「軽くて丈夫な構造材料」は、自動車や飛行機などに使用することで、燃費を向上させ、二酸化炭素の排出を抑えることができる。その開発は、省エネルギー社会においてとても重要なことである。近年開発された「KUMADAIマグネシウム合金」は特殊な原子配列を持つマグネシウム合金で、アルミニウム合金を超える軽さと強度を兼ね備えている。そして、J-PARC物質・生命科学実験施設 (MLF) の実験装置BL19「匠」で中性子を用いてこの材料 (大きさ:8mmφ×16mm) を解析したところ、このマグネシウム合金が強い強度を持つ理由として、特殊な原子配列を持ち、金属を強くしていることが分かった。 |
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これまでは、軽い材料としてアルミニウム合金やチタン合金が使われてきたが、近年ではアルミニウムやチタンよりもっと軽いマグネシウム合金に注目が集まってきている。マグネシウムは比重 (g/cm3) が1.7と実用金属中で最も軽い材料である (鉄=7.9、チタン=4.5、アルミニウム=2.7) 。また、比強度や比剛性もアルミニウムや鉄よりも優れており、リサイクルも可能で、海水中にも豊富に含まれているので、日本で唯一自給が期待できる金属であるなど、理想的な面が多い金属材料である。
近年、熊本大学 先進マグネシウム国際研究センターの河村能人教授らにより開発された「KUMADAIマグネシウム合金」は、「濃度変調と積層変調が同期した新奇な長周期積層型規則構造 = "Synchronized Long-Period Stacking Ordered Structure" (シンクロ型LPSO構造) 」と呼ばれる特殊な原子配列を持つ。 |
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このシンクロ型LPSO構造のおかげで、従来のマグネシウム素材の常識をくつがえすような高い強度と大きな延性を発現することが可能であり、工業的実用化に向けて大きな期待が持たれている。しかしながら、このシンクロ型LPSO構造がなぜ強い強度を発揮できるのか、どのような力学特性をしているのかはわかっていない。実用金属材料としては、その特性発現メカニズムが科学的に解明されて初めて安心して使用することができる。 そこで、MLFのBL19「匠」で、中性子の持つ高い透過性を利用し、このマグネシウム合金にかかる力による内部のひずみを観測することで、強度向上メカニズムの解明を試みた。 |
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シンクロ型LPSO相とマグネシウム母相の二相合金Mg97Zn1Y2合金を試料に用いて、合金試料の一軸方向に引っ張り応力をかけながら、「その場中性子回折法」で解析を行った。この方法を用いることで、合金試料中の格子面のひずみを調べることができる。その結果、応力を強めた際にマグネシウム母相では格子面のひずみが解放されたのに対し、シンクロ型LPSO相がひずみを担っていることが分かった。このことにより、シンクロ型LPSO相が強度を担う「強化相」として機能していることを原子レベルで実験的に確認することができた。 |
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現在もまだ様々な研究が継続中だが、このマグネシウム合金が実用化されたら、環境・エネルギー問題の解決に大きく寄与するだけでなく、チタン合金等の他の軽金属材料でもシンクロ型LPSO構造を強化相に持つ合金の開発に革新的展開をもたらす可能性がある。また、シンクロ型LPSO構造の解明は材料強化メカニズムに新たな概念を生み出すなど、金属材料の力学特性研究など学問的に新たな局面を伐り開く可能性も秘めている。 このように、産業につながる成果だけでなく、周辺の基礎学問分野にも大きな影響を与えるため、我が国の科学技術の向上につながるものと思われる。 |
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J-PARCセンターは、ハドロン実験施設で昨年5月と同様に標的が損傷したことを想定し、JAEAやKEKと合同で非常事態総合訓練を、茨城県、東海村及び近隣自治体、報道関係者に公開で実施した。今回の訓練では、テレビ会議システムを主な通信手段として用い、現場指揮所と現地対策本部、JAEA、KEKの間の情報伝達を迅速に行った。 |
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●第三者点検支援によるハドロン実験施設の安全確認 (12月3日) |
J-PARCセンターは、事故再発防止策に対応した施設の改修を進めてきた。今回、 (公) 原子力安全技術センターの支援を受け、施設などの安全確認を実施した。50GeVシンクロトロンではビーム取り出し電磁石電源 (EQ電源) に施した対策の動作確認、ハドロン実験施設では事故再発防止策として実施した改修工事についての点検などを実施し、状況確認が行われた。 |
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1月の加速器運転は下記の通り尚、運転計画は機器の調整状況により変更が生じる場合がある。 |
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(1) 50GeVシンクロトロン (MR) では、周回軌道からのビーム取り出し用の新しいセプタム電磁石を開発中。 (2) 物質・生命科学実験施設 (MLF) では、建家西側にBL22 (RADEN) 実験準備棟を建設中。 (3) ハドロン実験施設 (HD) では、施設の改修でガス循環検出器設備などを設置。 |
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●日本中性子科学会第14回年会で「奨励賞」を受賞 (12月11〜13日) |
標記年会が、北海道大学で開催され、11日の学会賞授賞式でJ-PARC中性子利用セクションの山田悟史氏と、JAEA量子ビーム研究センターの中川洋氏 (中性子利用セクション兼務) が、奨励賞を受賞した。この賞は、中性子科学の発展に関して優秀な研究発表などを行った若手会員を対象に贈られるものである。
山田氏は、J-PARC / MLFのBL16における一貫した中性子反射率計の整備、新SOFIAの立ち上げを実現し、ハードウェア、ソフトウェア両面から高い質の実験研究が行える環境整備などを推し進めた。中川氏は、タンパク質の機能が現れる条件の解明や、DNAの配列に依存したダイナミクス (動的な機能) の変化をAMATERAS (BL14) で解明した。 |
(参考)
奨励賞受賞に関連した記事、及び、現在MLFに建設中のBL06のスピンエコー装置 (BL06 VIN-ROSE) に導入された偏極スーパーミラーの開発に関連した記事が、KEK物質構造科学研究所ホームページ (http://imss.kek.jp/news/2014/topics/1218JSNS-Awd/) に掲載されています。 |
< 受賞テーマ > |
山田 悟史氏 |
J-PARCにおける試料水平型中性子反射率計SOFIAの開発」 |
中川 洋氏 |
「中性子非干渉性散乱と分子シュミレーションによる生体分子の水和とダイナミクスの研究」 |
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●MLF School 2014 (12月16〜19日) |
J-PARC / MLFは、中性子やミュオン実験に興味を持ちながら、まだ経験のない大学院生、若手研究者などを対象とする標記スクールを開催。第2回目となる今回は、海外からも参加者を募集し、アジア諸国から9名、国内企業から2名を含む22名が参加した。 スクールは、中性子やミュオンを用いた物性実験に関する講義と実験実習を実施。実習は、実際のビームラインを用いて行われ、受講者は、8つの演習課題 (中性子による非弾性散乱、反射率の実験他、及びミュオン実験) から希望する1つを選択し実施。各装置担当者の指導を受けながら、サンプルの準備や装置への取り付け、実際に中性子やミュオンを当ててデータを取得し解析を行った。最終日には、各班ごとに実習成果を発表する報告会が行われ、活発な議論が行われた。最後に、新井MLFディビジョン長から、将来、一般ユーザーとしてMLFを再訪してくれることを楽しみにしたいとの講評がなされ、本スクールを閉会した。 |
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●ハローサイエンススクール (12月15日、リコッティ) |
村内の中学生を対象としたサイエンススクールを東海村と共催で開催した。夏のサイエンススクールのフォローアップとして、加速器の話題を取り上げ、J-PARC広報セクションの坂元眞一アドバイザーが、手作りの実験装置で、加速器の仕組みをわかり易く説明、静電気の力や磁石の不思議な動きを体感できた。 |
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●ご視察等 |
12月 4日 米国国務省 国際安全保障拡散防止局 脅威削減プログラム大使 ボニー・ジェンキンス氏 インドネシア原子力規制庁 (BAPETEN) 副長官代理 スゲン・スンバルジョ氏 |
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