MLF Monthly Report 2016年3月

研究成果

BL20

以下の2 件のプレスリリースを発表した。
1)ヒドリドイオン” H-" 伝導体の発見
2)超イオン伝導体を発見し全固体セラミックス電池を開発

BL16 高電力変換効率を実現する新しい有機太陽電池の製造プロセス

(NSRRC/ 國立清華大學 鄭グループ)

エネルギー問題が叫ばれる今日、太陽光発電が脚光を浴びている。太陽光発電に用いられる太陽電池は半導体の光 起電力効果を利用しており、現在はシリコンを用いたものが主流であるが、大規模発電を行うにはまだコストに問題 が残されている。そんな中、近年着目を集めているのが、生産コストをシリコン型の1/10 程度まで下げることが可 能であると期待されている有機半導体を用いた太陽電池である。この有機薄膜電池ではp 型半導体PTB7 が光励起 され、その励起子がn 型半導体であるフラーレン誘導体PC71BM とのpn 接合面まで拡散することによって電子の 移動が生じる。しかし、励起子の移動距離は数十nm 程度と非常に短いため、そのナノ構造、特にPTB7 と PC71BM が形成するミクロ相分離構造が性能に大きく影響を与える。すなわち、PTB7 とPC71BM が「適度な」スケー ルで相分離することによりpn 接合面への拡散が促進され、例えば熱[1] や溶媒[2] によって有機太陽電池をアニー ルすることによって電力変換効率が向上することが報告されている。
 上記の有機太陽電池の薄膜を作製するにあたっては、PTB7 とPC71BM を溶かした有機溶媒を基板に滴下し、高 速回転させて有機溶媒を飛ばすスピンキャスト法が用いられる。この際、有機溶媒に1,8-diiodooctane(DIO) 等の添 加剤を用いることで電力変換効率が劇的に上昇することが知られている[3]。また、スピンキャスト後に非溶媒に浸 漬させる後処理を行うことにより、さらに電力変換効率が上昇することが最近報告されている[4]。以上の背景をも とに、NSRRC/ 國立清華大學の鄭グループは、新たな添加剤として1-naphthalenethiol (SH-na) をスピンキャスト時 の添加剤、およびスピンキャスト後に浸漬処理の両方に用いる方法を考案し、電力変換効率を3.99% から8.75% に 向上させることに成功した。また、この有機太陽電子を赤外および可視・紫外分光法、斜入射X 線散乱法、そして 中性子反射率法を組み合わせて評価したところ、図1 のようにプロセスに応じてPC71BM の凝集構造とPTB7 の結 晶構造が変化し、これが電力変換効率の鍵となることを明らかにした。具体的には、(a) 添加剤による処理を行わな い場合はPC71BM が大きな凝集構造を形成するため励起子がpn 接合面まで到達しづらい構造をしているのに対し、 (b)DIO を添加した場合はPC71BM の凝集が分散して励起子が効率的にpn 接合面到達出来る構造となっていること が明らかになった。また、(c)SH-na を添加した場合はPC71BM がフラクタル構造を持って分散すると同時に、高効 率化を促すPTB7の結晶性がDIOよりも良くなること、(d)さらにスピンキャスト後にSH-naによる浸漬処理を施した、 最も良い電力変換効率を持つサンプルではPC71BM がフラクタル構造を保ったまま表面に偏析することが明らかに なった。この際、BL16 SOFIA を用いた中性子反射率法は、(d) のサンプルにおいて深さ方向に均一に分散していた PC71BM が表面に偏析することを示す強固な証拠となっている。
以上の結果により、有機太陽電池の製造プロセスにおいて添加剤がPC71BM の分散構造とPTB7 の結晶構造形成に 重要な役割を果たしていることが明らかになった。このコンセプトは他の有機太陽電池にも応用可能と考えられ、電 力変換効率のさらなる向上に寄与すると期待できる。

参考文献
1. X. Yang et al., Nano Lett. 5, 579 (2005); M. Y. Chiu et al., Adv. Mater. 20, 2573 (2008); W. Ma et al., Adv. Funct. Mater. 15, 1617 (2005).
2. J. Jo et al., Adv. Funct. Mater. 19, 2398 (2009); Z. He etl .a, Mater. Horiz. 2, 592 (2015).
3. Y. Liang et al., Adv. Mater. 22, 1 (2010).
4. J. Kong et al., Adv. Mater. 26, 6275 (2014).
5. H.-J. Jhuo et al., “New Processing Route with a Novel Additvie 1-Naphthalenethiol for Efficiency Enhancement of Polymer Solar Cells” , Adv. Funct. Mater , published online (DOI: 10.1002/adfm.201505249).


高電力変換効率を実現する新しい有機太陽電池の製造プロセス (NSRRC/ 國立清華大學 鄭グループ) 研究成果 1 March 2016 BL 16 製造プロセスによるPTB7 の結晶性、PC71BM の凝集性、およびPTB7 と PC71BM の相分離構造の違いを表した模式図。SH-na をスピンキャスト時の添加 剤と後処理に用いた最も電力変換効率の高い(d) の膜ではPTB7 が高い結晶性を有 するのと同時に、PC71BM がフラクタル構造を保ったまま表面に偏析することが 明らかになった。
* Reproduced from Figure 6 in reference 5 without any modification.

BL12 非弾性中性子散乱による層状ニッケル酸化物R2-xSrxNiO4 (R = La, Nd) におけるストライプ およびチェッカーボード秩序の磁気励起の研究 -過剰ドープ・チェッカーボード秩序相に おける異常な磁気応答-

東大物性研中性子 池田陽一、鈴木將太、中林拓頌、吉澤英樹、 KEK 横尾哲也、伊藤晋一

層状ニッケル酸化物R2-xSrxNiO4 では、ストライプ状の電荷・スピン秩序が、広いホール濃度域に亘り、静的に安 定化する事が知られている。特にx > 0.5 ではNiO2 面内のNi2+ とNi3+ イオンが市松模様状に整列する、所謂、チェッ カーボード(CB) 秩序が形成される。この様な電荷秩序について、最近、打田らはX 線吸収スペクトルのホール濃度 依存性からNi 電子状態の変化を調べた[1]。彼らは、x < 0.5 ではホールがd(x2-y2) 軌道に選択的に導入され、x > 0.5 ではd(x2-y2) 軌道の占有率は50% に留まり、ホールは、もう一方のeg 軌道であるd(3z2-r2) へ順次導入される 事を提案した。これはx > 0.5 のCB 秩序は、d(x2-y2) 軌道に残った電子により安定化されている事を示唆しており、 また、中性子散乱実験で観測されているNiO2 面内の変調構造が、x > 0.5 ではホール濃度に依存しないふるまいと 矛盾しない[2]。即ち、x > 0.5 のCB 相では、d(x2-y2) 軌道がCB 状に配列した上で、そのCB パターンを崩さない ように過剰ホールがランダムに導入されている事が推察される。この打田らの結果を踏まえると、CB 相はストライ プ相の延長ではなく、むしろ定性的に全く異なる相である可能性も考えられる。実際に、Nd2-xSrxNiO4 におけるス トライプ秩序相とCB 秩序相のマクロな特性は定性的に異なっており、Ni の電子状態がx~0.5 を境に定性的に変化し ている事を示唆している[3]。
 より興味深い研究課題の一つは、両相の磁気応答の違いを明らかにすることであるが、オーバードープ領域では La2-xSrxNiO4 の大きな単結晶試料を育成する事が難しいため、非弾性中性子散乱実験による研究は、これまであま り進展していなかった。そこで我々は、広いホール濃度に亘って単結晶試料が育成しやすい、Nd2-xSrxNiO4に着目し、 中性子非弾性散乱スペクトルを調べた。中性子散乱実験はJ-PARC・MLF のBL12 に設置された高分解能チョッパー 分光器HRC を用い、Nd2-xSrxNiO4 のx = 0.33、0.60、0.70 の単結晶試料に対して行った。
 ストライプ秩序を示すx = 0.33 の試料では、明瞭な磁気励起が観測され、その定性的な特徴は、線形スピン波模 型により理解できることがわかった。また、Ni 間の交換相互作用の大きさは、La2-xSrxNiO4 (x = 1/3) とほぼ同じで あった[4]。すなわち、約10 meV 以上の高エネルギー領域の磁気励起スペクトルには、Nd の有意な影響がなく、 Ni 以外の磁性イオンを含むNd 系であっても、La 系と同等の議論ができること事がわかった。ところがCB 領域で は一転して、ストライプ領域で観測された明瞭なスピン波励起とは異なり、明瞭な分散関係を持たないブロードな磁 気励起が観測された。また、ストライプ秩序相(x = 0.33) では、80~100 meV までの磁気励起が観測されたが、CB 秩序相(x = 0.6, 0.7) では40~60 meV 以上の高いエネルギー領域には、有意な励起は観測されなかった。さらに、図 に示すように、CB 領域における磁気励起の特徴は、少なくともx = 0.7 までは、ホール濃度によらないことがわかった。
 ストライプ秩序領域とCB 秩序領域における磁気励起の上限エネルギーの違いは、CB 秩序領域においては、最近 接交換相互作用J0 (~ 14meV) が消失し、次近接交換相互作用J1(~ J0/2) しか残らないことに起因すると考えられる。 CB 秩序相で観測されたブロードな磁気励起は、動的な相関距離が短い事を示唆し、さらに励起スペクトルがホール 濃度に依存しないことから、CB 秩序相内では動的な相関距離がほぼ一定であることがわかる。静的なCB 秩序相が 広いホール濃度に亘って安定化していることは、過去[2]、及び今回の実験からも明らかであるが、ホール濃度を増 やすに従って、静的な乱れの度合いも増加しているはずである。それにもかかわらず、CB 領域内では、動的相関距 離が短いながらもほぼ一定であることは、単純な乱れの影響だけでは理解できないように思える。静的なCB 秩序相 を広いホール濃度に亘って安定化させる要因の一 つには、打田らの考察したようなNi の軌道状態の 影響[1] があると思われるが、今回観測された異常 な磁気応答との関連性は明らかではない。今後の 研究課題の一つは、Ni の軌道状態(およびその乱れ) を考慮したときに、磁気励起がどのような変調を 被るのかを明らかにする事である。その為には理 論・実験の両面において、更なる進展が望まれる。 特に実験的には、より高ホール濃度領域の研究や、 他の遷移金属酸化物(例えばコバルト系)におけ るCB 秩序相との比較が有益な情報を与えると思わ れる。これらの結果は、JPSJ に投稿され、vol. 85, 023701 (2016) に掲載された[5]。

[1] M. Uchida et al., PRB 86, 165126 (2012)
[2] K. Ishizaka eatl., PRB 67, 184418 (2003)
[3] Y. Ikeda et al., JPSJ 84, 023706 (2015)
[4] A. T. Boothroyd et al., PRB 67, 100407(R) (2003)
[5] Y. Ikead et al., JPSJ 85, 023701 (2016)


図 CB 秩序相における磁気励起スペクトル。(a)-(b) x = 0.60 および 0.70 試料における磁気励起のエネルギー依存性。(c) 磁気励起スペクト ルの半値幅のエネルギー依存性。(d) 磁気励起スペクトル強度(散乱断面 積)のエネルギー依存性。(Fig. 4 in JPSJ 85, 023701 (2016). Copyright: Journal of the Physical Society of Japan.)

斜入射偏極中性子散乱を用いた多層膜面内磁気構造に関する研究
~ Fe/Si 多層膜の磁気特性メカニズム解明を目指して~


中性子基盤セクション、仏国ラウエランジュバン研究所中性子光学研究グループ

 JAEA、KEK 及び仏国ラウエランジュバン研究所(Institut Laue-Langevin, 以下ILL)の3 機関は、中性子科学全般 に関する共同研究協定を締結しこれを進めている。当セクションとILL 中性子光学研究グループは、本協定に基づき 中性子偏極スーパーミラーの高性能化に関する研究開発を共同で行っている。
中性子偏極スーパーミラーは、強磁性体と非磁性体とを層厚を変化させながら成膜した磁気多層膜であり、熱及び冷 中性子ビームを偏極するための重要な中性子光学素子のひとつである[1,2]。これを用いる偏極中性子散乱実験では、 試料の磁化や中性子ビームの偏極率への影響を小さく抑えるために、高い中性子偏極率が低い外部磁場で得られるこ と、即ち偏極スーパーミラーを構成する多層膜が磁気的にソフトであることが重要である。これらの多層膜は交換結 合長( 数十nm) よりもサイズの小さい結晶粒から構成され、磁気特性はバルクにおける磁壁の形成と移動によって ではなく、隣り合うスピン間での交換相互作用による結晶磁気異方性の平均化( ランダム異方性モデル) によって理 解される[3-5]。本研究では、磁化の過程における多層膜の面内磁気構造を偏極中性子による非鏡面散乱法と斜入射 小角散乱法を用いて観察することにより、上記モデルが我々の対象とする系に適応可能であるかどうかに関する検証、 即ち偏極スーパーミラーを構成する多層膜の磁気特性を支配するメカニズムの解明を試みた。
偏極中性子を用いた非鏡面散乱、斜入射小角散乱測定(図1)はそれぞれILL の偏極中性子反射率計D17、小角散 乱装置D33を用いて行われた。実験によって得られた散乱データは歪曲波ボルン近似による散乱強度分布シミュレー ションにより定性的かつ定量的に解析された。その結果、面内方向で磁化の方向が揃った領域のサイズ(0.5 ~ 1 μ m) が結晶粒サイズ(≤10 nm) よりもずっと大きく、上記モデルで予測される各々の結晶粒での結晶磁気異方性の平 均化を示す結果が得られた(図2、3)。また、面内構造の分解能の異なる非鏡面散乱法と斜入射小角散乱法の相補的 な利用が、nm からμm の広い領域にわたる長さスケールをもつ薄膜及び多層膜の面内構造の研究において有効であ ることを示した。
本研究は、中性子偏極スーパーミラーの高性能化によりJ-PARC/MLF における偏極中性子ビーム利用の高度化に資 する成果である。今後は、このモデルの適応範囲や異なる系に対する適応可能性等についてさらなる研究を進め、多 層膜の磁気特性メカニズムに関する理解を深めることが重要である。

参考文献
[1] V. F. Turchin, Sov. J. At. En. 22, 124 (1967).
[2] F. Mezei, Communication on Physics 1, 81 (1976).
[3] R. Alben, J. J. Becker, and M. C. Chi, J. Appl. Phys. 491,6 53 (1978).
[4] G. Herzer, J. Magn. Magn. Mater. 112, 258 (1992).
[5] E. Kentzinger, U. Rücker, B. Toperverg, F. Ott, and T. Brcükel, Phys. Rev. B 77, 104435 (2008)


図1 (a) 非鏡面散乱と(b) 斜入射小角散乱の散乱ジオメトリ。 ジオメトリの違いにより面内構造の分解能が異なる。 (lx, ly: 面内構造の長さスケール)



図2 Fe/Si 多層膜(d=10 nm、30 対層)に対する(A) 非鏡面散乱と(B) 斜入射 小角散乱の測定データとシミュレーションの結果。黒矢印は斜入射小角散乱測定 における入射角。鏡面反射、界面粗さ起因の散乱、面内磁気構造に起因する散乱 が測定された。(C) 斜入射小角散乱イメージ(B) の点線(a) と実線(b) の断面プロ ファイル。2θf(qy)方向の強度分布により界面粗さのカットオフ長(ξ roughness)と面内にスピンが揃う領域の長さの2 倍に相当する面内相関長(ξ magnetic)がそれぞれ得られる。



図3 実験結果から予測される面内磁気構造。結晶粒サイズが交換結合長よりも 小さい場合にはバルクのように磁壁を形成せず、交換相互作用により各結晶粒 での結晶磁気異方性が平均化される。これによりスピンの揃った領域の面内方 向の長さは結晶粒サイズよりずっと大きくなることが予測され(ランダム異方 性モデル)、実験結果も今回のFe/Si 多層膜の系が上記モデルに従うことを示し ている。


BL21 パイロクロア型ニオブ酸化物におけるall-in 型四面体変位構造の観測

(大阪大学花咲グループ)

 パイロクロア格子系において、スピンアイス状態をはじめとする磁気フラストレーション効果に起因する物性を探 索する研究は多くなされている[1]。その中でも、電荷やスピンによるフラストレーション効果が格子変調によって 解放されることで、特異的な物性が引き起こされることがある。我々はパイロクロア型ニオブ酸化物に着目し、局所 的な格子変位やそれに関わる電子状態の研究を行った。 パイロクロア型ニオブ酸化物(Y0.5Ca0.5)2Nb2O7 においては、Nb 原子が四面体中心に向かって内側か外側へ変位 する”ダイポールアイス”状態(Fig.1 (b)) が生じていることが粉末中性子回折を用いた先行研究により指摘されている。 さらに、電子線回折における散漫散乱からNb 変位は短距離秩序であることが示唆されてきた [2]。Nb 変位の相関長 が短いため、長周期構造を仮定して行われている従来型の平均構造解析ではNb 変位パターンを決定できない。つま り、Fig.1 に示したような、ダイポールアイス状態は明らかになっていなかった。そこでNb 四面体構造の変位を明 らかにするために、二体相関の実験と、回折実験を組み合わせた構造解析を行った。局所的なNb 変位パターンを決 定するために、二体相関によって局所構造解析を行えるPair Distribution Function (PDF) 解析 (J-PARC BL21 NOVA) とExtended X-ray Absorption Fine Structure (EXAFS) 解析 (SPring-8 BL14B1) を行った。さらに、散漫散乱におけ る電荷成分の寄与を明らかにするために共鳴軟X 線回折実験(PF BL-11B)、高温X 線回折実験(PF BL-4C) を行った。 この実験によって、Fig.1(c) のような状態の可能性も精査した。
J-PARC BL21 NOVA での測定により得られたPDF の実験結果をFig.2 (a) に示す。パイロクロア型酸化物の一般的な 対称性である空間群Fd3 m で精密化すると、実験結果を4Å 以下の範囲で再現できなかった(Rw=18.6%)。そこで、 散漫散乱は(6 2/3 2/3) を中心に広がっており、その周期性を考慮するため、格子定数をa'≈10.34 Å,b'≈c' ≈31.5 Å と拡張することを考えた。この格子定数を再現できる低い対称性であるFddd とF222 により構造を精密化した結果、 Fig.2 (a) の赤線で示したようにF222 による精密化が最も良好であることがわかった。Rw 因子は、Fddd が17.8%、 F222 が10.94% であった。この解析から得られたNb 原子の構造の特徴は、all-in 型で変位しているNb 四面体であ る(Fig.2 (b) の赤丸内)。Y2Nb2O7 の理論研究においても、構造最適化によりall-in 型Nb 四面体構造の存在が指摘 されており[3]、本実験で得られたall-in 型変位は軌道混成によるエネルギー安定化に由来すると考えられる。さらに、 本物質が非磁性であること、EXAFS 実験結果とも一致している。共鳴軟X 線回折実験において観測した共鳴スペク トルの解析から、電荷の寄与は小さいことがわかった。
 なお、この研究成果についての論文はPhys. Rev. B 誌にて発表されている。
S. Torigoe, Y. Ishimoto, Y. Aoishi, H. Murakawa, D. Matsumura, K. Yoshii, Y. Yoneda, Y.Nishihata, K. Kodama, K. Tomiyasu, K. Ikeda, H. Nakao, Y. Nogami, N. Ikeda, T. Otomo, and N. Hanasaki
“Observation of All-In Type Tetrahedral Displacements in Non-Magnetic Pyrochlore Niobates” , Phys. Rev. B 93, 085109 (2016).

参考文献
[1] Steven T. Bramwell and Michel J. P. Gigras, Science, 294, 4195 (2001).
[2] T. M. McQueen, et al., J. Phys.:Condens. Matter 20, 235210(2 008).
[3] P. Blaha, et al., Phys. Rev. Lett., 93, 216403 (2004).


Fig.1 (a) 氷の模式図。酸素O( 赤丸)、水素H( 青丸)。(b) ダイポールアイスの模 式図。薄い青丸と赤丸は、ある遷移元素の変位前と変位後を示している。(c) 電 荷アイス状態。


Fig.2 (a) パイロクロア型ニオブ酸化物(Nd0.5Ca0.5)2Nb2O7 の二体相関関数の 実験結果( 白丸) と空間群をF222( 青)、Fddd( 緑)、Fd3 m( 赤) と仮定した場合 の中性子PDF 解析 (b) 決定されたNb 四面体変位構造、赤丸内はall-in 型の Nb 変位

装置整備

POLANO 装置整備・開発経過報告

遮蔽体内作業台の加工、梯子の据え付けなど、軽微な作業を継続している。

ミュオン回転標的上下駆動機構の再調整

ミュオン回転標的は標的位置のビームプロファイルを計測するため、 また標的故障時にビームラインより退避できるように上下駆動を行う事が出来る。3 月16 日18 時頃、利用運転再開前のビーム調整時に標的位置からモニタ位置に上方向に駆動を試みたところ、モータートルク異常で停止した。現場にて再駆動してみると目的の位置まで移動す ることが出来たため、運転を再開した。トルク推移のログを検証したところ、駆動用のボールねじ、リニアブッシュの駆動抵抗が大きくなっていると推測出来た。そのため3 月23 日の短期保守期間にビームラインのメンテナンスエリアであるM2 トンネル内に入域して抵抗の大 きくなっていたボールねじの一部にグリスアップを行った。グリスアップ後は駆動抵抗が小さくなりモータートルクもインターロック閾値よりも十分、小さくなった。以後、経過を注意深く観察しながら利用運転を継続する。問題が無ければ、 夏期長期保守期間に、全面的な保守作業を行う。

論文リスト

学術誌

学位論文

BL16
BL06, BL16
BL02
BL21
BL01

その他刊行物

学会発表

日本物理学会第71 回年次大会

日時:2016.3.19-22
場所:東北学院大学泉キャンパス
主催・共催:日本物理学会

日本金属学会2016 年春期講演大会

日時:2016.3.23-25
場所:東京理科大学葛飾キャンパス

研究会

POLANO ツアー

東北大の学生、職員を対象としたPOLANO の見学および講義(POLANO ツアー)が開催された。見学に先立ってMLF 施設の紹介や中性子、ミュオンの講義、翌日にはZ-code の講習も行いPOLANO のみならず、広くMLF を体験して頂いた。東北大は金研、多元研、理学部、工学部からの総勢20 名の参加者であった。
日時:3 月8 日(火)- 9 日(水)
場所:J-PARC
主催・共催:東北大中性子センター

「強相関電子系における局所構造変調が誘起する創発現象」

KEK 物構研・構造物性センターCMRC 研究プロジェクト「強相関電子系における局所構造変調が誘起する創発現象」(プロジェクトリーダー:藤田全基(東北大金研))においてPOLANO の紹介を行った。
日時:3 月10 日(木)
場所:KEK つくばキャンパス

量子ビームサイエンスフェス・MLF シンポジウム

日時:3 月15 日(火)- 16 日(水)
場所:つくば国際会議場
主催・共催:物構研