NEUTRINOニュートリノ
ニュートリノ実験施設では、加速した陽子から大強度のニュートリノビームを生成します。生成したニュートリノをJ-PARC内にある前置検出器と295 km離れた岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデで観測し、その間に別のニュートリノに変化する現象の性質を調べるT2K (ティーツーケー) 実験を行なっています。
T2K実験は2009年度に実験を開始し、2013年にミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに変化する「電子型ニュートリノ出現現象」の存在を世界で初めて発見しました。2014年からは反ニュートリノビームを用いた実験を開始し、ニュートリノの「CP対称性の破れ」の検証をスタートしました。このCP対称性の破れの測定によって、素粒子の性質や宇宙から反物質が消えた謎の理解が進むと期待されます。
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研究者による施設紹介
オンライン施設見学
施設は、陽子をスーパーカミオカンデの方向に導く一次ビームライン、陽子からニュートリノビームを生成する二次ビームライン、生成したニュートリノの強度や方向などを測定する前置検出器で構成されています。
PRIMARY BEAMLINE一次ビームライン
一次ビームラインは、メインリングからの陽子をスーパーカミオカンデの方向に導くところです。上流から下流に向かう順に、メインリングから取り出したビームを調整する「前段部」・ビームを神岡の方向に曲げる「アーク部」・ビームを標的に当てるための最後の調整を行う「最終収束部」の3つの部分から構成されています。また、ビームラインの各所には、多数の「ビームモニター」が設置されています。
それでは、メインリング側の一次ビーム ライン上流から、二次ビームライン手前までの下流に向けて見学していきましょう。
見学コース1 : 前段部からアーク部の起点まで
<解説>
前段部には「常伝導電磁石」が使われています。メインリングからキッカーと呼ばれる電磁石を用いて蹴り出された陽子ビームは、多数の常伝導電磁石によってビームパラメータを調整したのち、アーク部に渡されます。
見学コース2 : アーク部から最終収束部の起点まで
<解説>
陽子ビームを曲げるためのアーク部には、強力な磁場を作るための「超伝導電磁石」が使われています。長さ3.3 m、曲げるための2極磁場 (最大2.6テスラ)、収束させるための4極磁場 (勾配最大18.6テスラ/m) の、複合磁場超伝導電磁石28台から構成されています。この世界初の複合電磁石を用いることで、陽子ビームを150 mほどの短い距離で約80度曲げることが可能となり、建設コストを大幅に抑えることができました。また、常伝導に比べて電力消費量が少ないため経済的です。これらの磁石を超伝導状態にするには、マイナス270度に近い非常に低い温度に冷やす必要があります。そのため、磁石はクライオスタットと呼ばれる真空容器の中に入れられ、2キロワットの冷凍能力を持つ冷凍機で冷やされます。この真空容器には、CERN の超大型加速器LHCの断熱技術が使われています。
見学コース3 : 最終収束部
<解説>
最終収束部には、前段部と同じく「常伝導電磁石」が使われています。ニュートリノビームを1 mradの目標精度で方向を合わせるには、ビーム位置を1 mmの精度で制御する必要があります。さらに、標的の破損を防ぐため、ビームが偏って標的に当たらないよう、またビームサイズが細くなりすぎないように制御する必要もあります。そのため、アーク部で曲げられた陽子ビームをここで最終調整して、二次ビームラインに送り出しています。
見学コース4 : ビームモニターの写真と設置場所
<解説>
一次ビームラインには、ビームの強度・位置・形状などをモニターする多数の「ビームモニター」が設置されています。メインリングから取り出されてきた陽子ビームを、適切なビームの方向や広がりに調整して、漏れなく二次ビームラインの標的まで送り込むのに必要不可欠な装置です。また、生成されたニュートリノビームの量を見積るために必要なPOT (protons on target : 標的に入射した陽子数) を測定する役割もあります。そのため、ビームの強度モニター (CT)、プロファイルモニター (SSEM)、位置モニター (ESM)、ロスモニター(BLM)などの種類があり、上の図にあるように一次ビームラインの各所に設置されています。また、標的の直前にもOTRと呼ばれるビーム形状をモニターする装置が設置されています。
コラム
ビームのバンチ構造とGPS
T2K実験では、メインリングから約2.5秒ごとにビームを取り出して、神岡に向けて発射しています。そのビームは、約40ナノ秒幅のバンチと呼ばれるかたまりが約600ナノ秒間隔で8つ並ぶ時間構造をしています。それぞれのバンチは約30兆個もの陽子が含まれています。
この時間構造は、スーパーカミオカンデで観測されたニュートリノ事象でも見ることができ、確かにビームに由来するニュートリノであることが分かります。ビームの発射時間と観測時間の時間合わせにはGPSが使われており、 約300 km離れた地点の時刻を正確に同期させています。
SECONDARY BEAMLINE二次ビームライン
二次ビームラインは、陽子からニュートリノビームを作るところです。ニュートリノは、陽子を原子核にぶつけて出てくるパイ中間子が飛行中に壊れることで生成されます。二次ビームラインは、陽子をぶつける「標的」、出てきたパイ中間子を磁場で前方方向に収束する「電磁ホーン」、パイ中間子の崩壊領域となる「ディケイボリューム」、不要なビームを吸収する「ビームダンプ」、ニュートリノとペアで出来たミューオンを検出する「ミューオンモニター」などからなります。その断面図は上の図のようになっています。ニュートリノビームは約300 km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射されます。そうすると地球の丸さがあるので、地下にビームの照準を合わせる必要があります。そのため、二次ビームラインではビームの下流側に行くにつれて深くなります。
ターゲットステーション棟と呼ばれる建物には、ディケイボリュームと一体の、体積1,500 m3の巨大なヘリウム容器があります。一次ビームラインとビーム窓で仕切られたその内部には、標的や3台の電磁ホーンに加えて、ホーンを保護するバッフルやビーム形状を光学的にモニターする装置などが設置されています。それでは、ターゲットステーション棟の内部を見てみましょう。
見学コース1 : ターゲットステーション棟の地上階
<解説>
ヘリウム容器は、幅4 m、長さ15 m、高さ11 mの巨大な鋼製容器です。放射線を遮蔽する鉄やコンクリートによって厳重に覆われているため、普段は地上階からヘリウム容器の内部を見ることができません。その代わり、ヘリウム容器内の電磁ホーンを内部から取り出して保持する2箇所のホーンドックを見ることができます。電磁ホーンや放射線を遮蔽ブロックは、クレーンの遠隔操作によって内部から取り出したり設置したりすることができます (下の写真を参照)。
見学コース2 : 電磁ホーンと標的
<解説>
電磁ホーンは、アルミニウムの円筒管が二重になった装置です。32万アンペアのパルス電流により2テスラの磁場を内外管の間に発生させ、パイ中間子を前方に収束させます。T2K実験では3台の電磁ホーンが使われています。 パイ中間子を作り出す標的は、第一ホーン内管の中心に挿入されています。直径26 mm、長さ約 90 cmのグラファイトの棒で出来ており、グラファイト(中)とチタン合金(外)の2重の鞘に覆われています。その隙間にヘリウムガスを高速で流し、発生する熱を冷却します。それでもビーム運転時にはその中心温度は約700°C (750 kW時) にもなります。下の写真は過去に設置された第一ホーンと標的です。動画は今後交換するために製作された第一ホーンとチタン合金に覆われた標的を間近で撮影したものです。
見学コース3 : ディケイボリュームとビームダンプ
<解説>
ディケイボリュームは、約6 mの厚さのコンクリートで覆われた炭素鋼製の約100 mのトンネルです。その内部には二次粒子により発生する熱を冷却するためプレートコイルと呼ばれる水冷管が敷き詰められています。ディケイボリュームの最下流部にはグラファイトブロックとアルミ冷却モジュール、水冷・空冷の鉄遮蔽からなるビームダンプが設置され、標的で反応しなかった陽子などを吸収し、発生する熱・放射線を遮断します。
見学コース4 : ミューオンモニター
<解説>
パイ中間子が崩壊すると、ミューニュートリノとともにミュー粒子 (ミューオン) が生成されます。ミューオンモニターはこのミューオンを測定して間接的にニュートリノビームの方向とその安定性を監視するための測定器です。この装置は、ビームダンプ下流の地下約18 mの実験室内に設置されています。
NEAR DETECTORS前置検出器
前置検出器は、生成したニュートリノの方向や量、原子核との反応などを詳しく調べるために使われています。標的の下流280 mの位置にある、深さ33.5 m、直径17.5 m のニュートリノモニター棟と呼ばれる実験ホールに設置されています。
ドローンの視点で地上階から実験ホールを見下ろしてみましょう。
見学コース1 : 地上階
<解説>
まずは通常の施設見学で公開している地上階です。T2K実験や施設を説明するためのパネル、スーパーカミオカンデに用いられている光電子増倍管などを見ることができます。奥には地下に行くためのエレベータも見えます。
見学コース2 : 地下一階
いよいよここからは普段の見学では入ることができない実験ホールの地下に潜入です。最初は約23 mの深さにある地下一階に向かいましょう。
<解説>
T2K実験では、スーパーカミオカンデの方向から2.5度だけ地中深くを狙うようにニュートリノビームの方向を調整しています。そうすることで、より実験に適したエネルギーとその幅が得られるためです。この地下一階には、スーパーカミオカンデの方向に置かれた「ND280」と呼ばれる前置検出器があります。周囲に見える赤いものは均一磁場をかけるための電磁石で重さは約900トンです。反応ででてきた粒子が帯びた電気を知るために使われます。残念ながら今回の360°画像の電磁石は閉じた状態ですが、その中には、次の図のような様々な検出器が入っており、ニュートリノの量やエネルギー、原子核との反応などを調べることができます。
見学コース3 : 架台床階
次は架台床階と呼ばれる地下一階と二階の間にあるフロアです。深さは約29 mです。
<解説>
この階はニュートリノビームの中心と同じ高さになるように設計されています。1つ目の360°画像は、ちょうどビームの中心に立つように撮影されました。ここには 「INGRID」と呼ばれるニュートリノビームの横方向の向きや広がりを測る検出器モジュールが並べられています。反対側を見ると、今度は縦方向に積層されたモジュールもいくつか見ることができます。一つのモジュールの大きさは 1.2 x 1.2 x 0.9 mで、重さは約7トンあり、14台で縦横 10 m程度の領域をカバーしています。また、ND280のデータを取得するための測定器読み出し機器などもこの階に設置されています。
見学コース4 : 地下二階
最後は、実験ホールの最深部、約33 mの深さにある地下二階です。
<解説>
この階には、先ほどのINGRIDの縦方向モジュールの底部があります。加えて最近「WAGASCI-BabyMIND」と 呼ばれる新しい検出器が設置されました。この階はビームの中心から1.5度ずれた位置にあり、地下一階や架台床階とも異なるエネルギー帯でのニュートリノ反応の測定が可能です。スーパーカミオカンデと同じ水を用いて3 次元で粒子の飛跡を調べるWAGASCI検出器、サブミクロンの精度で粒子の飛跡を調べられる原子核乾板を用いたNINJA検出器、磁場をかけて反応で出てくる粒子の情報を得るBabyMIND、横方向に出てくる粒子を検出するSideMRDといった検出器を組み合わせることで、ニュートリノ反応を様々な方法で詳しく調べることができます。
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List of Facilities施設一覧
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リニアック
J-PARC加速器の始まりとなる直線型加速器。負水素イオンを作り出すイオン源と4種類の加速器(RFQ、DTL、SDTL、ACS)を用いて負水素イオンを光速の70%まで加速する。
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RCS
加速器の2段目となる円形加速器。陽子はこの加速器で光速の97%まで加速され、MLFとMRに向かう。
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MR
加速器の3段目となる巨大な円形加速器。陽子は光速の99.95%まで加速され、ニュートリノ実験施設、ハドロン実験施設に送られる。
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物質・生命科学実験施設 MLF
世界最高強度の陽子ビームで作り出される中性子ビームとミュオンビームを利用して、基礎科学から応用研究まで幅広い分野の研究を行っている。現在、21本の中性子ビームラインと4本のミュオンビームラインが稼働中だ。
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ニュートリノ
J-PARCで作り出した大量の人工ニュートリノを295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある「スーパーカミオカンデ」に打ち込む。このT2K実験で、粒子・反粒子の性質に違いがある(CP対称性が破れている)現象の謎に迫る。
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ハドロン
物質を構成する究極の要素が何かを極微のスケールで探求する。大強度の陽子ビームを使って原子核反応や素粒子崩壊など様々な実験を行っている。
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核変換
加速器により高レベル放射性廃棄物を減らす核変換技術の研究開発を行う実験施設建設に向けて、液体重金属標的に関する技術開発を行っている。