J-PARC News 第235号
■ 受賞
(1)日本放射化学会 若手優秀発表賞(ポスター)を受賞(9月25日)
日本放射化学会の第68回討論会において、放射線管理セクションの渡邉 瑛介氏がポスター発表部門の若手優秀発表賞を受賞しました。
J-PARCのより安全な放射線管理を目指す上で、放射性同位体に関する基礎研究は必要不可欠です。渡邉氏は、ニュートリノ実験施設で観測される放射性水銀について生成同位体の質量分布を調べ、生成メカニズムについての考察を行いました。
本賞は研究内容に加え発表技術なども総合的に評価され、優れた発表者へ贈られるものです。
(2)2024年度 日本表面真空学会 熊谷記念真空科学論文賞を受賞
真空科学の進歩発展に特に大きく貢献したと認められる論文著者として、加速器ディビジョンの神谷 潤一郎氏が2024年度日本表面真空学会 熊谷記念真空科学論文賞を受賞しました。
神谷氏は加速器等の更なる超高真空化の実現を目指し、真空と材料表面の観点から研究を行いました。部品の材料であるステンレス鋼にvacuum firingと呼ばれる高真空中での熱処理を行うと、ステンレス鋼製真空容器の放出ガスを低減できることを明確に示しました。さらに、vacuum firingにより、ステンレス鋼から放出される水素ガスが低減でき、かつガス放出源となる他の気体分子も吸着しにくい表面改質が起こるという放出ガス低減のメカニズムの解明にも成功しました。
本賞は2022年度、2023年度と受賞の該当者は無く、3年ぶりに神谷氏が選出され、日本表面真空学会学術講演会(福岡県)にて受賞記念の講演を行いました。
(3)国際マグネシウムアワード 年間優秀論文賞を受賞(11月5日)
中性子利用セクションのハルヨ ステファヌス氏、ゴン ウー氏、相澤 一也氏、川崎 卓郎氏らが発表した論文が、International Magnesium Science & Technology AwardよりExcellent Paper of the Year(優秀論文賞)に選ばれ、中国で開催された第8回マグネシウム国際会議(ICM 8)および第13回マグネシウム合金とその応用に関する国際会議(Mg 2024)にて表彰式が行われました。
本賞は、昨年度に発表されたマグネシウム及びマグネシウム合金に関する論文の中で、インパクトが高いと評価されたものに贈られ、マグネシウムに関連する科学技術の更なる発展とマグネシウムに携わる科学者や技術者が増えることに期待が込められています。
なお、本論文を基に、プレスリリースも行っています。
「日本が開発した高強度マグネシウム合金はなぜ強いのか(2023.08.15)」
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2023/08/15001190.html
■ プレス発表
(1)ステンレスの低温強度が飛躍的に向上するメカニズムを中性子で解明
- 結晶粒超微細化で延性を失わずに高強度化 -(10月11日)
低温で使用される機器の安全性や性能を高めるためには、低温でも十分な強度と延性を持つ材料が必要です。本研究では、一般的な304ステンレス鋼に対し、圧延と熱処理という一般的なプロセスによって結晶粒超微細化(1ミクロン以下)を行い、超微細粒304ステンレス鋼(UFG304)を作製しました。このUFG304の低温変形メカニズムについて、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の工学材料研究用中性子回折装置「TAKUMI」を利用した中性子回折とデジタル画像相関法によって調べました。その結果、変形温度の低下に伴い、結晶構造の変化と結晶欠陥の導入・移動といった複数の現象が段階的に起こり、UFG304に優れた強度と延性をもたらしていることが明らかになりました。
本研究結果は、他の金属材料においても一般的な金属加工設備を用いた結晶粒超微細化によって、力学的特性を大幅に向上させる可能性を示しています。これにより、優れた低温用構造材料の開発が期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP) https://j-parc.jp/c/press-release/2024/10/11001402.html
(2)新開発!超軽量・コンパクト・電源不要の真空トランスファーケース
- ナノ材料・半導体材料開発を加速する超高真空技術の社会実装 -(10月31日 )
ナノ材料や半導体材料の開発において、超高真空技術は欠かせません。このような環境で作られた材料の研究には、高精度な分析が不可欠で、材料表面の酸化や汚染のないままの状態で超高真空環境下の分析装置に運ぶ必要があります。
J-PARCでは、チタンで作られた真空容器の表面を改質することで、それ自体が超高真空を維持するためのゲッターポンプとして働く真空容器を開発しました。今回はこの技術を応用し、材料サンプルを無電源で高真空を維持したまま輸送できる、超軽量(6kg弱)かつ手持ちのカバンに入るコンパクトな真空トランスファーケースを開発し、材料サンプルの表面を酸化させないで、茨城県東海村のJ-PARCから兵庫県播磨のSPring-8までの長距離輸送ができることを実証しました。開発したトランスファーケースを利用すれば、空輸も可能となり、海外への真空輸送も容易になるので、新材料開発分野での利用が期待できます。さらに、電力不要で高真空を維持できる超高真空ゲッターポンプ技術は、カーボンニュートラルな持続可能社会に大きく貢献します。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2024/10/31001411.html
■ フォトコンテスト2024を開催
第11回J-PARCフォトコンテストは、中性子利用セクションのゴン ウー氏の作品「高温変形最中の鎂(マグネシウム)合金」が最優秀賞を受賞しました。MLFの工学材料回折装置「TAKUMI」を用いて、マグネシウム合金試験片の高温引張変形中の様子を撮影したものです。審査委員長からは「赤色の統一された色調の中に美しいグラデーションが表現されている。光彩を放つ部分から動きが感じられ、音までも聞こえてきそうだ。左右対称の構図も安定感を醸し出し安心して見られる。」との評をいただきました。
■ 第9回文理融合シンポジウム 量子ビームで歴史を探る-加速器が紡ぐ文理融合の地平-(11月1~2日)
KEKの物質構造研究所(物構研)では、J-PARC MLFの MUSEで発生する世界最高強度の負ミュオンビームの優位性を活かし、人文科学資料の研究にも活用できる新たな非破壊研究手法を開発しています。そこで、量子ビームを利用する文化財研究者による文理融合研究の可能性を探るため、2019年度から毎年、物構研主催の文理融合シンポジウムを開催しています。今年は11月1日〜2日に秋葉原コンベンションホールで開催され、参加者は74名でした。1日と2日午前中のシンポジウムでは漆産地、陶器、日本刀、出土ガラス資料など文化財の調査分析手法のほか、水中考古学、考古天文学といった多岐にわたる12件の口頭発表がありました。2日午後は対面とオンラインのハイブリッドで一般講演会が開催され、3件の講演がありました。一般講演会では会場、Zoom合わせて約220名の参加があり、参加者からも質問が寄せられ、盛会のうちに幕を閉じました。
■ 第15回FC-Cubicオープンシンポジウムを開催(11月1日)
このシンポジウムは燃料電池に関する産業界の技術課題を共有し、その解決のために幅広い知見を結集することを目的としています。
今回は、シンポジウムに合わせてJ-PARCの見学が行われました。見学会には40名が参加し、J-PARC MLFの中性子ビームラインの実験ハッチまで入り、実験装置の特徴、試料の装着や中性子の照射方法、実験で得られるデータなどの説明を受けました。
東海村産業・情報プラザで開催したシンポジウムにはリモートを含め約120名が参加しました。住友ゴム工業(株)岸本浩通氏から「中性子を活用したタイヤゴムの高強度化に向けて」というテーマで、グリップ、耐摩耗、省エネルギーという相反する性能を高次元で実現するためのJ-PARCの中性子を使った研究が紹介されました。続いてJ-PARCの概要、中性子利用、中性子イメージングの説明が当センターからあり、みずほリサーチ&テクノロジー(株) 米田雅一氏による高度解析施設と水電解・燃料電池研究への 世界動向、(株)豊田中央研究所 長井康貴氏による中性子散乱・イメージング技術の活用と課題についての講演がありました。
■ 青少年のための科学の祭典日立大会に出展 (10月20日)
一人でも多くの青少年に自然科学の面白さを体験してもらうことを目的として、科学の祭典・日立大会が日立シビックセンターマーブルホール等にて行われました。J-PARCセンターでは、銅線、乾電池、ネオジム磁石を使った単極モーターの工作を行いました。子どもたちは、自作のハート形やらせん形の銅線がくるくると回りだすと目を輝かせて喜びました。また、加速器ディビジョン 高柳智弘氏が手作りしたイライラ迷路にたくさんの子ども達が挑戦しました。J-PARCの3つの加速器が迷路になったもので、コースフレームに棒が当たるとブザーが鳴る仕組みになっています。子どもたちは、ブザーが鳴らないように慎重に棒を進めますが、ブザーを鳴らさずにゴールできた子はいませんでした。
■ 原子力科学研究所施設公開2024に出展(10月26日)
「原子力の日」にちなみ、原子力科学研究所施設公開2024が行われました。このイベントでは、施設見学ツアーや科学技術への理解促進のためのいろいろな実験教室などが行われました。J-PARCセンターでは、光のまんげきょう(工作)のブースを出展しました。この工作は、短時間で完成し、まんげきょうを通して光源を覗くと、美しい虹色の分光が観察できます。また、来場された方に、J-PARCの広報資料を配布したり、J-PARCの3つの加速器を図案化したイライラ迷路の体験を楽しんでもらい、イベントを盛り上げました。
■ 大阪府立茨木高等学校にて出張授業 (10月19日)
「素粒子物理学と量子ビーム、加速器科学 ~国立研究所での研究生活 ~」と題して、加速器ディビジョンの 北村遼氏 が、出張講座の講師を務めました。1、2年生が参加し、参加した生徒からは、「素粒子についてとても興味を持ちました。」「加速器が魅力的だと思いました。」「素粒子の世界や量子ビームについてさらに興味を持つことができました。」などの感想が寄せられました。
■ ミュオンにコーフンクラブ 2台目の測定器製作を開始
(11月24日、東海村歴史と未来の交流館)
6回目となる2024年度「宇宙線ミュオンで古墳を透視プロジェクト」では、小学生から高校生まで19名が参加し、今年度の測定器製作が始まりました。
まず、J-PARCセンターの藤井氏から宇宙線ミュオンについての解説、そしてミュオンを検出する測定器の仕組みと製作の手順の説明を受けました。その後、参加者は3つのグループに分かれ、手順を説明書で確認し、専門家や茨城大学の学生のサポートも受けながら、2台目のミュオン測定器の製作にとりかかりました。今年度末の測定器完成を目指し、これから数か月間、地道で集中力が必要な作業が続きます。
■ ご視察者など
10月31日 北京科技大学副学長 他
11月 1 日 城内実 内閣府特命担当大臣
■ 加速器運転計画
12月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。
J-PARCさんぽ道 52 -課外活動は仕事の潤滑油-
J-PARCは700人以上が働く巨大な研究施設です。日本原子力研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構などの異なる機構や関連企業の人が集まり、職種も、研究はもちろん、施設や安全の管理、事務や広報まで多岐にわたっています。
そんなJ-PARCでは、多くの人が課外活動に参加しています。会員66人のゆっくり系山歩きの会を始め、長距離系山歩き、ランニング、オートバイ、アマチュア無線、自転車、ヨガ、スキー・スノボ、楽器演奏などがあります。施設の運転中は24時間、土日祝日関係なく稼働し続けますので、都合がついた人が集まり、所属や職種などの垣根を越えて和気あいあいと楽しんでいます。
課外活動の会員はJ-PARCに直接携わっている人だけではありません。ご近所の方、ユーザーの方、あるいはJ-PARCに全く関係ない方でも参加を歓迎します。