J-PARC Accelerator News

第一号 震災後の J-PARC 加速器機器アラインメント

 

2011年東北地方太平洋沖地震により、J-PARC 加速器施設では震度6の横揺れを2分間にわたって受け続けた。
防災科学技術研究所 (NIED) による地震観測網 K-net によると、J-PARC の南方10 kmの那珂湊では横方向に 546 ガル、
鉛直方向に 412 ガルの加速度を観測している。
国土地理院によれば、茨城地方沿岸部は1m海側に移動(図1)すると共に、30 cm沈下したとの事である。
当然、J-PARC 加速器も多大なる影響を受けた。以下、各コンポーネント毎に、機器のアラインメント状態がどうなったかを見てゆく。もともと各機器は0.1 mmという精度で相互にアラインメントされていたのであるが、この位置関係が大きく崩れた。これには機器自身の固定が外れた場合もあるが、多くは建屋や加速器トンネルそのものが動いた影響によるものである。
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LINAC

横方向よりも鉛直方向の変位が大きい。図2は、イオン源の高さをゼロとして LINAC 建屋の床基準座高さを測定したものである。 300 m先で元の高さに戻るまでに50m地点で40 mmを超える沈下が観測されている。この変位は余りにも大きいため、元々まっすぐであったビームラインを負イオン源から50mまでと300mまでの2本のラインとして調整する。それで、ビームラインをV字型に再設計して機器の再アラインメントすることになった。再アラインメントは2011年12月1日に終了し、ビーム再開を待っている状況である。

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3GeVシンクロトロン (RCS)

図3は RCS リング一周の床基準座の2010年8月からの変位である。震災を挟んで高低差が 3 mm 出ており、4月から6月までの2ヶ月間でも余震により変化が続いていた。リング形状は本来、正三角形の角を丸めた3回対称形であるが、図4に見られる通り歪みが生じている。歪みの大きさは 10 mm 弱であったので、RCS では年内の再アラインメントは行わず、2012年以降を予定している。

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50GeVシンクロトロン (MR)

図5は MR の電磁石の高さの変位である。高低差が 10 mm 出ており、RCS の3倍である。またリングの形状の歪みも 45 mm あり、RCS に比べはるかに大きい。これは RCS が一つの建屋のフロアーに設置されているのに対し、MR はその大きさからトンネル構造となっているためである。MR では8月から10月までの約2ヶ月半で主電磁石の再アラインメントを行った。その後、入出射機器や高周波空洞が主電磁石に対して再アラインメントされ、現在はほぼ設計通りの状態になっている。青い線が震災後の変形の様子で赤い線が電磁石配置の再調整後の状態である(図6)。ただし、RCS との位置関係が変わっているので、RCS と MR を結ぶビームラインでそのずれを吸収している。


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物質生命科学実験施設 (MLF)

MLF は RCS と同じく、ほとんどのビームラインが一つの建屋内に設置されているため被害はさほど大きくはなかった。しかしながら、建屋を増設した長ビームラインについては、建屋つなぎ目のところで上下に大きな段差が生じている(図7)。MLF においても必要なビームラインの再アラインメント、およびコンクリート遮蔽の積み直しが順次行われた。 MLF は RCS より 3NBT と呼ばれるビームラインで結ばれているが、RCS と MLF との位置がずれてしまったため、そのずれを吸収する様に 3NBT ラインも修正されている。

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ニュートリノ実験施設

ニュートリノ実験施設では、ターゲットステーションより下流のエリアでは数mm以上の変位は見られなかった。また岐阜県神岡にある検出器 SUPER-KAMIOKANDE に対して約6度の回転と 1 m の変位が認められたが、これらは幸いにも実験に影響の出るレベルでは無かった。一方、一次ビームラインについてはトンネルのエキスパンジョンジョイントをまたいで段差が生じており(図8)、再アラインメントを実施した。

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ハドロン実験施設

ハドロン実験施設では MLF 同様ビームラインを覆う遮蔽体にわずかのずれが生じ、さらに実験ホールが 20 mm 以上南西方向に動いていた(図9)。ただし、このずれは実験に支障となるものではなく、MR との接続部から実験ホールまでのビームラインを再アラインメントして実験再開を待っている状況である。

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