トピックス

2023.12.22

J-PARC News 第224号

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■受賞

日本放射線安全管理学会の優秀プレゼンテーション賞を受賞(11月13日)

 静岡県コンベンションアーツセンターで、日本放射線安全管理学会の第22回学術大会が開催され、J-PARCセンター放射線管理セクションの坂下耕一氏と加藤小織氏が最も優れた口頭発表におくられる賞を受賞しました。

・坂下耕一氏 「J-PARC MLFのホットセル内に生成される短寿命核種測定に用いたシンチレーション型ガスモニタの放射能換算係数の評価」
 モニタ中での放射線の挙動のシミュレーションにより、空気から生成される寿命の短い放射性ガスに対するモニタの応答を評価しました。
 受賞者談:参加者からは結果の物理的意味や放射線管理への波及等の質問がありましたが、それに対する質疑応答を含め充実した発表を行うことができました。

・加藤小織氏 「放射性物質漏えい事故を伝承するためのビデオの製作」
 過去の事故の教訓を伝えるため、これまでに3編のビデオを作成しました。作成に主要な貢献をした加藤氏が、それらの内容について紹介しました。
 受賞者談:今回の受賞を励みとして、事故を風化させず、放射線を安全に管理していくための教訓や取り組みにつなげていきたい。
※物質・生命科学実験施設

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■プレス発表

(1)大強度パルスミュオンで過渡現象を追う〜Transient µSRの開発〜(11月16日)

 J-PARCの大強度ミュオンビームを使ったミュオンスピン回転/緩和/共鳴(µSR)実験では、非常に短い時間で試料の構造が測定できます。しかし測定より試料環境の調整時間が長くかかる上、調整中は測定ができませんでした。
 そこで、µSRの測定データに加えて試料環境の情報をリアルタイムで同時に取り込み、測定終了後に試料環境の情報からデータを整理する新しい手法、Transient µSRを開発しました。さらに、J-PARCの幅広いユーザーが当該手法を使用できるよう、情報統合が簡単に行えるソフトウェアを開発しました。
 これにより、試料環境を変化させながらデータ収集が行えるようになります。そのため、電池を破壊せず作動させたまま測定できるなど、過渡的な現象の研究が加速されると期待されます。
※ミュー粒子のことを「ミュオン」または「ミューオン」と表す。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/11/16001238.html

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(2)ガラスの複雑な原子構造を高速・高精度な原子シミュレーションで再現!
 -ガラスの一見無秩序な構造の中に潜む秩序を解明-(11月16日)

 ガラスは固体でありながら、液体の乱れた原子配列の状態で凍結されるので、構造は無秩序になると考えられてきました。しかし、シリカガラスでは中性子やX線回折のデータにおいて鋭い回折ピーク(FSDP)が観察され、不規則構造の中に一定の秩序ある構造が存在する可能性が示唆されています。一方、ガラスには結晶のような原子配列の周期性がないために回折データからその複雑な構造を直接決定することはできませんでした。
 そこで、様々なシリカガラス結晶や液体の第一原理計算結果を機械学習で学ばせて高精度なシミュレーションを可能にするニューラルネットワーク力場を作り、分子動力学シミュレーションを行うことで、J-PARC MLF 「NOVA」とSPring-8 「BL-04B2」で測定された広いQ(momentum transfer 運動量移行)範囲のシリカガラスの中性子・X線回折データを高精度で再現することに成功しました。それによりFSDPや秩序構造の起源、高密度化や熱処理がシリカガラスの秩序構造に及ぼす影響が解明されました。
 今回開発したシミュレーション技術とJ-PARCの精度の高い実験データを併用することで、ガラスの原子レベルの構造に内在する「中距離の秩序構造」の解明が可能となりました。本研究で具体的な対象としたシリカガラスの詳細な構造の解明は、より高速かつ効率的な情報伝達を可能にする新しいガラス材料の研究開発に貢献することが期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2023/11/16001239.html

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(3)超高速イオン伝導と高安定性を示す 低環境負荷材料を創製し、新しい伝導機構を解明
 -新イオン伝導体・燃料電池・センサー等の開発を加速-(11月17日)

 近年、酸化物イオンとプロトンの両方のイオンが伝導する、デュアル(二重)イオン伝導体に注目が集まっており、さまざまな電気化学デバイスへの応用が可能なクリーンエネルギーとして期待されています。そこで、中低温域で高い酸化物イオン(O2-)伝導度、高いプロトン(H+)伝導度、高い安定性を示す新物質Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1を創製しました。この物質は希土類や鉛を含まず焼成温度が低く、環境負荷や安全面においても優れた材料です。また、この新物質が高いイオン伝導を示す機構を中性子回折実験等により解明しました。
 Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1が含まれた酸化物固体電解質を用いた燃料電池を作製することができれば、現在実用化されている高分子燃料電池で使用されている高価な白金が不要となります。また、従来のセラミック固体電解質イットリア安定化ジルコニア(YSZ)より動作温度を下げることができ、高価な耐熱材料も不要となり、燃料電池製造コストを大幅に下げることが期待されるほか、ポンプ、センサーなどへの応用が見込まれます。さらに、実証された新しいイオン伝導機構に基づいて、新たなイオン伝導体物質の開発が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2023/11/17001240.html

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■J-PARC講演会2023「ミュオンでつくる未来-みえないものをみる!-」開催(11月25日)

 J-PARCセンター、東海村、東海村教育委員会主催の講演会が東海文化センターで開催されました。
 J-PARCセンター長と東海村長の挨拶の後、ミュオンセクションの梅垣いづみ氏がJ-PARCのミュオンを利用した電池の研究成果を報告し、東海村歴史と未来の交流館学芸員の中泉雄太氏と林恵子氏が宇宙線ミュオンで古墳を透視するプロジェクトを紹介しました。東北大学大学院理学研究科の中村智樹教授は、小惑星探査機はやぶさ2により採取された小惑星リュウグウの石をJ-PARCのミュオンビームを使って分析した結果を報告し、この小惑星は太陽系が誕生した後、比較的初期に形成された原始的な天体であったとの説明がありました。会場168名、オンラインで72名の参加がありました。
J-PARC講演会2023のアーカイブはこちらからご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=TYjuEH3wLrQ

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■宇宙線ミュオンで古墳を透視プロジェクト!「ミュオンにコーフンクラブ」実機製作(11月19日)

 今年の10月に結成された本クラブでは、いよいよ最大のミッションであるミュオン測定器の製作が始まりました。
東海村歴史と未来の交流館に集まった18名の児童生徒が2班に分かれ、古墳を透過した宇宙線ミュオンを検出する測定器の組み立てに取り掛かりました。縦60cm、横1mもある検出器に直径1mmの細い光ファイバーを何百本も通し光センサーを取り付ける、地道で集中力が必要な作業です。子どもたちは説明書を読み、専門家や茨城大学の学生のサポートを受け、3時間もかけて作業を進めました。測定器全体が完成するまでにはまだ数か月を要します。今年度中には測定器の稼働試験を行う予定です。

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■ご視察者など

 12月18日 盛山文部科学大臣

 

 

■出張授業

(1)センター長が岡山県玉野市立荘内中学校で講演(11月10日)

 小林隆J-PARCセンター長が「大きな宇宙のひみつと、ミクロな世界のひみつと、加速器と」というテーマで講演し、1年生約100名が参加しました。

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(2)香川高等専門学校で出張授業(11月20日)

 テーマ「ミクロの世界を見る加速器の仕組み」について、J-PARCセンター大谷将士氏 が、出張講座を行いました。86名が参加し、参加した生徒からは「ミューオン以外の素粒子の可能性や応用について」、「陽子ビームのための陽子の抽出方法」などをもっと聞いてみたい、などの感想が寄せられました。

 

 

■加速器運転計画

 1月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 ㊶ -J-PARC研究棟のクリスマスツリー-

 毎年12月になると、J-PARC研究棟の正面玄関ホールの一角にささやかなクリスマスツリーが飾られます。しかし正面玄関は北向きで日光がホールの中まで差し込まず、大部分の照明が消えている日中は目立ちません。朝出勤したほとんどの職員はクリスマスツリーには目もくれず、自分の居室へと急ぎます。
 一日中居室でデスクワークをしていると、季節の変化はもちろん、時刻の変化にも意外と気づかないものです。12月の夜はすぐにやってきます。J-PARC研究棟の玄関ホールは4階まで吹き抜けとなっており、天井からの照明が直接クリスマスツリーを照らしています。帰宅しようとした職員は、鮮やかに照らされたクリスマスツリーの前でふと立ち止まり、改めて玄関の方を向きなおし、すっかり日が暮れたことを実感します。玄関ホールは暖房がほとんど効いていません。立ち止まった職員は外の寒さを予感します。今まで手に持っていた上着をここで着て、駐車場やバス乗り場へと向かいます。
 ここのクリスマスツリーは、繁華街のクリスマスイルミネーションのように大勢の人に感嘆の声を上げてもらうことも、家族の一員として団らんに加わることもできません。それでも、寒い玄関に立ち続けたまま、年末の慌ただしい業務から解放され、私生活へと戻る職員たちの気持ちを切り替えるための手伝いをしています。

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