28. マックスウェル方程式に基づく伝送線理論

阿部および土岐 [A-7] の教科書に基づいて 電送線路理論をまとめておく。

28.1. 荷電と電流で作られる電磁場

電荷分布 \(\rho(\mathbf{r},t)\) と電流分布 \(\mathbf{J}(\mathbf{r},t)\) が与えられたときのポテンシャルは 遅延Green関数を利用して、

(28.1)\[\begin{split}\def\tr{t-\frac{1}{c}{|\mathbf{r-r'}|}} \phi(\mathbf{r}) = \frac{1}{4 \pi \epsilon_0} \int d\mathbf{r'} \frac{\rho(\mathbf{r'},\tr)}{|\mathbf{r-r'}|}\\ \mathbf{A}(\mathbf{r}) = \frac{\mu_0}{4 \pi} \int d\mathbf{r'} \frac{\mathbf{J}(\mathbf{r'},\tr)}{|\mathbf{r-r'}|}\\\end{split}\]

と書かれる。時間の遅延は電磁場が光の速度で伝わることを表している。

電荷分布と電流分布は、電送線の境界条件を満たす様に設定されている必要がある。金属導体の境界条件としては、 金属内部では電場が存在しないこと(=静電場が存在しない=ポテンシャルが一定)が使われる(?)。 (一般の動的な電磁場の状態での境界条件をどうすべきかは?)

複数の電送線が存在する場合は、それぞれの荷電分布と電流分布の重ね合わせとして、

(28.2)\[ \begin{align}\begin{aligned}\begin{split}\phi(\mathbf{r}) = \frac{1}{4 \pi \epsilon_0} \int d\mathbf{r'} \Sigma_i \frac{\rho_i(\mathbf{r'},\tr)}{|\mathbf{r'}|}\\\end{split}\\\begin{split}\mathbf{A}(\mathbf{r}) = \frac{\mu_0}{4 \pi} \int d\mathbf{r'} \Sigma_i \frac{\mathbf{J}_i(\mathbf{r'},\tr)}{|\mathbf{r-r'}|}\\\end{split}\end{aligned}\end{align} \]

となる。

但し、 この電磁場は、それぞれ電装線が単独に存在する場合の解の重ね合わせと言うわけではないことに注意が必要である。 式-28.2 の積分では、電送線は荷電/電流密度が0の場合にも、伝導体が存在することにより、その付近の電磁場には影響を 与える。

28.2. 一般解から伝送路理論へ

土岐さんの伝送路理論は、 式-28.1

(28.3)\[\begin{split}\phi(\mathbf{r}) = \frac{1}{4 \pi \epsilon_0} \int_C d\mathbf{r'} \frac{\rho(\mathbf{r},t)}{|\mathbf{r-r'}|}\\ \mathbf{A}(\mathbf{r}) = \frac{\mu_0}{4 \pi} \int_C d\mathbf{r'} \frac{\mathbf{J}(\mathbf{r},t)}{|\mathbf{r-r'}|}\\\end{split}\]

と近似すること相当している。これは、荷電密度、電流密度が考えている系に対して、ゆっくりとしか変化しないと言うことと、 これらの密度が考えている系に対して、充分小さい領域に限定されていると言うことを示している。

例えば、電送線の径 \(a\) と電装線間の距離 \(d\) および 時間変化を特徴づける時間 \(\delta t\) に対して、

(28.4)\[a \le d < c \delta t \sim \lambda\]

が成立っている様な系と言うことである。考える周波数を1MHzとすれば、サイズは半波長程度150m程度となる。これぐらいの周波数であれば充分電送線路理論は適応可能かと 考えられる。 またこの近似では、電送路の導体のお互いの境界条件の変化による電磁場の変化は取り入れられない。(二つの帯電した導体の表面電荷は、それぞれが単独に存在するときとは 異なった分布になるはず。また動的に変化するときには、表面電流も流れてエネルギーロスが起きることになる。)