トピックス

2024.03.29

J-PARC News 第227号

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■受賞

(1)高エネルギー加速器科学研究奨励会 奨励賞「小柴賞」を受賞(3月7日)

 東北大学大学院理学研究科教授でKEK特別教授、J-PARC素粒子原子核ディビジョンの三輪浩司氏が2023年度の高エネルギー加速器科学研究奨励会の奨励賞「小柴賞」を受賞しました。小柴賞は、素粒子分野などの基礎科学における測定器技術の開発研究において、独創性に優れ、国際的にも評価の高い業績を上げた研究者及び技術者に贈られるものです。
 三輪氏は東北大学 田村裕和教授らとともに、J-PARCハドロン実験施設でハドロンおよびハイパー核の研究を行ってきました。受賞理由は「『反跳陽子検出器システム(CATCH)を用いたハイペロン陽子散乱実験手法の開拓』の功績が理論研究にも大きな刺激を与えており、三輪氏が開発した測定器システムが今後もハドロン物理学の分野で重要な役割を果たし続けることが期待される」と記されています。
詳しくはKEK素粒子原子核研究所ホームページをご覧ください。https://www2.kek.jp/ipns/ja/news/5633/

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(2)ビーム物理研究会・若手の会「若手発表賞」受賞(3月6日)

 加速器ディビジョンの小島邦洸氏が、「J-PARC RCS のさらなるビームロス低減と⼤強度化に向けた非構造共鳴の補正」というタイトルで口頭発表を行い、若手発表賞を受賞しました。本賞は、ビーム物理分野の研究に取り組む若手研究者や学生の研究意欲を高め、研究者・社会人としての自立と発展を支援することを目的に設けられています。
 小島氏は研究成果、主体性、発表の纏まり等を総合的に評価されました。

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■プレス発表

(1)高エネルギー密度とコバルトフリー構成を両立する実用的ニッケル系電池材料の開発
 -構造欠陥の制御により高性能電極材料開発を実現-(2月8日)

 横浜国立大学、CROSS、J-PARCらの研究グループは、新しいニッケル系層状材料(Li0.975Ni1.025O2)を開発し、コバルトフリー構成でありながら高エネルギー密度・長寿命の電池正極材料となることを発見しました。電気自動車などに用いられるリチウムイオン電池にはコバルトを含むニッケル系層状酸化物が正極材料として広く用いられていますが、コバルト資源は主に政情不安定な国に偏在しており、その削減が急務となっています。
 本研究で、コバルト非含有材料では充電状態においてニッケルイオンの移動が劣化の要因であることが分かりました。また構造欠陥を含有するモデル材料を合成したところ、充電状態におけるニッケルイオンの移動が抑制可能であることが明らかになりました。
 今回開発された材料は、今後、実際に高性能な電気自動車用電池材料として利用が進むことが期待されます。その一方で、ニッケルは比較的高価な元素のため、ニッケルフリー構成を実現する電池材料も必要です。今回の知見をもとに、次世代の低価格と高性能を両立するリチウムイオン電池の実現につながることが期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2024/02/08001290.html

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(2)量子磁性体のスピン波寿命を磁場で制御することに成功
 -スピン流制御のスイッチデバイスの可能性-(111日)

 大阪大学、国際基督教大学、京都大学、KEK、JAEA、国立歴史民俗学博物館らの研究グループは、ミュオンを用いて鋼鉄中に含まれる微量な炭素を非破壊で定量する方法を開発しました。
 鋼鉄には炭素が含まれており、その含有量によって硬さが決まります。しかし炭素の分析は今まで非破壊かつ非接触で行うことはできず、文化財などには適用されませんでした。 研究グループは、物質中に捕らえられたミュオンの寿命を測定することによって、物質中の元素分析ができると考えました。J-PARCの大強度ミュオンビームを利用した結果、ミュオンの分析により微量な炭素が定量分析できることと、さらにミュオンを照射する深さを選択できることが確かめられました。
 本分析手法はこれまで破壊的な分析が使われてきた炭素分析に新たな選択肢を与えるものになり、鋼鉄の品質管理だけでなく、日本刀などの貴重な文化財への適用が期待されます。また、本手法は鋼鉄中の炭素の分析以外にも原理的には適用可能で、金属中の酸素の分析など様々な応用的な手法の展開が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。https://j-parc.jp/c/press-release/2024/02/09001291.html

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■令和5年度国際諮問委員会(IAC2024)の開催(3月4~5日)

 本委員会は「大強度陽子加速器施設の運営に関する基本協力協定」に基づき、加速器、核変換、中性子、ミュオンの4分野の各専門部会の上位委員会として、J-PARCの運営、利用及び施設整備に係る重要事項について外部委員が審議する委員会です。委員16名(国外12名、国内4名)のうち、Robert McGreevy 委員長を始め14名(国外10名、国内4名(リモートを含む))が出席し、2023年度のJ-PARCにおける研究開発活動等について審議し、次年度以降への提言について議論しました。
 また、パラレルセッションでは、今後のJ-PARC運営の発展を担う若手研究員が中心となって最近の研究開発活動をプレゼンし、初日夕刻に開催したレセプションでは、山田東海村長、幅KEK理事、大井川JAEA理事が参加し、J-PARCの将来像に関して各々の立場で率直な意見交換をしました。最終日には、物質・生命科学実験施設(MLF)、ハドロン実験施設、ニュートリノ実験施設、MR電源棟の見学ツアーを実施しました。

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■東海フォーラムの開催(2月21日、東海文化センター)

 JAEAの研究開発成果や事業の進捗状況を地域の方々に報告する場として、当フォーラムを開催しています。18回目の今年は「原子力をもっと身近に」というテーマで行われました。
 干し芋の美味しさを科学的に解明する研究や防護マスク用眼鏡の開発報告に続き、J-PARCセンターからは、中性子利用セクションの篠原武尚氏と外来研究員の野崎洋氏が燃料電池の性能向上に向けた取り組みを報告しました。
 J-PARCのMLFにある実験装置の一つ「RADEN」を利用した中性子イメージング技術を使うと、金属容器に囲まれた電池の内部の様子が、稼働している状態のまま観察できます。本技術を、電気自動車の性能向上や使用済みリチウムイオン電池のリユース・リサイクルへ向けた安全性の評価に活用し、地球温暖化対策やカーボンニュートラルへ繋げていきます。
 報告会の後に行われたトークセッションでは、電気自動車の車検やRADENの名前の由来などについて質問がありました。
詳しくは、核燃料サイクル工学研究所ホームページをご覧ください。 https://www.jaea.go.jp/04/ztokai/forum/

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■2023年度量子ビームサイエンスフェスタを開催(3月5~7日、水戸市民会館)
 第15回MLFシンポジウム、第41回PFシンポジウム

 量子ビームサイエンスフェスタは、施設スタッフとユーザーとの情報交換の場や将来の量子ビーム利用研究のあり方を考える場となることを目指し、KEK物質構造科学研究所、J-PARCセンター、総合科学研究機構、PFユーザーアソシエーション、J-PARC MLF利用者懇談会が主催となって毎年開催されています。今年は3月5日から7日に水戸市民会館で開催され、昨年度を上回る延べ約470名の現地参加者があり、コロナ禍前の姿を取り戻して活発な議論が繰り広げられました。
 初日のPFシンポジウムに続き、6日は海洋研究開発機構の出口茂博士による「深海インスパイアード化学:物質化学からアプローチする持続可能な海洋利用」、理化学研究所の大竹淑恵博士による「理研小型中性子源システムRANS―広がる中性子利用ならびに小型-大型連携―」の2件の基調講演、6分野のパラレルセッション、約260件のポスター発表等がありました。7日のMLFシンポジウムでは「1MWまでの道、1MWからの道。」として、これまでの施設整備の道のりを振り返り、MLFの将来計画であるロードマップをコミュニティーとともに議論する場を設けました。
 また5年ぶりに懇親会が東海村の山田村長の乾杯の音頭で始まり、学際融合の意見交換の場となりました。
※KEK放射光実験施設

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■J-PARCハローサイエンス「医薬へ、IoTへ、宇宙へ、人類社会に貢献する核変換実験施設計画」(2月22日)

 今回のハローサイエンスは、核変換ディビジョンの明午伸一郎氏がJ-PARCで計画している核変換実験施設の新展開について紹介しました。
 J-PARCでは、陽子を加速して中性子を作り、原子力発電に伴い発生する高レベル放射性廃棄物を効率的に害の少ない物質に変換する核変換技術の確立を目指し、新たな実験施設を計画しています。本計画では、核変換技術確立に向けたターゲット部のビーム窓の開発に加え、幅広いエネルギーの陽子や中性子を利用した多目的な実験が行えるよう、検討を進めています。また、既にあるJ-PARCのリニアックから陽子ビームを振り分けて使用するため、低コスト・短期間で建設ができることも本計画の強みです。本施設が実現すれば、現在、多くを海外に頼っている材料研究のための照射試験や医療用アイソトープの製造と安定供給、宇宙環境の模擬なども国内で手軽に行えるようになり、 核変換技術のみならず様々な分野の発展に貢献すると期待が高まります。

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■J-PARCワークショップ「ハドロンでアクセサリーをつくろう」を開催(3月9日、日立シビックセンター科学館)

 J-PARCで行っている“ハドロン”の研究について、素粒子原子核ディビジョンの家入正治氏が紹介しました。その後、ハドロンに見立てたビーズを使ってストラップを作るワークショップを行いました。
 44名の参加者から「“ハドロン”という言葉を初めて聞き、知りたくて参加しました」「ハドロンて不思議だね」といった声が聞かれ、J-PARCの研究に興味を持っていただけたと嬉しい思いです。
 参加者と研究者との会話も盛り上がり、とても温かい雰囲気のワークショップとなりました。

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■ミュオンにコーフンクラブ2023修了式(3月17日)

 宇宙線ミュオンで舟塚古墳群2号墳を透視するプロジェクトの活動のうち、昨年10月から小中高生25名の子どもたちと共に進めてきたミュオン測定器1基の製作が無事終了し、修了式が行われました。当日は19名が参加し、歴史と未来の交流館では、山田東海村長から子どもたちへ修了証の授与が行われました。
 修了式後、子どもたちは、茨城大学の田中裕氏から、大きく「前期」「中期」「後期」の3つの時期に区分される古墳時代の中で、時期ごとに古墳の形がどのように変化したのかを学び、ミュオン透視する舟塚2号墳の形がどの時期のものなのかを測量図を使いながら考えました。そして、最後は、J-PARCの藤井芳昭氏の解説の下、完成したミュオン測定器を稼働させ、交流館に降り注ぐ宇宙線を観察し、今年度の全活動を終了しました。
 皆さんが作った検出器の愛称は、投票により、「歴史と未来の測定器」に決まりました。来年度はこの測定器を舟塚古墳群2号墳に置き、いよいよ古墳の中の透視が始まります。

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■第13回科学の甲子園全国大会(3月15~17日、つくば)

 各都道府県の代表校の高校生が科学の力を競う「科学の甲子園全国大会」が3月15日から17日の3日間、つくば国際会議場とつくばエポカルで開催されました。
 13回目となる今大会は4年ぶりの通常開催となり、大勢の観客が見守るなか、参加した生徒たちは想定できない変化に対応しながら実験に取り組みました。競技終了後には大きな拍手が会場を包み込みました。
 最終日の3月17日、J-PARCセンターが設置した展示ブースには表彰式を終えた高校生194名が訪れ、加速器ディビジョン五十嵐進氏、同ディビジョン山本風海氏、素粒子原子核ディビジョン鵜養美冬氏、JAEA先端基礎研究センター山本剛史氏、ハドロン実験に参加する京都大学博士1年江端健吾氏、東北大学修士1年今本亮氏らによるJ-PARC加速器とJ-PARCを使った実験の説明を受けました。物性から素粒子原子核まで幅広い物理を展開するJ-PARCに興味津々の高校生たちは、研究者や同世代の大学生の説明を熱心に聴きながら、研究内容や、研究者になるにはといった進路相談など多くの質問があり、J-PARCのブースは終始大盛況になりました。

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■センター長が岡山県真庭市立落合小学校で出張授業(3月8日)

 小林隆J-PARCセンター長が、出身校の真庭市立落合小学校にて「大きな宇宙のひみつと、ミクロな世界のひみつ」と題し、出張講座を行いました。
 5年生20名が参加し「宇宙の大きさ、ミクロの世界、J-PARCでの研究」など、クイズを入れながら楽しい時間となりました。

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■加速器運転計画

 4月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 ㊹ -ソメイヨシノとJ-PARC-

 桜の開花予想にはソメイヨシノが使われます。ソメイヨシノは生殖することはできず、接ぎ木や挿し木で仲間を増やすしかありません。全国のソメイヨシノは全て同じ遺伝子からできているクローンです。気温など外からの条件が揃えばどの花も咲き、開花の標準となるのです。
 ソメイヨシノの散り際は、特に美しいと言われています。中でも強い風によっておびただしい数の花びらが同じ方向に飛んでいく様は、J-PARCでの粒子の流れを彷彿させます。J-PARCではすさまじい数の陽子を加速してすさまじい数の中性子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどの粒子を創りだし、宇宙や物質、生命の起源に迫ることを目指しています。しかしその一方、粒子を創り、加速し、結果を解釈するスタッフたちは、ひとりひとり独自の個性を持った人間です。
 1月が行き、2月が逃げ、3月が去ろうとしています。異動の対象となったスタッフは、今までの活動結果をまとめ、引き継ぎ資料を作ることで、花見の感傷に浸っている余裕はなさそうです。4月からはJ-PARCに異動してきたスタッフが新たな個性を持ち込み、この巨大な実験施設を安全に動かし、性能を向上させ、新たな研究成果を生み出すよう、またここから異動するスタッフがJ-PARCで培った個性を新天地で大いに引き出せるよう、祈っています。

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