■ J-PARC News 第15号より       (2006/6) 

●建物建設状況
(1) リニアック棟では、各種インターロック試験を継続中でイオン源電源システム、真空機器などの試験調整も開始された。また、3GeVシンクロトロン棟では、電磁石の搬入据付、電源システム、制御システムの調整試験を進めている。3NBTトンネルでは、真空ビームダクトの据付・調整を進めている。
(2) 50GeVシンクロトロンのD工区トンネル工事では、コンクリート打設がほぼ終了し、完成した部分では埋戻しと矢板引抜を実施中。トンネル内部では、支保工がすべて解体され50GeVトンネルが全通となった。また関連建家の躯体工事を継続中である。
(3) 物質・生命科学実験施設では、建家躯体のコンクリート打設をほぼ終了し内部仕上工事、躯体外装・外壁吹付塗装工事等を進めている。
(4) ハドロン実験施設では、実験ホールの鉄骨組立工事・壁躯体工事を、スイッチヤード下流部の本体・躯体工事を、またニュートリノアーク部では躯体工事を継続中である。

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●リニアック200-400MeV加速空洞の開発 −ACS大電力投入に成功−
 リニアックでは大電力高周波を加速空洞に供給し発生した電場を利用して加速するが、加速する負水素イオンは加速に伴って速度が大幅に変化するため、それぞれのエネルギーで最適な加速方式を取る必要がある。 このため、リニアックはエネルギーの低い方から順次、RFQ(Radio Frequency Quadrupole Linac: 高周波4重極型リニアック)、DTL(Drift Tube Linac: ドリフトチューブリニアック)、SDTL(Separated-type DTL:機能分離型DTL)、CCL(Coupled Cavity Linac: 結合空洞型リニアック)、そしてSCC(Superconducting Cavity Linac:超伝導リニアック)の5種類の方式を使用する(http://j-parc.jp/Acc/ja/acc.html)。 JーPARCでは200MeVから400MeV間の加速空洞としてCCL型の一種であるACS(Annular-Ring Coupled Structure)型空洞を採用する。JーPARC用972MHzACSは日本とロシアが共同で開発してきた新型の空洞で、軸対称性に優れ大電流の加速に最も適したものである。今回の大電力投入に成功した空洞は、加速周波数324MHzのSDTLから、972MHzのCCLへビームを滑らかに繋ぐ役目を担うもので、加速空洞と同一のACS型空洞を採用し、加速空洞の先行試作的な要素を含めて製作されている。 写真1はACSの全体外観、写真2は空洞セル単体の外観、写真3と写真4に陽子加速器開発棟での電力投入試験の様子を示す。また、図1に周波数50Hz、パルス幅600μs、ピーク電力560kW(定格の1.1倍)のパワーによる大電力投入試験時のオシロ観測データを示す。入力されたパワーが良好に空洞内に伝送されていることが分かる。この結果、リニアック後段部のACS製造は技術的にはいつでも可能な状態となったと言える。
(補足説明)写真1のACS加速空洞は、写真2に示す空洞セルが5つで1ユニットを構成し、左右の2つのユニットに中央から高周波電力が供給される。200MeV-400MeV加速部のACSではこれらの各ユニットの空洞セルが17個となり、加速器後段部の約110mには21台のACSが設置される。またクライストロン電源は既に開発済みで、この大電力試験に使用されている。

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●M2トンネル・ミュオン第1標的の設置
 物質・生命科学実験施設内のミュオン施設では、J-PARC計画第1期に20mm厚のグラファイト第1標的、付随するビームスクレーパ群並びに陽子ビームラインが設置される。第1標的からは2次ビームラインが、陽子ビーム進行方向の下流60度の取り出し角度、及び上流方向の135度の取り出し角度にそれぞれ2本づつ引き出される(http://j-parc.jp/MatLife/ja/roles/2bl.html)。 今回、それらの中心部分であるミュオン標的チェンバーの据え付けが2006年5月に開始され、標的チェンバーにはプラグ集合体のグラファイト標的1機、並びに同じくプラグ集合体のスクレーパ2機が格納された。

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●四季分光器用1次元位置敏感型検出器 −長尺型3He中性子検出器−
 J-PARCに設置予定の中性子分光器の一つに 4d Space Access Neutron Spectrometer (4SEASONS⇒四季と称する)がある。 JAEA、KEKと東北大学金属材料研究所共同で建設を進めているもので、パルス中性子源の標準的な非弾性散乱測定装置であるチョッパー型分光器。特に超伝導に関るメカニズム解明を目的として物質中の原子と磁気モーメントの揺らぎのダイナミクスを測定する。この型の分光器では、試料に入射し散乱した中性子の分布を広い面積にわたって検出することが必要である。 今回この分光器用に長さ2.5m、直径3/4インチの長尺型3He検出器を装備することを検討している。検出器は円筒状の真空散乱槽の内側壁面に300本ずらりと並べることで、検出器バンク16m2をカバーする。今回、2社のメーカーに長尺型3He中性子検出器を製作させ、JRR-3M、MUSASIビームポートからの中性子ビームを利用して出力波形、位置直線性等の特性試験を実施した結果、大変良好なものであることが確認された。

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●ニュートリノ生成電磁ホーンの開発
 ニュートリノ実験施設では、50GeVシンクロトロンからの速い取り出しによる陽子ビームをグラファイト標的に入射して、そこで発生するパイ中間子が崩壊して生成されるニュートリノをビームとして用いた実験が行われる。パイ中間子は発生直後に3台の電磁ホーンからなる収束系によって平行に収束され、ニュートリノビーム強度が15倍に増強される。第1から第3の電磁ホーンは図2のように異なるサイズ、形状を持っており、それぞれ320kAのパルス電流を流すことにより最大2.1Tの磁場を発生させる。
 J-PARCの電磁ホーンの特色は、高放射線場での使用を想定して高い安全率での設計となっている。特に、第1ホーンおよび第2ホーンは従来1台のホーンで兼ねていた役割を2台に分割することにより、1台あたりの負荷を軽減させている。 また、第1ホーンの形状は、自己が発生させる電磁力線によりホーン構造材が受けるローレンツ力によるストレスを軽減するため、独特なラッパ形状を採用した。更に、放射化による材料劣化を抑えるため高分子材料を一切使わずセラミックおよびS字型ステンレス配管を採用。交換据付け等は、ホーンを上部より支持することにより、クレーン等による完全リモート交換を目指すといったことが挙げられる(2005年10月J-PARC News 第7号に関連記事掲載 )。
 今回、第1ホーンプロトタイプの試作機が完成し、初めての通電試験が行われ250kAまでの通電に成功した。2秒に一度、パルス通電される度に張力を受ける金属がバーンと大音響を発する。今後は、歪みや温度などの各種測定を行いながら設計電流320kAを目標に徐々に電流を上げて行く予定である。電磁ホーンはアルミの金属疲労により壊れるのが宿命であるが、より寿命を長くするため通電試験によって弱い部分の虫出しを行う。平行して、第3ホーンの試作機も今年度中に完成させる予定である。 尚、これらの開発は米国との協力研究の下進められており第2電磁ホーンについては米国が担当している。

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●39th ICFA Advanced Beam Dynamics Workshop on High Intensity Brightness Hadron Beams, HB2006
 標記ワークショップHB2006が5月29日から6月2日までの5日間に亘ってつくば国際会議場(EPOCHALつくば)で開催された。参加者総数128名(内訳は北米41、欧州37、J-PARC38、日本他10、亜他2)で、発表論文数101件(北米45、欧州37、J-PARC11、亜他8)であった。初日は全体会議が行われ、永宮J-PARCセンター長が歓迎の挨拶を行い、続いて加速器開発の状況報告が以下の通り行われた。山崎加速器リーダーがJ-PARCを、S.Henderson(ORNL)氏がSNSについて講演し、また、B.Weng(BNL)、Y.Mori(Kyoto U.)が午前のセッションで講演した。 午後は、D.Findlay(RAL)、P.Spiller(GSI)、A.Ruggiero(BNL)、A.Marchionni(FNAL)、J.Wei(BNL)、R.Schmidt(CERN)、F.Zimmermann(CERN)の各講演者がISIS、BNL、CSNS、LHCの加速器について報告し、終了予定時刻を大きくオーバーしてまで質疑応答が行われた。本会議では、ビーム強度の大きな加速器建設について、また運転中の加速器についてのビーム強度のアップグレード等についてが話題となった。2日目からは、設定された7つの主要検討課題について報告と議論が行われ、最終日に各セッションからの報告と質疑応答が行われた。 また午後には、つくば〜東海村・原子力科学研究所を往復するJ-PARCツアーが実施され、80名を越える参加者がバス3台に分乗しJ-PARCを訪れた。ツアーではバス毎に巡回コースを設定し、参加者がより良く見学出来るよう配慮された。

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●J-PARC運営会議
 平成18年6月6日KEKつくばキャンパスにおいて「運営協定に基づく第4回(建設プロジェクトでは第18回)運営会議」が開催された。主な報告は、プロジェクトの現状、加速器の現状、中性子ビームライン検討WGの終了報告、中性子実験装置計画検討委員会報告、及びJ−PARCセンターを中心とした新たな課題検討体制についてであった。協議事項として、平成19年度概算要求、放射線等安全委員会とJ-PARC安全委員会との関係について話合われた。また、J-PARCの中性子ビームライン整備に関る予算確保、ビームラインの維持管理システム等についても協議が行われた。
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●第4回量子ビーム産業利用研究会 −燃料電池開発への多彩な量子ビーム利用の可能性−
 日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所及びJ-PARCセンターの主催で、第4回量子ビーム産業利用研究会が平成18年6月16日(金)に、行政庁関係者、民間企業、大学&研究機関から総数116名の参加を得て、JAEA原子力科学研究所の先端基礎研究交流棟を会場にして開催された。研究会では行政側、産業界側及び施設側のそれぞれの立場から量子ビームの産業利用について講演が行われた。
 まず、行政側からは量子ビーム推進、燃料電池開発推進の立場で、文科省の斎藤量研室長が量子ビーム研究開発・利用の促進方策について、経産省の倉本燃料電池推進室・課長補佐が燃料電池に関する取組みと量子ビームへの期待について講演された。産業界側からは燃料電池開発の立場から、豊田中研の福嶋氏が固体高分子燃料電池材料の課題と中性子への期待について、日産自動車の篠原氏が自動車用燃料電池の技術課題と解析技術への期待について、物材機構の森氏が酸化物固体電解質中のナノ構造が特性に与える影響について講演された。 また、施設側からは量子ビームとしてX線、中性子、ミュオンを使って評価・解析が行える施設の立場から、産総研蔭山氏が金属触媒のin-situ X線分析について、KEKの神山氏が中性子回折・散乱による燃料電池材料の開発と評価について、理研の松崎氏がミュオンによる燃料電池材料の研究について、JAEA松林氏が燃料電池開発における中性子イメージングの現状と可能性について、JAEA前川氏から量子ビームを利用した高性能燃料電池用電解質膜の開発について、各講演があった。これら終了後、講演者と参加者による意見交換が活発に行われた。
 また、研究会に先立ち実施されたJ-PARC及びJRR-3の見学会が行なわれ、約50名の参加があった。
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●J-PARCでの自然環境保護の取組み −動植物専門家との協力−
 J-PARCの建設地であるJAEA・原子力科学研究所敷地内の松林の多くは飛砂防備林(保安林)と自然環境保全地域に指定されている。ここは数多くの貴重な動植物や自然植生が残る緑豊かな区域であるため、建設工事後の復旧に当っては環境保全に十分配慮することが求められており、景観の復元、貴重植物の保護、クロマツの試験植栽、さらには野鳥が集う水辺空間の整備等、様々な試みを行っている。これらの対策には東海村環境審議会委員の植物専門家(鈴木昌友氏:同会委員長)、動物専門家(廣瀬誠氏)、鳥類専門家(山口眞壽美氏)の方々のご指導を仰いでいるところである。 この5月25日に八間道路の復旧、一部造成エリアへの松苗等の植栽、小鳥の水飲み場整備などの状況の現地視察を行い、自然環境復旧状況の確認と意見交換が行われた。八間道路は海岸沿いの松林内を陸側と海岸を東西に横断する通路で、J-PARC建設工事以前の起伏形状を復元し、その両端にクロ松やハマゴウを植栽して早期に景観が戻るよう配慮した。また水辺空間施設の整備では、県内産のつくば石などの自然石に水鉢を設け水を常時流して水溜まりを作り、零れ落ちる水を周囲に浸透させて、湿性植物を植え込むと共にシラカシ、スダジイ、ヤマザクラなどの植栽を行い、バードウオッチングを楽しめるコーナーも併設した。 これらの施設整備については、専門家の方々から賛辞を頂くことができ、関係者の努力が報われたところである。

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