用語解説
J-PARC(大強度陽子加速器施設)関連用語集
物質・生命科学研究及び施設の関連用語
【あ】
- ISIS(アイシス)
- 英国のラザフォードアップルトン研究所(RAL)が所有しているパルス中性子源実験施設。名前の由来は、古代エジプトの女神「イシス」からである。陽子エネルギー0.8GeV(800MeV)、出力160kW。J-PARC、SNSが建設されるまでは、パルス中性子源としては、世界一の中性子強度を有する施設であった。
なお、 ISISでは2007年12月に第2ターゲット施設が運転を開始した。陽子エネルギー0.8GeV(800MeV)、出力は48kWとあまり高くないが、パルスの数を間引いて1パルスあたりの強度を高め、長波長の中性子を利用した実験に有利な特徴を有している。
- アキュムレータ
- J-PARC核破砕中性子源の極低温水素循環システムに設置した、システム内の水素圧力を一定に保つための緩衝装置。核破砕中性子源では中性子のエネルギーを下げるために約250リットルの液体水素を使用している。液体水素は、高エネルギー陽子ビームの入射/停止により熱膨張/熱収縮による体積変化を繰り返す。その変化を吸収してシステム内の圧力を一定に保つことが必要なため、アキュムレータを利用している。
一般に用いられているアキュムレータとは、気体や液体などを一時的に貯めておき需要と供給のバランスをとる緩衝装置のことである。
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【え】
- SNS(エス.エヌ.エス)
- 米国のテネシー州オークリッジ国立研究所に建設されたパルス中性子源。Spallation Neutron Source(核破砕中性子源)の頭文字を取ってSNSと称される。
陽子エネルギー1GeV、中性子源の出力は1.4MW。予算1.41B$(約1,550億円)で2000年度に建設着手、2006年から稼動を開始した。2008年4月に300kWの出力を達成し、ISISの出力を上回って世界最高出力の中性子源となった。
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【お】
- オルソ・パラ変換器
- 水素分子は2つの水素原子からなる。水素原子の原子核はスピンと呼ばれる状態をもち、2つの水素原子核のスピンの向きが平行な場合をオルソ水素、反平行な場合をパラ水素と呼ぶ。オルソ水素とパラ水素には化学的性質に違いは無いが、物理的性質(比熱、熱伝導率、核的相互作用など)に違いがある。
J-PARC核破砕中性子源で中性子を冷やす(エネルギーを下げる)ために用いる液体水素にはパラ水素が適している(パラ水素の方がオルソ水素に比べてエネルギーが低い(-14.7meV)ため)。そこで中性子源の極低温水素循環システムでは、運転中に液体水素を連続的にオルソ・パラ変換器に通し、触媒作用によりオルソ水素をパラ水素に変換している。
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【か】
【き】
- 極低温水素循環システム
- J-PARCの核破砕中性子源において、およそ-253℃(20K)、15気圧(1.5MPa)の極低温水素(液体水素)を生成し、中性子源中心部に設置したモデレータまで極低温水素を供給するための冷凍システム。
極低温水素は、核破砕反応によって生成した高エネルギー中性子を冷やす(エネルギーを下げる)ために使用される。
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【け】
【こ】
- 高温超伝導
- 物質の電気抵抗が0(ゼロ)となる現象を超伝導と呼ぶ。抵抗が無いため、一度流した電気がずっと流れ続ける、遠方まで送電しても電力の損失が無い、強力な磁力を発生させることができるなど、今後のエネルギー問題を解決するひとつの手段として注目されている。
超伝導状態は、材料を液体ヘリウムなどで絶対零度(-273℃)近くまで冷却した極低温で起きる現象であるが、液体窒素(-196℃)、あるいはそれ以上の温度でも超伝導状態になる物質が発見され、これらを高温超伝導物質と呼んでいる。どうして高温超伝導状態が起きるのかを、中性子などを利用して物質の原子配列やそのメカニズムを解析し、明らかにしようとする研究がJ-PARCでも進められている。
高温と言ってもまだマイナス200℃近い温度であるが、研究が進み、もしこれが例えば室温付近でも起こるような高温超伝導材料が開発されれば、材料を冷却する必要は無くなり、応用範囲などが飛躍的に広がる。リニアモーターカーの実用化や、世界的な電力ネットワーク構築なども期待されている。
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【さ】
- 残留応力
- 材料に外力を加えて変形させ、その外力を取り除いた後にも材料内部に残る力。材料の亀裂や破壊の原因となる。ミクロ的には、X線や中性子線などを利用して材料の原子配列の乱れを調べることで、残留応力を計測できる。
特に中性子はX線に比べて透過能力が高いため、材料内部の残留応力を計測することができ、残留応力を詳細に調べることで、構造物の非破壊検査や、高品質構造材料開発など、産業利用分野での応用が期待されている。
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【し】
【す】
- 水素吸蔵合金
- パラジウム、チタンやニッケル、鉄、マンガン系の合金で、水素を大量に吸収し貯蔵する性質を持っている金属。吸蔵できる量がその金属の固体容積の1000倍にも達するものもある。水素の安全な貯蔵や運搬に有効なため、将来のエネルギー源として期待される水素電池(燃料電池)や水素燃料貯蔵に利用することが考えられる。
J-PARCでは、中性子やミュオンが水素に対する感受性が高い(X線よりもよく観察することができる)という性質を利用して、水素吸蔵合金の物性や原子構造を明らかにし、実用化に向けた研究を進めている。
- 水素強制循環方式
- 核破砕中性子源のモデレータに水素を供給する方法には、強制循環方式と自然循環方式の2つがある。強制循環方式ではポンプによって水素を送り出し、中性子源中心部のモデレータへと連続的に水素を循環させる。一方、自然循環方式ではサイフォンの原理を利用する。つまり中性子源外部で水素ガスを冷却し、液化した水素が重力によりモデレータ内に溜まる。
J-PARCの核破砕中性子源では、モデレータ部の発熱が大きく、連続して除熱する必要があるため、強制循環方式を採用している。
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【せ】
- 生物単結晶回折装置
- 生体物質や有機物質などの単結晶構造を反映した中性子の干渉パターンを解析することにより、蛋白質や有機化合物の原子配列情報を解析する装置。
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【そ】
- ソフトマテリアル
- 金属、半導体のような硬い物質に対比して柔らかい物質。代表的なソフトマテリアルとしては、高分子(プラスチック)、ゴム、高分子ゲル、液晶などがある。繊維や生体膜・DNAなどの生体分子もソフトマテリアルに含めることもある。
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【ち】
【て】
【と】
- 特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律
- 特定先端大型研究施設の共用を促進するための措置を講ずることにより、研究等の基盤の強化を図ると共に、研究等に係る機関及び研究者等の相互交流による研究者等の多様な知識の融合を図り、もって科学技術の振興に寄与することを目的としている。現在、次世代スーパーコンピュータ、SPring-8、X線自由電子レーザーが対象施設となっている。
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【ね】
- 熱中性子
- 中性子はそのエネルギーによって低い順から冷中性子、熱中性子、熱外中性子、高速中性子などと呼ばれる。熱中性子は数十meV〜数百meVのエネルギーを持つ中性子のことをいう。
J-PARCでは、モデレータを利用して数十meVのエネルギー(秒速数km〜数百mのスピード)の熱中性子、冷中性子を中性子科学実験に利用している。
- 燃料電池
- 水素と酸素の化学反応によってエネルギーを取り出す装置。小型でも高効率が期待され、排出物も水だけなのでクリーンであるため、次世代の分散型エネルギー源として注目されている。
水を電気分解すると水素と酸素に分かれるが、燃料電池はその逆の反応で水素と酸素から電気と水を生み出すものである。アポロ宇宙船などの電力は燃料電池によって生み出されていた。
中性子は水素や酸素などの軽元素、あるいは水などを観察する能力に優れているため、J-PARCの中性子を利用して、より高効率の燃料電池の開発や研究などの進展が期待されている。
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【は】
【ひ】
【ふ】
【ほ】
【ま】
- マイクロマシン
- 微細で複雑な作業を行うために大きさ数μm以下の高度な機能・要素から構成された微小な機械。患者の肉体的苦痛の少ない、高度で精緻な医療技術を必要とする医療福祉分野で、微細かつ複雑な作業ができるマイクロマシンの必要性が高まっている。
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【み】
- ミュオン
- ミュー粒子とも呼ばれる。電子と同じくレプトンの一種で電荷とともに磁気能率を持つが、質量は電子のおおよそ200倍である105.7MeVである。高エネルギー陽子が標的核と反応を起こして発生するπ中間子(パイオン)の崩壊によって生成される。磁気能率を持つことや軽い陽子として振舞うことを利用して、物質の磁気的な性質や拡散現象の研究などに利用されている。
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【め】
- メタンハイドレート
- メタンガスが水分子の作る結晶格子の中に閉じこめられたシャーベット状の水和物。おもに大陸斜面の海底下200〜450m程度の深さにあるが、海域によっては海底上に露出する。日本周辺を含めて莫大な埋蔵量が見込まれ、エネルギー資源として期待される。
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【も】
- モデレータ
- 核破砕中性子源や原子炉中性子源で発生したばかりの中性子は、エネルギーが高く(スピードが速く)、物質を透過する能力は高いが、原子核などとの反応を起こしたり調べたりする利用実験には、多くの場合適さない。これらの高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)をマイナス250℃程度の実験に適した温度にまで冷やすための機器がモデレータ(減速材)である。
J-PARCの核破砕中性子源では、モデレータ材料として極低温水素を利用している。
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【よ】
- 陽子ビーム窓
- 物質生命科学実験施設・ビーム輸送装置の真空ダクトの末端の外側には、ヘリウムが充填された中性子ターゲット装置がある。このヘリウムが真空ダクトに流れ込まないようにする仕切りが陽子ビーム窓である。陽子ビームは陽子ビーム窓を通過して中性子ターゲット装置に入射する。陽子ビームの通過により陽子ビーム窓は発熱するため水を流して冷却する。
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【ら】
- ラジオグラフィ
- 物質によって放射線の吸収、透過の大きさに差があることを利用し、放射線を試料に照射してその透過像を撮影することで試料内部の構造や欠陥を調べる方法。
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【り】
- リソグラフィ
- リソグラフィは、古くは石版上に脂性インキやクレヨンで字や絵を書いて得られる石版画のことを指していた。現代では特に、集積回路の製造に用いる手法を指している。
シリコン板をレジストと呼ばれる光や電子に感じる膜で一様に覆い、特定のパターン用原版を通して、所定の表面部分を露光源(光、X線または電子ビームなど)で照射する。照射後、通常の現像処理などで処理すると、光の当たった部分と影の部分で表面の状態に差が生じ、それを薬品などで処理すると細い溝などを刻むことができる。ミクロン(1/100mm)単位で素子や配線を刻む高集積度半導体の製造などには欠かせない技術である。
さらに細い線などを刻むため、感光レジストを走査型電子顕微鏡の真空室中に置き、コンピュータ制御の電子ビームでパターンを焼き付ける電子線リソグラフィという方法も開発されている。
- 量子ビーム
- 高エネルギー陽子を標的核に衝突させると、2次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどが発生する。J-PARCの実験施設では、これら「量子」と総称される粒子をビームとして利用する。
- 量子ビーム、量子ビームテクノロジー
- 加速器、高出力レーザー装置、研究用原子炉等の施設・設備を用いて、高強度で高品位な光量子、放射光等の電磁波や、中性子線、電子線、イオンビーム等の粒子線を発生・制御する技術、及び、これらを用いて高精度な加工や観察等を行う利用技術からなる先端科学技術の総称。
J-PARCでは、高エネルギー陽子を標的核に衝突させ、核破砕反応により2次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどを多数発生させている。これらの粒子は「量子」と総称され、それぞれの量子を集積させたものを「量子ビーム」と称し、各実験施設で種々の研究に利用されている。