J-PARC News 第250号
≪Topics≫
■ MR(メインリング)でビームパワー900kWでの安定した利用運転を開始
J-PARCでは、2028年に始まるハイパーカミオカンデ実験において、メインリング加速器で1.3MW運転を行う予定です。これに向け、現在段階的にビームパワーを引き上げており、1月27日以降は、900kWでの安定した運転を継続しています。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/topics/2026/01/30001727.html
■ 受賞
(1)第31回 日本物理学会論文賞(1月16日)
東北大学大学院理学研究科教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)特別教授の三輪浩司氏、東北大学大学院理学研究科 助教の七村拓野氏らJ-PARC E40実験グループが、第31回(2026年)日本物理学会論文賞を受賞しました。
E40実験グループは、J-PARCの高強度ビーム環境下で動作する散乱粒子検出器を用いた実験により、Σ粒子と陽子の弾性散乱事象を従来の100倍以上の統計精度で検出することに成功しました。寿命が極めて短いΣ粒子を用いた散乱実験は非常に困難な実験であるため、本成果は大きなブレークスルーと言えます。さらに、クォークレベルに基づく理論で予言されていた強い斥力が、実験的には理論で指摘されているほど顕著には現れないことを世界で初めて明らかにしました。
ハイペロン―陽子散乱という新たな実験技術を確立した本研究は、ハイペロン―核子間相互作用の理解に重要な貢献を果たすものであり、今後の原子核物理学の発展に大いに寄与する成果であると高く評価されました。
(2)第7回(2026年)米沢富美子記念賞
物質・生命科学ディビジョン ミュオンセクションの梅垣いづみ氏が、第7回(2026年)米沢富美子記念賞を受賞しました。
梅垣氏は、ミュオンを用いたリチウムイオン電池の高度な解析において独創的な研究を展開しており、ミュオン科学の進展に大きく貢献したことから、今回の受賞となりました。
詳しくは、KEKホームページをご覧ください。https://www2.kek.jp/imss/news/2026/topics/0224JPSJ-Yonezawa-Awd/
■ 第20回東海フォーラムを開催(2月18日、東海文化センター)
日本原子力研究開発機構では、東海地区の活動を近隣住民の皆様等に理解していただくため、事業報告として本フォーラムを毎年開催しています。今年は原子力機構設立20周年に当たります。127名が来場され、オンラインでは111名が視聴されました。
フォーラムでは、核燃料サイクル工学研究所、原子力科学研究所及びJ-PARCセンターの活動が述べられました。J-PARCセンター物質・生命科学ディビジョンの中村充孝氏が「未来をつくる力、 MLF中性子実験装置の挑戦」と題して、物質・生命科学実験施設(MLF)における中性子利用研究について報告しました。MLFが提供する世界最強の中性子ビームと中性子の優れた特徴を最大限に引き出した中性子実験装置により、軽元素の観察や物質内部の構造解析などが迅速かつ詳細に実施できることが紹介されました。
詳しくは、核燃料サイクル工学研究所ホームページをご覧ください。https://www.jaea.go.jp/04/ztokai/forum/
■ J-PARCハローサイエンス
「病院から美術品まで!加速器が活躍する意外な場所」(1月30日)
加速器ディビジョンの山本風海氏が、私たちの暮らしの中で活用されているさまざまな加速器技術について紹介しました。
加速器とは、電子や陽子といった電荷を持つ粒子を加速し、高いエネルギー状態を作り出す装置です。J-PARCでは、3つの加速器を組み合わせて大強度の陽子ビームを作り出し、そこから生成される中性子やミュオン、ニュートリノ、中間子といった粒子を用いて、物を壊さずに中身を調べる研究や、宇宙の成り立ちに関わる現象を解明する研究が行われています。
「加速器」と聞くと、特別な研究施設にある巨大な装置という印象が強いかもしれませんが、実は身近な場所でも幅広く利用されています。医療分野では、加速した粒子を利用して、レントゲン診断や放射線治療が行われています。空港での手荷物検査にも、加速器によって生み出された放射線を使います。また、かつて家庭で広く普及していたブラウン管テレビも、電子ビームを加速して画面に照射し、発光させる仕組みを利用した装置でした。そのほかにも、食品や農業分野での品質管理、半導体製造など、加速器は多様な分野で活躍しています。
加速器の技術は研究分野にとどまらず、社会を支える重要な技術として、今後もさまざまな分野での活躍が期待されています。
■ J-PARC出張講座
(1)横芝光町町民会館(1月17日、千葉県山武郡横芝光町)
親子チャレンジセミナー「楽しい科学実験教室」として、小学生低学年向けに「にぼしの解剖」、高学年向けに「雪の結晶を観察しよう」をテーマに、MLFアウトリーチサークル 「ぷろとんず」の柴崎千枝氏が実験教室を行いました。
「研究の第一歩は、よく目で見ること!」を合言葉に、虫めがねを使って「解剖したにぼし」や「氷の結晶」をじっくり観察しました。
参加された皆さんからは、「にぼしを観察して、もっと身の回りの生き物も観察してみたくなりました」「脳みそや心臓が5mmくらいしかないことに驚きました!」「魚のえらは何のためにあるの?」「冷やし方によって氷の結晶の形は変わるの? 水を凍らせると体積が増えることなど、もっと知りたいです」など、多くの感想や質問が寄せられ、科学への関心が高まる実験教室となりました。
(2)東海村立村松小学校(1月27日)
広報セクションの宇津巻竜也氏が、3年生を対象に「光のまんげきょう」工作・実験教室を行いました。
ブラックライトで液体を照らすと何色になるか、偏光シートを2枚重ねて片方のシートを回転させると見え方が変化する不思議などを体験しました。最後に、分光シートを用いた「まんげきょう」の工作を行いました。「まんげきょう」から虹色の光を見ることができて、児童は満足しているようでした。校長先生も見学され、「また来年もお願いしたい」とのお申し出をいただきました。
(3)岡山県奈義町立奈義中学校(2月6日)
2年生を対象に、J-PARCセンター長小林隆氏による「大きな宇宙のひみつとミクロな世界のひみつと加速器と」をテーマとした出張授業を実施しました。
授業は、生徒の皆さんが、楽しみながら主体的に学べる内容として、講義に加え質疑応答や、霧箱実験を用いたグループワークを行いました。「宇宙はどうやってできたのか?」「地球ができたきっかけは?」「どうして霧箱の中に霧ができるのか?」「なぜこのような結果になるのか?」などの質問や、活発な意見交換が行われました。
身近な「なぜ?」「どうして?」を出発点に、不思議をそのままにせず自ら考えることの大切さや面白さを伝える時間となりました。また、実験に驚き、目を輝かせながら取り組む生徒の姿が多く見られ、科学への関心が芽生えるきっかけとなりました。
■ ご視察者など
1月29日 米国エネルギー省科学担当次官 他
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://www.j-parc.jp/c/topics/2026/02/04001729.html
■ 加速器運転計画
3月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。
J-PARCさんぽ道 67 -カーブミラーに映るもの-
J-PARCの各施設を繋ぐ道路はカーブが多く、カーブミラーがいくつか設置されています。カーブミラーは凸面鏡になっており、広い範囲を映し出し、ドライバーの死角を少なくする役割を果たしています。ただ、その分、ミラーには被写体が実物よりも小さく映るので、車や歩行者が実際より遠くにいると錯覚することに注意が必要だと言われています。
写真はリニアック棟とMLF棟付近のカーブミラーに映ったそれぞれの施設です。リニアック棟は全長約330m、東京タワーを横にした長さがあります。これだけの長さの建物は、見る角度を変えても、全部を映すことはできません。一方、MLF棟は長さ約150m、幅約70m、建屋の中が空洞ならばジャンボジェット機2機が格納できるだけの容積を誇ります。こちらは建屋のほんの一部しか映すことができません。
J-PARCの建屋は広範囲を映すミラーにも収まり切れないほど巨大なものです。そんなカーブミラーを覗くと、青空のもとで穏やかな冬の陽の光が白い建屋に薄い影を作っているのがご覧いただけます。
