27. 光速度不変の原理について

Einsteintの特殊相対性理論の要請は、 「お互いに等速度で運動している二つの系で観測する 光速度はお互いの速度によらず一定」ということです。

これをローレンツ変換を用いて確認してみましょう。

まず静止系\(K\)で時刻\(t=0\)に原点\(x=0\)に 置いた発光装置から放出された光を考えます。系 \(K\) の原点から距離 \(L\) 離れた点, \(x_R=L\) or \(x_L=-L\), に光が到着するのは、 \(K\) でみていずれも 時刻 \(t=\frac{L}{c}\) であることは、光速度の定義から 明らかです。

次に系 \(K'\) で時刻 \(t'=0\) での \(K\) の原点および、原点から距離 \(L\) 離れた点の 座標を考えてみます。原点の座標は、

(27.1)\[\begin{split}x'_O =& \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 0 - \frac{v}{c} c\times 0 \right) = 0 , \\ c t'_O =&\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c\times 0 - \frac{v}{c} 0 \right)= 0\end{split}\]

\(K'\) でみても、 \(x'_O = 0, t'_O = 0\) となることがわかります。

右側の観測点 \(x_R = L\) について考えてみると、

(27.2)\[\begin{split}x'_R = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( L - \frac{v}{c} c t_R \right) , \\ c t'_R = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c t_R - \frac{v}{c} L \right)\end{split}\]

より、 \(K'\) での時刻 \(t'=0\) での位置は、 \(K\) では時刻 \(t_R = \frac{v}{c^2} L\) での時空点になっており(同時の相対性)、

(27.3)\[\begin{split}x'_R = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( L - \frac{v}{c} c t_R \right) \\ = & \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v^2}{c^2} \right) L = \sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}} L , \\ c t'_R = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c t_R - \frac{v}{c} L \right)= 0\end{split}\]

となることが解ります。 左側の光の到達点 \(x_L = -L\) についても、同様に、

(27.4)\[\begin{split}x'_L = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( - L - \frac{v}{c} c t_L \right) \\ = & \sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}} \left( - L \right) , \\ c t'_L = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c t_L + \frac{v}{c} L \right) = 0.\end{split}\]

となります。なお、これらの式は、運動している系で観測すると、長さが \(\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}\) の割り合いで 短く見えるということを表しています(ローレンツ短縮)。

さて光が右側の観測点に到達した事象 \(\bar{x}_R=L, \bar{t}_R= \frac{L}{c}\) を系 \(K'\) で観測すると その座標は、

(27.5)\[\begin{split}\bar{x}'_R = & \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( L - \frac{v}{c} c \bar{t}_R\right) \\ =& \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v}{c} \right) L ,\\ c \bar{t}'_R = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c \bar{t}_R - \frac{v}{c} L \right) \\ = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v}{c} \right) L .\end{split}\]

となります。 \(t'=0\) に原点を出た光がこの時空点に到達したわけですから、光速度は、やはり \(c= \frac{\bar{x'}_R }{\bar{t}'_R}\) で あることがわかります。 これらの式の右辺を、

(27.6)\[\begin{split}\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v}{c} \right) L = \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}}L - \frac{v}{c} \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v}{c} \right) L ,\\\end{split}\]

と書き換えると、最初の項はローレンツ収縮を受けた原点と観測点との距離、次の項は \(K'\) で観測点が速度 \(-v\) で動いている効果を表していることが わかります。

左側の観測点 \(\bar{x}_L= - L, \bar{t}_L= \frac{L}{c}\) について同様の計算を行うと、

(27.7)\[\begin{split}\bar{x}'_L = & \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( - L - \frac{v}{c} c \bar{t}_L\right) \\ =& - \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 + \frac{v}{c} \right) L ,\\ c \bar{t}'_L = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( c \bar{t}_L + \frac{v}{c} L \right) \\ = &\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 + \frac{v}{c} \right) L .\end{split}\]

\(K'\) での光の速度はやはり \(c\) となります。また、

(27.8)\[\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 + \frac{v}{c} \right) L = \sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}} L + \frac{v}{c} \frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 + \frac{v}{c} \right)\]

ですから、光の移動距離は、原点と観測点の距離と、光が到着するまでに観測点が原点から遠ざかる距離の和になっています。

\(K'\) で光が棒の端に届く時間は、右側の端では、 \(\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 - \frac{v}{c} \right) L\) ,左端では、 \(\frac{1}{\sqrt{1- \frac{v^2}{c^2}}} \left( 1 + \frac{v}{c} \right) L\) ですから、 \(K\) では同時に両端に届いていた光は \(K'\) では それぞれ異なる時刻に到着することになります。

27.1. 速度の合成

これまでと同様、系 \(K'\) が系 \(K\) に対して速度 \(v\) で空間座標軸の正の方向に移動しているとき、 系 \(K'\) で観測した時に速度 \(u\) で運動している質点を考えます。これは例えば、移動している電車の中でボールを投げた 時、地面に静止している観測者からこのボールはどう見えるのかという問題です。

\(K'\) でこの質点の世界線は、

(27.9)\[x'_0 = x' - u t' \equiv const.\]

と表現されます。ローレンツ変換を使うと、この世界線の方程式は、

(27.10)\[\begin{split}x'_0 = &\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} \left\lbrace \left(x -\frac{v}{c} c t \right) - \frac{u}{c}\left(c t - \frac{v}{c} x\right) \right\rbrace \\ = & \frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} \left\lbrace \left(1 + \frac{v}{c} \frac{u}{c} \right)x - \left(\frac{u}{c} + \frac{v}{c} \right) c t\right\rbrace \\ \equiv & {\text const.}\end{split}\]

と書き直せます。つまり、 \(K\) で観測した時、この質点は、速度 \(\frac{u+v}{1+\frac{uv}{c^2}}\) で動いていると観測されると言うことです。