用語解説

J-PARC(大強度陽子加速器施設)関連用語集


物質・生命科学研究及び施設の関連用語

【あ】

  ISIS(アイシス)
  英国のラザフォードアップルトン研究所(RAL)が所有しているパルス中性子源実験施設。名前の由来は、古代エジプトの女神「イシス」からである。陽子エネルギー0.8GeV(800MeV)、出力160kW。J-PARC、SNSが建設されるまでは、パルス中性子源としては、世界一の中性子強度を有する施設であった。
  なお、 ISISでは2007年12月に第2ターゲット施設が運転を開始した。陽子エネルギー0.8GeV(800MeV)、出力は48kWとあまり高くないが、パルスの数を間引いて1パルスあたりの強度を高め、長波長の中性子を利用した実験に有利な特徴を有している。
  アキュムレータ
  J-PARC核破砕中性子源の極低温水素循環システムに設置した、システム内の水素圧力を一定に保つための緩衝装置。核破砕中性子源では中性子のエネルギーを下げるために約250リットルの液体水素を使用している。液体水素は、高エネルギー陽子ビームの入射/停止により熱膨張/熱収縮による体積変化を繰り返す。その変化を吸収してシステム内の圧力を一定に保つことが必要なため、アキュムレータを利用している。
  一般に用いられているアキュムレータとは、気体や液体などを一時的に貯めておき需要と供給のバランスをとる緩衝装置のことである。

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【え】

  SNS(エス.エヌ.エス)
  米国のテネシー州オークリッジ国立研究所に建設されたパルス中性子源。Spallation Neutron Source(核破砕中性子源)の頭文字を取ってSNSと称される。
  陽子エネルギー1GeV、中性子源の出力は1.4MW。予算1.41B$(約1,550億円)で2000年度に建設着手、2006年から稼動を開始した。2008年4月に300kWの出力を達成し、ISISの出力を上回って世界最高出力の中性子源となった。

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【お】

  オルソ・パラ変換器
  水素分子は2つの水素原子からなる。水素原子の原子核はスピンと呼ばれる状態をもち、2つの水素原子核のスピンの向きが平行な場合をオルソ水素、反平行な場合をパラ水素と呼ぶ。オルソ水素とパラ水素には化学的性質に違いは無いが、物理的性質(比熱、熱伝導率、核的相互作用など)に違いがある。
  J-PARC核破砕中性子源で中性子を冷やす(エネルギーを下げる)ために用いる液体水素にはパラ水素が適している(パラ水素の方がオルソ水素に比べてエネルギーが低い(-14.7meV)ため)。そこで中性子源の極低温水素循環システムでは、運転中に液体水素を連続的にオルソ・パラ変換器に通し、触媒作用によりオルソ水素をパラ水素に変換している。

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【か】

  核破砕反応
  加速器などを用いて約1億電子ボルト(100MeV)以上の高エネルギーにまで加速した陽子を、水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン、炭素等の標的に入射すると、高エネルギー陽子が標的中の原子核と激しく衝突し、そのエネルギーで標的の原子核をバラバラにする。バラバラになった原子核から中性子、中間子などの多数の2次粒子が放出される反応を核破砕反応と呼ぶ。
  核破砕中性子源
  核破砕反応により多量の中性子を放出させ、それを種々の実験に利用するための中性子源。原子炉などで原子核分裂による中性子源(原子炉中性子源)と比較して、パルスではあるが約100倍の強度を有する中性子を発生させることができる(パルス中性子源)。加速される陽子ビームの電圧(エネルギー)と、電流(陽子の数)の積が、発生する中性子の量に比例することから、核破砕中性子源の強度をワット(W)で表す場合が多い。J-PARCの核破砕中性子源強度は1MW(1000kW)。
  核破砕中性子源の中性子利用
  核破砕中性子源の核破砕反応により生成した高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)は、種々の実験に利用するにはエネルギーが高すぎ(物質を透過してしまうため反応しない)る。そこでモデレータ中の液体水素中を透過させることにより冷やし(エネルギーを下げ)、温度換算で-250℃程度の実験に適したエネルギー(数meV程度)にして、多様な中性子利用実験装置に中性子ビームとして供給する。
  J-PARCの中性子利用実験装置では中性子ビームを利用した様々な実験が行なわれ、ライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など、広範な分野の研究展開が期待されている。

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【き】

  極低温水素循環システム
  J-PARCの核破砕中性子源において、およそ-253℃(20K)、15気圧(1.5MPa)の極低温水素(液体水素)を生成し、中性子源中心部に設置したモデレータまで極低温水素を供給するための冷凍システム。
  極低温水素は、核破砕反応によって生成した高エネルギー中性子を冷やす(エネルギーを下げる)ために使用される。

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【け】

  ゲノム
  生物体の細胞の中に存在する遺伝情報の総体で、この中には遺伝子と遺伝子の発現を制御する情報などが含まれている。タンパク質と遺伝子はいわば製品とその設計図の関係にあり、ゲノム上には設計図のほか、製品の製造を管理・制御している部位が存在している。また、生物の機能維持に何らかの影響を及ぼしていると考えられる領域もかなりの割合で存在している。
  その構成は生物の種に固有であり、人間を人間としている遺伝情報の総体であるヒトゲノムは、約30億塩基のDNA=デオキシリボ核酸からなり、24本の染色体に分配されている。
  ゲノム科学
  ゲノム、遺伝子、タンパク質との三位一体の研究により、高い次元での生命現象の把握を目指す科学の総称をゲノム科学と呼ぶ。これらを明らかにしていくことによって、生命現象のより正確な把握が可能になると考えられている。「全てのゲノムの塩基配列を決定してしまおう」というプロジェクトが、ヒトを含めた様々な生物を対象として実施されている。
  減速材
  「モデレータ」の項を参照。

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【こ】

  高温超伝導
  物質の電気抵抗が0(ゼロ)となる現象を超伝導と呼ぶ。抵抗が無いため、一度流した電気がずっと流れ続ける、遠方まで送電しても電力の損失が無い、強力な磁力を発生させることができるなど、今後のエネルギー問題を解決するひとつの手段として注目されている。
  超伝導状態は、材料を液体ヘリウムなどで絶対零度(-273℃)近くまで冷却した極低温で起きる現象であるが、液体窒素(-196℃)、あるいはそれ以上の温度でも超伝導状態になる物質が発見され、これらを高温超伝導物質と呼んでいる。どうして高温超伝導状態が起きるのかを、中性子などを利用して物質の原子配列やそのメカニズムを解析し、明らかにしようとする研究がJ-PARCでも進められている。
  高温と言ってもまだマイナス200℃近い温度であるが、研究が進み、もしこれが例えば室温付近でも起こるような高温超伝導材料が開発されれば、材料を冷却する必要は無くなり、応用範囲などが飛躍的に広がる。リニアモーターカーの実用化や、世界的な電力ネットワーク構築なども期待されている。

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【さ】

  残留応力
  材料に外力を加えて変形させ、その外力を取り除いた後にも材料内部に残る力。材料の亀裂や破壊の原因となる。ミクロ的には、X線や中性子線などを利用して材料の原子配列の乱れを調べることで、残留応力を計測できる。
  特に中性子はX線に比べて透過能力が高いため、材料内部の残留応力を計測することができ、残留応力を詳細に調べることで、構造物の非破壊検査や、高品質構造材料開発など、産業利用分野での応用が期待されている。

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【し】

  J-PARC(ジェイパーク)
  J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で建設・運営を行っている最先端科学研究施設。
  茨城県東海村のJAEA原子力科学研究所内、約65haの敷地に3台の大型陽子加速器と各種の実験研究施設が設置されている。加速器で光速近くまで加速された大強度陽子ビームを、標的である金属や炭素などの原子核と衝突させて、原子核破砕反応により大量の中性子や中間子、ミュオン、ニュートリノなどの粒子を発生させる。実験研究施設ではこれらの粒子を利用して原子や原子核の世界を調べ、最先端の原子核・素粒子物理研究や、タンパク質の構造解析や材料研究、核変換技術研究などが行われている。
  JRR-3(ジェイアールアール3)
  日本原子力研究開発機構原子力科学研究所内にある研究用原子炉。我が国初の国産研究炉として1962年に初臨界を迎えたが、1985年より高性能化のための改造工事を行った。改造後の原子炉は1990年の初臨界を経て最高熱出力20MWで運転を開始した。
  我が国で最も強力な中性子を発生する研究用原子炉として、微量元素分析や中性子構造解析、ラジオグラフィや即発ガンマ線分析などの研究が行われているほか、大口径(直径150mm)高性能シリコン半導体の製造、がん治療などに使用する医療用アイソトープ(イリジウム192、金198など)の製造にも利用されている。
  中性子利用ビームポートは炉室内に7本、ビームホール内に5本設置され、それぞれに計測・実験装置が設置されている。最大熱中性子束は3.0×1018m-2・秒-1、炉室内熱中性子導管端熱中性子束は1.0×1013m-2・秒-1、ビームホール内熱中性子導管端熱中性子束は1.2×1012m-2・秒-1、同冷中性子束は2.0×1012m-2・秒-1。運転は1サイクル26日間で年間6〜7サイクル運転する。
  シャッター
  中性子ビームラインの上流部に設置されている、重さ約40トン、厚さ約2mの鉄製の仕切り板。
  J-PARCの核破砕中性子源では、陽子ビームが標的に衝突する度に中性子が発生しているが、中性子ビームラインで実験試料を交換する場合などは、中性子の供給を遮断しなければならない。シャッターを閉めることで、ちょうど水道の蛇口を閉めるように、ビームラインに供給される中性子を遮蔽することができる。シャッターには中性子を通す孔が開けられており、シャッターを上下させてこの孔をビームラインと同じ高さにすることによって、その孔をすり抜けた中性子をビームラインに供給するようになっている。
  またシャッターの開閉により、1本1本のビームラインが独立に実験できるようにもなっている。
  収束ガイド管
  低エネルギー中性子を反射させる中性子ガイド管をテーパー状(弧を描くように曲げた状態)に配置し、中性子を反射させて収束させ、中性子強度を高めるための機器。

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【す】

  水素吸蔵合金
  パラジウム、チタンやニッケル、鉄、マンガン系の合金で、水素を大量に吸収し貯蔵する性質を持っている金属。吸蔵できる量がその金属の固体容積の1000倍にも達するものもある。水素の安全な貯蔵や運搬に有効なため、将来のエネルギー源として期待される水素電池(燃料電池)や水素燃料貯蔵に利用することが考えられる。
  J-PARCでは、中性子やミュオンが水素に対する感受性が高い(X線よりもよく観察することができる)という性質を利用して、水素吸蔵合金の物性や原子構造を明らかにし、実用化に向けた研究を進めている。
  水素強制循環方式
  核破砕中性子源のモデレータに水素を供給する方法には、強制循環方式と自然循環方式の2つがある。強制循環方式ではポンプによって水素を送り出し、中性子源中心部のモデレータへと連続的に水素を循環させる。一方、自然循環方式ではサイフォンの原理を利用する。つまり中性子源外部で水素ガスを冷却し、液化した水素が重力によりモデレータ内に溜まる。
  J-PARCの核破砕中性子源では、モデレータ部の発熱が大きく、連続して除熱する必要があるため、強制循環方式を採用している。

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【せ】

  生物単結晶回折装置
  生体物質や有機物質などの単結晶構造を反映した中性子の干渉パターンを解析することにより、蛋白質や有機化合物の原子配列情報を解析する装置。

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【そ】

  ソフトマテリアル
  金属、半導体のような硬い物質に対比して柔らかい物質。代表的なソフトマテリアルとしては、高分子(プラスチック)、ゴム、高分子ゲル、液晶などがある。繊維や生体膜・DNAなどの生体分子もソフトマテリアルに含めることもある。

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【ち】

  中性子
  陽子とともに原子核を構成する粒子(核子)のひとつ。水素の原子核である陽子とほぼ同じ質量を持ち、電気的には中性である。また、微小磁石としての性質(磁気能率(モーメント))も持つ。
  物質の構造やダイナミクスの研究などにも用いられ、物質内への透過力が高い、水素などの軽い原子や物質の磁気的性質(磁性)に対し敏感、などの特徴がある。
  J-PARCでは中性子を利用して、タンパク質の構造解析や創薬研究などの生命科学研究や、材料構造解析や次世代電池や磁性材料開発研究などの物質科学研究を行っている。
  中性子ガイド管
  ニッケル薄膜やスーパーミラー(Ni/Ti多層膜)をガラス基板に蒸着した矩形のガラス管で、低エネルギー中性子を反射することによって、中性子源から実験装置まで中性子を輸送する機器。
  光ファイバーが、外部へ逃げようとする光を内側に反射させて遠くへ送るように、中性子ガイド管も中性子を反射させて実験装置へ送る。
  J-PARCでは研究と技術開発により従来の約6倍の効率を持つ中性子ガイド管を製作し、中性子ビームラインに利用することで、さらに高い効率での中性子利用実験を可能にしている。
  中性子科学
  中性子ビームを工学、理学、医学、生物学等の広範囲な科学分野へ利用する学問分野をいう。
  中性子散乱
  物質に中性子を照射したとき中性子が原子核にいったん捕獲されたり(核散乱)、また中性子の磁気特性と物質内の磁場との相互作用(磁気散乱)で散乱される現象。
  この現象を詳細に捉えることで、物質中の原子状態や原子配列などを明らかにすることができる。
  中性子スペクトル
  中性子のエネルギー分布のこと。
  中性子ビームライン
  原子炉や加速器中性子源から中性子をビーム状に取り出して利用するための装置で、中性子実験装置とも言う。十メートルから百メートル程度の中性子導管と遮蔽体からなるライン状の部分と、試料に当たって散乱・透過する中性子の測定器が試料を取り巻くように配置される計測部から構成される。
  超臨界流体
  物質は、一般に固体、液体、気体のいずれかの状態であるが、温度と圧力を上げていき、ある時点(臨界点)を越えると、液体のように物質を容易に溶解し、気体のように大きな拡散速度を示す、液体と気体の両方の性質をもつ状態になる。この物質を超臨界流体とよぶ。
  J-PARC核破砕中性子源のモデレータとして水素を使う場合、水素密度が低いと中性子強度も低くなるため、気体は適していない。液体水素を使う場合、放射線による発熱で液体水素が沸騰し、気体水素が生じて中性子強度が低下する可能性がある。そこで超臨界水素を使用することにより、急激な水素密度変化をなくし、安定した中性子ビームを供給することができる。
  チョッパー分光器
  中性子のエネルギーを、チョッパーを用いて選択して試料に入射させ、中性子のエネルギー・運動量の変化を観測することにより物質のダイナミックスを測定する装置。
  チョップ(chop;「空手チョップ」などでも使う)とは、切って短くすること。連続的な中性子のエネルギーを細かく切って分解することで、それぞれの試料を観察するのに適したエネルギーの中性子を選べるようにしている。
  J-PARCでは、一部に細い隙間(スリット)を空けた直径50cmほどの厚い鉄の円盤(ディスクチョッパー)が、外周が音速に近い速さになるような高速で回転している。連続的なエネルギー(スピード)を持つ中性子のうち、その隙間を瞬間的にすり抜けられるのは、エネルギーが揃っているものだけになる。またチョッパーの回転速度を変えることで、中性子のエネルギーを選択することもできるようになっている。

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【て】

  定常中性子源
  定常的に中性子が発生する中性子源。原子炉での核分裂反応を利用した中性子源の多くは定常中性子源となる。対語としてパルス中性子源を参照。
  T0(ティーゼロ)チョッパー
  ターゲットからパルス的に発生する高エネルギー中性子を、パルスに同期させて重量体を回転させることにより遮蔽し、測定装置のバックグランドを軽減するための機器。
  ディスクチョッパー
  ターゲットから発生する低エネルギー中性子のエネルギーを選択するため、窓付き(細い隙間のある)中性子吸収体を高速で回転させる機器。

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【と】

  特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律
  特定先端大型研究施設の共用を促進するための措置を講ずることにより、研究等の基盤の強化を図ると共に、研究等に係る機関及び研究者等の相互交流による研究者等の多様な知識の融合を図り、もって科学技術の振興に寄与することを目的としている。現在、次世代スーパーコンピュータ、SPring-8、X線自由電子レーザーが対象施設となっている。

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【ね】

  熱中性子
  中性子はそのエネルギーによって低い順から冷中性子、熱中性子、熱外中性子、高速中性子などと呼ばれる。熱中性子は数十meV〜数百meVのエネルギーを持つ中性子のことをいう。
  J-PARCでは、モデレータを利用して数十meVのエネルギー(秒速数km〜数百mのスピード)の熱中性子、冷中性子を中性子科学実験に利用している。
  燃料電池
  水素と酸素の化学反応によってエネルギーを取り出す装置。小型でも高効率が期待され、排出物も水だけなのでクリーンであるため、次世代の分散型エネルギー源として注目されている。
  水を電気分解すると水素と酸素に分かれるが、燃料電池はその逆の反応で水素と酸素から電気と水を生み出すものである。アポロ宇宙船などの電力は燃料電池によって生み出されていた。
  中性子は水素や酸素などの軽元素、あるいは水などを観察する能力に優れているため、J-PARCの中性子を利用して、より高効率の燃料電池の開発や研究などの進展が期待されている。

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【は】

  バッファタンク
  液体や気体を一時的に貯めておくためのタンク。
  パルス中性子源
  パルス状の中性子を発生させる中性子源。J-PARCなどのようなパルス状に陽子を加速する加速器を利用した中性子源では、陽子ビームがターゲットに入射するタイミングに合わせて中性子を発生させるため、パルス中性子源となる。(参照「定常中性子源」)
  パルス中性子ビーム
  ある一つの集団を形作って移動する中性子群で、細く絞られた形になっているものを中性子ビームと呼ぶ。J-PARCのように通常加速器から発生される中性子は、大強度な陽子ビームによって標的が核破砕反応を起こした時に発生するが、陽子ビームがパルス状(J-PARCの場合0.04秒に1パルス)であることから、発生する中性子もパルス状になるためパルス中性子ビームと呼ばれる。
  原子炉から発生する中性子は核分裂によって発生するため、連続的に絶え間なく流れてくる中性子群になっている。
  反射体
  J-PARCでは、中性子ターゲットで発生した中性子を効率良く減速材に集めるため、ターゲットと減速材を取り囲むように中性子を反射させる反射体(中性子反射体)が設置されている。
  反射体にはベリリウム、黒鉛(グラファイト)、鉛、鉄などが使用される。J-PARCの核破砕中性子源では、反射体は内側のベリリウムと外側のステンレス(またはアルミニウムで被覆した鉄)で構成され、内部の発熱を取り除くために水冷されている。反射体の使用により、モデレータから取り出される中性子の強度は、約10倍に増幅される。

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【ひ】

  ピーク強度
  ビーム強度を参照。
  ビーム強度
  一定時間内にターゲットや計測装置などの、ある面を通過する粒子の数。ビームがパルス状に生成される場合、そのパルス内の瞬間的な最大粒子数をピーク強度、パルス内に含まれる粒子の数をパルス強度、時間的に平均した強度を(時間)平均強度、実験に使われた全粒子数を表すときなどにはその積分値を(時間)積分強度と呼び、区別している。
  ピームダンプ
  加速されたビームの最終目的地。標的との相互作用による2次粒子生成等の目的に利用できなかったビームを破棄するところ。

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【ふ】

  フェルミチョッパー
  中性子源から発生した広エネルギー範囲の中性子から実験に適した低エネルギー中性子を高精度で選択するための機器。湾曲したビーム通過チャネル付の吸収体で構成される。
  物質・生命科学実験施設(MLF)
  物質・生命科学実験施設(MLF: Materials and Life Science Experimental Facility)は、中性子およびミュオンを利用して、物質科学や生命科学などの研究を行う実験施設。建物は長さ約140m、幅70m、高さ約30mあり、ジャンボジェット機が2機収納できるほどの巨大な実験施設である。1MWの大強度陽子ビームを水銀の標的に衝突させ、原子核破砕反応により発生するパルス中性子を、23本設置される中性子利用ビームラインに導く。パルス中性子源の強度は同様の施設である米国のSNSを上回り、世界最高強度を実現している。この高強度中性子が材料の内部応力解析やタンパク質構造解析など、物質科学研究や生命科学研究に利用される。また炭素標的から発生するミュオンも世界最高強度を実現しており、磁性構造解析や材料分析などに利用される。
  フラーレン
  60個の炭素原子が12個の五員環(炭素5原子からなる環)と10個の六員環を構成し、サッカーボール状の3次元中空分子となったもの。ダイヤモンドや黒鉛と同様に炭素の同素体で、直径は0.71nm である。1970年に大沢映二がその存在の可能性を理論的に予言し、1985年にクロトーとスモーリー(96年、カールとともに3人でノーベル化学賞受賞)らがヘリウム中でレーザー照射した黒鉛を質量分析器にかけて発見した。1990年、クレッチマーがC60の量産方法を確立し、以後化学的性質の研究が進んだ。分子の中空部分にアルカリ金属を注入すると絶対温度18K以上でも超伝導性を保つことから、高温超伝導物質として注目された。
  プリモデレータ
  核破砕中性子源で発生した中性子を効率よく減速材に供給するために用いられる装置。中性子を予め減速する(エネルギーを下げる)機能を持つ。また中性子強度を増加させ、核発熱を軽減する効果も合わせ持っている。
  水素を用いるモデレータでは、メタンなどを用いた場合に比べ含有水素密度が小さく減速能力が低いため、中性子強度が低くなってしまう欠点がある。またモデレータ内部の発熱も大きくなる。このような欠点を補うため、含水素密度の高い物質であらかじめ中性子を減速させるプリモデレータを導入することで、中性子特性の向上と熱の軽減を図っている。プリモデレータに使用される材質は、主に軽水または重水である。また反射体の材質によって、プリモデレータの効果は大きく変わり、中性子減速効果の小さい鉛などには有効であるが、ベリリウムなどは効果が低い。
  粉末回折装置
  金属、有機物などの粉末試料の結晶構造を反映した中性子の干渉パターンを解析することにより、結晶の原子配列、内部ひずみなどを測定する装置。

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【ほ】

  放射化分析
  試料に放射線を照射して放射性核種を作り(放射化)、その放射性核種が安定核種に戻る際に放出する放射線を分析することで試料に含まれる元素の量を分析する手法。
  放射光
  電子、陽電子等の高エネルギーの荷電粒子が磁場中で軌道を曲げられるときに軌道の接線方向に電磁波(光)を出す現象を「シンクロトロン放射」と呼び、そのとき放出される光をシンクロトロン放射光あるいは単に放射光と呼ぶ。指向性が高く輝度が高いのが特徴。
  加速器は荷電粒子の加速を目的としているが、シンクロトロンなどの円形の軌道で粒子を周回させる加速器では、偏向電磁石で粒子の軌道を曲げる度に放射光が発生し、折角加速したエネルギーが失われてしまう。そのため「厄介な光」として嫌われていたのだが、放射光の指向性、輝度が優れていることから、これを物性研究などに利用することが考えられ、粒子を加速することよりも放射光を発生させることを目的とした加速器(放射光専用施設)も建設されている。兵庫県にあるSPring-8や、高エネルギー加速器研究機構のPF(フォトンファクトリー)などである。
  放射光の発生は、荷電粒子の質量の4乗に反比例するため、質量の小さい粒子(例えば電子など)ほど放射光の発生が多い。J-PARCで加速している陽子は電子の約2千倍の質量があるので、電子に比べると放射光の発生は10兆分の1以下であり、加速エネルギーが失われる影響は非常に小さい。
  膨張タービン
  一般に冷蔵庫やエアコンなどの冷凍機では、気体を圧縮機で圧縮して冷却し、その後急速に膨張させることにより、低温を得る。膨張タービンは、圧縮気体を急速膨張させる過程で圧縮気体自身によってタービンを回し、気体の運動エネルギーを外部に与えることによって気体自身が持つエネルギーを低下させ、より低温を得るための装置のことである。
  J-PARC核破砕中性子源の極低温水素循環システムに設置された冷凍機では、-250℃の大流量液体水素を生成するために、膨張タービンを使用している。
  ポストゲノム科学
  ゲノム解読は単にゲノムの全塩基配列を決定することであり、ポストゲノム科学とは、個々の遺伝子がどこにあるか、さらにそのはたらきが何であるかなどをゲノムの情報を基盤に理解し、生命の原理を明らかにすることである。ポストゲノム科学では、創薬など新産業の創出が期待されている。
  1980年代の終わりに始まったヒトゲノム計画では、ヒトをはじめ数多くの生物種においてゲノムを明らかにする研究が行われ、2003年にヒトゲノムの解読は完了した。しかしこれは、単にゲノムの全塩基配列が決定されたということであり、個々の遺伝子がどこにあるか、さらにそのはたらきが何であるかが、直ちに明らかになるわけではない。言ってみればゲノムがどのような暗号配列を持っているかが明らかになっただけであり、その暗号がどのような意味を持つのかを解読するのはこれからである。
  ゲノムの情報を真の意味で解読するためには、個々の部品(遺伝子)の集まりからシステム全体(細胞あるいは生物個体)が再構築できるかどうかを調べ、「生命のはたらきをシステムのはたらきとして理解する」ことが必要である。

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【ま】

  マイクロマシン
  微細で複雑な作業を行うために大きさ数μm以下の高度な機能・要素から構成された微小な機械。患者の肉体的苦痛の少ない、高度で精緻な医療技術を必要とする医療福祉分野で、微細かつ複雑な作業ができるマイクロマシンの必要性が高まっている。

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【み】

  ミュオン
  ミュー粒子とも呼ばれる。電子と同じくレプトンの一種で電荷とともに磁気能率を持つが、質量は電子のおおよそ200倍である105.7MeVである。高エネルギー陽子が標的核と反応を起こして発生するπ中間子(パイオン)の崩壊によって生成される。磁気能率を持つことや軽い陽子として振舞うことを利用して、物質の磁気的な性質や拡散現象の研究などに利用されている。

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【め】

  メタンハイドレート
  メタンガスが水分子の作る結晶格子の中に閉じこめられたシャーベット状の水和物。おもに大陸斜面の海底下200〜450m程度の深さにあるが、海域によっては海底上に露出する。日本周辺を含めて莫大な埋蔵量が見込まれ、エネルギー資源として期待される。

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【も】

  モデレータ
  核破砕中性子源や原子炉中性子源で発生したばかりの中性子は、エネルギーが高く(スピードが速く)、物質を透過する能力は高いが、原子核などとの反応を起こしたり調べたりする利用実験には、多くの場合適さない。これらの高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)をマイナス250℃程度の実験に適した温度にまで冷やすための機器がモデレータ(減速材)である。
  J-PARCの核破砕中性子源では、モデレータ材料として極低温水素を利用している。

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【よ】

  陽子ビーム窓
  物質生命科学実験施設・ビーム輸送装置の真空ダクトの末端の外側には、ヘリウムが充填された中性子ターゲット装置がある。このヘリウムが真空ダクトに流れ込まないようにする仕切りが陽子ビーム窓である。陽子ビームは陽子ビーム窓を通過して中性子ターゲット装置に入射する。陽子ビームの通過により陽子ビーム窓は発熱するため水を流して冷却する。

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【ら】

  ラジオグラフィ
  物質によって放射線の吸収、透過の大きさに差があることを利用し、放射線を試料に照射してその透過像を撮影することで試料内部の構造や欠陥を調べる方法。

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【り】

  リソグラフィ
  リソグラフィは、古くは石版上に脂性インキやクレヨンで字や絵を書いて得られる石版画のことを指していた。現代では特に、集積回路の製造に用いる手法を指している。
  シリコン板をレジストと呼ばれる光や電子に感じる膜で一様に覆い、特定のパターン用原版を通して、所定の表面部分を露光源(光、X線または電子ビームなど)で照射する。照射後、通常の現像処理などで処理すると、光の当たった部分と影の部分で表面の状態に差が生じ、それを薬品などで処理すると細い溝などを刻むことができる。ミクロン(1/100mm)単位で素子や配線を刻む高集積度半導体の製造などには欠かせない技術である。
  さらに細い線などを刻むため、感光レジストを走査型電子顕微鏡の真空室中に置き、コンピュータ制御の電子ビームでパターンを焼き付ける電子線リソグラフィという方法も開発されている。
  量子ビーム
  高エネルギー陽子を標的核に衝突させると、2次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどが発生する。J-PARCの実験施設では、これら「量子」と総称される粒子をビームとして利用する。
  量子ビーム、量子ビームテクノロジー
  加速器、高出力レーザー装置、研究用原子炉等の施設・設備を用いて、高強度で高品位な光量子、放射光等の電磁波や、中性子線、電子線、イオンビーム等の粒子線を発生・制御する技術、及び、これらを用いて高精度な加工や観察等を行う利用技術からなる先端科学技術の総称。
  J-PARCでは、高エネルギー陽子を標的核に衝突させ、核破砕反応により2次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどを多数発生させている。これらの粒子は「量子」と総称され、それぞれの量子を集積させたものを「量子ビーム」と称し、各実験施設で種々の研究に利用されている。