トピックス

2024.05.31

J-PARC News 第229号

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■プレス発表

(1)微生物の酵素が天然ゴムを分解するしくみを水素原子まで可視化して解明(3月18日)

 天然ゴムのアラビアガムは、食品や化粧品、錠剤のコーティングとして医薬品などに広く利用されています。このアラビアガム分子の末端を切断できるラムノシングルクロン酸リアーゼ(FoRhmal)という酵素について、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の茨城県生命物質構造解析装置「iBIX」を用いた立体構造解析により水素原子の位置を決定することに成功し、切断のメカニズムの解明ができました。今後複雑なアラビアガムの構造や生理機能の解析、新たなオリゴ糖の生産などに応用が期待されます。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/03/18001306.html

 

 

(2)多彩なスピン構造の間のトポロジカル数スイッチングに成功 -超高密度な新しい情報担体としての活用に期待-(4月1日)

 ガドリニウム(Gd)は中性子の吸収断面積が極めて大きく、通常の中性子回折実験では磁気構造解析ができませんでした。そこでGdの吸収断面積は中性子のエネルギーが約100 meVを超えると急激に小さくなることに注目し、中性子回折実験に初めて成功しました。
 正方格子構造を持つ希土類合金(GdRU2Ge2)をMLFの高分解能チョッパー分光器「HRC」で測定したところ、直径2.7ナノメートルという極小サイズの磁気スキルミオン(渦状の電子スピン構造を持つGd原子の集合体)を発見しました。さらに、この磁気スキルミオン(磁性体中のスピン渦構造)に対し、様々な大きさの磁場を外部からかけると「楕円形スキルミオン」や「メロン-アンチメロン分子」「円形スキルミオン」といった多彩な渦の巻き方を持つ(トポロジカル数が異なる)スキルミオンを発現することも明らかにしました。
 実証した外部磁場による多彩なトポロジカルスピン構造間の切り替え(スイッチング)は、極小サイズの超高密度な次世代のメモリ素子への応用に貢献すると期待されます。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/04/01001317.html

 

 

(3)資源のリサイクル技術を進化させる新たな視点
 -「超分子集合体」による希少金属の選択性と抽出速度のコントロール -(4月12日)

 溶媒抽出法は、混ざり合わない2つの液体の相の間で、物質がどちらの液体相に溶けやすいかを利用した分離・精製方法です。このうち、パラジウム(Pd)とネオジウム(Nd)との分離において、油相に使う溶媒の種類を変えることで抽出する金属と抽出速度が変わることを発見しました。この現象を明らかにするために、X線小角散乱とJ-PARC のBL16 ソフト界面解析装置「SOFIA」を組み合わせて分析したところ、X線小角散乱では油相に使う溶媒の違いにより抽出剤がつくる超分子集合体の特性が変化することが明らかになり、SOFIAでは界面において抽出剤の密度が変化し、抽出剤が疎な場合は金属イオンの抽出速度が低下することが明らかになりました。
 今回の結果は、従来の溶媒抽出法に超分子集合体の視点を加えた新しい金属イオンの分離方法や、新しい抽出剤の設計につながる可能性を示しています。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/04/12001321.html

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(4)カイラル結晶構造と反強磁気秩序の自発的出現
 -時間と空間の反転対称性が同時に破れた新奇構造を発見-(4月26日)

 空間反転対称性の破れた結晶構造に自発的に相転移し、さらに磁気秩序によって時間反転対称性も破れうる物質を開拓すべく、Remeika相化合物Nd3Rh4Sn13に着目しました。KEKフォトンファクトリーでのX線回折実験とJ-PARCのBL18 特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置「SENJU」、BL14 冷中性子ディスクチョッパー型分光器「AMATERAS」、及びJRR-3における中性子散乱実験により、この物質が空間反転対称性の破れたカイラル結晶構造に相転移し、さらに時間反転対称性の破れた反強磁気秩序が出現することを明らかにしました。
 本研究のような、カイラル対称物質における新しい電子状態や磁気秩序状態の研究は、物質科学の発展のみならず、将来のデバイスや素子への応用にもつながると期待されます。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/04/26001328.html

 

 

(5)特殊な『元素』に頼らず、分子の『配列』を活かして
 - 水素イオンを高速で伝導する高分子膜を開発!-(4月26日)

 水素燃料電池に重要な水素イオン伝導性高分子膜としてフッ素を多く含む高分子膜が使われてきましたが、環境問題を考慮すると同等の性質を持ったフッ素を含まない水素イオン伝導性高分子膜を生み出す技術が不可欠です。そこで、高分子膜中における界面ホッピング伝導機構に着目し、界面にスルホネート基を有する自己組織性分子が規則正しく密に並んだ高分子膜を作成しました。水素イオンの伝導性をJ-PARCのBL02 ダイナミクス解析装置「DNA」で中性子ビームを用いて解析した結果、従来の遅い界面ホッピング伝導を覆す、着想通りの高速水素イオン伝導が生じていることが明らかになりました。さらに膜中の水は全て結合水という特殊な状態になっており、0℃でも凍らない、高温でも蒸発しにくい、燃料電池に有利な状態となっていることが分かりました。
 今後、分子改良を進めることで、現状ではまだ5%程度含むフッ素含有率を0%にした究極の水素イオン伝導性高分子膜も作ることができると考えています。
詳しくはこちら→https://j-parc.jp/c/press-release/2024/04/26001329.html

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■J-PARCハローサイエンス「中性子と単結晶が導き出す分子の真の形」(4月24日)

 中性子利用セクションの大原高志氏が単結晶構造解析について紹介しました。 結晶学はX線の正体が電磁波であると示すなど、いくつものノーベル賞を受賞している分野です。結晶は同じ形のブロックが周期的に並んでおり、特定の面で決まった方向に波を反射します。単結晶構造解析は、この原理を使って結晶中の原子の配置を解明し、結晶の分子の形を明らかにする手法です。本手法にはX線を用いることが多いですが、中性子を使うとX線では観察が難しい水素原子の結合位置までもがはっきりと捉えることができます。
 J-PARCのMLFには2台の単結晶解析装置があり、1台は大原氏が装置責任者を務めている「SENJU」です。測定に使う試料のサイズは通常より一桁小さい体積で十分で、-270℃以下から500℃以上という様々な温度環境や高い磁場のもとでも解析を行うことができます。物理や化学用の回折が得意で、発見から約200年間、構造が不明のままであったガラスの基本分子を解明したのも、このSENJUです。
 原子レベルの詳細な構造や特徴は、物理学、化学、生物学、自然科学全般の非常に重要な情報の基です。単結晶中性子構造解析とは分子の性質を知る、まさに究極の方法といえるでしょう。

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■KEKがニコニコ超会議2024に出展(4月27~28日)

 KEKは千葉・幕張メッセで行われたニコニコ超会議2024(リアル開催)に「超KEK」と題し、KEKやJ-PARCなどで行われている研究について紹介するブースを出展しました。ニコニコ超会議は、株式会社ドワンゴによって運営されている日本最大級の動画サービス「ニコニコ動画」のユーザーが主体となり、ネットとリアルで開催する文化祭です。今年はリアル会場に12万5362人が集まりました。KEKが出展するのは2023年に続いて2回目となります。
 超KEKブースではJ-PARC物質・生命科学ディビジョンの瀬戸秀紀氏による「防弾スイーツ超実験」のほか、霧箱の観察や真空装置の実験など来場者が実際に体験できる「超KEK体験コーナー」を設け、来場者の興味を引きました。
 また、「超KEK生放送」として研究者によるトークの様子がネットで生配信され、物質・生命科学ディビジョンの下村浩一郎副ディビジョン長による「ミュオンでコーフン」、加速器ディビジョンの大谷将士氏による「すごいJ-PARC加速器」、素粒子原子核ディビジョンの多田將氏による「すごいニュートリノ」など、J-PARCに関連するトークも数多く行われました。
 このほか、茨城県、サザコーヒーと共同で開催したスタンプラリーや、謎解きに答えて回せる超巨大ガラポンなどでJ-PARCグッズを景品として配布するなど、多くの方にJ-PARCを知っていただく良い機会になりました。

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■加速器運転計画

 6月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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≪お知らせ≫
■J-PARC講演会2024「加速器-その原理とがん治療への応用」開催のお知らせ(7月6日)

 7月6日(土)、東海村産業・情報プラザ(アイヴィル)多目的ホールにて、J-PARC講演会2024「加速器-その原理とがん治療への応用」を開催します。 入場無料、事前申込不要です。ぜひご参加ください!
詳しくはこちら(J-PARC講演会2024特設ページ) http://j-parc.jp/symposium/lecture2024/

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J-PARCさんぽ道 ㊻ -新緑の候-

 人が受ける情報の7割以上は視覚から入ると言われています。人の肉眼で見ることができる可視光は、だいたい波長が780nmの赤から380nmの紫までです。その中で緑色は、可視光の中間付近である550nmの波長を持ち、目への負担が最も少ない色なのです。
 J-PARCは巨大な顕微鏡とも言える「ものを極限まで見つめる」施設です。多くの陽子を光速近くまで加速し、非常に多くの二次粒子を創り出し、それを試料に照射してその構造や原子の動きを見たり、二次粒子自身の正体を突き止めることを目的としています。もちろんこれらの「もの」は肉眼では見えませんので、電子データを解読することになります。この巨大で繊細な施設を安全に動かし、得られたデータのわずかなサインを見逃さないためには、われわれの目と精神を酷使せざるを得ないこともあります。
 今の季節、J-PARCの建屋から一歩外に出れば、鮮やかな緑が目に飛び込んできます。J-PARC敷地内に広がる新緑は、ものを極限まで見つめて疲労した目や精神を回復し、明日への活力の源になっています。

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