用語解説

J-PARC(大強度陽子加速器施設)関連用語集


用語の後ろについている分類は、それぞれ、
  (※:加速器研究及び施設
  (※:物質・生命科学研究及び施設
  (※:素粒子・原子核研究及び施設
  (※:核変換研究及び施設
  (※:その他の関連用語
を表す。

【た】

  大強度(陽子加速器) (※加)
  種々の研究に利用するための二次粒子を、核破砕反応によって多数かつ多種類発生させるためには、単位面積あたりの陽子の数が多い(これを大強度という)高出力ビームを原子核に衝突させる必要がある。陽子ビームの強度が大きいと、発生する二次粒子の強度も強くなり、利用する研究の幅を広げることができる。
  大強度陽子加速器施設(J-PARC) (※加)
  J-PARC(ジェイパーク)の項を参照。
  ターゲット(標的) (※加)
  2次ビームである中性子、中間子等を発生させるために陽子ビームを衝突させる物体。大強度の加速器では水銀や鉛合金などの比較的低い温度(常温を含む)で液体になる金属をターゲット材料として用い、大強度ビームにからの除熱、耐久性、耐放射線性などの課題に対処する。
  J-PARCでは、中性子発生用のターゲットに水銀、ミュオンやニュートリノ発生用に黒鉛(カーボン)、中間子発生用にニッケルを材料として使用している。
  多重バリアシステム (※換)
  高レベル放射性廃棄物を、長期聞にわたり生物園から隔離して放射性物質の移動を抑えることにより、処分された放射性廃棄物による影響が将来にわたって人間とその環境に及ばないようにするため、多層の防護系から成るシステム。工学技術により設けられる人工バリアと、天然の地層である天然バリアにより構成される。
  短寿命核(種) (※換)
  放射性核種は自然界に安定には存在できないため、他の原子核に短い時間で変換(崩壊)してしまう。また崩壊に伴って発生する放射線は時問とともに減衰していく。この放射性核種が放射線を出す期間を寿命とし、短期間で減衰してしまう核種を短寿命核種という。
  短寿命核種は一般的には半減期(放射線を出す能力(放射能)が半分になる時間)が30年以下の放射性核種をいうが、例えば1千分の1秒程度で変換してしまうものもある。

TOP

【ち】

  チェレンコフ現象 (※素)
  エネルギーの高い荷電粒子が水などの透明な物質を通過する際、その物質中における光の速度より速い速度を持っている場合に荷電粒子が青白い光(チェレンコフ光)を発する現象をいう。
  J-PARCはスーパーカミオカンデと共同でT2K実験を実施している。J-PARCから発射したニュートリノは、地球を通り抜けて約300km離れたスーパーカミオカンデに届く。スーパーカミオカンデでは、ニュートリノによって生み出されるチェレンコフ光を検出している。
  地層処分 (※換)
  高レベル放射性廃棄物の最終処分として、ガラス固化体を地下数百メートルより深い地層あるいは岩体中に隔離する方法をいう。処分後のいかなる時点においても人間とその生活環境が高レベル放射性廃棄物中の放射性物質による影響を受けないようにすることを目的とする。なお、英語の "geological disposal"に対して用いられている「地層処分」という用語の「地層」には、地質学上の堆積岩を指す「地層」と、地質学上は「地層」とみなされない「岩体」が含まれている。
  窒化物燃料 (※換)
  アメリシウム(Am)の窒化物やキュリウム(Cm)の窒化物を混合した原子炉の燃料。窒化物は熱伝導度が良好であり、様々な元素を混合することができるという特徴がある。
  窒素15 (※換)
  天然の窒素はほとんどが窒素14からなる。窒素14は中性子捕獲反応により、長寿命核種である炭素14を生成する。このため、核変換プロセスに窒化物燃料を使う場合には、天然の窒素に0.37%しか含まれない窒素15を高濃縮して使用する。
  中間子 (※素)
  1934年湯川秀樹博士が原子核論とベータ崩壊とを統一的に説明するため理論的にその存在を予言し、その後、実験的に発見された粒子。π中間子、μ中間子、K中間子などがある。メゾン、メソンとも呼ばれる。ハドロン(素粒子であるクォークの集合体)の一種でクォークと反クォークの対からなる。
  かつては、この粒子は陽子や中性子などの核子よりも軽く、電子よりも重い素粒子であることから、中間子と名付けた。現在は核子より重い中間子も発見されており、強い相互作用をする粒子(ハドロン)のうち、バリオン数が0の粒子を中間子と定義している。
  中間貯蔵 (※換)
  高レベル放射性廃棄物を地層処分するまでの間、放射能及び崩壊熱が減衰するまで、30〜50年間貯蔵することをいう。
  中性子 (※物)
  陽子とともに原子核を構成する粒子(核子)のひとつ。水素の原子核である陽子とほぼ同じ質量を持ち、電気的には中性である。また、微小磁石としての性質(磁気能率(モーメント))も持つ。
  物質の構造やダイナミクスの研究などにも用いられ、物質内への透過力が高い、水素などの軽い原子や物質の磁気的性質(磁性)に対し敏感、などの特徴がある。
  J-PARCでは中性子を利用して、タンパク質の構造解析や創薬研究などの生命科学研究や、材料構造解析や次世代電池や磁性材料開発研究などの物質科学研究を行っている。
  中性子ガイド管 (※物)
  ニッケル薄膜やスーパーミラー(Ni/Ti多層膜)をガラス基板に蒸着した矩形のガラス管で、低エネルギー中性子を反射することによって、中性子源から実験装置まで中性子を輸送する機器。
  光ファイバーが、外部へ逃げようとする光を内側に反射させて遠くへ送るように、中性子ガイド管も中性子を反射させて実験装置へ送る。
  J-PARCでは研究と技術開発により従来の約6倍の効率を持つ中性子ガイド管を製作し、中性子ビームラインに利用することで、さらに高い効率での中性子利用実験を可能にしている。
  中性子科学 (※物)
  中性子ビームを工学、理学、医学、生物学等の広範囲な科学分野へ利用する学問分野をいう。
  中性子散乱 (※物)
  物質に中性子を照射したとき中性子が原子核にいったん捕獲されたり(核散乱)、また中性子の磁気特性と物質内の磁場との相互作用(磁気散乱)で散乱される現象。
  この現象を詳細に捉えることで、物質中の原子状態や原子配列などを明らかにすることができる。
  中性子スペクトル (※物、※換)
  中性子のエネルギー分布のこと。
  中性子ビームライン (※物)
  原子炉や加速器中性子源から中性子をビーム状に取り出して利用するための装置で、中性子実験装置とも言う。十メートルから百メートル程度の中性子導管と遮蔽体からなるライン状の部分と、試料に当たって散乱・透過する中性子の測定器が試料を取り巻くように配置される計測部から構成される。
  中性子捕獲反応 (※換)
  中性子が原子核に捕獲吸収されて、γ線を放出する核反応(n、γ)のことをいう。中性子を捕獲した原子は質量数が1だけ増し、原子番号は変わらない。中性子捕獲によって一般に原子核は放射性を与えられることになる。高速増殖炉において炉心の周りに配置されたブランケット燃料のU-238は炉心からの高速中性子を効率よく捕獲吸収してPu-239をより多く作り出す役割をしている。
  長寿命核種 (※換)
  放射性核種の崩壊は無限に続くものではなく、それに伴って発生する放射線は時間とともに減衰していく。この放射性核種の放射能のある期間を寿命とし、長期間にわたって放射線を発する核種を長寿命核種という。
  一般的には半減期が30年以上の放射性核種をいう。(参考「短寿命核種」)
  超伝導空胴 (※加、※換)
  超伝導リニアックの主要な加速部である。超伝導状態となるひょうたん型の空胴であり、内部に蓄えられる高周波電力により荷電粒子を加速する。加速される荷電粒子の速度により形状が異なる。質量の軽い電子の場合はほぽ一定速度(光速)で加速されるため構造は簡単となり、これまでにも各国で実用化されている。一方、質量の重い陽子を加速する場合には速度がエネルギー毎に変化し、低エネルギー側では扁平な空胴形状となるため、構造設計が難しい。現在、先進各国で開発が競われている。
  超伝導リニアック (※加、※換)
  超伝導空胴を用いて陽子などの荷電粒子を加速する線形加速器(リニアック)。常伝導の場合と比べて電力効率が高いこと、ビーム管径を大きくできることなどが特徴である。電力効率が高いことはシステムのエネルギー効率を向上させることに寄与する。ビーム管径を大きくできることはビーム損失を抑制して加速器システムの漏洩陽子によるダメージを低減することに寄与する。
  超臨界流体 (※物)
  物質は、一般に固体、液体、気体のいずれかの状態であるが、温度と圧力を上げていき、ある時点(臨界点)を越えると、液体のように物質を容易に溶解し、気体のように大きな拡散速度を示す、液体と気体の両方の性質をもつ状態になる。この物質を超臨界流体とよぶ。
  J-PARC核破砕中性子源のモデレータとして水素を使う場合、水素密度が低いと中性子強度も低くなるため、気体は適していない。液体水素を使う場合、放射線による発熱で液体水素が沸騰し、気体水素が生じて中性子強度が低下する可能性がある。そこで超臨界水素を使用することにより、急激な水素密度変化をなくし、安定した中性子ビームを供給することができる。
  超ウラン元素(TRU元素) (※換)
  原子番号がウランよりも大きい元素のこと。TRU(Trans Uranium)とも呼ばれる。ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなどがある。天然には存在せず、原子炉や加速器の利用により人工的に作られたもので、半減期が数万年以上と長いものがある。
  チョッパー分光器 (※物)
  中性子のエネルギーを、チョッパーを用いて選択して試料に入射させ、中性子のエネルギー・運動量の変化を観測することにより物質のダイナミックスを測定する装置。
  チョップ(chop;「空手チョップ」などでも使う)とは、切って短くすること。連続的な中性子のエネルギーを細かく切って分解することで、それぞれの試料を観察するのに適したエネルギーの中性子を選べるようにしている。
  J-PARCでは、一部に細い隙間(スリット)を空けた直径50cmほどの厚い鉄の円盤(ディスクチョッパー)が、外周が音速に近い速さになるような高速で回転している。連続的なエネルギー(スピード)を持つ中性子のうち、その隙間を瞬間的にすり抜けられるのは、エネルギーが揃っているものだけになる。またチョッパーの回転速度を変えることで、中性子のエネルギーを選択することもできるようになっている。

TOP

【つ】

【て】

  定常中性子源 (※物)
  定常的に中性子が発生する中性子源。原子炉での核分裂反応を利用した中性子源の多くは定常中性子源となる。対語としてパルス中性子源を参照。
  T0(ティーゼロ)チョッパー (※物)
  ターゲットからパルス的に発生する高エネルギー中性子を、パルスに同期させて重量体を回転させることにより遮蔽し、測定装置のバックグランドを軽減するための機器。
  ディスクチョッパー (※物)
  ターゲットから発生する低エネルギー中性子のエネルギーを選択するため、窓付き(細い隙間のある)中性子吸収体を高速で回転させる機器。
  T2K(ティ−ツーケー)実験 (※素)
  J-PARCの50GeVシンクロトンによって大強度ニュートリノビームを作り、約295km離れた岐阜県神岡町の地下1000メートルに位置する東京大学宇宙線研究所の5万トン水チェレンコフ検出器、スーパーカミオカンデに打ち込み、ニュートリノの謎を解明する実験。東海(Tokai)、to(2)、神岡(Kamioka)の頭文字からT2K実験と呼んでいる。12カ国から約500名の研究者が参加しているが、そのうち日本人は1割程度である。
  J-PARCから発射したニュートリノは光速で地球を通り抜け、約300km離れたスーパーカミオカンデに1/1000秒後に到達し、蓄えられた5万トンの水の電子などと極まれに反応(衝突)する。衝突された電子などは光速に近い速さで移動するが、水中では光の速さは真空中の約3/4になるので、水中を進む光より早く移動することになる。
  その際、空気中を超音速で飛行するジェット機が衝撃波を出すように、水中で光速を超えて進む電子などは、チェレンコフ光という微弱な光をエネルギーとして放出してスピードが遅くなる。スーパーカミオカンデでは、このチェレンコフ光を周囲に設置された1万1千本の光電子増倍管で検出する。チェレンコフ光はニュートリノが飛んできた方向と反対側に円錐状に広がるため、ニュートリノが来た方向が解る。
  J-PARC構内には前置検出器があり、発射直後のニュートリノの状態を測定する。そして約300km離れたスーパーカミオカンデで測定した結果と比較検討することで、ニュートリノの謎を探る。
  J-PARCとスーパーカミオカンデとの位置合わせには、GPS衛星を利用している。またGPS衛星に搭載されている正確な時計も利用して、J-PARCとスーパーカミオカンデで同期させている。すなわち、J-PARCからニュートリノを発射したという信号を受けてから、1/1000秒後に、東の方向から来たニュートリノを捕らえたら、それはJ−PARCから発射したものと考えられる。
  電子ニュートリノ (※素)
  原子核がβ崩壊する際にβ線(電子)と共に生成するニュートリノ。
  電子ボルト(eV) (※加)
  eV(エレクトロンボルト)を参照。

TOP

【と】

  特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律 (※他、※物)
  特定先端大型研究施設の共用を促進するための措置を講ずることにより、研究等の基盤の強化を図ると共に、研究等に係る機関及び研究者等の相互交流による研究者等の多様な知識の融合を図り、もって科学技術の振興に寄与することを目的としている。現在、次世代スーパーコンピュータ、SPring-8、X線自由電子レーザーが対象施設となっている。
  毒性指数 (※換)
  放射性廃棄物に含まれる放射能が、法令で定められている年摂取限度の何倍に当たるかを示す指標。放射性物質に起因する潜在的な毒性を示す。
  トリウム(Th) (※換)
  原子番号90のアクチノイド元素の1つ。天然に存在するTh-232の半減期は 1.4×1010年である。Th-232は中性子を吸収すると、 β崩壊を経て核燃料物質であるU-233に転換する。