核変換実験施設とは
原子力発電所の使用済核燃料には、 燃え残ったウランや新たな燃料となるプルトニウムの他に、 核分裂反応により生成した放射性物質が含まれています。 これらの放射性物質のうち、一般にマイナーアクチノイドと呼ばれる元素には、 人体に対する有害度や環境負荷が比較的大きい物質があります。 これらの物質を選択的に分離し、その物質の特性に応じた処理・処分方法を採用できれば、 使用済核燃料からの環境負荷を大きく低減することができる可能性があります。 このような元素を分離する技術や、高速炉や加速器を用いた新しい原子力システム(加速器駆動システムなど)を用いて マイナーアクチノイドなどを核反応により異なる元素に変換する技術を「分離変換技術」と呼んでいます。 分離変換技術は、将来有望な廃棄物処分の技術オプションとして、 日本をはじめ世界のさまざまな国で基礎的な研究開発や導入戦略などが議論されている、最先端の技術です。
J-PARCでは、計画当初より加速器駆動システム(ADS:Accelerator-driven System)による 核変換技術に関する基礎的な研究を行う、 核変換実験施設(TEF : Transmutation Experimental Facility)の検討を進めてきました。 TEFは、ADS独自の構成要素である核破砕ターゲットや陽子ビームの導入部(ビーム窓など) に関するシステム技術の確立を目指す 「ADSターゲット試験施設(TEF-T)」及び、 エネルギー発生やそれに伴う放射性物質の生成量を極力抑制し、 実験者が容易に実験可能な小型の原子炉(臨界集合体)を用いて核変換技術の成立性に係る 物理的特性やADSの運転・制御に関する研究・開発を行う「核変換物理実験施設(TEF-P)」の二つの施設で構成されます。
核変換実験施設概念図
核変換の原理
核変換実験施設
ADSターゲット試験施設(TEF-T)
ADSは、大強度加速器と未臨界状態(単独では核分裂連鎖反応が持続しない状態)の原子炉を組み合わせた新しい原子力システムです。 未臨界炉の中央部には、加速器からの陽子を導入するための核破砕ターゲットや、導入部で原子炉と加速器の境界を形成する陽子ビーム窓など、ADS独自の設備が配置されます。 ビーム窓は、加速器側が真空であるための圧力差、 原子炉側が液体鉛ビスマスに接しており材料の腐食の恐れがある上、 陽子ビームの通過に伴う熱応力や構造材料の劣化が生じるなど、 非常に過酷な環境で用いられることになります。 この陽子ビーム窓の工学的成立性の検証および陽子ビームによる材料損傷の影響などを 実験的に検討していく施設として、TEF-Tを検討しています。 TEF-Tでは、核破砕ターゲットの内部に様々な構造材料のサンプルを設置し、 陽子ビーム窓の運転状況を可能な限り再現してビーム窓の工学的特性を検証する試験を行う予定です。TEF専用のビームライン(ADS-BT)には、 TEF-Pのために微小出力の陽子ビームを分岐するための設備を設置予定です。 また、陽子ビームと核破砕ターゲットからの漏洩中性子を さまざまな用途の照射に活用するための設備をTEF-Tに併設することも検討しています。
核変換物理実験施設(TEF-P)
TEF-Pは、実験用の小出力の原子炉である臨界実験装置に陽子ビームを導入し、 核破砕中性子源で未臨界状態の原子炉を駆動した際の様々な特性を実験的に検証するための施設です。 この施設では、ADSの成立性に関わる未臨界炉の物理現象や運転制御に関する研究・開発を実施予定です。 また、TEF-Pでは、ADSだけでなく、 既存のナトリウム冷却高速炉をはじめマイナーアクチノイド含有燃料を採用する将来の高速炉など、 多様な原子力システムの概念に対応する実験を行うための燃料や冷却材・構造材模擬体を利用することが可能です。 また、マイナーアクチノイドを含有する燃料を用いて、 核変換システムの核変換特性などを検証していくことも検討しています。