7. マイケルソンモーレーの実験

7.1. Michelson-Morely/Kennedy-Thorndyke実験

Michelson-Morelyは長さの等しい腕をもつ干渉計を用いて、その当時考えられていた エーテル説で予想される地球の移動速度による干渉縞の移動を測定し、そのような 移動は予想されような量の干渉じまの移動は無いことをしめした。

Kennedy-ThorndykeはMichelson-Morely実験を拡張し、腕の長さのことなる干渉計を用いて 同様の観測をおこなった。 Kennedy-Thorndyke も地球の移動速度による干渉縞の移動は 無いという結果を得ている。 エーテル説によれば、Michelson-Morely実験は\(O(\beta^2)\), Kennedy-Thorndyke 実験は\(O(\beta)\)の実験であり、Kennedy-Thorndyke実験の方が物理の理論にたいして より強い制限をあたえる。

次にみるように、特殊相対性理論を用いてこの干渉計による実験を解釈すれば、光の干渉縞は地球の 移動速度の変化によって移動しないことは自明なこととなる。

干渉計が静止している系 K'での光の経路

図-7.1 干渉計の静止系 K' での光の経路

干渉計が速度vで移動して見える系 Kでの光の経路

図-7.2 観測系 K での光の経路

干渉計の静止系 K' での光路差\(\Delta T'\)を考えると、

(7.1)\[\Delta_T' = \frac{2 L_T}{c} - \frac{2 L_{//}}{c}\]

である。次に観測系 Kでの光路差を考えてみる。まず鏡1で反射される光の伝達時間を 求めてみる。

(7.2)\[t_1 = 2 \frac{\sqrt{ v^2 \left(\frac{t_1}{2}\right)^2 + {L_T}^2}}{c}\]

より、

(7.3)\[\begin{split}t_1 = & \frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} \frac{2 L_T}{c} \\ = & \gamma\frac{2 L_T}{c}\end{split}\]

である。 次にMirror 2で反射される光で反射される光について考えてみる。この方向にはLorentz短縮によって鏡間の距離が縮んで見えることを考慮すると、 Mirro2までに到達する時間\(\Delta t_{p1}\)、およぶMrror2から干渉計まで戻って来る時間\(\Delta t_{p2}\)

(7.4)\[\begin{split}\Delta t_{p1} &= \frac{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} L_p}{c} + v \frac{\Delta t_{p1}}{c} \\ &= \frac{1}{1- \frac{v}{c}} \frac{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} L_p}{c} \\ \Delta t_{p2} &= \frac{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} L_p}{c} - v \frac{\Delta t_{p2}}{c} \\ &= \frac{1}{1 + \frac{v}{c}} \frac{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} L_p}{c} \\\end{split}\]

ですから、往復の時間\(\Delta T_p\)は、

(7.5)\[\begin{split}\Delta T_p &= \Delta t_{p1} + \Delta t_{p2} = \left(\frac{1}{1- \frac{v}{c}}+\frac{1}{1 + \frac{v}{c}} \right)\frac{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}} L_p}{c} \\ &= \frac{2 L_p}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}\end{split}\]

と求められます。

この結果は、mirror 2で反射される光が干渉計に戻ってくる座標をローレンツ変換によって求めても

(7.6)\[\begin{split}\begin{cases} x_2 = & \gamma\left( x'_2 + v t'_2 \right) \\ t_2 = & \gamma\left( t'_2 + \frac{v}{c^2} x'_2\right) \\ x'_2 = & 0,\qquad t'_2 =2 \frac{L_{//}}{c} \end{cases}\end{split}\]

より、

(7.7)\[\begin{split}\begin{cases} x_2 = & \gamma \frac{2 v L_{//}}{c} \\ t_2 = & \gamma \frac{2 L_{//}}{c} \end{cases}\end{split}\]

となります。これより観測系 K で見た光路差\(\Delta T\)は、

(7.8)\[\Delta T = t_1 - t_2 = \gamma\frac{2 \left(L_T - L_{//}\right)}{c}\]

となります。 \(L_t = L_{//}\)の場合には、Lonrentz短縮を仮定すると、光路差は速度によらず0となることがわかります。 \(L_t \neq L_{//}\)の場合には、光路差が\(\gamma\)を通じて速度に依存している様に見えます。 が、これは時間の遅れの効果を考慮すると、干渉計の静止系では光路差は速度\(\boldsymbol v\)に依存せず、干渉縞の移動はないことになります。

"エーテル仮説"による特殊相対性理論以前の議論では、エーテルに対して移動している干渉計では速度の変化による干渉縞の移動が上記の式で予想されましたが、 実験結果は、特殊相対性理論の予測と同じく、干渉縞の移動はありませんでした。

7.2. ローレンツ短縮

いま長さ\(L_0\)の物体が、その長さの方向xに速度\(v\)で移動しているとする。 物体の静止系で考えれば、それぞれの端の座標は、任意の時刻\(t'\)において、

(7.9)\[x'_l=0, x_r=L_0\]

となる。

さて、観測系である時刻\(t\)で物体の両端の座標が、それぞれ\(x_l , x_r\)であったとする。

(7.10)\[\begin{split}\begin{cases} x_l = \gamma\left(x'_l - v t'_l \right)= -v \gamma t'_l \\ t = \gamma\left( t'_l - \frac{v}{c^2} x'_l\right)= \gamma t'_l \\ \end{cases}\end{split}\]

および、

(7.11)\[\begin{split}\begin{cases} x_r = \gamma\left(x_r' - v t'_r \right) = \gamma\left(L - v t'_r\right) \\ t = \gamma\left( t'_r - \frac{v}{c^2} L\right)= \gamma\left(t'_r -\frac{v}{c^2} L \right) \\ \end{cases}\end{split}\]

から、観測系での長さ\(L_K\)は、

(7.12)\[\begin{split}L_k = & x_r - x_l \\ = & \gamma\left( L -v t'_r\right) + v t \\ = & \gamma\left( 1- \frac{v^2}{c^2}\right)L \\ = & \frac{1}{\gamma} L = \sqrt{1 - \frac{v^2}{c^2}} L < L\end{split}\]

となる。 LorentzはEinsteinの特殊相対性理論以前にこのような短縮効果があれば、Michelson-Morleyの実験を説明できるとしていた。このことから、この効果はLorentz 短縮と呼ばれる。

7.3. 時計の遅れ

いま移動系 K' の原点に置かれた時計で、時刻が\(t'\)の時空点をP1, 時刻が\(t'+T_0\)の時空点をP2, とする。時計がx軸方向に速度\(v\)で移動して見える観測系 Kでは、 時空点P1の座標は、

(7.13)\[\begin{split}\begin{cases} x_1 = & \gamma( 0 + v t') \\ t_1 = & \gamma( t' +\frac{v}{c^2} 0) \end{cases}\end{split}\]

また、時空点P2の時空点は、

(7.14)\[\begin{split}\begin{cases} x_2 = & \gamma( 0 + v (t' + T_0)) \\ t_2 = & \gamma( t'+ T_0 +\frac{v}{c^2} 0) \\ \end{cases}\end{split}\]

となる。これから、K でみた時の二つの時空点の時間差は、

(7.15)\[T = \gamma T_0 > T_0\]

となる。すなわち、観測系 K で時間 \(T\) が経過したとき、 速度 \(v\) で移動している時計は、 \(T_0\) しか進んでいないように観測者にはみえる。これを時計の遅れとよぶ。

7.4. 特殊相対論における同時性

Michelson-Morelyの実験(\(L_p=L_T\))の場合には、スプリッタで二つに別れた光は、 干渉計が静止している系でみれば、同時に二つの鏡に到達する。これを干渉計に対して速度 \(v\) で移動して いる観測系からみた場合にはどのように観測されるかをかんがえてみる。 1、2それぞれの鏡で反射される時空点の座標はそれぞれ、

(7.16)\[\begin{split}\left\{\begin{array}{ll} x'_1 =& 0 \\ y'_1 =& L\\ t'_1 =& \frac{L}{c}\\ \end{array}\right. \\ \\ \left\{\begin{array}{ll} x'_2 =& L \\ y'_2 =& 0\\ t'_2 =& \frac{L}{c}\\ \end{array}\right.\end{split}\]

である。これらの時空点のKでの座標はLorentz変換を使って、

(7.17)\[\begin{split}\begin{cases} x_1 =& \gamma(x'_1 + v t') = \gamma \frac{v L }{c}\\ y_1 =& y'_1 = L \\ t_1 =& \gamma(t'_1 +v \frac{v}{c^2} x'_1)= \gamma\frac{L}{c}\\ \end{cases} \\ \\ \begin{cases} x_2 = & \gamma(x'_2 + v t'_2) =\gamma(L + \frac{v}{c} L)\\ y_2 = &y'_2 = 0\\ t_2 = & \gamma(t'_2+ \frac{v}{c^2} x'_2) = \gamma(\frac{1}{c} + \frac{v}{c^2})L \end{cases}\end{split}\]

と求められます。これより、観測系では、\(t_1 \ne t_2\)であることがわかります。

観測系Kでみて、光がmirror2に届いた時刻のスプリッターの位置は、

(7.18)\[x_s= v t_2 = \gamma\frac{v L}{c}(1 + \frac{v}{c})\]

である。この時のスプリッターとmirro1の距離は、

(7.19)\[\begin{split}x_2 - x_s =& \gamma(L + \frac{v}{c} L) - \gamma\frac{v L}{c}(1 + \frac{v}{c}) \\ = & \gamma\left(1 - \frac{v^2}{c^2}\right) L = \frac{L}{\gamma}\end{split}\]

となり、ローレンツ短縮効果があらわれている。

7.5. 演習(?)

1) Michelson-Morelyの干渉計の中央のスプリッターは光軸に対して、45度の傾きを持っています。干渉計が速度\({\boldsymbol v}\)で動いている 系\(K\)でこの鏡の傾きはどの様に見えるでしょうか? またこの時、干渉計が速度\(v\)で動いている系でみた時、このスプリッターでの 光の反射はどの様に観測されるでしょうか?

2) 干渉計が動いている系では、Mirror2で反射した光は、反射の前後で(ドップラー効果のため)光の周波数が変わるはずです。 光の周波数の変化および、この時の光の干渉について考察してみましょう。

7.6. 解答例

1-1) スプリッターの鏡の傾き

辺の長さ\(d\)の正方形はローレンツ短縮によって、短辺が\(\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}d\)の長方形として観測される。従って、スプリッタの角度を \(\frac{\pi}{4} + \alpha\)とすれば、

(7.20)\[\tan\left(\frac{\pi}{4} + \alpha\right) = \frac{1+\tan\alpha}{1-\tan\alpha} = \frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}\]

\(\frac{v^2}{c^2} << 1\)の時には、

(7.21)\[\alpha= \frac{v^2}{4 c^2} > 0\]

となります。

1-2) スプリッタでの光の反射

干渉計の静止系でみたスプリッタでの光の反射についてまずは考えます。 入射光の4次元波数ベクトルは、\(k^\mu=\left(k_0, k_0, 0,0\right)\)と表されます。\(k_0\)は 波数ベクトルの大きさで、光の周波数と\(\omega_0= c k_0\)の関係があります。同様に、反射後の光の 4次元波数ベクトルは、\(\left( k_0, 0, k_0, 0\right)\)と表されます。これらの4次元波数ベクトルをローレンツ変換によって、観測系(干渉計が速度\(v\)で動いている系)での波数ベクトルを求めてみます。

まず反射される前の光は、

(7.22)\[\begin{split}\begin{cases} \frac{\omega}{c} &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} k_0\right) = \gamma\left( 1 + \frac{v}{c} \right) k_0\\ k_x &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} k_0\right) = \gamma\left( 1 + \frac{v}{c} \right) k_0 \\ k_y &= k_z = 0 \end{cases}\end{split}\]

とドップラー効果と時間の遅れによる周波数および波数の変化があることがわかります。

次に反射後の光\(\left( k_0, 0, k_0, 0\right)\)について考えてみます。

(7.23)\[\begin{split}\begin{cases} \frac{\omega}{c} &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} 0\right) = \gamma k_0\\ k_x &= \gamma\left( 0 + \frac{v}{c} k_0\right) = \gamma\frac{v}{c} k_0\\ k_y &= k_0 \\ k_z &= 0 \end{cases}\end{split}\]

となります。この時波数の大きさは

(7.24)\[k =\sqrt{k_x^2 + k_y^2 + k_z^2} = k_0 \sqrt{\frac{\frac{v^2}{c^2}}{1- \frac{v^2}{c^2}} + 1 } = \frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} k_0 =\gamma k_0\]

と求められます。 これから、系\(K\)での反射後の光は、 Y軸方向から \(\tan\alpha=\dfrac{\gamma v}{c}\) だけ傾いた方向に進み1、スプリッターで反射されてから、 \(\Delta T = \gamma L_T/c\) 後に反射鏡に到達することがわかります。

1

\(\omega t - {\mathbb K}\cdot{\mathbb X} = k_x\left(\dfrac{\omega}{k} \dfrac{k_x}{k} t - x\right) + \dots\)だから、 波の(位相)速度は \(\dfrac{\omega}{k}\) , 進行方向は \(\dfrac{\mathbb k}{k}\) となる。

  1. 光周波数の変化

今度は、干渉計の右端の反射鏡での光の反射について考察してみましょう。干渉計の静止系\(K'\)で見れば、反射前の波数ベクトルは、 \(\left( k_0, k_0,0,0\right)\) また、反射後のそれは、\(\left(k_0, -k_0, 0, 0\right)\) であることは明白です。これを 系\(K\)で見れば、全問と同じく、反射前の光は、

(7.25)\[\begin{split}\begin{cases} \frac{\omega}{c} &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} k_0\right) = \gamma\left( 1 + \frac{v}{c} \right) k_0\\ k_x &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} k_0\right) =\gamma\left( 1 + \frac{v}{c} \right) k_0\\ k_y &= k_z = 0 \end{cases}\end{split}\]

です。反射後の光については、

(7.26)\[\begin{split}\begin{cases} \frac{\omega}{c} &= \gamma\left( k_0 + \frac{v}{c} (-k_0)\right) = \gamma\left(1-\frac{v}{c}\right) k_0 \\ k_x &= \gamma\left( (-k_0) + \frac{v}{c} k_0\right) = - \gamma\left(1 - \frac{v}{c}\right) k_0 \\ k_y &= 0 \\ k_z &= 0 \end{cases}\end{split}\]