原子・分子に1個又はそれ以上の個数の電子が加わって負の電荷を帯びた状態にあるものを負イオンという。正(+)の電荷を持つ1個の陽子(通常 p と表記)の周りを、負(−)の電荷を持つ1個の電子(通常 e と表記)が回っている水素原子にさらに電子1個が付け加えられ、1個の陽子の周りを2個の電子が回り負の電荷を帯びたイオンを負水素イオンとよぶ。
J-PARCのリニアックでは負水素イオンを加速し、3GeVシンクロトロンに入射する直前で炭素の薄膜(荷電膜変換)を通して荷電変換(電子を剥ぎ取ること)を行い、陽子に変換している。
リニアックから3GeVシンクロトロンに陽子を入射しようとすると、リニアックからの入射軌道を曲げるために励磁されるキッカー電磁石の磁場が、シンクロトロン内を周回している陽子ビームの軌道に影響を与えてしまい、上手く入射することができない。しかし負イオンは陽子と電荷が逆であるため、同じ磁石によって曲がる方向が逆になるため、上手く入射することができる。
物質・生命科学実験施設(MLF) (※物)
物質・生命科学実験施設(MLF: Materials and Life Science Experimental Facility)は、中性子およびミュオンを利用して、物質科学や生命科学などの研究を行う実験施設。建物は長さ約140m、幅70m、高さ約30mあり、ジャンボジェット機が2機収納できるほどの巨大な実験施設である。1MWの大強度陽子ビームを水銀の標的に衝突させ、原子核破砕反応により発生するパルス中性子を、23本設置される中性子利用ビームラインに導く。パルス中性子源の強度は同様の施設である米国のSNSを上回り、世界最高強度を実現している。この高強度中性子が材料の内部応力解析やタンパク質構造解析など、物質科学研究や生命科学研究に利用される。また炭素標的から発生するミュオンも世界最高強度を実現しており、磁性構造解析や材料分析などに利用される。