プレスリリース

      2022.03.31

      J-PARC MRにおけるICTを活用した防災システムの開発

        飛島建設株式会社 (代表取締役社長:乘京 正弘) 、J-PARCセンター (センター長:小林 隆) 、綜合警備保障株式会社 (代表取締役社長:青山 幸恭) 、関西大学総合情報学部田頭研究室は、共同で加速器トンネルにおける防災システムの開発を行い、J-PARC MR (メインリング) 加速器トンネルに導入しました。

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      写真-1 J-PACRの全景

      背景

        トンネル内で火災等の事故が起きた際、避難経路の選択は生死に直結します。東日本大震災では J-PARC MR トンネル内で作業者が被災しましたが、適切な脱出経路を選択することができませんでした。100 m以内に脱出棟があったにもかかわらず、500 m 以上離れた入域箇所から避難をしたのです。幸い津波は J-PARC を襲いませんでしたが、避難誘導という観点からは大きな課題が残ってしまいました。作業者の安全確保は防災システム上、極めて重要なテーマです。作業者がトンネル内のどこに居るのか、どの方向へ逃げているのか、あるいは動けなくて助けを求めているのか、リアルタイムでの作業者位置情報がキーポイントとなります。

      加速器施設の安全管理の現状

        放射線防護の観点から、ビーム運転中は加速器が設置されているエリアは立ち入り禁止となります。ビーム運転により一部の装置は放射化し、放射化した装置の残留放射線の影響でトンネル内は放射線環境下となります。したがって加速器施設の安全管理は、入退域管理と被ばく管理を主眼に行っています。

      J-PARCなどの地下に建設された巨大な加速器施設(閉空間)の課題

      • 電波が届かないため、セルラー網による通信やGPS による測位ができず、ICTの活用が限定的なものとなっています。
      • J-PARCでは施設構内にPHS基地局を設置し、施設内にいるユーザ同士の通話を可能にしていますが、データ通信、ユーザの現在地の把握、同時に多数のユーザへの情報伝達等が難しい状況です。
      • 高いセキュリティー環境(対サイバー攻撃)が求められるため、外部の通信網との直接のアクセスを避けなければなりません。
      • ビーム運転中は高放射線環境下になり、設置する機器の耐放射線性が必要となります。

      ICTを活用した防災システムの概要

      ① 独立したネットワーク網の構築
        閉空間においてもアプリが稼働する仕組みとし、高度なセキュリティー環境を提供するだけでなく,発災時においても稼働するロバストな防災システムを目指しました。

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      図-1 閉じられた空間でのネットワークの構築

      ② 施設利用者の位置や動線の把握、発災時に適正な避難誘導が行えるシステムの構築

      • AP(アクセスポイント)をMRトンネル内の全周に沿って30ヶ所(50m毎)設置
      • 専用スマホと時計型ウエアラブルを導入
      • APは中央制御棟だけでなく電源棟・搬入棟にも設置して日常使用の利便性を向上
      • 停電時対策としてリチウム蓄電池を用い、APとサーバーの電力を数時間以上供給
      • AP電源は、加速器稼働・停止時に対し、自動的にシステムのON/OFFを行うことで、システムの耐放射線性能を確保

      ③ 閉鎖空間である大規模な加速器施設内の運用において、モバイル端末を活用して作業者の位置を特定するとともに緊急時に管理者と作業者が効率よくコミュニケーションがとれるICT 防災アプリ、システムの構築

      • 坑内作業者位置の取得、リアルタイム表示
      • 坑内作業者のメッセージの送受信(記録)、既読機能、送信場所の記録機能
      • 坑内作業者の状態(定常・異常)監視機能
      • 他の入域者の認知機能
      • スタンプ活用による情報伝達

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      写真-2 サーバアプリ画面

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      写真-3 モバイルアプリ画面

        ④ 日常的に活用できるアプリ機能の付加による汎用性の向上

      • 映像通話による遠隔作業支援機能
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        写真-4 遠隔作業支援状況

        • 放射線測定にQRコードを活用、放射線量の自動記録
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          写真-5 QRコードの活用による放射線量の自動記録

          • 高放射線領域や通電試験等の作業箇所、日時の注意喚起アラートの発出
          •   ⑤ 自律走行ロボット"REBORG-Z" (警備や支援の自動化ロボット) に映像、熱赤外線、放射線量などのセンサを搭載し、防災システムとの連携 (試行中) 

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            写真-6 REBORG-Zによるメインリング内の自律走行・巡回状況

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            写真-7 REBORG-Zによる放射線量の自動記録

            開発の経緯

            • ~2018 / ICT防災アプリを開発、J-PARCで試験運用、課題抽出、改良改善
            • 2019-2021 / 厚生労働省科学研究補助金労働安全衛生総合研究事業(期間3年)の採択を受け、J-PARC MRで防災システムの本格運用

            今後の展開

            • 防災システムの更なる機能増強を予定しています。
            • J-PARC MRに続く、ニュートリノやハドロン施設への拡張、リニアック/ RCS 等、他の J-PARC 施設での採用を目指します。

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            • 国内外の加速器施設への展開を検討します。
            • ILC (International Linear Collider) ) / 東北への誘致が計画されている / トンネル延長20km以上、複雑な地下空洞群からなる研究施設への導入を目指します。

             

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