■ J-PARC News 第63号より       (2010/6) 
●JーPARCのパルス中性子を偏極することに成功
  偏極中性子 (中性子のスピン (回転) 方向を揃えたもの) を用いた中性子散乱実験は、中性子がもつ磁性 (磁力の強さや磁力線) によって物質内部の微弱な磁気散乱を検出することができ、磁性材料の磁気的な情報が詳細に得られる。また、水素を含む有機材料等ソフトマター分野では、水素の非干渉性散乱によるバックグラウンドの低減が可能となり、これら研究の展開に威力が発揮される。
 これまで、原子炉からの中性子の偏極にホイスラー結晶の磁気散乱を利用したり、長波長の中性子に対しては磁気スーパーミラー等の中性子偏極デバイスが用いられてきた。しかし、JーPARCのような広い波長帯域を持つパルス中性子源には不向きなため、原子核が持つスピンを偏極させた3Heガスを用いた中性子スピンフィルターの開発を進めてきた。これまで主流の3Heスピンフィルターは時間と共に3Heガスの偏極度が低下し、中性子フィルターとしての性能も低下することから、3Heガスの詰め替え等のメンテナンスが必要であった。そこで現在、3Heガスとルビジウムを入れた容器を磁場中に置きレーザー光を当て続けるオンビームSEOP (Spin-Exchange Optical Pumping) システムの開発を進め、今回、物質・生命科学実験施設 (MLF) の中性子実験装置 (BL10) で中性子の偏極・透過度測定実験を行った。パルス中性子の偏極に成功すると共に同種の中性子フィルターと比べ世界最高水準の特性を達成したことが確認された。 (参考:ソフトマター:高分子、液晶分子、界面活性剤分子、ゲルなどの柔らかい物質が作る様々な複合系。) 

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●第1回JーPARC/MUSEの成果報告会
  JーPARC物質・生命科学実験施設 (MLF) のミュオンビーム実験施設 (MUSE) で実施された研究課題の成果報告会が、平成22年6月3-4日、KEK東海1号館 (IQBRCの北側に隣設) で開催された。当実験施設では、平成20年9月にミュオンビーム初生成が確認され、平成21年11月にはMLFの120kW強運転で世界最高強度のパルス状ミュオンビームが達成されている。供用運転が開始されて以降、初の研究成果報告会となる。三宅康博ミュオンセクションリーダーが実験施設全体の紹介を行い、2日間に14件の研究成果が紹介された。また現在、MLF第2実験ホールのD1、D2実験エリアでの効率的なビーム利用に向けて、シングルバンチのミュオンビームを同時に取出す電磁石系の開発が進められている等の紹介があった。

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●特集:JーPARCの実験装置について
< KOTO実験:中性K中間子の稀崩壊探索実験 >ハドロン実験施設・KL実験エリア

  私たちが住む宇宙は、粒子である陽子、中性子、電子から作られた物質のみで、反粒子による反物質は存在しない。宇宙創生のビッグバンで生成された同じ数の粒子と反粒子、それらが反応すると光子となりエネルギーに変わる。しかし、何故か一億分の一の割合で粒子が多くなり宇宙には物質だけが残ったと考えられている。この粒子、反粒子の非対称性は “CP対称性の破れ” と呼ばれる。この破れの “程度” を、粒子の崩壊事象を精密に測定することで調べることができる。KOTO実験では非常に稀にしか起こらない中性K中間子の崩壊事象を捉えることで、CP対称性の破れの研究を進める。

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●加速器運転計画
  7月から9月の3ヶ月間は、夏期メンテナンスのためJーPARCの運転は停止。運転再開は10月の予定。
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●物質・生命科学実験施設
  物質・生命科学実験施設では、中性子及びミュオン実験装置の供用運転と中性子ビームライン3本の調整試験等を実施。

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●ハドロン実験施設
  実験ホール南側のKL実験エリアに建設されるKOTO実験の測定器では、米国フェルミラボのKTeV実験 (テバトロン加速器におけるK中間子実験) で使用されていたCsI結晶が用いられる。結晶は2,716本で、容積は約1.4m3である。結晶を湿度10%以下の環境で使用するため、KL実験エリア内に乾燥室が設置されCsI結晶の組込を開始。秋のビームタイムでは、CsI結晶に実際にビームを当てて測定器の性能評価を行なう。

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●50GeVシンクロトロンの100kW連続運転
  6月の加速器運転で、50GeVシンクロトロンからニュートリノ実験施設へのビーム取り出しで100kWビームの約3分間 (2回) 連続運転を行なった。このときの1ショット当たりの粒子数は7.5×1013であり、米国ブルックヘブン国立研究所のAGS加速器が持つシンクロトロンにおける世界記録と同等のビーム強度となる。
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●科学・技術フェスタ in 京都 (6月5日) 
  内閣府などが主催、科学技術に感心を持ってもらおう、産学官連携の成果を広くPRしようと「科学・技術フェスタ in 京都−平成22年度産学官連携推進会議−」が開催された。
  高校生、一般者など約5,000名が来場。会議場ロビーのJーPARC紹介ブースにパネル、模型を展示、来客の質問等に担当者が対応した。科学技術フェスタに相応しくノーベル賞受賞者4名が登場。また、山崎宇宙飛行士が衛星生中継で参加、分かり易い解説と的確な回答が行なわれていた。

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●ご視察等
  5月31日  第1回国際加速器学会参加者
               (The 1st International Particle Accelerator Conference:IPAC’10) 
  6月17日  文部科学省科学技術・学術政策局

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