トピックス

2025.02.28

J-PARC News 第238号

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■ 受賞

 第14回(2024年度)高エネルギー加速器科学研究会奨励賞 西川賞

 加速器第六セクションの冨澤正人氏が、高エネルギー加速器科学研究奨励会奨励賞の一つである西川賞を受賞しました。本賞は、加速器科学関連の研究分野において偉大な業績をあげられた西川哲治先生の功績を讃えて設けられた賞です。高エネルギー加速器に関する実験的あるいは理論的な基礎研究ならびに応用研究において、独創性に優れ国際的にも評価の高い業績をあげた、単数または複数の研究者および技術者に対して与えられます。
 今回の受賞は、J-PARC 主リング(MR)における遅い取り出し運転の性能向上についての研究に関するものであり、冨澤氏はJ-PARC MRの遅い取り出しの責任者として、詳細なビーム力学研究に基づくビーム光学設計、ハードウェアR&D、実機建設、実用運転を担い、99.6%という世界最高性能の取り出し効率を実現したことが評価されました。

 

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■ プレス発表

 水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料
 -高吸水性高分子の特性を活かした自己組織化-(2月17日)

 アクリル酸ナトリウム(ANa)は、紙おむつなどに使用される高吸水性高分子の原料です。この特徴に着目してANaと疎水性アルキル基を含む両親媒性ランダム共重合体を設計すれば、環境から水を吸収することで、ミクロ相分離構造をポリマー材料に構築できるのではと着想しました。
 本研究では、ANaと疎水性ドデシルアクリレートのランダム共重合体を合成し、水蒸気アニール処理を12時間行った後、小角X線散乱(SAXS)測定でミクロ相分離を調べたところ、水を含む親水性層と疎水性層が交互に配列したラメラ構造を形成していることがわかりました。さらに、J-PARCにおける中性子反射率(NR)測定や原子間力顕微鏡(AFM)を用いた観察で、湿度上昇に応じてラメラ構造が誘起する過程やラメラ構造の親水性層へ水が吸収される過程を明らかにできました。
 今後は水を含む親水性層や相分離構造を活かした機能性材料への応用が期待されます。また、本技術を分解性高分子などに融合することで、リサイクル性や資源循環性を併せもつ自己組織化材料の開発を進める予定です。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/02/17001465.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス「加速器大強度ビームの世界」(1月31日)

 講師の加速器ディビジョンの小林愛音氏は、J-PARC最大の加速器であるMRの高度化に携わっています。小林氏は素粒子物理学で博士号を取得後、素粒子を創り出す加速器に興味を持ち、現在は大強度陽子ビームの課題であるビームロスを解決する研究を行っています。
 ビームロスとはビームが周回中に失われることです。世界最強レベルの陽子ビーム数が減るだけでなく、装置の故障や放射化を引き起こし強度が上げられなくなる弊害があります。ビームロスを引き起こす事象のうち、ビームの重心が振動するビーム不安定性は、大強度ビームで特に問題になります。これはビームと装置の構造との電磁場的な相互作用によって発生するので、そのメカニズムを理解した対策と、フィードバック装置でキックを与え振動を抑え込むことが必要になります。
 今後、ビーム条件によって、残留ガスとの衝突などで発生した電子が雲のようになって真空が悪化し、ビームロスやさらなるビーム不安定性が起こる可能性があり、これらの対策や検討も行われていることも紹介されました。

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■ J-PARC出張講座

(1)富山県滑川市立田中小学校(1月22日)

 4年生の児童およそ40人を対象に、「大きな宇宙の・ちいさなひみつ」をテーマに、放射線管理セクション 高橋一智氏 が講師を務めました。
「理科の勉強の先にある『物理』のお話」から「小さな世界の『果て』を目指す加速器を知ろう」と題する講演を行い、普段、目に見えない放射線を可視化する装置「霧箱」作りに挑戦し、宇宙の小さな秘密「素粒子」の世界を感じてもらいました。

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(2)ひたちなか市立市毛小学校(1月27日)

 6年生2クラスの児童およそ80人を対象に、「かたむいているのに倒れない⁉不思議なコマづくり」というテーマで、加速器第七セクションの大谷将士氏が講師を務めました。
 市毛小6年生の皆さんに、地球ゴマや自身で組み立てたコマを使いながら、J-PARCで行われている素粒子研究について解説しました。傾いたまま回り続けるコマは、コマ自身と共にコマの軸も回転しています。歳差運動と呼ばれるこの動きは、コマの重心を変えると軸の回転方向に変化が現れます。コマの観察を通じて、素粒子の存在を感じてもらえたことと思います。

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(3)長野県 長野工業高等専門学校(1月31日)

 1年生から5年生までおよそ20人を対象に「ミクロの世界を見る加速器の仕組み ~素粒子現象から巨大構造物まで透視するミューオン加速技術~」と題する講演を、加速器ディビジョンの大谷将士氏が行いました。
 講演では、まず加速器の原理について説明し、医療応用などの加速器の利用例を紹介しました。次に、古代ピラミッドの秘密の空間の発見や、火山内部の透視に利用されている素粒子ミューオンについて取り上げ、J-PARCで人工的に大量生成されたミューオンを用いた研究や、最新の技術開発・研究の展開について紹介されました。
※ミュー粒子のことを「ミューオン」または「ミュオン」と表す。

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(4)ひたちなか市立勝田第三中学校 (2月4日)

 3年生4クラスの生徒およそ120名を対象に、「宇宙・エネルギー・放射線に関わる基本的な知識理解を深める」ことを目的として、講演と装置「霧箱」作りを行いました。
 はじめに、J-PARCセンター長 小林隆氏の講演があり、「大きな宇宙のひみつとミクロな世界のひみつと加速器と」をテーマに宇宙の大きさ、ミクロの世界の小ささについての話から、宇宙と素粒子と加速器、J-PARCで行われている研究について、時折自身の体験を踏まえながら語りました。次に、放射線管理セクション 高橋一智氏の「小さなものを『見る』方法」というテーマでは、グループワークによる放射線を可視化する装置「霧箱」作りに挑戦し、α線を過飽和したエタノールで可視化することができました。

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(5)東海村立白方小学校 (2月7日)

 4年生3クラスの児童およそ80人を対象に、「君も研究者!いろいろな大きさの生き物を観察しよう」というテーマで、MLFアウトリーチサークル「ぷろとんず」が授業と観察指導を行いました。
“研究の第一歩は、よく目で見ること!”を合言葉に、児童の皆さんは①にぼしのかいぼう ②泳ぎの達人 ミジンコを見よう! ③納豆(なっとう)のひみつ という3つのテーマにチャレンジしました。
 身の回りの生き物を虫めがねや顕微鏡を使って観察すると、新しい発見があります。リーダーの柴崎氏は、理科や科学は「楽しい!」と思うことが大切。将来の職業候補に“研究者”を入れてもらえたら嬉しい、と子供たちにメッセージを送りました。
※物質・生命科学実験施設

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■ ミュオンにコーフンクラブ
「歴史と未来の測定器」測定データの解析状況報告と測定器の製作(2月16日)

 東海村歴史と未来の交流館に21名の児童生徒が集まり、今年度9回目の活動が行われました。今回は測定器製作に入る前に、昨年10月13日に舟塚2号墳に設置した「歴史と未来の測定器」のデータ解析状況について、茨城大学大学院の葛葉氏から、データを解析したところ、「古墳の輪郭が見え始めている」という報告があり、「古墳の内部に空洞(埋葬施設)を見つけるという当初の目的が達成できるかもしれない」という期待が高まりました。
 測定器製作は今回も繊細で神経を張り詰める作業が続きましたが、解析結果の報告を聞いて、よりよい測定器をつくろうとこれまで以上に熱心に取り組んでいました。また、子どもたちからの質問コーナーには、葛葉氏だけでなく、J-PARCの藤井氏、茨城大学の飯沼氏と田中氏も参加しました。
 次回はいよいよ、今年度最後の講座となります。

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■ ご視察者など

 2月17日 茨城県 岩下副知事

 

 

■ 加速器運転計画

 3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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J-PARCさんぽ道 55 -J-PARCの施設点検でドローンを飛ばす-

 天候に恵まれた2月14日、J-PARCの上空をドローンが飛びました。リニアックやRCS、MLFなどの雨樋に異常がないかを調べるためです。これら巨大な建物の雨樋は軒下にあり、直接目視で調べるには、地表から登る場合も、屋上から降りる場合も、命綱を着けて慎重に少しずつ移動する必要があります。ドローンによる点検では、人による高所作業を伴わず、高性能なカメラによるズーム撮影が可能であり、異物の有無を容易に観察することができました。たとえば、森林に面している雨樋とそうでない雨樋で、松の葉などの積もり方が全く違っていたことが分かりました。わずか1日の点検でこのような情報を得ることができるので、今後、修理などの対応も効率的に行えます。
 最新の画像解析では、赤外線を使った暗闇での撮影や温度分布を観測することもできます。施設管理の大幅な効率化ができるばかりでなく、目視では成しえない正確な情報を得ることができ、施設や機器の高度な異常診断にも貢献することが期待されます。施設工務セクションの担当者は、最近開発されている小型ドローンなどの潜在的な能力を屋内外含めた日常的な設備点検にどのように生かすべきかを検討していきたいと話しています。

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