トピックス

2021.06.25

J-PARC News 第194号

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■国立科学博物館企画展を開催(7月13日~10月3日)

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 国立科学博物館上野本館にて企画展「加速器-とてつもなく大きな実験施設で宇宙と物質と生命の謎に挑んでみた-」を開催します。J-PARCとKEKのつくばキャンパスにある大型加速器施設をメインに、日本の加速器の発展の歴史や、加速器の初歩から宇宙の謎をさぐる最先端研究、身近なところで利用されている研究成果まで、わかりやすく紹介します。皆様のご来場をお待ちしています。
なお、国立科学博物館は、新型コロナ感染症対策のため、現在オンラインによる入館予約が必要です。詳しくは、以下をご確認ください。
国立科学博物館ホームページ https://www.kahaku.go.jp/

 

 

■諏訪賞を受賞(5月27日)

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 「J-PARC 3GeVシンクロトロンにおける1MWビーム加速」の業績により、J-PARCセンター加速器ディビジョンが「2020年度 高エネルギー加速器科学研究奨励会 諏訪賞」を受賞しました。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/topics/2021/06/04000699.html

 

 

■英国物理学会賞を受賞

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 ニュートリノ施設標的などを開発した、英国ラザフォード研究所のChris J. Densham氏が、大強度ビーム標的開発や放射線損傷の研究などの業績により、「2021年英国物理学会Prize for Outstanding Professional Contributions-accelerator science and technology」を受賞しました。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/topics/2021/06/03000695.html

 

 

■プレス発表

(1)化学的圧力で単結晶の欠陥を制御して最低熱伝導率を達成
 中性子ホログラフィーでマグネシウム錫化合物にドープしたホウ素の役割を解明(5月11日)

 マグネシウム錫化合物は、熱エネルギーを電気エネルギーに変える熱電変換材料として有望で、実用化に向けて熱電変換性能を向上させる研究が進められています。性能を向上させる1つの要因が熱伝導率を低くすることで、結晶中で本来マグネシウム原子が存在する位置が欠損する「空孔欠陥」を増やすことで実現できます。
 東北大学の齋藤亘氏らは、マグネシウムをホウ素で部分置換することにより、マグネシウム空孔欠陥の量を増やすことを試みました。そして、ホウ素・水素・酸素といった軽元素の周辺の原子像を高い感度で解析できる中性子ホログラフィーによる観測から、ホウ素周辺にマグネシウムの空孔欠陥が存在していることを明らかにしました。中性子ホログラフィーは、J-PARCの中性子実験装置BL10を用いて行いました。X線回折、透過型電子顕微鏡観察の結果と合わせ、原子の一部を大きさの異なる原子で部分置換することで物質に加わる「化学的圧力」により空孔欠陥と転位と呼ばれる欠陥が増え、低い熱伝導率が得られることが示されました。省エネルギー社会、低炭素社会の実現を目指し、発電への実用化に向けたさらなる研究の進展に期待がかかります。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2021/05/11000684.html

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(2)H-イオンの低温高速伝導を実現(6月3日)

 イオン伝導体は、燃料電池や全固体電池、化学センサなど、様々な用途で使用されており、幅広い温度域で高い伝導度を示すことで、デバイス性能の向上に大きく寄与します。多くのイオン伝導体は、高温で安定な対称性の高い結晶構造において高いイオン伝導度を示しますが、ある温度以下では対称性の低い(歪んだ)構造に変化し、イオン伝導度が著しく低下します。近年、負電荷をもつ水素であるH-イオンの伝導体も注目されていますが、300℃以上の高温でしか良好なH-イオン伝導が得られていませんでした。
 京都大学の陰山洋氏らは、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素)を含むヒドリド化合物Ba2H3X(X = Cl, Br, I)に着目し、H-イオンが室温から300℃までの低温領域で優れた伝導を示す固体材料を発見しました。そして、優れたH-イオン伝導を示す原因を探るため、構造に着目しました。X=HであるBa2H4(すなわちBaH2)では、450℃以下で対称性の低い歪んだ構造に変化し、H-イオン伝導度が急激に低下することが知られていることから、Ba2H3Xではアニオンが秩序化し、高い対称性の構造が低温でも維持されることで、優れたH-イオン伝導経路を与えると考えられます。これはJ-PARCの特殊環境中性子回折装置SPICAによる中性子回折データを用いた精密構造をもとに第一原理計算を行った結果からも裏付けられました。室温付近でのH-イオン伝導を利用した電気化学デバイスや新たな触媒や合成への展開が期待されます。
詳しくはJ-PARCホームページをご覧ください。 https://j-parc.jp/c/press-release/2021/06/03000694.html

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■J-PARC安全の日(5月28日)

 J-PARCセンターでは、2013年5月に発生した放射線物質漏えい事故を教訓とし、一人ひとりが安全について考える機会とするため、毎年5月に「安全の日」を設けています。
 2021年度の安全の日は、リモートライブ形式により参加者310名で開催されました。2020年度の良好事例表彰に続き、加速器第二セクションの谷教夫氏より「RCS施設における作業管理」が紹介されました。
 続いて、全日本空輸(株)整備センターの鍋島哲氏により「ANAグループ整備部門の安全を支えるアサーション文化について」との題名で、ご講演をいただきました。「アサーション」とは、話す側、聞く側それぞれがお互いを尊重して、率直に自己表現を行なうためのコミュニケーションスキルとされており、ANAグループ整備部門で行われている「お願いする」「声に出す」「感謝する」の循環サイクルについての具体例などが紹介されました。

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■J-PARCハローサイエンス「続・新型ニュートリノ出現か?!」(5月28日)

 今月の「J-PARCハローサイエンス」は、東海村が「感染拡大市町村」に指定されたことから、オンラインのみの開催とし、16名の参加がありました。
 2月に行われた「新型ニュートリノ出現か?!」では、素粒子原子核ディビジョンの丸山和純氏により、ステライルニュートリノの存在の可能性について、素粒子の標準理論を踏まえた解説がありました。熱心な質疑が多かったことから時間オーバーとなったため、今回は理論のまとめを述べた後、実験内容を中心に説明がなされました。ステライルニュートリノを含んだニュートリノ振動は通常のニュートリノ振動よりも近距離で行われている可能性があります。そこで、ニュートリノが副次的に発生する物質・生命科学実験施設の中性子源の24m先、3階に、50トンの液体シンチレータ検出器を設置し、振動後のニュートリノ捕獲を目指す実験について紹介されました。この実験では振動後のニュートリノの捕獲により発生したシンチレーション光を使って、ニュートリノのエネルギー分布を調べることにより、ステライルニュートリノを含んだ振動を探ります。
 ステライルニュートリノは重力しか感じないニュートリノであり、その存在が実証されれば、われわれが知っている陽子や中性子で構成されている世界の数倍ある未知の物質「ダークマター」の解明に、画期的な成果をもたらす可能性があると期待されています。

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■加速器運転計画

 7月の運転計画は、次のとおりです。なお、機器の調整状況により変更になる場合があります。

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≪お知らせ≫

(1)はやぶさ2が採取した小惑星「リュウグウ」の試料をJ-PARCで分析

 詳細は、今後のホームページでお知らせするとともに、J-PARC NEWS「号外」を発行する予定です。

 

 

(2)ナレッジキャピタル超学校で、J-PARCの研究者が出演(7月3、10、17日)

 科学などのスペシャリストから「本物の知」を学び、ともに考え、対話するプログラムです。3日間にわたり、J-PARCの研究者が講師として出演します。(オンライン・参加費無料・申し込み不要)
詳しくはナレッジキャピタルホームページをご覧ください。 https://kc-i.jp/activity/chogakko/researcher/

 

 

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さんぽ道 ⑪ -花が咲き終わったオオウメガサソウ-

 このコラムにオオウメガサソウの記事と写真をお届けするため、6月8日、広報スタッフは原子力科学研究所にある生息地に向かいました。この花は通常、6月上旬から下旬にかけて咲くので、そろそろ見頃に近づいたかと思ったのです。
 オオウメガサソウは海岸近くの乾いた林下に生育する植物で、ここ茨城県北部が南限になっています。茨城県では絶滅危惧種1Aという、ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高い種に指定されています。高さ10㎝のか細い茎の上に2㎝くらいの花が数輪咲くだけですが、分類上は立派な常緑樹という珍しい植物でもあります。
 広大な原子力科学研究所 の森の中で、希少植物で特異な性質を持ったオオウメガサソウを探すのは、大変ですが面白い作業です。ちょうどJ-PARCで作り出された膨大な数の粒子の森の中で、ごくわずかな兆候を逃がさず、宇宙の成り立ちや物質の性質を探求する、私たちの本来業務と通じるところがあります。
 ところが、5名のスタッフが 昼休み中、現場付近を捜したのですが、オオウメガサソウの葉らしいものは見つかるものの、花はどこにも咲いていません。絶滅が心配になって植物の専門家の先生に伺うと、今年は開花が特に早く、もう咲き終わったのではないかとのことでした。いくら恵まれた土地にいるとはいえ、常識にとらわれ過ぎて時期を間違えるという決定的な誤りがあれば、見えるものも見えません。巨大な施設を担う私たちにとって、改めて身の引き締まる思いがしました。
 今回はオオウメガサソウの葉しかお見せできませんが、次回は可憐なピンクの花を読者の皆様にお届けできるよう、アンテナを綿密に張って来年に備える所存です。

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