トピックス

2024.07.26

J-PARC News 第231号

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■J-PARCリニアック棟における溶融痕の発見について

 7月5日(金)、リニアック棟1階冷却水コールド機械室3(非管理区域)でチラー冷凍機の内部に溶融痕を発見し、公設消防により火災と判断されました。本事象に伴う人的災害の発生及び周辺環境への影響はなく、モニタリングポストの指示値にも変動はありませんでした。原因は調査中です。
 皆様に多大なるご心配、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げるとともに、再発防止に努めます。

J-PARCセンター長 小林 隆

 

 

■J-PARC講演会2024「加速器-その原理とがん治療への応用」を開催(7月6日)

 東海村産業・情報プラザ(アイヴィル)で開催され、146名が参加しました。
 講演ではまず、加速器ディビジョンの近藤恭弘氏が、J-PARCの3つの加速器の構成、原理、特徴等を説明しました。続いて筑波大学 医学医療系・教授/陽子線医学利用研究センターの榮武二氏が、最先端の粒子線治療の現状について、X線、陽子線、重粒子線の比較を交えて説明しました。最後に筑波大学 医学医療系・教授/陽子線医学利用研究センター長の熊田博明氏が、がん細胞を選択的に破壊できるBNCT(中性子捕捉療法)について、中性子の発生源が原子炉から加速器に変わりつつある現状を説明しました。また、講演の前後と休憩時間には、職員によるポスターを使った加速器の説明がロビーで行われ、J-PARCの加速器に興味を持った方々の質問に答えました。
 会場にはがんを経験された方やそのご家族もいらっしゃり、予定時間を超えるほどの質疑応答が行われました。この講演会を通し、加速器とその応用についてご理解が進むとともに、がん治療の明るい未来を描く手がかりとなることを期待します。
本講演会の様子はYouTube J-PARCチャンネルでご覧いただけます。J-PARC講演会2024特設ページよりご確認下さい。
http://j-parc.jp/symposium/lecture2024/

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■プレス発表

 世界最高のプロトン伝導度を示す完全水和した酸化物を発見 -中低温での高性能な燃料電池につながる新しい材料設計戦略 -(5月29日)

 現在実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)は動作温度が高いため、より低い温度領域で高いプロトン伝導度を示す材料を用いた、プロトンセラミック燃料電池(PCFC)の開発に期待が高まっています。研究グループでは、従来とは全く異なる新しい材料設計戦略により、50~500℃の中低温領域で世界最高のプロトン伝導度を示す新物質BaSc0.8W0.2O2.8を発見しました。また、この物質が高い伝導度を示す要因を、物質・生命科学実験施設(MLF)のBL09「SPICA」を用いた結晶構造解析と理論計算によって明らかにしました。
 今後、BaSc0.8W0.2O2.8を電解質に用いることで、現在よりも低い温度領域で高性能なPCFCの作製のほか、水素ポンプや水素センサーなどさまざまな電気化学デバイスへ応用可能なクリーンエネルギーの材料としての応用も見込まれます。
詳しくはこちら(J-PARC HP) https://j-parc.jp/c/press-release/2024/05/29001343.html

 

 

■令和6年度 中性子産業利用報告会を開催
 (7月11~12日、秋葉原コンベンションホール及び一部リモート配信)

 本報告会は、J-PARC MLF及び研究用原子炉JRR-3が供給する中性子やミュオンの産業利用について、産業界からの要望とマッチングを図ることに重点を置いて開催しています。
 今年度は2日間で247名が参加しました。トヨタ自動車 庄司哲也氏の「MIとDX解析プラットフォームWAVEBASEを介した材料の計測データ解析」と京都大学 平山朋子氏の「トライボロジー現象解明に向けた中性子線分析の活用」の特別講演などが行なわれました。 

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■J-PARCハローサイエンス「パワーアップしたJ-PARC長基線ニュートリノ振動実験」(6月28日)

 素粒子原子核ディビジョンの坂下健氏がJ-PARCのニュートリノ施設の役割と高度化について紹介しました。
 東海村にあるJ-PARCからニュートリノを飛ばし、岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデでそのニュートリノを観測する実験はT2K実験と呼ばれます。T2K実験ではミューニュートリノが電子ニュートリノに変化することを、世界で初めて観測しました。現在は、「宇宙から反物質が消え、物質だけが今ここに存在している謎」に迫るため、ミューニュートリノが電子ニュートリノに変化する確率と、その反粒子である反ミューニュートリノが反電子ニュートリノに変化する確率の違いを調べる実験を行い、それらに差がある可能性を見出しました。しかし、この変化確率が明らかに異なると決定するためには、より多くのニュートリノを観測することが必要です。
 そこで加速器とビームラインの高度化によるニュートリノの生成量の10%アップと、新型のニュートリノ検出器導入によって粒子の飛来方向の同定や粒子識別を可能にしました。さらに2027年度からは受け手である測定器も‘スーパーカミオカンデ’から‘ハイパーカミオカンデ’へと進化を遂げ、より多くのニュートリノを観測する計画です。

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■GSA(ジオ・スペース・アドベンチャー)(7月13~14日、岐阜県飛騨市)

 神岡鉱山の坑道やスーパーカミオカンデ施設が見られる大人気の地底探索イベント、GSAが開催されました。5年ぶりにフル開催となった今回のGSAは、全国各地から800名以上の参加がありました。
 イベントの一環としてサイエンスセミナーが企画され、J-PARCセンター素粒子原子核ディビジョンの中平武氏がT2K実験について講演をしました。講聴した方からは、ニュートリノと反ニュートリノの違いやT2K実験の方法など、多くの質問がありました。
 T2K実験では、J-PARCとスーパーカミオカンデはなくてはならない存在です。これからも双方で連携、高度化を図りながら実験を進めていきたいと考えています。

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■「サイエンス×東海村×J-PARC展 」が開催(7月20日~9月29日、東海村歴史と未来の交流館)

 夏休みが始まった7月20日(土)に「サイエンス×東海村×J-PARC展~せかいは“つぶ”からできている~」が始まりました。子どもたちがナゾ解きステージを攻略し、ミッションをクリアして宇宙の始まりの謎を解き明かすという企画で、東海村とJ-PARCセンターが共催しています。期間中、科学者と一緒に実験や工作をするワークショップ「とうかいサイエンスラボ」や、東海村に集まる科学者たちの素顔に迫る企画展も行われます。
 オープニングでは、東海村吹奏楽団が科学や宇宙にちなんだ楽曲を披露し、来館者を楽しませてくれました。館内では早速、沢山の子どもたちがミッションに挑戦したり、サイエンスラボに参加していました。
 この企画展は9月29日(日)まで開催されます。ぜひ、つぶつぶワールドに変身した東海村歴史と未来の交流館で宇宙の始まりの謎解きにチャレンジしてはいかがでしょうか。
詳しくはこちら(東海村歴史と未来の交流館ページ) https://www.vill.tokai.ibaraki.jp/soshikikarasagasu/kyoikuiinkai/shogaigakushuka/9/1/1/6270.html

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■ミュオンにコーフンクラブで徳化原(とっけはら)古墳の見学(7月7日、城里町)

 梅雨明けを思わせる晴天と体温並みの気温の中、2024年度の第2回宇宙線ミュオンで古墳を透視プロジェクトが行われました。
 今回はこれから宇宙線ミュオンで透視する「古墳の石室とはどういうものなのか」を理解するため、児童・生徒22名に加え、保護者、スタッフ総勢50名で茨城県東茨城郡城里町にある古墳時代終末期(7世紀後半)に築造された徳化原古墳を見学しました。まず、古墳に隣接する「いせきぴあ茨城」で同古墳を発掘した茨城大学 人文社会科学部教授の田中裕氏から古墳時代についての概説に続き、古墳の石室および徳化原古墳についての講義を受けました。
 その後、徳化原古墳に移動し、石室を見学しました。安全上の理由から、石室内部に入ることはできませんでしたが、田中氏から内部をライトで照らしながら石室内部の説明があり、参加者は熱心に見学していました。そして、最後に「これから透視する東海村舟塚2号墳の石室はどこにあるだろう」という予想を立てて、見学会は終了しました。

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■J-PARC出張授業を東海村立中丸小学校で実施(6月25日)

 J-PARCセンター加速器ディビジョンの高柳智弘氏(中丸小学校出身)が、中丸小学校6年生へ「J-PARC講話」を行いました。児童から、「J-PARCに行ってみたい。」「むずかしい話だと思っていたけれど、説明のたびに例えばの例を挙げて話してくれたので、内容がわかりやすかったです。」「笑いもまじえながら話してくれて、勉強の話が長いといつもだったらつかれちゃうのに、とても楽しかったです。」などの感想が寄せられました。

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≪お知らせ≫

■J-PARC施設公開2024開催のお知らせ(9月28日)

 9月28日(土)、「東海村で最先端の加速器サイエンスにふれてみよう!」と題し、J-PARC施設公開を開催します。宇宙や物質・生命の謎に迫る、J-PARCの巨大な実験施設、加速器などの見学(一部事前予約制)や、サイエンスカフェ、実験工作教室などもあります。是非お越しください!
詳しくはこちら(J-PARC施設公開2024特設ページ)https://j-parc.jp/OPEN_HOUSE/2024/

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J-PARCさんぽ道 ㊽ -講演会の司会者を追って~加速器の技術者 杉田萌さんの活躍~

 午後1時半、お客さんたちはおしゃべりをやめ、自分の席につき始めました。225席ある多目的ホールの座席は3分の2が埋まっています。客席の照明が徐々に暗くなっていきます。スポットライトが杉田さんを照らします。趣味の一環で所属している楽団で司会をした時のことが、杉田さんの頭の中をよぎります。
 杉田さんはJ-PARCに勤務する技術職員です。2021年に入所し、RCSの安定運転のため、電磁石や電源の開発やメンテナンスが普段の業務です。そんな杉田さんが全く畑違いである「講演会の司会」という大役を引き受けることになったのは、この時の経験を生かせると思ったからでした。 杉田さんが講演者のプロフィールや講演内容を紹介します。今まで念入りにスタッフの中で打ち合わせをしてきた内容です。間違えるわけにはいきません。
 講演が始まります。杉田さんは舞台の裏に入りますが、安心はできません。講演後、感想を添えるため、講演の内容を理解し、まとめておく必要があるからです。
 質疑応答に入ります。がんを経験した方をはじめ多くの皆様から、的を射た、はっとするような質疑応答が続きます。杉田さん自身、もっと聞いていたいという思いがあるのですが、どこで区切るかという厳しい決断が彼女自身に委ねられています。会場にはまだ手を挙げている人が大勢います。杉田さんはソフトかつはっきりした口調で、質疑応答の終了を宣言します。
 杉田さんは、司会という立場でお客様と発表者との橋渡しをすることにより、いかに多くの人が加速器を使ったがん治療に興味を持っているかが実感できたそうです。加速器はビーム物理やビーム利用を支える技術として、縁の下の力持ちという扱いを受けることが多くありました。しかし、この講演会で加速器の技術そのものが人々の役に立っていることが身をもって体感でき、応援してくださる多くの人々の期待を想像しながら研究活動を続けていきたい、と述べていました。
 J-PARCでは、若手職員が様々な経験をし幅広い分野で活躍するよう期待しています。

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