トピックス

2026.05.29

J-PARC News 第253号

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■ 受賞

 日本原子力学会材料部会功績賞(第8回)

 J-PARCセンター研究嘱託 若井栄一氏(現 Michigan State University)が日本原子力学会材料部会功績賞(第8回)を受賞されました。本賞は、原子力材料分野の発展に対する顕著な貢献および功績が認められる研究者に与えられる賞です。
 若井氏は、J-PARC RaDIATE活動の初代JAEAコンタクトとして研究を牽引しました。

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■ プレス発表

(1)ガラスにならない酸化アルミニウムを透明な非晶質の塊に
 -5配位ピラミッドと6配位八面体からなる超高密度構造と結晶を超える誘電率を高圧力で実現-(4月7日)

 酸化アルミニウム(アルミナ)は、丈夫で化学的にも安定しているため幅広い産業分野で利用されています。原子の並び方がバラバラな非晶質(ガラス)アルミナは、鍋などの表面のコーティング材料として使われています。しかし、ミリメートルサイズの塊状のガラスの合成が困難な酸化物として長年知られてきました。
 本研究では、アルミナ薄膜に室温で高圧を加え、透明な塊状のアルミナガラスの作製に成功しました。得られた材料は、高い熱伝導率、硬さを示し、誘電率は約11.3と原子が整列している結晶のアルミナであるサファイア(誘電率約10)を上回る値を示しました。J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF) 高強度全散乱装置「NOVA」の中性子回折などを用いた構造解析から、歪んだ5配位多面体(AlO5)が主要構造として多く現れたこと、さらに加圧により通常の非晶質には見られない高密度構造の6配位八面体(AlO6)が形成されたことが判明しました。
 本研究で示した高圧力で構造を制御し、優れた物性を引き出す手法は、構造計算、構造解析技術の連携により実現したもので、物質・材料探索に新機軸を打ち出すものです。一連の手法を一般化し知見が蓄積されることで、革新的な材料の発見・開発につながっていくことが期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/04/07001776.html

 

 

(2)ミュオン触媒核融合を駆動するミュオン分子の直接観測に世界で初めて成功
 -高分解能X線分光法を使い理論モデルを実験で実証-(4月16日)

 現在実用化を目標に開発が進められている核融合では超高温・高密度の環境でプラズマを制御する必要があります。しかし、それとは別にプラズマを必要とせず常温で起こるミュオン触媒核融合(µCF)という現象が従来から研究されてきました。µCFでは、電子の代わりに負の電荷を持つミュオンが水素の同位体(重水素など)と結合して「ミュオン分子」を形成し、水素原子核同士が非常に近づく結果、核融合が起こります。さらに、ミュオンは反応後も再利用され、100万分の2秒程度の平均寿命で自然崩壊するまで「触媒」として繰り返し働きます。
 しかし、この現象を理解する鍵となるミュオン分子の形成過程(反応経路)については理論と実験結果が一致せず、長年にわたり未解明でした。
 今回、共同研究グループは、従来のシリコン検出器に比べ10倍以上高いエネルギー分解能を持つ「超電導転移端センサー(TES)マイクロカロリメータ」を導入し、これまで困難であったミュオン分子の「共鳴状態」から放出される微弱なX線の直接観測に成功しました。観測結果は反応経路にこの共鳴状態を考慮した理論の予言とも一致し、理論と実験の矛盾が解消されました。今後は、 µCFの高効率化に向けた基盤的理解のさらなる発展が期待されます。
※ミュー粒子のことを「ミュオン」または「ミューオン」と表す。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/04/16001781.html

 

 

(3)広い温度域で動作する次世代固体冷媒を開発
 -従来の理論スケーリングを超える弾性熱量効果を発見-(4月30日)

 現在、エアコンや冷蔵庫などで広く用いられている冷却技術は、冷媒ガスの膨張・圧縮を利用するため高いエネルギー消費と温室効果ガス排出という課題を抱えています。そこで近年、固体材料を用いた次世代冷却技術が注目されています。
 今回、研究グループは、2025年に開発したTi-Al-Cr超弾性合金を用いて圧縮試験を行った結果、−196 ℃から+187 ℃にわたる極めて広い温度範囲において、加えた力を除くとほぼ元の形状に戻る超弾性特性を確認しました。また、J-PARC MLF 特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置「千手」を用いた解析により、この合金が力を受けて結晶構造が変化する様子を直接観測しました。さらに、−171 ℃から+129 ℃の広い温度範囲において、力を除く際に吸熱反応(冷却効果)が生じることを確認しました。特に室温付近では、約−10 ℃に達する顕著な温度低下が観測され、実用冷却材料としても有望な性能を示しました。
 本研究で明らかになった同合金の熱的・弾性的特性は、従来理論では想定されていなかった広い温度域で得られ、弾性熱量材料の新たな設計概念を示す成果です。また、本材料は、低温領域を含む広温度域での熱制御材料として、宇宙分野を含む幅広い応用が期待されます。
詳しくはこちら(J-PARC HP)https://j-parc.jp/c/press-release/2026/04/30001799.html

 

 

■ J-PARCハローサイエンス「加速器用電磁石システムのパワーエレクトロニクス」(4月21日)

 加速器ディビジョンの森田裕一氏が、J-PARCの加速器で最も大きいメインリング(MR)のビーム性能向上の取り組みを紹介しました。
 2026年1月、MRのビームパワーは建設当初の目標であった750kWを大きく上回り、900kWに到達しました。この高出力化を支えたのが、新たに開発された電磁石電源です。ビームの繰り返し周期を短縮し、加速頻度を高める「高繰返し化」を実現するため、コンデンサバンクの新規設計や既存電源の再構成など、装置全体の見直しとアップグレードが行われました。これらは外部のメーカーに全面的に委託するのではなく、J-PARCの職員が主体となって進めました。現場の研究者や技術者が自ら開発・改良に携わることで、装置の調整やメンテナンスを柔軟かつ迅速に行えるようになり、性能向上に加えてコスト削減にもつながっています。
 現在は、2028年度に実験開始予定のハイパーカミオカンデ計画に向け、繰り返し周期を従来の1.28秒から1.16秒へ短縮し、最終的にはビームパワーを1.3MWまで上げるための取り組みが進められています。これにより新たな科学的成果が期待されています。

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■ 出張授業

 秋田工業高等専門学校(5月8日) 

 秋田工業高等専門学校において、「ミクロの世界を見る加速器の仕組み ~素粒子現象から巨大構造物まで透視するミューオン加速技術~」と題した講演を、加速器ディビジョンの大谷将士氏が行いました。
 講演では、加速器の原理や医療応用などの利用例を紹介した後、大谷氏の専門であるミューオンの利用や、その加速技術を用いた素粒子研究など、最新の技術開発・研究の展開について解説しました。さらに現在、大谷氏が小山高専などを中心に高専と協力して進めている、小型加速器製作を通じた加速器技術者育成活動についても紹介しました。
 受講後のアンケートでは、「ミューオンで暗黒物質を調べようとしていることが面白そうだと思った」といった研究内容に関する感想に加え、「各高専で製作されている加速器についてもっと聞いてみたい」「電磁石を作成してみたいので、もう少し詳しく聞きたいです」など、加速器を実際に製作することへの関心を示す声も寄せられました。

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■ KEKがニコニコ超会議2026に出展(4月25~26日)

 KEKは千葉・幕張メッセで行われたニコニコ超会議2026に「超KEK」と題しブースを出展しました。ニコニコ超会議は、株式会社ドワンゴによって運営されている日本最大級の動画サービス「ニコニコ動画」のユーザーが主体となり、ネットとリアルで開催する文化祭で、今年は13万8228人が来場しました。
 4回目の出展となる今回は「ノーベル賞」をテーマに掲げ、小林誠KEK特別栄誉教授が2008年にノーベル物理学賞を受賞した際のメダルの公式レプリカの展示や、KEKと直接または間接的に結びついた研究に関連するノーベル賞の年表の展示のほか、ノーベル物理学賞につながった実験装置としてSVD(シリコン崩壊点検出器)の展示を行い、会場では研究者が加速器や検出器について来場者に説明を行いました。
 また、ブース内ではKEK浅井機構長とN高グループ研究部によるトークショーが実施され、KEKで進められている最先端の研究や、研究活動への取り組み等について充実した対談が行われました。このほか、SNSキャンペーンやノーベル賞にちなんだクイズに答えて引けるくじ引きや、茨城県とのコラボで作成したうちわを配布するなどし、一般の方にKEKやJ-PARCを知ってもらう良い機会となりました。

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≪お知らせ≫

■ 9月13(日)「J-PARC・原子力科学研究所 施設公開2026」開催のお知らせ

 9月13日(日)9:30 ~ 16:00、「見る、聞く、触る、先端科学!」と題し、J-PARC・原子力科学研究所が今年も合同で施設公開を開催します。普段は見る事ができない実験施設、加速器などの見学や、サイエンスカフェ、実験工作教室、キッチンカーなど、大人から子どもまでお楽しみいただけます。入場無料・予約不要です。ぜひお越しください!
※一部の施設では事前予約が必要になります。

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J-PARCさんぽ道 70 -J-PARCを覆う海霧-

 写真は、緑が鮮やかさを増してきた5月8日、J-PARC研究棟から撮影したMLFの建屋の様子です。わずか数十メートル先にあるにもかかわらず、先端が見えないほど濃い海霧で覆われています。この日は5月としては大変涼しく、この中を歩くとどこか凛とした緊張感に包まれました。
 茨城県沿岸では春から初夏にかけて海霧が発生します。暖かい空気は、冷たい海面に触れることで急激に冷やされ、空気中で含み切れなかった水蒸気が霧として現れるのです。幻想的な景観を生み出す海霧ですが、船舶を始めとした交通の支障となるだけでなく、日照不足による農業の冷害を引き起こすこともあります。
 海霧は塩分が大量に含まれています。この霧は建屋の中にも入り込み、施設や配管の錆の原因にもなります。そのため日常から入念な錆の点検をし、不具合が見つかった箇所は迅速に対応しなければなりません。海岸に近いJ-PARCの安全で安定した運転は、このような地道な作業によって支えられています。

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