トピックス

2023.04.28

J-PARC News 第216号

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■J-PARC MR第2電源棟における火災発生について

 4月25日(火)17時15分頃、J-PARC MR第2電源棟において火災が発生しました。原因は現時点で調査中です。皆様に大変なご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

令和5年4月28日
J-PARCセンター長 小林 隆

 

 

■受賞

(1)核変換ディビジョン岩元大樹氏らが第55回日本原子力学会論文賞受賞

 核変換ディビジョンの岩元大樹氏らは、日本原子力学会英文誌に掲載された核破砕中性子測定に関する論文により、共同研究者とともに3月14日に第55回日本原子力学会賞論文賞を受賞しました。岩元氏らは、京都大学のFFAG陽子加速器を用いて、加速器駆動核変換システム(ADS)設計で重要な鉄、鉛およびビスマスに陽子ビームを照射し、核破砕中性子の詳細なデータを取得しました。得られたデータをもとに、ADSの設計に用いられる核反応モデルの精度検証を行い、ADS設計の高度化に向けた知見を得ました。
詳しくはJAEAホームページをご覧ください。https://nsec.jaea.go.jp/awards/index.html

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(2)ミュオンセクション梅垣いづみ氏が物理学会若手奨励賞を受賞

 ミュオンセクションの梅垣いづみ氏が日本物理学会の若手奨励賞を受賞しました。受賞題目は「ミュオンビームを用いたリチウムイオン電池内部のリチウムの拡散運動と金属析出の検出技術の確立」です。オンラインで開催された日本物理学会2023年春季大会で、3月22日に受賞記念講演を行いました。受賞理由として、蓄電池以外の分野にも応用可能で、物理学だけでなく化学分野にも発展する可能性があるとの評価を受けました。
詳しくはKEKホームページをご覧ください。https://www2.kek.jp/imss/news/2023/topics/0406JPSJ-Wakate-Awd/

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(3)ミュオンセクション員が日本中間子学会賞を受賞

 ミュオンセクションの三宅康博氏が、日本中間子科学会の功績賞を受賞しました。三宅氏は、物質・生命科学実験施設(MLF)において、ミュオン施設の設計、製作からユーザー実験環境整備に至るまでを強いリーダーシップで推進し、世界最高のパルスビーム強度となるミュオンビームライン建設を成功に導きました。また、超低速ミュオン源・透過型ミュオン顕微鏡研究計画の推進に留まらず、負ミュオン非破壊元素分析法の文化財研究への活用の可能性にも着目し、文理融合プラットフォームの構築に尽力しました。
 同時に、同じく日本中間子科学会から、牧村俊助氏、的場史朗氏が技術賞、中村惇平氏が学生奨励賞を受賞しました。
詳しくはKEKホームページをご覧ください。https://www2.kek.jp/imss/news/2023/topics/230426Meson-award/

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■プレス発表

(1)イオン伝導ガラス中のリチウムイオン輸送環境の解明
 -Liイオン電荷雲のトポロジカル分析により、ガラス電解質開発に新たな指針-(4月7日)

 高輝度光科学研究センター、島根大学、大阪公立大学、KEK、J-PARCセンター、名古屋工業大学、山形大学、琉球大学、東北大学らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8のBL04B2ビームラインを使用した高エネルギーX線回折とJ-PARCのBL21 NOVAを使用した中性子回折を併用することにより、Li3PS4硫化物ガラスにおけるLiイオン輸送環境の解明に成功しました。
 1990年代から硫化物ガラスの開発と材料特性に関する研究が世界中で進められ、2010年代には室温で液体のイオン伝導率を超える物質が発見されています。しかし硫化物ガラスは一部結晶化させることでイオン伝導率が向上することが知られているものの、そのイオン伝導性自体を向上させる要因は解明されていませんでした。
本研究では、硫化物ガラスLi3PS4中に存在するLiイオンの価数をトポロジカルに解析するBader法を使用して、3種類のLiイオン輸送環境が存在し、より移動性の高いLiイオン(Li3型イオン)は比較的長い距離で存在しやすいことを解明しました。さらに、機械学習を組み込んだ逆モンテカルロシミュレーションにより、一部結晶化したガラス構造では、このLi3型イオンの増加によりLiイオン輸送特性が向上していることを発見しました。
 ガラス中のLiイオン輸送を原子・分子レベルで制御することは、電気自動車向け技術等として期待される全固体電池の実現に向けた鍵となります。本研究成果は、硫化物ガラスのみならず様々なイオン伝導ガラスの新物質開発や特性の理解を促進し、固体電解質材料の開発に新たな指針を提供するものです。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/04/07001131.html

 

 

(2)反強磁性体におけるトポロジカルホール効果の実証に成功
 -磁気情報の新しい読み出し手法としての活躍に期待-(4月21日)

 東京大学、理化学研究所、東北大学、富山県立大学、大阪大学、総合科学研究機構、JAEA、J-PARCセンターらの研究グループは、スピンの立体的な配列に起因して電子の進行方向が曲げられる現象「トポロジカルホール効果」を、磁化を持たない反強磁性体において実証することに成功しました。
 「トポロジカルホール効果」は磁場や磁化と関係なく生じるため、反強磁性体における磁気情報の新しい読み出し手法として利用できることが期待されます。しかし、従来の研究例は大きな磁化を持った強磁性体に限られており、磁化を持たない反強磁性体でのトポロジカルホール効果の実証は大きな課題となっていました。
 本研究では、反強磁性体にも関わらず巨大なホール効果を生じることがわかっているCoTa3S6、CoNb3S6という物質に着目し、研究用原子炉JRR-3に設置された5G PONTA、およびJ-PARCのMLFのBL15 TAIKAN、BL18 SENJUを利用して、中性子散乱実験による詳細な磁気構造解析を行いました。その結果、理論的にトポロジカルホール効果が予想されていた四面体状の非共面なスピン配列が実現していることが明らかとなり、さらにこのスピン配列の安定性を理論的に確認することができました。
 本研究の結果は、反強磁性体をベースにした高速・高密度な新しい磁気情報素子の開発につながることが期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/04/21001136.html

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■第3回ハドロン施設拡張プロジェクトに関する国際ワークショップを開催
 (3月14~16日、AQBRC、KEK東海1号館およびオンライン)

 ワークショップでは、プレナリーセッションとJ-PARCハドロン施設での主要な研究分野であるハドロン物理・ストレンジネス核物理・フレーバー物理の3つのパラレルセッションを設けました。89の講演があり、加速器や実験施設の拡張計画、そこでの物理研究に関する実験・理論両面からの最新の研究状況が議論されました。また現施設での研究についても幅広く活発に議論されました。188名の参加登録者のうち59名が国外機関からの参加で、60名程度の現地参加者のうち10名は海外からの参加者でした。コロナ後の本格的な国際ワークショップで、多くの研究者が参加し、対面で議論ができたことは、大きな成果でした。拡張計画について継続的に議論していくことにより、実験分野・理論分野ともに、多くの研究が活発に進んでいることが印象付けられました。

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■J-PARCハローサイエンス「超伝導加速空洞開発@J-PARC」(3月24日)

 加速器第一セクション(核変換ディビジョン兼務)の田村潤氏が講師を務め、加速器駆動核変換システム(ADS)の加速器の実現に必要な超伝導型の高周波加速空洞開発について紹介しました。
 まずJ-PARCリニアックと加速空洞における加速の原理、高周波加速空洞の特徴について説明し、その後、常伝導加速空洞と超伝導加速空洞を比較しました。常伝導空洞は投入電力の多くを空洞内壁で消費するため、高加速電場を用いたCW(連続)運転が難しくなります。それに対し、超伝導空洞は空洞内壁で消費する電力(熱損失)が常伝導空洞より5~6桁小さく、省電力で大きい加速電場が得られることから、パルスではなくCW運転が可能となります。そのため、実用規模のADS加速器では、高加速電場を用いたCW運転が可能な超伝導陽子リニアックが必要になります。
 最後に空洞部品の実物を提示しながら、試作中のスポーク空洞の開発の状況について説明しました。スポーク空洞は超伝導空洞の一つであり、楕円型の超伝導空洞と比較して低エネルギー陽子の加速に適しています。2019年度よりスポーク空洞の設計・製作を開始し、現在溶接組立中であり、今後、表面処理、洗浄等を経て、性能試験に進む予定を紹介しました。
 また、スポーク空洞は形状が複雑であり、加速空洞として成立させるための『ものづくり』が難しく、空洞製作技術の確立や性能評価などの課題を説明しました。

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■ご視察者など

 4月13日 飛騨市長
 4月14日 文部科学省 原子力課 竹之内補佐 他
 4月24日 国民民主党エネルギー調査会

 

 

■「J-PARC特別講演会2023」開催のお知らせ(7月1日、東海文化センター)

 7月1日、東海文化センターにて、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授をお迎えし、J-PARC特別講演会2023「いよいよ始まるハイパーカミオカンデ プロジェクト」を開催します。
 お申込み等、詳しくはこちらをご覧ください。http://j-parc.jp/symposium/special_lecture2023/

 

 

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J-PARCさんぽ道 ㉞ -男女(みなの)川-

 つくばねの 峰より落つる みなの川 恋ぞ積もりて 淵となりぬる
 写真はつくばと東海を結ぶバス車窓からの筑波山です。茨城県の名峰、日本百名山でもある筑波山は、ご覧のように男体山と女体山というふたつの頂からなっています。
 百人一首の13番に載せられているこの作品は、57代天皇であった陽成院が綏子内親王に送った歌とされています。男体山と女体山から発した細々とした流れが合流して男女川となり、次第に水かさを増して深い淵となるように、最初は淡かった私の恋心も今ではますます深くなっているという想いを詠んだものです。
 J-PARCは、筑波山の北に本部を置くJAEAと、南に本部を置くKEKという、全く異なった法人を母体として生まれた巨大研究プロジェクトです。もと科学技術庁系独立行政法人のJAEAと、もと文部省系大学共同利用機関法人のKEKでは、組織も文化も異なります。J-PARCの発足当初は、ふたつの頂からの急流がぶつかり合うように、お互い戸惑うことも多々ありました。しかし、高度に加速された陽子を使用するという共通の手段を使い、基礎科学から産業応用まで多様な研究開発を推進することで広く人類に貢献することを共通の目的とするわれわれとしては、協力して施設を動かし、互いの実験を推進していく必要があります。
 それが顕著に現れたのが、2011年の東日本大震災でした。加速器トンネルの中の機器が水没し、復旧は不可能ではと危惧されていました。しかしスタッフが一丸となり、震災から1年も経たずに運転再開を果たしたのです。
 地下から湧いた水滴がやがて海に注ぐように、リニアックのイオン源で生まれた負水素イオンは、JAEAとKEKが造った川を下っていきます。負水素イオンはRCSへの入口で陽子となり、ターゲットに当たって様々な2次粒子に姿かたちを変え、さらにニュートリノはスーパーカミオカンデに向けての長い旅に出ることになります。

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