演習課題

A:中性子非弾性散乱

中性子非弾性散乱とは試料に入射された中性子と試料に散乱された中性子のエネルギー差を観測することにより、試料内部で起きている原子やスピンの微小振動(ダイナミクス)を調べる手法です。これにより原子同士、スピン同士に働く力の大きさ、方向、距離などを求めることができます。
本演習では、中性子非弾性散乱の測定原理および磁性体中のスピンの運動の基礎について講義を行うと共に、中性子非弾性散乱装置「四季」を用いて磁性体のスピン波を測定し、そのデータを解析することでスピン間にどのような相互作用が働いているかを求めます。


B:中性子反射率

中性子反射率法とは試料表面で反射された中性子のプロファイルから数nm~数百nmスケールの界面構造を評価する実験手法です。特に、J-PARC/MLFの強力なパルス中性子を用いることにより、以下のような実験を行うことができます。

・ 同位体置換(重水素置換など)により観測したい箇所のラベリングが可能。
・ 中性子の高い透過率を利用し、深く埋もれた界面の構造を観察することが可能。
・ 白色中性子を用いているため、一度に広いQ空間を走査することが可能。
・ 高強度の中性子源を利用することにより、短時間(数十秒~数分)での時分割測定が可能。
・ 2次元検出器による多次元構造解析が可能。

本演習では、中性子反射率法の基礎について講義を行うと共に、中性子反射率計SHARAKUを用いた磁性薄膜と高分子薄膜の反射率測定、およびParrattの式によるデータ解析について演習を行います。


C:中性子粉末回折

中性子粉末回折とは、試料によって散乱された回折ピークを解析することにより、試料の結晶構造を調べる手法です。とてもわずかな原子配列の違いが、物性に大きな変化を与えることがあるため、物性研究や新材料の開発において、結晶構造と物質の性質の関係を調べることは非常に重要な研究です。
本演習では、中性子粉末構造回折の基礎について講義を行うと共に、超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPDを用いた測定およびリートベルト解析について演習を行います。


D:中性子小角散乱

中性子小角散乱法は、物質内部のサブナノメートルからミクロンスケールの構造を解析する手法です。J-PARC/MLFには、大強度パルス中性子ビームを利用したパルス中性子小角散乱装置“大観(TAIKAN)”が設置され、電子・磁性、ソフトマター・化学、バイオ・ライフ、構造、環境・エネルギー等の分野で利用されています。
本演習では、この“大観(TAIKAN)”を題材に

・ パルス中性子小角散乱法の特徴
・ X線小角散乱法や定常ビームを利用する中性子小角散乱法との共通点や違い
・ 試料サイズ、試料セル、試料環境
・ データ解析法
・ 偏極中性子小角散乱法の特徴

について講義で学ぶとともに、種々の試料(金属、ナノ粒子、ゲル、蛋白質分子等)の比較測定を行いながら、試料内部の構造の違いによる散乱プロファイルの違いやデータ解析法について学びます。


E:中性子単結晶回折

中性子単結晶回折とは単結晶試料で散乱された中性子のBraggピークを解析することにより、サンプルの結晶構造を調べる手法です。
本演習では、中性子単結晶構造回折の基礎について講義を行うと共に、iBIX回折計を用いた測定、およびデータ解析について演習を行います。


F:中性子工学回折

中性子工学回折とは応力を与えた鉄鋼材料などで散乱された中性子のBraggピークを解析することにより、サンプルの残留応力を調べる手法です。
本演習では、中性子工学回折の基礎について講義を行うと共に、TAKUMI回折計を用いた測定、およびデータ解析について演習を行います。


G:ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(µSR)

ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(µSR)とはスピン偏極したミュオンを物質中に注入し、ミュオンスピンの感じる内部磁場の大きさや揺らぎを実時間で捕らえることにより

・ 物質の磁性や超伝導性
・ 物質中の水素原子/イオンの状態や挙動

に関する情報が得られる、核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(ESR)と並ぶ有力な物性研究手段です。
本演習では、µSRの基礎について講義を行うと共に、D1ミュオン分光器(DΩ-1)を用いた測定、およびデータ解析について演習を行います。