小惑星リュウグウ試料分析開始にあたり
オンライン記者会見・見学会のお知らせ
- フォトンファクトリーおよびミュオン科学実験施設での初期分析 -
高エネルギー加速器研究機構
東北大学 大学院理学研究科
東京大学 大学院理学系研究科
大阪大学
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構
J-PARCセンター
ポイント
∗ 「はやぶさ2」初期分析チームの1つ「石の物質分析チーム」は、2021年6月中旬に分析を開始、多くの分析手法を駆使しリュウグウの形成過程を解き明かす
∗ 分析初期段階で高エネルギー加速器研究機構 (KEK) の量子ビーム2種3手法を用いる
∗ 6/25の見学会では実験中あるいは実験直前の3つの装置前から生中継し、研究者が解説
PF BL-3Aにて 東北大学 中村智樹教授
小惑星探査機はやぶさ2の小惑星リュウグウからのサンプル採取は「我々はどこから来たのか」を解明することを科学的な目標としています。太陽系の起源と進化、地球の海や生命の原材料物質を探るため、アプローチの異なる初期分析チーム6チームそれぞれが1年をかけて試料を分析します。
その一つ「石の物質分析チーム」は、東北大学 大学院理学研究科の中村智樹教授が率いる研究者90余名からなるチームで、試料に含まれる含水鉱物に着目しリュウグウの形成過程をモデル化することを目的としています。はやぶさ2プロジェクトでは「石」とは直径1 mm以上の大きさの粒を指します。
「石の物質分析チーム」は、その目的のために国内外においてさまざまな分析手法を用いますが、初期段階にKEK物質構造科学研究所の加速器から生み出される2種の量子ビーム *1 ( フォトンファクトリー(PF) *2の放射光と、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF) *3のミュオン)を用い、世界が注目するリュウグウの物質分析を開始します。初期段階の分析のことを「上流の」分析と呼びますが、上流で量子ビームを用いる理由は、微量の試料を非破壊で分析でき、下流の分析に影響を与えないからです。希少な試料を有効に活用する知恵とも言えます。
中村教授の研究グループは、2010年に小惑星探査機はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの試料分析にも放射光を用いPF BL-3A極限条件下精密単結晶X線回折ステーションのX線回折および蛍光X線分析を活用しました。この間の量子ビームを用いた物質分析性能の向上はめざましく、今回の分析では、PF BL-3Aに加えてPF BL-19A軟X線顕微・分光実験ステーションの走査型透過X線顕微鏡(STXM) *4およびJ-PARC MLFのミュオン科学実験施設(MUSE) D2ミュオン基礎科学実験装置での負ミュオンを用いた元素分析 *5が用いられます。
東北大学 中村智樹教授からのメッセージ
研究の目標は太陽系の原始天体である小惑星リュウグウが、長い太陽系の歴史の中でどのように形成されどのように進化したかを解明することです。それを解明するための物的証拠はリュウグウのリターンサンプルにしか残されていません。KEKの放射光やミュオンをプローブ(探針)として、それらの証拠をつかみ取ります。
ご参考
東北大学ほかプレスリリース 2021/05/13
「はやぶさ2」初期分析チーム 2021年6月より試料の分析開始
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/05/press20210513-01-hayabusa2.html
KEK物質構造科学研究所ハイライト記事 2021/06/03
「地球に生命をもたらしたもの」が小惑星の探査で分かるわけ
~小惑星探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウ試料の分析~
https://www2.kek.jp/imss/news/2021/highlight/0602AsteroidRyugu/
記者会見・見学会 登壇者
○ 東北大学 大学院理学研究科 中村 智樹(なかむら ともき)教授
「石の物質分析チーム」リーダー、研究分野:惑星科学
○ 東京大学 大学院理学系研究科 高橋 嘉夫(たかはし よしお) 教授
PF BL-19Aでの分析に参加、研究分野:分子地球化学
○大阪大学 放射線科学基盤機構 二宮 和彦 (にのみや かずひこ)准教授
J-PARC MLF MUSE D2での分析に参加、研究分野:量子ビーム科学
記者会見・見学会 スケジュール
2021年6月25日(金)14時~15時30分(Zoom meetingにて開催)
14:00~14:20 | 分析の概要説明 東北大学 中村 智樹 教授 |
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14:20~14:45 | 質疑応答 東北大学 中村 智樹 教授 東京大学 高橋 嘉夫 教授 大阪大学 二宮 和彦 准教授 |
14:45~15:00 | PF BL-3A見学 東北大学 中村 智樹 教授 |
15:00~15:15 | PF BL-19A見学 東京大学 高橋 嘉夫 教授 |
15:15~15:30 | J-PARC MLF MUSE D2見学 大阪大学 二宮 和彦 准教授 |
見学会では、実験現場から研究者が装置等の説明をします。関連する質問をすることも可能です。
6/25当日はPF BL-3Aにて分析中のため、中村教授の参加は15:00までとなります。
参加申込み
こちらのURLからお申込みください。
https://forms.gle/eVkXwycXscN7u6hUA
申込み締切:6月24日(木)17時
申込みについてのお問い合わせはKEK広報室までお願いします。
KEK広報室
Tel: 029 -879 -6046
e-mail: press[at]kek.jp
用語解説
*1 量子ビーム:
電子や陽子、中性子など、粒と波の性質を併せ持ったとても小さなものを量子といいます。量子のビーム状の流れが量子ビームです。電子や陽子を大型加速器で加速することで、新たな量子ビームを生み出すことができ、物質分析に利用されています。そのような量子ビームの例として、放射光(X線)・ミュオンビーム・中性子・低速陽電子があります。量子ビームによる分析によって、物質をナノスケールで観測することができますが、多くは非破壊で、微小な試料でも観測できる特徴があるので、地球外試料のような希少サンプルの分析に適しています。量子ビームの種類によって、得られる情報や、物質への侵入深さなどが違うので、複数の量子ビームを組み合わせて使うことにより、多角的な情報を得ることができます。
*2 フォトンファクトリー(PF)
茨城県つくば市のKEKつくばキャンパスにある放射光実験施設で、フォトンファクトリー(Photon Factory: PF)「光の工場」と呼ばれています。放射光とは加速器から発生する幅広いエネルギー(波長)をもつ高輝度の光で、PFでは紫外線からX線を発生させることができます。1982年に初めてのビームを出して以来、毎年国内外から多くの研究者が実験に訪れ、数々の研究成果を挙げています。物質材料・生命科学・地球惑星・食品科学に至るまで、さまざまな分野の研究者が同時に実験を行っています。
*3 大強度陽子加速器施設(J-PARC) 物質・生命科学実験施設(MLF)
大強度陽子加速器施設(J-PARC)はKEKと日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学・原子核物理学・物性物理学・化学・材料科学・生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われています。J-PARC内の物質・生命科学実験施設(MLF)では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっています。ミュオン科学実験施設MUSE は、MLF内でミュオンビームを発生させ研究を行う施設です。
*4 走査型透過X線顕微鏡(STXM)
走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy: STXM)は、試料を走査あるいはエネルギーを変化させて透過X線強度を測定し、元素や化学種の分布や吸収スペクトルを測定する手法です。環境科学・微生物学・地球惑星科学・高分子化学・磁性材料などへ広く応用されています。
*5 負ミュオンを用いた元素分析
負ミュオンは、電子の200倍の質量と、同じ電荷をもつ素粒子です。測定したい物質に負ミュオンを当て放出される固有X線を測定することで、元素を精度よく分析することができます。ミュオンは透過力が高いので、袋やガラス瓶に入った試料をそのまま非破壊で測定でき、地球外試料のような希少サンプルの分析に適しています。最近ではJ-PARC MLF MUSE D2において緒方洪庵が遺した薬瓶に入ったままの薬剤を分析し話題になりました。
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