24. 運動する点電荷の作る電磁場:Lienard-Wiechert ポテンシャル

\(\newcommand\VecBF[1]{\vec{\mathbf{#1}}}\)

四次元空間中の運動する点電荷の作る電磁場は、Lienard-Wiechert ポテンシャルと呼ばれる4次ベクトルポテンシャルで記述されます。 まずは、前節で導いたGreen関数からこのLienard-Wiechert ポテンシャルを導いたのち、このLienard-Wiechert ポテンシャルの 物理的な意味について説明します。

24.1. Green関数を用いたLienard-Wiechert ポテンシャルの導出。

前節のGreen関数を用いた電磁場の解から、Lienard-Wiechert ポテンシャルが導出されることを見る。

前節の結果より、四次元の電荷/電流密度 \(j^\mu(x)\) によって作られる電磁場は、 次のベクトルポテンシャルで記述される。

(24.1)\[\begin{split}A^\mu = & \int d^4 x' \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{x}'| } \delta(|\VecBF{x} - \VecBF{x}'| \mp \left(x_0-x'_0\right)) j^\mu(x') \\\end{split}\]

点電荷の軌道は \(x^\mu = z^\mu(\tau)\) で与られるとしましょう。点電荷の作る四次元電流密度は \(j^\mu(x)= e u^\mu(t)\delta^3(\VecBF{x}- \VecBF{z}(x_0))\)となるので、これを 式-24.1 に代入してみます。 なお、\(u^\mu \equiv \frac{d z^\mu}{d x_0}\)としています。

(24.2)\[\begin{split}A^\mu = & \int d^4 x' \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{x}'| } \delta(|\VecBF{x} - \VecBF{x}'| \mp \left(x_0-x'_0\right)) e u^\mu(x')\delta^3(\VecBF{x}'- \VecBF{z(x'_0)}) \\ = & \int dx'_0 \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| } \delta(|\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| \mp \left(x_0 - x'_0\right)) e u^\mu(x'_0) \\\end{split}\]

ここで、

(24.3)\[\int F(x)\delta(f(x))dx = \frac{1}{\frac{d f(x)}{d x}|_{x=x_0}} F(x_0) \qquad \text{where}\; f(x_0) = 0\]

また、

(24.4)\[\begin{split}|\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|^2= (\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0))\cdot(\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)) \\ |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|\frac{d |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|}{d x'_0} = -(\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0))\cdot\frac{d \VecBF{z}(x'_0)}{d x'0} \\\end{split}\]

であることに注意すると、 式-24.2 は次の式の様にまとめられます。

(24.5)\[\begin{split}A^\mu(x) = & \int dx'_0 \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| } \delta(|\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| \mp \left(x_0 - x'_0\right)) e u^\mu(x'_0) \\ = & \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| } \frac{1}{\frac{d |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|}{d x'_0} \pm 1}e u^\mu(x'_0) \\ = & \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ -(\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0))\cdot\frac{d \VecBF{z}(x'_0)}{d x'_0} \pm |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|}e u^\mu(x'_0) \\\end{split}\]

ここで、\(x_0'\)は荷電粒子の軌道\(z(x_0)\)に対して、

(24.6)\[x_0' = x_0 \mp |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)|\]

の解として与えられます。ここで、遅延ポテンシャルの解を取れば、結局点電荷 \(z^\mu(\tau)\) の運動によって作られる電磁場の四次元ポテンシャル \(A_\mu\) は、

(24.7)\[\begin{split}A^\mu(x) = & \frac{1}{4\pi} \frac{1}{ |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| -(\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0))\cdot\frac{d \VecBF{z}(x'_0)}{d x'_0} }e u^\mu(x'_0) \\ & \text{ここで、}\; x_0' \;\text{は}\; x_0' = x_0 - |\VecBF{x} - \VecBF{z}(x'_0)| \; \text{の解である。}\end{split}\]

で与えられます。この表式を Lienard-Wiechert ポテンシャル と呼びます。

24.2. Lienard-Wiechert ポテンシャルの物理的意味

前節で導いた様に、運動する点電荷によって生じる電磁ポテンシャル、Lienard-Wiechert ポテンシャル、は次の式で与えられる。

(24.8)\[\begin{split}\phi(\mathbf{x},t) &= \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{1}{\left|\mathbf{x} - \mathbf{r}(t_0')\right| - \frac{1}{c} \dot{\mathbf{r}}(t_0')\cdot\left(\mathbf{x}-\mathbf{r}(t_0')\right)}\\ \mathbf{A}(\mathbf{x},t) &= \frac{\mu_0 e}{4 \pi} \frac{\dot{\mathbf{r}}(t_0')}{\left|\mathbf{x} - \mathbf{r}(t_0')\right| - \frac{1}{c} \dot{\mathbf{r}}(t_0')\cdot\left(\mathbf{x}-\mathbf{r}(t_0')\right)}\\\end{split}\]

ただし、 \(r(t)\) は時刻 \(t\) に於ける点電荷の位置。 \(t_0'\)

(24.9)\[t_0'=t-\frac{\left| \mathrm{x} - \mathrm{r}(t_0')\right|}{c}\]

の解として与えられる発信時刻です。

すなわち、 \(\mathbf{r}(t_0')\) は時刻 \(t\) に点 \(\mathrm{x}\) に到達する電磁波を放射した時の点電荷の位置を示している。

24.3. 一様速度で動く点電荷の作るポテンシャル

Liénard-Wiechertポテンシャルの物理的な意味をかんがえるために、 いま Liénard-Wiechert ポテンシャル の特別な場合として、一様な速度で動く点電荷を考えてみます。

一様な速度で動く点電荷の作る電磁場は、点電荷の静止系の電磁場をローレンツ変換で変換することで計算することが できますので、これを確認するのがこの節の目的です。

点電荷が原点にあるときに作られた(\(\mathbf{r}(t_0') =\mathbf{0}\))電磁場によって点 \(\mathbf{x}\) にできる電磁場を考えます。 電磁場が光速で伝わることから、この電場が出来る時刻 \(t\)

(24.10)\[\frac{x^0}{c} = t = \frac{\left|\mathbf{x}\right|}{c}\]

です。この時点での電荷の静止系 \(K'\) での4元ポテンシャル \(A'_\mu\) は、

(24.11)\[\begin{split}A'^k = & 0\\ A'^0 = & c \phi' = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{1}{r'_0} \\\end{split}\]

ただし、 \(r'_0\) は電荷の静止系 \(K'\) での点電荷と電磁場の観測点 \(\mathbf{x'}\) の距離です。

(24.12)\[r'_0 = \left|\mathbf{x'}\right| = \sqrt{x'^2 + y'^2 + z'^2}\]

四元電磁ポテンシャルを、ローレンツ変換によって観測系 \(K\) の四元ポテンシャルに書き直してやると。

(24.13)\[\begin{split}A^0 =& \gamma\left(A'^0 + v A'^1\right) = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{\gamma}{r'_0} \\ A^1 =& \gamma\left(A'^1 + v A'^0\right) = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{\gamma v}{r'_0} \\\\ A^2 =& A'^2= 0\\ A^3 =& A'^3= 0\\\end{split}\]

ただし

(24.14)\[\gamma= \frac{1}{\sqrt{1 - v^2/c^2}}\]

です。

ここで、

(24.15)\[\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}= x v\]

を使い、また

(24.16)\[\begin{split}{r'_0}^2/\gamma^2 &= (1 - v^2/c^2)(x'^2 + y'^2 + z'^2)\\ &= (1 - v^2/c^2)\left( \frac{(x-v t)^2}{1-v^2/c^2} + y^2 +z^2 \right) \\ &= (x-v t )^2 + (1 - v^2/c^2)(y^2+z^2) \\ &= r^2 -2 x v \frac{r}{c} + \frac{v^2}{c^2}(r^2- y^2 -z^2)\\ &= r^2 - 2 \frac{\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}}{c} r + \frac{\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}^2}{c^2}\\ &= \left( r - \frac{\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}}{c}\right)^2\end{split}\]

に注意して 式-24.13 を整理してみます。その結果は、

(24.17)\[\begin{split}A^0 = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{1}{r- \frac{\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}}{c}} \\ A^1 = \frac{e}{4\pi\varepsilon_0} \frac{v}{r- \frac{\mathbf{r}\cdot\mathbf{v}}{c}}\end{split}\]

となり、Liénard-Wiechertポテンシャルが導かれます。

24.3.1. 先進ポテンシャルを使った解

先進ポテンシャルを使った解の解釈は、砂川の教科書(第3版 page 235)を上げて置きます。

先進ポテンシャルは、\(\VecBF{x}'\)なる点を時刻\(t'\)に発した電磁波が\(\VecBF{x}\)なる点に到達するのは、それより過去の時間, \(t=t'-\frac{|\VecBF{x} - \VecBF{x}'|}{c}\) であるといっていることになる。しかし、これでは何のことかわからないであろう。そこで、これをもっとわかりわすく述べよう。

これは未来を決めた時、現在はどうあるべきかという命題を述べているのである。すなわち、\(\VecBF{x}'\)なる点にあるアンテナのなかに、時刻\(t'\)に強度 \(\VecBF{j}(x',t')\)なる電流を発生させるためには、\(\VecBF{x}\)なる場所において、電磁波を時刻\(\VecBF{t}'\)よりまえの時刻\(t=t'-\frac{|\VecBF{x} - \VecBF{x}'|}{c}\) に出発させ、その波動のつよさを\(A^\mu(x,t)\)とすべきであるということである。...素粒子物理学においては、このような問題の取り扱い方がよく用いられる。

25. 2020年度 提出課題

  1. ローレンツ変換を用いて、特殊相対性理論の「ローレンツ収縮」と「時間の遅れ」を説明せよ。

  2. \(z\) 方向に一様な磁場 \({\vec B} = B_0 {\vec e_z}\) が存在するとき、 静止質量 \(m_0\) 、荷電 \(q\) をもつ質点の \(x-y\) 平面内の運動は円運動となることを、相対論的運動方程式を基に示しなさい。また、この時、質点の速度 \(v\) は、磁場の強さ \(B_0\) 、円運動の半径 \(R\) の値に関わらず、光速度 \(c\) を超えないことを示しなさい。

26. 2020年度 提出課題のヒント

  1. ローレンツ変換を用いて、特殊相対性理論の「ローレンツ収縮」と「時間の遅れ」を説明せよ。

お互いに一定速度 \(v\) で運動している二つの慣性系, \((x,t)\) および \((x',t')\) は特殊ローレンツ変換:

(26.1)\[\begin{split}\left\{ \begin{array}{ll} x' &= \gamma\left( x - \beta c t \right) \\ t' &= \gamma\left( t - \beta x/c \right) \end{array} \right.\\ \left\{ \begin{array}{ll} x &= \gamma\left( x' + \beta c t' \right) \\ t &= \gamma\left( t' + \beta x'/c \right) \end{array} \right. \text{where}\\ \beta=\frac{v}{c}, \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\end{split}\]

で関係づけられます。時計の遅れは、例えば、原点に置かれた時計の進み \(\Delta t'\) をもう一方の系で観測すると、 観測系では、時計の位置は \(x=v t\) と観測されます。この時、時計の静止系での時刻は、

(26.2)\[\begin{split}t' =& \gamma\left( t - \frac{v}{c^2} x\right) = \gamma\left( 1 - \frac{v^2}{c^2}\right) t \\ =& \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}} t < t\end{split}\]

を示しています。

ローレンツ短縮についても、速度 \(v\) で移動している系に固定された長さ \(L\) の観測系でのある時刻 \(t'\) での座標は、

(26.3)\[\begin{split}x'_{L/R} =\gamma\left(x_{L/R} - \beta t_{L/R} \right) \\ t' = \gamma\left(t_{L/R} - \frac{v}{c^2} x_{L/R}\right)\end{split}\]

となるから、

(26.4)\[0 = \gamma\left((t_L - t_R) - \frac{v}{c^2}(x_L - x_R) \right)\]

が成り立つ。これより

(26.5)\[\begin{split}L' &\equiv ( x'_L - x'_R) = \gamma\left( (x_L-x_R) - \beta (t_L - t_R)\right)\\ &= \gamma\left( 1 - \frac{v^2}{c^2}\right) L = \sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}} L < L\end{split}\]

となってローレンツ短縮が導かれる。

  1. \(z\) 方向に一様な磁場 \({\vec B} = B_0 {\vec e_z}\) が存在するとき、 静止質量 \(m_0\) 、荷電 \(q\) をもつ質点の \(x-y\) 平面内の運動は円運動となることを、相対論的運動方程式を基に示しなさい。また、この時、質点の速度 \(v\) は、磁場の強さ \(B_0\) 、円運動の半径 \(R\) の値に関わらず、光速度 \(c\) を超えないことを示しなさい。