高エネルギー加速器研究機構 (KEK) と日本原子力研究開発機構 (JAEA) は、ハドロン実験施設での放射性物質漏えい事故を受け、事故再発防止に向けた安全管理体制の検討、見直しを行い、J-PARCの組織体制の改定を10月1日に実施した。
安全を最優先とする組織体制の構築、緊急時対応の指揮命令系統の整備を進め、安全管理部門と研究推進部門を明確に所掌分けすることで独立性を持たせた。安全に関わる統括を専任とする副センター長を新たに配置し、放射線安全、一般安全に関わる安全管理全体を一元的に所掌し、異常事態発生時の事故対応統括と、安全ディビジョン業務の監督などを担う。安全統括副センター長には、安全に関する高い専門知識と経験を有する外部有識者が起用された。
また、素粒子原子核ディビジョンの下に、ニュートリノとハドロンの二つのセクションを新設し、安全管理の区分と組織上の業務分担を明確にした。 |
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●ハドロン実験施設標的等改修に関する国際評価委員会 (10月8-9日) |
ハドロン実験施設の改修に対する国際評価委員会を、10月8-9日に高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 東海1号館で開催した。事故の再発防止とハドロン実験施設の安全性向上を目指し、とくに標的とその関連設備・施設の改修計画に対して、海外を含む専門家により評価、検討いただき助言を受けるのが目的。委員会メンバーは、ヨーロッパ核破砕施設 (ESS) 標的部門リーダーのDr. John Hainesを委員長とする5名。
冒頭、池田裕二郎J-PARCセンター長が委員会開催の主旨説明を行った。続いて各担当者が、ハドロン事故概要説明、50GeVシンクロトロンとハドロン実験施設へのビームの遅い取出しシステム、およびハドロン実験施設について安全の強化を目指した施設改修の概要、標的の設計、標的容器とガス/水冷却システム等の設計、各種制御・モニターシステム、ビームラインの密封構造などについて説明した。なお、初日の事故概要説明後には、ハドロン実験施設の現場確認が行われた。
委員会は、J-PARCから2名のオブザーバーが加わり、各報告に対して活発な質疑応答と議論が行われた。会議の最後に、評価委員会から施設の改修計画などに対して、所見 (finding) 、意見 (comment) 、助言 (recommendation) の形で報告が出された。 |
氏名 所属・職位 委員長 John Haines:ヨーロッパ核破砕施設 (ESS) 標的部門上級技師 副委員長 二川 正敏 :J-PARCセンター 物質・生命科学副ディビジョン長 (物質・生命科学実験施設 水銀ターゲットの専門家) Philip Pile :米国ブルックヘブン研究所 (BNL) 、物理学者 久保 敏幸 :理化学研究所 仁科加速器研究センター 計測技術チームリーダー 鬼柳 善明 :北海道大学大学院 工学研究院 名誉教授 |
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ハドロン実験施設での放射性物質漏えい事故の反省から、J-PARCセンターでは安全体制の醸成に向けた取組みの一環として、安全スローガンを載せた安全カードを作成した。安全カードは、J-PARC施設のグリッドマップ、緊急時の連絡先や避難場所などが一目で分かるようになっており、非常事態発生時の対応に役立つ。J-PARCスタッフ・関係者および実験ユーザーが常に携帯し、常日頃の安全意識の高揚を図る。 |
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●ニュートリノコラボレーションミーティング (9月30日〜10月5日) |
T2K実験国際共同グループは、ミュー型ニュートリノが飛行中に電子型ニュートリノへ変化する「電子型ニュートリノ出現現象」が確実に存在することを、今年7月にストックホルムで開催された欧州物理学会で、19日に世界で初めて発表した。今回のニュートリノコラボレーションミーティングは、その発表後初となる会議で、9月30日〜10月5日の6日間、いばらき量子ビーム研究センターで行われた。T2K実験に関わる190名 (海外からは154名) の研究者などが参加。会議前半にグループ毎に分かれてのプレミーティングが行われた後、10月3日より全体会議が行われた。オープニングセッションでは、小林隆素粒子原子核ディビジョン長 (KEK教授) が「電子型ニュートリノ出現現象」の確立を受けた実験の今後の方向について、プログラム検討委員会での検討状況を報告。T2K実験共同代表者C.K.ジャン氏 (ニューヨーク州立大学教授) から早期の震災復旧以降のJ−PARC施設の安定した運転がこの度の成果に不可欠であった旨の謝意が述べられると、池田裕二郎J-PARCセンター長に対し、会場から温かい拍手が送られる一幕があった。次いで池田センター長から、ハドロン事故に伴う利用運転の中断についてのお詫びと事故についての詳しい説明が行われた。
今回の会議では、「電子型ニュートリノ出現現象」や、それと並んで重要な「ミュー型ニュートリノ消失現象」についての最新結果、それらを統合した解析などの状況が報告されるとともに、更なる大強度ビーム受け入れのためのビームライン機器・電磁ホーン等の交換計画、実験の系統誤差をより抑えるための前置検出器の改修計画、さらにCP非保存探索に向けた反ニュートリノビーム生成を含む今後の実験計画などについて活発な議論が行われた。 |
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●第3回パルス中性子イメージング研究会 (10月11日) |
10月11日、第3回パルス中性子イメージング研究会をJ-PARCセンター物質・生命科学ディビジョン主催で、東京ルーテル市ケ谷センターにて開催した。中性子イメージング法は、中性子が持つ高い物質透過能力を活用し、非破壊で物質内部を観察したり分析する実験技術で、幅広く利用されている。J-PARCでは、物質・生命科学実験施設 (MLF) 第2実験ホールのBL22に、世界初のパルス中性子イメージング装置となる「物質情報3次元可視化装置」の建設を進めている。
研究会は、装置提案代表者の北海道大学大学院 工学研究院の鬼柳善明名誉教授の挨拶で始まり、続いて装置関係者などからJ-PARC施設の現状、パルス中性子イメージングの現状と目指す性能、ビームライン (BL) 建設状況、データ分析やその処理プログラムの整備について報告された。BL建設状況は、装置概要や設置場所、検出器、計算機、データ解析などの準備の様子について、J-PARCセンター中性子利用セクションの篠原武尚氏 (日本原子力研究機構 (JAEA) 研究副主幹) と甲斐哲也氏 (JAEA研究副主幹) が報告した。その後、装置完成後に利用が見込まれるユーザーから、パルス中性子イメージングが応用可能な基礎研究、応用研究、産業応用など、また、企業技術力、国際競争力向上等の色々な観点から6件の講演が行われた。装置建設に当たっては利用者のニーズをできるだけ反映するため、これまで研究会などでパルス中性子イメージング研究について活発な議論が交わされてきている。 |
(補足説明) J-PARCでは、MLFのBL10「NOBORU」を使ってパルス中性子の特徴を活かした中性子イメージング法の研究を進め、結晶組織、原子核種や温度、物質中の磁場分布状態を可視化する技術開発を行っている。パルス中性子イメージング装置「物質情報3次元可視化装置」は、パルス中性子イメージングだけではなく、一般的な中性子イメージングにおいても高分解能イメージングや中性子エネルギー範囲を限定した高コントラストイメージングの実現をも目指している。 |
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●韓国J-PARCユーザーセンター (CKorJ-PARC) との協力に関する覚書延長 |
平成22年10月1日付けで締結された、「J-PARCの関連研究分野における協力活動を開始するためのCKorJ-PARC (読み方:シ―コ―ジェーパーク) と日本原子力研究開発機構 (JAEA) 、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) との間の覚書」が、先月9月末に3年間の期限が終了したため、更に3年間の延長を10月1日に行った。
CKorJ-PARCは、韓国人ユーザーがJ-PARCを利用した研究活動を円滑に行えるように、平成22年5月に韓国政府が認可した組織で、ソウル大学内に設立された支援センター。平成22年10月5日には、その日本事務所がいばらき量子ビーム研究センター (IQBRC) 内に開設された。 |
【覚書に基づくJ-PARCセンターの具体的な支援】 1)CKorJ-PARC日本事務所の運営支援 平成22年12月に「CKorJ-PARCの資金管理事務協力に関する取決め」をJAEAとの間で締結し、韓国と日本間での送金に関わる銀行口座の開設や、日本事務所事務局員に係る各種事務手続き等を円滑に行えるようにした。 2)情報と人員の交換、セミナーやその他の技術会合の開催支援 韓国国内の大学からのインターン6名の受入れ。また、平成22年から平成25年6月末までの期間に共同研究等に基づく訪日者は83名、情報交換等に基づく日本からの訪韓者は79名であった。 3)共同研究プログラムに関する準備 平成23年11月にソウル大学とJAEA先端基礎研究センター間で「原子核及びハドロン物理学に関する共同研究取決め」を締結した際の協力。 |
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●ご視察等 |
10月 8日 ハドロン実験施設標的等改修に関する国際評価委員会委員 10月21日 FAN, Mingwu (樊明武) 中国粒子加速器学会長 |
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