■ J-PARC News 第153号より       (2018/01) 
●齊藤直人J-PARCセンター長から新年のご挨拶
  2018年の年頭にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
  新しい年を迎えるにあたり、科学の役割について考えてみたいと思います。科学は、古くは自然哲学として、おもに思索を通して自然の本質を理解しようという知的な好奇心の中で生まれて来た側面と、天文や測量など実用的なニーズに迫られて発展した側面の両面を持っています。古代ギリシャの数学者で哲学者のピタゴラスは、前者の例として、和音の構成から惑星の軌道に至るまで宇宙全体が数の法則に従うという思想を確立し、こうした原理の追求に重きを置きながらも、後者の例として幾何学的な手法を開拓しました。知的な好奇心と実用的なニーズは、人類の歴史の非常に早い段階から科学を進展させる「両輪」であったと言えます。
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  その後、人類は、その強い好奇心の結果として、宇宙の果てまで観測することで宇宙の始まりを研究する手段を手にし、原子を構成する電子と原子核の発見、そしてさらにクォークやニュートリノという分割部可能な素粒子を発見してそれらの相互作用を理解することで物質の起源に迫り、また、命の設計図とも言える遺伝子に手を加えるという技術まで手にするに至りました。並行して、実用的な社会のニーズに応える形で科学技術が発展し、それが社会に大きな変革をもたらして来たことは言うまでもありません。
  好奇心に支えられた研究はそれぞれの領域で成功を収めており人類の知識の地平をひろげるという意味で人類に貢献していますが、予算的規模も巨大になり、知的好奇心それだけでは正当化できない領域に入っています。もっと社会のニーズに応える姿勢を明確にし、包括的に社会に貢献する意識が科学者ひとりひとりに求められる時代に入っていると感じています。
  J-PARCでは、昨年1年で12件の研究成果のプレスリリースがあり、52報の新聞記事などとして、社会でも取り上げて頂きました。プレスに関連しない新聞報道 (研究内容に関するもの) も11報と伸びています。中には、ニュートリノ振動に代表される知的好奇心を刺激する結果から、新しい太陽電池材料の開発に繋がる、いわば社会のニーズに直接に応えうる成果があります。重要なのは、どちらもワクワクするような成果だと言うことです。
  今年も、J-PARCは多目的施設として、「両輪」を推進していきます。研究成果を生み出すことはもとより、それを広く社会と共有することで、多くの人に認めてもらえる研究施設として邁進していくことを誓いまして、新年のご挨拶とさせていただきます。
  平成30年1月吉日
J-PARCセンター長
齊藤直人
  
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●高周波リニアック (RFQ) によるミュオン (ミュオニウム負イオン) の加速実験に成功! (2017年10月、J-PARC) 
  J-PARC ミュオンg-2/EDM 実験※の準備を進める研究グループは、昨年10月下旬、物質・生命科学実験施設 (MLF) のミュオンビームラインで、RFQを用い、ミュオニウム負イオン (Mu-) をほぼ停止した状態から90KeVまで加速する実証実験に、世界で初めて成功しました。この成果は、J-PARCセンター加速器グループの大谷将士氏 (高エネルギー加速器研究機構 助教) 、近藤恭弘氏 (日本原子力研究開発機構 副主任研究員) 、北村遼氏 (東京大学理学研究科 大学院生) らを中心に達成したもので、本実験に向けた大きな一歩となります。
  詳細は、KEK素粒子原子核研究所のホームページをご覧ください。
  https://www2.kek.jp/ipns/ja/post/2017/12/muon/
  ※ ミュオンの異常磁気能率 (g-2) 、電気双極子能率 (EDM) を世界最高精度で測定することを目的とした実験

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●ストレンジネス核物理国際スクール「SNP School 2017」開催 (12月14-16日、J-PARC) 
  2012年に始まり、今年で6回目となる「SNP School 2017」が、12月14日から3日間にわたって、KEK東海1号館で開催されました。これまで東海や仙台で開催されてきましたが今年は東海での開催となりました。スクールは、学生、講師、組織委員ら63名、うち海外からは30名の参加がありました。初日のオープニングでは、小関忠J-PARC副センター長による挨拶とJ-PARCの紹介があり、その後、3日間にわたり、5名の講師による冷却原子、ハドロン、ハイパー核、宇宙などをテーマにした講義が行われました。2日目にはスクール学生によるポスター発表が29件、J-PARCツアーでは、物質・生命科学実験施設 (MLF) 、ニュートリノ、ハドロンの各実験施設の見学が行われました。最終日の修了式では、スクール学生全員に修了証が授与され、講師、組織委員の投票で優秀な発表を行った5名に、橋本賞、スクール奨励賞、ANPhA賞の表彰が行われました。来年は大阪で開催の予定です。
  ※ ANPhA:Asian Nuclear Physics Assosiation (アジア原子核物理連合) 

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●KOTO実験コラボレーションミーティング開催 (12月15-17日、J-PARC) 
  昨年12月、ハドロン実験施設でKOTO実験を推進している国際共同研究者が集まり中性K中間子の稀崩壊実験の研究の推進を図る会議が、日本、アメリカ、韓国、台湾などから34名の研究者が参加して開催されました。会議では、これまで取得したデータの解析状況、今月から始まるビームタイムに向けてのデータ読み出しシステムの準備状況と今後の改良について、更に、今夏に計画している検出器の改良についての準備状況や今後の予定についての報告と活発な議論が行われました。

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●ImPACT-J-PARC情報交換会開催 (12月25日、JST東京本部・市ヶ谷) 
  J-PARCセンターでは、高レベル放射性廃棄物に含まれる寿命の長いマイナーアクチノイド (MA※) を、加速器により寿命の短い核種に"核変換"する研究開発を進めています。一方、科学技術振興機構 (JST) の革新的研究開発推進プログラムImPACTの1テーマとして、寿命の長い核分裂生成物 (LLFP※) を加速器により"核変換"する研究開発が進められています (プログラムマネージャー:藤田玲子氏) 。今回、両者共通の開発課題である核変換用大強度加速器に焦点をあてた情報交換会が東京・市ヶ谷のJST東京本部で開催されました。ImPACT側10名、J-PARC側14名が参加し、研究開発の現状や今後の協力のあり方などについて議論が行われました。
  会議では、ImPACT藤田玲子PMが挨拶の後、MAの核変換を目指すJ-PARCからは、J-PARC加速器の現状、要求される加速器の安定性及びADS用加速器開発計画が紹介されました。一方、LLFPの核変換を目指すImPACTからは、核データ取得状況や加速器及び標的の要素技術結果が紹介されました。最後に齊藤直人J-PARCセンター長が挨拶し、「このような情報交換は非常に有益であることから今後も継続したい」と語り、特にお互いに共通の開発課題となる超伝導リニアックの開発で協力を進めることとなりました。核変換技術研究は、J-PARC建設の動機の一つでもあり、今後、更に研究開発を推し進めていく必要性を新たにする会合となりました。
  ※ 寿命の長い放射性核種には、大きく分類してマイナーアクチノイド (MA) と長寿命核分裂生成物 (LLFP) がある。

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●第16回日韓中性子科学研究会開催 (1月8-10日、東京大学柏キャンパス) 
  第16回目となる日韓中性子科学研究会が2018年1月8日から10日にかけて東大柏キャンパス (柏の葉キャンパス駅前キャンパスサテライト及び物性研究所) で開催されました。この研究会は2000年に「日韓中性子散乱研究交流会」としてKEKつくばキャンパスで開かれたのが最初で、その後毎年日韓それぞれでホストを交代しながら開催してきました。今回は日本側となり、東京大学物性研究所 (ISSP) 中性子科学研究施設とJ-PARC MLFが主体となってISSP WorkshopとJ-PARC Workshopの合同開催となりました。
  会議は施設報告、磁性・強相関電子系、産業利用、装置開発、バイオ・ソフトマター、液体関連のセッション、若手の口頭発表セッション、ポスターセッションがあり、併せて63件の発表がありました。また、参加者は韓国から29名、日本から58名の計87名でした。施設報告のセッションでは、MLFが新しいターゲットでの運転再開、韓国側も研究用原子炉HANAROが昨年12月に再稼働してユーザー利用運転に向けて調整が始まったことが報告され、日韓ともに若手の参加者が多かったと言うこともあって、全体的に明るい雰囲気に満ちた会議となりました。
  次回の日韓中性子科学研究会 (17th Japan-Korea Meeting on Neutron Science) は、来年1月に韓国・慶州で開催される予定です。
   
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●第25回J-PARC PAC開催 (1月15-17日、J-PARC) 
 
  1月15日から3日間にわたって、大強度陽子加速器における原子核素粒子共同利用実験プログラム審査委員会 (J-PARC PAC) が開催されました。委員会では、現在J-PARCのハドロン実験施設とニュートリノ実験施設で実施中の実験計画や進捗状況に関する各実験担当者からの報告と共に、5つの新規実験の採否審査が行われました。また、J-PARC加速器の現状や将来計画、2016-2018年の加速器運転計画についても併せて報告がありました。
   
●第12回J-PARCハローサイエンス「素粒子ミュオンで見る"もの"の姿-大きなものから小さなものまで-」開催 (12月22日、東海村産業・情報プラザ「アイヴィル」) 
 
  J-PARCセンター主催のサイエンスカフェ・ハローサイエンスは、昨年暮れで丸1年となりました。12月は、素粒子ミュオンについてJAEA先端基礎研究センターの髭本亘氏が講演しました。同氏はまず、宇宙から地上に降り注ぐミュオン粒子を利用してエジプト・クフ王のピラミッドを透視、内部に巨大空間がある可能性を示して、最近テレビニュースなどで報じられた研究に言及。一方、J-PARCでは加速器でミュオンを作り出し物質・生命科学の研究を行っており、やはり考古遺物なども非破壊分析できることを紹介し、今後「はやぶさ2」が小惑星から持ち帰る隕石などのサンプルの炭素濃度や分布の分析に役立てたい、と意欲を語りました。

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●加速器運転計画
  2月の運転計画は、次の通りです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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