トピックス

2020.07.15

J-PARCで新しく始まったニュートリノ反応測定実験

   素粒子ニュートリノは、現在の宇宙の成り立ちを解明する上で重要なカギを握っていると考えられており、現在、J-PARC加速器で作ったニュートリノを岐阜県のスーパーカミオカンデ検出器に飛ばして、ニュートリノ振動現象を精密に測定するT2K実験が行われています。また、米国では通常とは異なるニュートリノ振動が観測され、素粒子の標準模型にはないステライルニュートリノの存否が議論されています。今後、ニュートリノ振動を精密測定することによってこのような謎の解明が期待されています。高精度なニュートリノ振動測定に向けてはJ-PARC加速器の高強度化により統計量を増大することに加えて、系統誤差の主要な原因となるニュートリノ−原子核反応の不定性を低減することが不可欠です。

   J-PARCではこの課題を解決すべく、ニュートリノ反応精密測定を目的とした二つの新しい実験が始まりました。一つは、原子核乾板を主検出器として用い、ニュートリノ反応から生成する荷電粒子を低エネルギーまで検出するNINJA実験です。もう一つは特殊な三次元構造のシンチレータ検出器で高アクセプタンスでのニュートリノ反応測定を行うWAGASCI実験です。いずれもスーパーカミオカンデ検出器と同じ水をニュートリノ反応の標的としており、反応で生じた荷電粒子の飛跡を原子核乾板やシンチレータにより高効率で再構成します。両プロジェクトは物理解析において相補的な役割を担うことが期待され、J-PARCのニュートリノ実験施設で、2019年11月から初の物理データ取得を開始しました。今後、数年に渡ってニュートリノ反応の測定データを蓄積し、ニュートリノ−原子核反応モデルの精緻化を目指します。その後、NINJA実験では正確なニュートリノ−原子核反応モデル・理解が進んだNINJA検出器をベースにステライルニュートリノ検証実験を行うことを計画しています。

   ここで紹介したNINJA実験・WAGASCI実験に関する記事が7月号の日本物理学会誌に掲載されました(名古屋大学 福田 努・京都大学 木河 達也 著)。

Topics20200715

NINJA実験・WAGASCI実験を構成する検出器群。様々な検出器を組み合わせて、ニュートリノ反応を測定します。