English | Japanese

演習テーマ

演習は希望する演習コースのうち一課題のみを実施します。

A. 中性子非弾性・準弾性散乱を用いたダイナミクス研究

中性子非弾性・準弾性散乱法とは、物質と中性子のエネルギーのやり取りを精密に測定することにより、原子・分子・スピン(原子磁石)の微視的な運動(ダイナミクス)を調べる実験手法です。このような原子やスピンのダイナミクスは、物質の固さ、音や熱の伝搬、磁性、拡散といった物質の基礎特性を支配していることから、中性子非弾性・準弾性散乱による測定は物質科学の研究において極めて重要です。

A-1 中性子非弾性散乱を用いた格子のダイナミクス研究– BL01

本演習では、中性子非弾性散乱法の基礎について講義を行うとともに、チョッパー型中性子分光器(4SEASONS)を用いて、単結晶中の原子が示す振動の様子(フォノン)を観測します。そのデータの解析を通じて、原子間に働く力が中性子のデータではどのように見え、それが物性とどのように結びつくかを学びます。

A-2 中性子準弾性散乱を用いた水素イオンのダイナミクス研究– BL02

本演習では、中性子準弾性散乱法の基礎について講義を行うとともに、高分解能分光器(DNA)を用いて、燃料電池材料における水素イオンのダイナミクスを測定し、そのデータ解析法について学びます。

A-3 中性子非弾性・準弾性散乱を用いた液体のダイナミクス研究 – BL14

本演習では、中性子非弾性散乱および中性子準弾性散乱法の基礎について講義を行うとともに、冷中性子ディスクチョッパー型分光器(AMATERAS)を用いて、分子液体のスローダイナミクスを測定し、そのデータ解析法について学びます。

B. 中性子反射率測定を用いた表面及び界面の研究 – BL16

中性子反射率法とは、試料表面で反射された中性子のプロファイルから、数nm~数百nmスケールの界面構造を評価する実験手法です。特に、J-PARC/MLFの強力なパルス中性子を用いることにより、以下のような実験を行うことができます。

  • 同位体置換(重水素置換など)により観測したい箇所のラベリングが可能。
  • 中性子の高い透過率を利用し、深く埋もれた界面の構造を観察することが可能。
  • 白色中性子を用いているため、一度に広いQ空間を走査することが可能。
  • 高強度の中性子源を利用することにより、短時間(数十秒~数分)での時分割測定が可能。
  • 2次元検出器による多次元構造解析が可能。

本演習では、中性子反射率法の基礎について講義を行うとともに、中性子反射率計(SOFIA)を用いて、有機薄膜の反射率測定を行います。その後、Parrattの式によるデータ解析について演習を行います。

C. 中性子小角散乱を用いた物質の構造研究 – BL15

中性子小角散乱法とは、物質内部のサブナノメートルからミクロンスケールの構造を解析する手法です。J-PARCには、大強度パルス中性子ビームを利用したパルス中性子小角散乱装置“大観(TAIKAN)”が設置され、電子・磁性、ソフトマター・化学、バイオ・ライフ、構造、環境・エネルギー等の分野で利用されています。

本演習では、この“大観(TAIKAN)”を題材に、

  • パルス中性子小角散乱法の特徴
  • X線小角散乱法や定常ビームを利用する中性子小角散乱法との共通点や違い
  • 試料サイズ、試料セル、試料環境
  • 偏極中性子小角散乱法の特徴

について講義で学ぶとともに、種々の試料(金属、ナノ粒子、ゲル、蛋白質分子等)の比較測定を行いながら、試料内部の構造の違いによる散乱プロファイルの違いやデータ解析法について学びます。

D. 中性子単結晶回折を用いた構造解析研究

中性子単結晶回折とは、単結晶試料を用いて散乱された回折ピークを解析することにより、試料の結晶構造を調べる手法です。物質の性質はミクロな原子の並びと密接な関係があります。したがって、タンパク質に代表される生体物質の機能や、無機材料の磁性や誘電性の発現を理解するためには、原子の並びを明らかにすることが非常に重要です。中性子を用いた単結晶構造解析は、精度良く軽元素の位置を決定することができるため、水素原子や酸素原子等が機能発現に大きく関わっている物質の構造研究に多く利用されています。

D-1 単結晶を用いた中性子構造解析研究: 生体高分子物質 – BL03

本演習では、BL03(iBIX)を用いた中性子単結晶構造解析の基礎について講義を行うとともに、測定実習およびデータ処理、構造解析実習を行う予定です。なお、iBIXでは、生体高分子物質を対象にした実習を行います。

D-2 単結晶を用いた中性子構造解析研究: 無機物/低分子物質 – BL18

本演習では、BL18(SENJU)を用いた中性子単結晶構造解析の基礎について講義を行うとともに、測定実習およびデータ処理、構造解析実習を行う予定です。なお、SENJUでは、無機物/低分子物質を対象にした実習を行います。

E. 中性子粉末回折を用いた構造研究 – BL20

中性子粉末回折とは、多結晶試料を用いて散乱された回折ピークを解析することにより、試料の結晶構造を調べる手法です。とてもわずかな原子配列の違いが、物性に大きな変化を与えることがあるため、物性研究や新材料の開発において、結晶構造と物質の性質の関係を調べることは極めてに重要です。

本演習では、中性子粉末構造回折の基礎について講義を行うとともに、汎用粉末中性子回折装置(iMATERIA)を用いた測定およびリートベルト解析について演習を行います。

F.  中性子回折を用いた工学研究 – BL19

中性子回折を用いた工学研究では、中性子粉末回折手法を基本として、装置レイアウトの工夫および中性子回折パターンのブラッグピークの丁寧な解析により、内部応力、構成相状態、集合組織等のような、試験体の重要な構造を取り出すことが可能です。このような情報は工学応用において極めて重要であり、中性子回折を用いることにより、高精度でex-situまたは様々な条件下でのその場観察が可能となります。

本演習では、中性子回折を用いた工学研究の基礎について講義を行うとともに、中性子回折計(TAKUMI)を用いた測定、およびデータ解析について演習を行います。

G.  ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(µSR) – D1

ミュオンスピン回転/緩和/共鳴(µSR)とは、スピン偏極したミュオンを物質中に注入し、ミュオンスピンの感じる内部磁場の大きさや揺らぎを実時間で捕らえることにより、

  • 物質の磁性や超伝導性
  • 物質中の水素原子/イオンの状態や挙動

に関する情報を得る手法で、核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(ESR)と並ぶ有力な物性研究手段です。

本演習では、ミュオン分光器(D1)を用いた測定、およびデータ解析について演習を行います。µSRの基礎についての講義もあるので、初学者でも問題ありません。

H.  中性子捕獲反応断面積の測定研究 – BL04

中性子捕獲反応断面積は、中性子が原子核に吸収される反応の起こり易さを表す物理量で、中性子の輸送計算や原子炉の設計、核廃棄物の評価に非常に重要な値です。しかし、実際に使用されている評価済み断面積データには誤差の大きいものや間違いがある核種がみられ、これが計算の結果に誤差を与えてしまいます。中性子核反応実験装置(ANNRI)を用いれば、高精度の断面積データを得ることが可能です。

本演習では、中性子捕獲反応断面積および断面積測定の基礎的な講義を行うとともに、ANNRIを用いた錫の中性子捕獲反応断面積の測定、測定結果の評価済み核データとの比較を行います。