トピックス

2026.04.24

J-PARC News 第252号

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■ J-PARC 50GeV変電所における配電盤からの出火について

 4月7日(火)午前7時頃、J-PARC 50GeV変電所内の高圧配電盤より出火があり、7時47分に公設消防により鎮火が確認されました。本事象に伴う人的災害の発生及び周辺環境への影響はありませんでした。原因は調査中です。
 皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げるとともに、再発防止に努めます。


J-PARCセンター長 小林 隆


詳しくはこちら(KEK HP)をご覧ください。https://www.kek.jp/ja/kek/202604071300

 

 

■ ハイパーカミオカンデ中間検出器(IWCD)建設現場見学会を開催(4月2日)

 KEKでは、ハイパーカミオカンデ計画の実験に向けて新たに開発したニュートリノ観測装置である『中間検出器(IWCD:Intermediate Water Cherenkov Detector)』の報道機関向け建設現場見学会を開催しました。
詳しくはこちら(KEK HP)をご覧ください。https://www.kek.jp/ja/topics/202604221400

 

 

■ 受賞

 ビーム物理研究会 若手発表賞2025

 加速器第二セクションの足立恭介氏(博士研究員)が2025年度ビーム物理研究会・若手の会にて発表した「J-PARC RCSにおける縦方向ビームのバンチ平坦化操作の最適化検討」がビーム物理研究会・若手の会2025若手発表賞を受賞しました。本賞は、ビーム物理分野の研究に取り組む若手研究者や学生の研究意欲を高め、研究者・社会人としての自立と発展を支援することを目的として優れた発表者へ贈られるものです。
 足立氏は加速器の加速部終盤に通常の2倍の周波数を持つ高周波電圧を加え、ビームの形を均一化(バンチ平坦化)する手法を検討しました。これによりビームの損失を減らすことに成功し、J-PARCのさらなる大強度ビームの実現に大きく貢献すると期待されます。

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■ プレス発表

(1)液体鉛ビスマス合金流動場で自己修復する耐食性構造材料
 -原子力のゴミをエネルギーに変える 加速器駆動型未臨界炉の実現に向けて前進-(3月3日)

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、高レベル放射性廃棄物をエネルギーとして有効利用しながら、ゼロカーボン電力を供給する加速器駆動型未臨界炉(ADS)が注目されています。しかし、ADSは構造材料を腐食しやすいという問題がある液体鉛ビスマス合金(LBE)をターゲット材および冷却材として使用するため、その実用化に向けては、高温・高流速条件下での構造材料の信頼性を高め、エネルギーシステムとしての工学的な基盤を強化することが求められています。
 本研究では、東京科学大と共同でADSの候補構造材料の一つであるFeCrAl合金を対象として、JAEAに設置された大型の非等温型高温液体金属流動ループ「OLLOCHI」で、流動LBE環境中で最大4000時間にわたる腐食試験を実施しました。その結果、723K(約450℃)の流動LBE中で2000時間にわたる試験で、FeCrAl合金表面に形成される多層酸化被膜が腐食を効果的に抑制することを確認しました。さらに、この多層酸化被膜には、一部を人工的に破壊されても、その後の流動LBE中での追加2000時間の浸漬により、自発的に再形成される自己修復機構があることを発見しました。
 本成果は、長期的な管理が必要な放射性廃棄物の減容・有害度の低減と、ゼロカーボン電力の供給を同時に実現するADS実用化に向けて、構造材料の信頼性を飛躍的に向上させるものと期待されます。今後は、炉内機器の構成と機能を意識した、機能評価型の長期試験を実施し、実運転条件を反映した材料設計指針や、信頼性に基づく寿命予測モデルの確立を目指します。。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/03/03001762.html

 

 

(2)情報の安定性と信号強度の両立を実現
 -保磁力最大約10倍を達成、次世代省エネ磁気メモリへ-(3月18日)

 消費電力の増大が課題となる中、待機電力を大幅に削減できる次世代磁気メモリの開発が注目されています。しかし、一般に、情報の安定性(保磁力)を高めると、読み出し信号の強さ(磁化)が低下するというトレードオフがあり、長年の課題でした。
 今回、添加する材料の濃度を膜の厚さ方向にナノメートル単位で連続的に変化させる「ナノ傾斜設計」を導入することにより、室温で高い磁化を維持したまま、保磁力を従来の約10倍向上させることに成功しました。さらに、この高性能化のメカニズムを明らかにするため、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の偏極中性子反射率計「SHARAKU」による中性子解析と宮城県の放射光施設NanoTerasuの放射光解析を組み合わせた相補的解析を実施しました。
 本研究により、材料内部での磁化増強を活用することで、これまで両立が難しかった特性を同時に高められることを示しました。こうした材料設計は、待機電力ゼロに近づけられる次世代磁気メモリや、超高性能な磁気センサーの実現に向けた研究の進展につながるものと期待されます。。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/03/18001766.html

 

 

(3)J-PARCでφ中間子の観測に成功 -物質の質量起源に迫る新たな測定-(3月23日)

 物質は素粒子(クォーク)でできています。しかし、私たちの体を作るクォークのもとの重さを合計しても「体重」にはなりません。なぜなら、物質の質量の大部分は、素粒子そのものの重さではなく、それらの間にはたらく強い相互作用によって生じると考えられるからです。この「質量の起源」を説明する理論では、原子核中のような高密度環境では、クォーク2個でできたφ中間子の質量が変化すると予測されています。その検証には、φ中間子から電子・陽電子ペアへの崩壊の測定が必要です。それは、電子・陽電子ペアが原子核の外へと情報を運べるからです。しかし、この崩壊は数千回に1回というまれな現象のため困難でした。
 そこで本研究グループは、世界最高クラスの強度を持つ陽子ビームを炭素と銅の原子核標的に当て、放出される電子・陽電子ペアをJ-PARCハドロン実験施設のE16スペクトロメータで精密に測定しました。その結果、入射エネルギー30GeVの領域では世界で初めて電子・陽電子ペアを用いたφ中間子の再構成に成功しました。さらに、φ中間子の生成量は、原子核質量数にほぼ比例しており、これは中間子が核内で異常吸収されないことを示す重要な成果です。
 原子核の「壁」を素通りして情報を持ち出せる本手法の確立は、今後の質量起源の解明に向けた重要な知見となります。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/03/23001769.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス
 「加速器駆動システムの実現に向けた鉛ビスマス合金の取扱い技術」(3月19日)

 元核変換ディビジョンの大林寛生氏が、ADSに欠かせない、LBEの取扱い技術について紹介しました。
 原子力発電の使用済燃料には、長い期間にわたって放射線を出し続ける長寿命核種が含まれています。この核種をより安定で寿命の短い核種へと変換する技術として注目されているのがADSです。LBEはADSの中で発生する熱の冷却材であると同時に、中性子を生み出すターゲット材として重要な役割を担います。一方で、LBEは金属を腐食しやすく、強い表面張力を持ち、水などの一般的な液体とは異なる流動特性を示すため、制御が難しいという課題もあります。
 J-PARCではLBEの特性を理解し、これらの課題に取り組みながら、ADSの実現に向けた研究を進めています。参加者からはLEBの流動計測技術や腐食抑制技術について、また、海外と比較して日本の技術が優れている部分など多くの質問があり、本分野への関心の高さがうかがえました。
※現量子ビーム技術ディビジョン

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■ 第15回科学の甲子園全国大会
 (3月20日~23日、つくば国際会議場、つくばカピオ)

 全国の科学好きな高校生が集い、競い合い、活躍する「科学の甲子園 全国大会」がつくば国際会議場、つくばカピオにて開催され、約400名の高校生が参加しました。県内の科学技術に触れて楽しんでいただきたいとの主旨で、茨城県からブース出展の打診があり、大会3日目の3月22日午後に、J-PARCセンターを含めた17団体が出展しました。当センターでは、武藤亮太郎氏、地村幹氏により、加速器の模型などの展示・紹介を行い、ブースを訪れた高校生は興味深そうに説明に聞き入っていました。

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J-PARCさんぽ道 69 -36.4度が意味するもの-

 36.4度。この数値は何を意味するでしょうか。多くの人がすぐに思い浮かべるのは、私たちの平熱かと思います。
 J-PARCニュートリノ実験施設の位置座標は、北緯36.4度、東経140.6度です。一方、ニュートリノを受け取るスーパーカミオカンデと新たに建設しているハイパーカミオカンデは北緯36.4度、東経137.3度に位置し、どちらも同じ緯度です。J-PARCで発生したニュートリノは295㎞離れた神岡の巨大水槽を目指し、真西の方角に飛んでいくのです。
 この北緯36.4度線は、新しい地層が堆積する茨城県の沖積平野から、本州の大地を真っ二つに切り裂くフォッサマグナを横切り、日本最古の岩石がある岐阜県の飛騨地方を結んでいます。その間には、日本最大の流域面積を持つ利根川と日本最長を誇る信濃川、日本最大級の火山活動を続ける浅間山や日本で最も急峻な山脈である飛騨山脈など、変化にとんだ地形があります。そのため、毎年のように酷暑日を記録する関東平野北部から万年雪がある北アルプス、そして豪雪地帯の飛騨地方など、同じ緯度にあるとは思えないくらい気象も変化します。
 この魅力的な顔を持つ北緯36.4度線上に、ニュートリノ中間検出器「IWCD」が新たに加わることになりました。IWCDはJ-PARCから1㎞の距離にあり、発生直後のニュートリノの性質を正確に測ることで、ハイパーカミオカンデで観測するニュートリノ振動の精度を上げるための施設です。
ニュートリノは極めて小さく、ほとんど物質に反応しない粒子です。36.4度前後の平熱を持つ人類が、この地味なニュートリノのふるまいを見つめ、宇宙の起源を探ろうという壮大な計画が、加速しようとしています。

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