LINACリニアック 線形加速器
J-PARC の加速器施設のビーム入射器となるリニアックで、ピーク電流 50 mA という大電流の負水素 (H-) イオンを生成し、ビームとして加速しています。リニアックを構成するのは、主な装置は負水素イオンを生成するイオン源と高周波電場によりビームを加速する加速空洞です。加速空洞には、加速されるに従って速くなるビームの速度に応じて最も効率的にビームを加速できる電場を生成するために4 種類の構造 (RFQ, DTL, SDTL, ACS) を持ったものを採用しています。これらの加速空洞を使用することで、250 m 程の加速区間で負水素イオンビームを 400 MeV (メガエレクトロンボルト) まで加速し、後段の RCS にビームを受け渡しています。
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イオン源
リニアックでは、後段の RCS において荷電変換入射 (負水素イオンから電子を剥ぎ取って陽子イオンとして円形加速器にビームを入射する) を行うために、負水素イオンを加速しています。イオン源では、水素ガスと高周波電磁場との相互作用で生成した水素プラズマに対して、水素に電子を付加する作用のあるセシウム蒸気を添加することで負水素イオンを生成しています。イオン源内部で生成された負水素イオンは、50 kV の電場により初段の加速器である RFQ に向かってビームとして引き出されます。
RFQ (Radio Frequency Quadrupole Linac)
(高周波 4 重極線形加速器)
RFQ はイオン源から生成されたビームを高周波電場で加速する最初の加速器です。RFQ ではビームを加速するだけでなく、ビームが発散しないように集束させる、後続の高周波加速空洞で加速できるようにマイクロバンチと呼ばれる高周波電場と同期した時間構造をビームに与えるという複数の役割を担っていて、内部にある 4 つの電極でそれらを同時に行っています。この RFQ によりビームは 3 MeV まで加速され後続の DTL にビームを受け渡します。
DTL(Drift Tube Linac) ドリフトチューブ線形加速器
RFQ に続く区間では DTL と呼ばれる 3 つの加速器でビームを 3 MeV から 50 MeV まで加速しています。
DTL は 1 台あたり 10 m の長さのタンク内部にドリフトチューブと呼ばれる銅の円筒が並んでいます。この円筒の中心部をビームが通過し、隣り合ったドリフトチューブのそれぞれの間でビームが電場により加速されます。また、ドリフトチューブの中にはビームを集束させるための電磁石が組み込まれており、大電流ビームが自らの出すクーロン電場などで発散しないように集束させる役割も担っています。
SDTL(Separated DTL)
機能分離型DTL
ビームのエネルギーが 50 MeV を超えると、ビーム自身が発散する効果が小さくなります。そこで、J-PARC では SDTL (機能分離型DTL) という独自の構造を採用し、加速空洞内のドリフトチューブから電磁石を分離しました。これにより加速空洞自体の加速性能を向上させたり、空洞の外に電磁石を配置して調整が容易になりました。SDTL 区間では 陽子ビームを 50 MeV から 190 MeV まで加速しています。
ACS(Annular-ring Coupled Structure Linac)
環状結合型線形加速器
リニアックでは、最終段の加速器として ACS (Annular-ring Coupled Structure) と呼ばれる構造を採用しています。ACS は加速セルの他に結合セルと呼ばれる空洞を有する「多空洞結合型構造」と呼ばれる構造の一種です。
多空洞結合型構造の特徴として、大きな加速電場の発生と電場の安定性を両立できる点があります。
ACS ではこれらの特徴に加えて結合セルを環状(ドーナツ状) に配置することで結合セルがビームに与える影響を低減しており、J-PARC の安定なビーム加速に貢献しています。この ACS を 21 台使用することでビームが 190 MeV から 400 MeV まで加速されます。
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