. Ito, and H. Yokoyama
Dynamic contact angle on a reconstructive polymer surface by segregation
RSC Adv. 7 17202-17207 (2017)
[BL16 Proposal No.2009S08, 2014S08]
- Yoshichika Seki, Takenao Shinohara, Joseph D Parker, Wataru Yashiro, Atsushi Momose, Kosuke Kato, Hidemi Kato, Maryam Sadeghilaridjani, Yoshie Otake, and Yoshiaki Kiyanagi
Development of Multi-colored Neutron Talbot-Lau Interferometer with Absorption Grating Fabricated by Imprinting Method of Metallic Glass
Journal of the Physical Society of Japan 86 44001 (2017)
[BL22 Proposal No.2016I0022]
- David L. Price, Oleg Borodin, Miguel A. Gonzalez, Maiko Kofu, Kaoru Shibata, Takeshi Yamada, Osamu Yamamuro, and Marie-Louise Saboungi
Relaxation in a Prototype Ionic Liquid: Influence of Water on the Dynamics
J. Phys. Chem. Lett. 8 715-719 (2017)
[BL02 Proposal No.2014AU0201]
学位論文
BL02
- Narangoo PUREVJAV 博士, 岡山大学(理学): 2015I0002, 2016I0002, 2016B0159
Hydration mechanism in Earth's mantle transition zone investigated by neutron diffraction
- 当銘 葵 修士, 茨城大学大学院(工学): 2014A0297
中性子準弾性散乱を利用したセメント硬化体の水和過程における結合水量の割合と圧縮強度および細孔径分布との関係
BL14
- 小栗 真哉 修士, 茨城大学(理学): 2014A0273
非弾性中性子散乱による単結晶Ce0.7La0.3B6の磁気励起に関する研究
その他刊行物
- 柴田 薫
DNAによる生体物質・機能性材料などのダイナミクス研究
RADIOISOTOPES 66 127-132 (2017)
[BL02 Proposal No.2014B0076, 2014P0502, 2014I0002]
- 中村 龍也、藤 健太郎、坂佐井 馨
波長シフトファイバ技術を用いたシンチレータ中性子検出器
波紋 27 4-7 (2017)
[NeuD Proposal No.2015P0300, 2014P0800, 2010B0029, 2010A0011, 2009A0046]
特許
シンチレータを用いた中性子検出器及び中性子イメージ検出器
- 登録日: 2017-02-03(日本)
- 中村龍也、片桐政樹、大図章、美留町厚、海老根守澄、寄林豊、筒井紀彰
[NeuD]
特許番号:6083637
学会発表
日本物理学会第72回年次大会
日時:2017-3-17 - 2017-03-20
場所:大阪大学豊中キャンパス
- X線及び中性子回折によるSiO2ガラスの高温高圧下での相転移/緩和の検証
服部 高典、ヤガファロフ オスカー、片山 芳則、千葉 文野、佐野 亜沙美、稲村 泰弘、大友 季哉、町田 真一、阿部 淳、舟越 賢、岡崎 伸生
- 偏極中性子散乱装置POLANOの建設状況 III
横尾哲也、伊藤晋一、藤田全基、池田陽一、金子直勝、大河原学、猪野隆、坂口将尊、菅井征二、南部雄亮、大山研司、羽合孝文
- J-PARCにおける超低速ミュオンビームのコミッショニング状況2
足立泰平、アンバダットパント、池戸豊、大石裕、中村惇平、ストラッサーパトリック、伊藤孝、髭本亘、牧村俊助、河村成肇、下村浩一郎、門野良典、三宅康博、鳥養映子
- 2次元正方格子磁性体Sr2MnO2Cl2のμSR
岡部博孝, 平石雅俊, 小嶋健児, 竹下聡史, 幸田章宏, 門野良典, 辻本吉廣, Su Yu, 山浦一成
- All-In-All-Outパイロクロア磁性体Cd2Os2O7における新奇な電荷スピン交差ダイナミクス
幸田章宏, ◯門野良典, 岡部博孝, 平石雅俊, 竹下聡史, 小嶋健児, 廣瀬陽代, 広井善二, 山浦淳一
- 新しいMu-antiMu変換実験の可能性
幸田章宏
- 正四面体クラスター磁性体毒鉄鋼の磁気基底状態のμSR法による研究
幸田章宏, 岡部博孝, 竹下聡史, 平石雅俊, 小嶋健児, 門野良典, 大熊隆太郎, 広井善二
- 電子・水素・イオンの動的複合相関を解き明かすミュオンビーム
幸田章宏
- ミュオンスピン緩和法から見たpoly(3-hexylthiophene)の界面ダイナミクス
竹下聡史, 平石雅俊, 小嶋健児, 門野良典, 堀耕一郎, 瀬戸秀紀, 緒方雄大, 川口大輔, 田中敬二
- J-PARC MLFミュオンビームD2ラインにおけるビーム成形と運動量分布
反保元伸, 濱田幸司, 土居内翔梧, 的場史郎, 三宅康博, 吉田 剛, 南部明弘, 二宮和彦, 梅垣いずみ, 久保謙哉
- μSR測定から見たLaFeAsO1-xHxの第2磁気秩序相における圧力下磁気基底状態
平石雅俊, 小嶋健児, 岡部博孝, 竹下聡史, 幸田章宏, 門野良典, 飯村壮史, 松石聡, 細野秀雄
研究会
高圧力と量子ビームのマリアージュによる新規物性分野開拓の物質科学研究会
日時:2017-03-25 - 2017-03-25
場所:茨城大学水戸キャンパス
- High-Pressure Neutron Beamline PLANET and the Recent Results
T. Hattori
新学術領域"核-マントルの相互作用と共進化"成果報告会
日時:2017-03-27 - 2017-03-27
場所:JAMSTEC横浜研究所三好記念講堂
- マントル遷移層構成鉱物間における水素同位体分配実験
佐野亜沙美、伊藤正一、東 佳徳、井上徹
2016年度量子ビームサイエンスフェスタ・第8回MLFシンポジウム
日時:2017-03-14 - 2017-03-15
場所:つくば国際会議場
- 非弾性中性子散乱によるアンダードープ領域鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2のスピン・レゾナンスの研究
村井直樹、中島正道、出田真一郎、池内和彦、鈴木雄大、田中清尚、梶本亮一
- 中性子準弾性散乱による含水鉱物内部の多様な水素輸送現象
奥地拓生、プレジャブナランゴー、富岡尚敬、柴田薫
- KENS S1型課題活動報告 2014S09
横尾哲也、藤田全基、伊藤晋一
- 偏極中性子散乱装置POLANO
横尾哲也、藤田全基、伊藤晋一、金子直勝、池田陽一、大河原学、菅井征二、坂口将尊、大山研司、猪野隆
- 偏極中性子散乱装置POLANOでの磁場デバイス準備状況
大山研司、大河原学、横尾哲也、南部雄亮、池田陽一、坂口将尊、金子直勝、伊藤晋一、猪野隆、藤田全基
- 偏極中性子散乱装置POLANOにおけるSEOP型3He核偏極中性子フィルターの開発 (2)
大河原学、猪野隆、池田陽一、横尾哲也、藤田全基、伊藤晋一、吉良弘、林田洋寿、加倉井和久、奥隆之、酒井健二、大山研司
- MLFにおける中性子分光器
梶本亮一、横尾哲也、中村充孝、柴田薫、川北至信、松浦直人、遠藤仁、瀬戸秀紀、伊藤晋一、中島健次、河村聖子