J-PARC News 第240号
■ 受賞
(1)ビーム物理研究会 若手発表者賞2024を受賞(3月14日)
加速器第三セクションの永山晶大氏(特別研究生)が発表した「大強度陽子加速器における遅い取り出しのための非破壊型静電セプタムの開発」がビーム物理研究会・若手の会2024若手発表賞を受賞しました。
昨年10月に学生優秀発表賞を受賞した日本物理学会の発表内容からの進捗を報告したものです。本発表では、新たな印加電圧最適化手法を開発することで目標の電場分布を達成し、シミュレーションでビームロス低減を確認した事を報告しました。
メンテナンス性の向上やビームの大強度化につながる非破壊型静電セプタムの研究開発は、様々な組織から高く評価されています。
関連記事:日本物理学会 学生優秀発表賞を受賞(J-PARC HP)https://www.j-parc.jp/c/topics/2025/01/14001449.html

(2)令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究支援賞を受賞(4月15日)
ミュオンセクションの的場史朗氏、牧村俊助氏(現ハドロンセクション)、砂川光氏の3名が、「世界最大強度パルスミュ オン源の安全安定運用への貢献」という業績において、高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績をおさめたとして、令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究支援賞を受賞しました。4月15日に表彰式が行われました。
J-PARCにおいて世界最大強度である1MWのパルスミュオンを安全かつ安定的に実験施設へ供給し、数多くの先端研究の実現に貢献したことが高く評価されました。
J-PARC季刊誌の最新号でもミュオンの生成について特集しました。是非ご覧ください。
季刊誌 20号はこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/public-relations/publication.html

■ プレス発表
"悪者"水素が味方に:中性子が明かす金属の強度・延性向上メカニズム
-水素に強い金属材料を開発し、より安全な水素社会を目指す -(4月1日)
水素が金属に侵入すると、一般的には強度や延性(伸び)が低下することが知られています。ところが近年、一部のステンレス鋼では、水素の影響により強度と延性が向上するという報告があり、その科学的裏付けが求められてきました。
J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)に設置されている工学材料回折装置「TAKUMI」では、材料の環境を変化させながら中性子回折を行うことが可能です。TAKUMIの得意とする“その場観察”により、水素が金属の結晶格子に侵入し、わずかな膨張と歪みを引き起こすことで、ステンレス鋼の強度と延性を向上させるメカニズムが明らかになりました。
この成果は、水素に強い金属材料の開発を加速させ、水素社会の実現に向けた安全性の向上に大きく貢献すると期待されています。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/04/01001491.html
■ 一橋大学とデータサイエンスに関する連携協力協定を締結(4月10日)
JAEA門馬理事とKEK道園理事の出席の下で、一橋大学の中野学長と小林センター長が、「J-PARCセンターに付随するデータを利用したデータサイエンスに関する研究及び教育の推進に係る連携協力協定」の締結に係る署名を交わしました。本活動は、J-PARCセンターのデータ利活用の取り組みの一環として注目され、産業や学術での同センターの貢献をより一層進めるものと期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2025/04/22001504.html

■ J-PARCハローサイエンス「見えない真空を見てみよう」(3月19日)
加速器ディビジョンの諸橋裕子氏が、J-PARCで行われている真空技術の研究開発とその応用について、真空装置を用いた実験を交えながら紹介しました。
まず、風船やお湯を大気圧から真空状態に置き、風船が大きく膨れたり、80℃程度のお湯が沸騰し始めたりする変化を実験しました。次に、J-PARCで開発した真空状態を保ったまま試料を輸送できる「真空トランスファーケース」の実物を紹介しました。この容器は、内面が真空ポンプとして機能し、外部の真空ポンプを使わずに約1か月 “超真空状態”を維持できます。これにより、酸化しやすいナノ材料や半導体材料を大気に触れず清浄なままでの輸送が可能となりました。容器は6kg程度なので飛行機の機内へ持ち込みが可能です。
J-PARCから生まれた省スペース、省電力で高性能な真空輸送容器の新技術は、多様な産業を支え、カーボンニュートラルで持続可能な社会へも大きく貢献できると期待されます。

■ 第14回科学の甲子園全国大会(3月21日~24日、つくば国際会議場、つくばカピオ)
3月21日から24日までの日程で標記の大会がつくば国際会議場、つくばカピオにて行われました。県内の科学技術に触れて楽しんでいただきたいとの主旨で茨城県からブース出展の打診があり、大会期間中の3月23日にはJ-PARCを含め17の団体が出展しました。
前日までの2日間の競技を終えた高校生等は、15:30~17:00という短時間のスケジュールで、気になるブースを訪れました。当センターでは、神藤勝啓氏、山田逸平氏、佐藤健一郎氏、佐野亜沙美氏により、イオン源の模型、RFQベイン、高圧力装置(卓上)、J-PARC模型などの展示、紹介を行いました。大会には、およそ400名が参加し、約半数の高校生等が当センターのブースに訪れました。

■ 加速器運転計画
5月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

J-PARCさんぽ道 57 -超高真空、超高圧の世界-
私たちが住む地球の上空と内部では、超高真空と超高圧の世界が広がっています。
地表から離れるにつれ空気はどんどん薄くなり、宇宙空間では限りなく真空に近くなります。気象衛星が周っている3万km以上の上空では10兆分の1気圧です。大量の陽子を光速近くまで加速するJ-PARCの加速器では、陽子が他の粒子にぶつかる機会を極力少なくするため、様々な真空ポンプを駆使し、陽子が通る場所を気象衛星軌道に相当する超高真空に保っています。
一方、地球は深部に行くほど圧力は高くなり、中心に近づくと360万気圧にも達します。この深部の様子を模擬するため、J-PARCの超高圧中性子回折装置「PLANET」では、「圧姫」というプレス機を使って、約20万気圧までの超高圧を実現しています。
J-PARCでは、気象衛星が飛ぶ10のマイナス13乗気圧から地球深部の10のプラス5乗気圧まで、18桁にもわたる広い圧力範囲を舞台として、装置の開発や様々な実験がなされています。