リチウムイオン電池の進化に貢献するJ-PARCの中性子とミュオン
吉野先生のノーベル化学賞受賞を心よりお祝い申し上げます。
吉野先生が開発されたリチウムイオン電池は私達の生活に欠かせないものとなっています。その後もより高性能で安全な蓄電池へと常に進化しており、そうした研究開発には、J-PARCの加速器でつくる中性子、ミュオンが活躍しています。この機会に、J-PARCのリチウムイオン電池研究についての情報をまとめました。
■ リチウムイオン電池の進化における中性子、ミュオンの役割
リチウムイオン電池は正極、負極材料の間に電解質を挟んだ構造をしており、リチウムイオンが電極間を移動することで電流が流れます。短時間に多くの電力を供給するためには、材料中でリチウムイオンが速く動けることが重要です。リチウムイオン電池の進化の歴史においてJ-PARCの中性子やミュオンは、電極や電解質材料中のリチウムイオンの位置や動きを調べる重要な役割を果たし続けています。
リンク集
概要
https://j-parc.jp/c/facilities/mlf/index.html
https://j-parc.jp/ja/P-Room/Research/Research-j0912.html
中性子を用いた研究
◇ 中性子回折法による研究
中性子回折法では、波としての中性子が結晶中の原子核により「回折」という現象を起こすことを利用して、結晶の原子配列を測定します。
[ 解説 ]
https://www2.kek.jp/ja/newskek/closeup/limn2o4/li01.html
SPICAによる測定の様子を動画で見てみよう!【季刊誌AR動画:MP4】
[ 研究成果 ]
・全固体型リチウム電池を目指して
・世界最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体の開発
・全固体リチウムイオン電池の電解質Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3の結晶構造とリチウムイオン伝導性のしくみの解明
・蓄電池解析専用の中性子ビームラインSPICA完成
・新設ビームラインSPICAに中性子ビームを導入
・充放電時の電極材料の時間変化をリアルタイム測定
・酸素分子を利用したチタン・マンガン系正極材料の反応メカニズムの解明
◇ 中性子準弾性散乱による研究
中性子準弾性散乱では、中性子が試料によって散乱されるときの試料との間のエネルギーのやりとりを調べることで、リチウムイオンの動きが分かります。
[ 研究成果 ]
・電池材料中のリチウムイオンの動きを解明
ミュオンを用いた研究
正ミュオンや負ミュオンを試料に打ち込み、試料中の磁場によってミュオンの磁石(スピン)の向きがバラバラになっていく様子を調べて、試料中の原子やイオンがつくる磁場やその変動を知ることができます(μSR法)。μSR法でリチウムイオンの動きを正確に調べる研究は、J-PARC運転開始直後から実施されています。
[ 講演 ]
負ミュオンを試料に打ち込み、原子核にとらえられた負ミュオンが放出するX線を測定すると、元素の種類が分かります。これにより、充放電後の電池内のリチウムイオンの分布を、試料を破壊せずに観察できます。
[ 解説 ]
https://www2.kek.jp/imss/news/2019/highlight/0207MUSE-D2/
リチウムイオン電池の先へ!
リチウムイオン電池よりもさらにエネルギー密度(電池の単位質量当たりに生み出せるエネルギー)を上げるために、全く異なる原理に基づく革新型蓄電池(ポストリチウムイオン電池)の研究開発が昨今盛んに行われ、そこでもJ-PARCの中性子やミュオンが活躍しています。
[ 解説 ]
http://j-parc.jp/c/uploads/2019/J-PARCmagazine2019_131011.pdf#zoom=100
講演やインタビュー記事
https://www2.kek.jp/imss/news/2018/topics/0630kekKouzaj-parc/
https://www.kek.jp/ja/newsroom/2018/06/21/0900/