1. 始めに

この文書は総合研究大学院大学加速器専攻の講義"相対性理論と電気力学"のためのメモとして準備されました 1

講義のテキストに、砂川重信「理論電磁気学」第3版、紀伊国屋書店, 1999.[A-5]をベースにその相対性理論以降の章に概ね従っています。

大きな違いは、ミンコフスキー空間の計量テンソルを、現代的な場の理論の標準と思われる、 \(\eta_{\mu\nu} = diag\left(1, -1, -1, -1 \right)\) ととり、全ての式をこの計量に合わせたことです。 テキストとした「理論電磁気学」は理学部向けの電磁気学の教科書として、「見通しよくかかれた」「丁寧に説明された」テキストとして定評のあるものです。このテキストの特徴を損なわないように整理したつもりですが、まだまだ不十分なところは多いと思われます。今後も改訂を続けて行きたいと思いますので、コメント・建設的な御批判などお聞かせいただければ有り難く存じます。

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講義を聴講し、ご意見を頂いた東京工業大学大学院 宗本尚也さんおよび総研大加速器科学科 山口孝明さん, 清水春樹さんに感謝致します。

1.1. 講義の概要

Einsteinの特殊相対性理論は、"等速度運動をする座標系の等価性”と"光速度不変の原理"から、様々な(それまでの常識とは反する)結論を導き出しました。また、その結果は様々な実験で検証されています。

歴史を振り返ると、Einsteinの特殊相対性理論は突然現れた訳ではなく、それに先立って完成された電磁気学の成功の 一方で、電磁気学とニュートン力学の不整合の問題に対する様々な研究の先に生まれたものだということがわかります。 EinsteinはLorentz変換の物理的本質が"光速度不変の原理"にあることを見抜き、全体を見通し良く整理してくれた ということができるでしょう。

時間と空間というそれまで全く別のものと考えられてきた物が、実は一つの Minkowski 空間として捉えるべき であることを教えてくれる特殊相対性理論はまた、 それまで独立な物理量と考えられてきた電場と磁場が実はおなじ物理量を異なった立場で 観測することによって混じりあうことを教えてくれます。